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それぞれが追う者

ロゼと再会した夜、サナはファイを呼び出すと宿屋を出て人気のない場所まで彼女を連れ出した。

ファイは面倒くさそうに、サナの後をついて行く。


「なんだよ」


「お前、本気でパメラと戦うつもりか?」


サナの問いにファイは首を傾げる。


「昼間の話を聞いてたか?アイツはロゼの大切な者を奪った。故郷もな。私はアイツを許さない」


ファイの言葉に、サナはまだ納得がいかないようだった。

彼は全部知っているのだ。


「お前は故郷に大して思い入れなどないんじゃないのか?

お前達を孤立させていた連中の村だ。それにロゼの大切な者ならロゼが仇をとればいい」


「・・・・何が言いたい?」


ファイは静かにサナに聞いた。その声はそれ以上、何も口にするなと警告していた。


「今のお前でも、その女に勝てるかどうかは分からない。それぐらいお前が追っている魔人は強い。彼女はかつて、この地を滅ぼしかけた魔人の血を継いでいる」


サナの警告にファイは目を見開いた。


「お前の本当の目的は何だ?それ次第で俺はお前と一緒には行けなくなる」


サナは真剣だった。きっと彼もシャイアもパメラを追っているのだ。暴走した魔人を止めるのが彼等の役目である。


「・・・アイツは私を待っている。私が自分を止めに来るのを」


ファイはポツリと呟いた。サナはそれを聞いてやっと納得した。


「パメラを解放してやりたいんだな?」


ファイの気持ちを、そのまま口にしたサナは自分の懐から小さなガラス細工の花をファイに手渡した。ファイは意味も分からずそれを受け取った。


「それは、パメラがイントレンスから出た時、失った物らしい」


「パメラが、失った、もの?」


ファイはすぐ近くまで来たサナを見上げた。その表情は今までに見たこともない悲しげな顔だった。


「・・・俺達は、世界を救う為に魔人を殺すわけではない。苦しむ魔人を助ける為に存在する」


ファイの手にサナは自分の手を乗せる。ファイはサナから目を離さずそのまま話の続きを待った。


「彼女は、パメラは、誰よりも慈悲深く優しい女性だった。彼女はあそこから出る事さえしなければ決して闇に堕ちるような人物では、なかったんだ」


バルドはあそこを出て、パメラとアーシェの記憶を失った。ではパメラは何を失ったのか。


「だが、イントレンスの制約は過酷だ。その者にとって最も重要な物を失う。花さえ踏む事を躊躇う彼女は、あの地を出た瞬間。平気でその花を踏み潰した」


「・・・・サナ」


サナの手が熱い。ファイは、彼が自分と同じ気持ちなのだと初めて気付いた。


「彼女が失った物、それは''善良な心"だ」


ファイの喉がごくりと動いた。

それこそ、本来のパメラ・リューなのだと確信出来たから。





****






「場所ならおおよそ見当が付いている」


次の日、サナはロゼ達に説明し始めた。


「お前達が探している魔人かは分からんが正気をなくした魔人を探す神器を俺は持っている」


皆が一斉にサナを見る。サナは気にせず話を続ける。


「俺は各国この世界を周り古来から伝わる神器を集めている。危険な物も多いから管理すると言うのが正しいかもしれんが」


「そういや、そんなこと言ってたっけか?」


ファイは干した魚をくわえながら最初の頃の事を思い出しだ。サナはそれも気にせず話を続ける。


「お前は俺が説明してもすぐ忘れるからな。お前にはもう説明はしない」


黙ってろと言うことであろう。別に構わないが。


「誰かは特定出来ないが、正常でない魔人を探すのなど簡単だろう?そもそも魔人はイントレンスにしかいない」


サナは小さな手鏡を取り出した。

ファイはそれに見覚えがあった。


「鏡が反応しているな・・・普段なら普通の鏡と変わりない」


「近いって事か?どうやって位置を知るんだ?」


「このままではダメだな。神器も使うのに対価がいる」


あれはシャイアの手鏡だ。シャイアの師匠から貰った物だと言っていた。とても危険だからとファイに触らせてくれなかったからよく覚えている。


ファイは立ち上がるとテーブルの果物ナイフに手を伸ばした。そして皆が止める間もなく自分の手の皮膚にナイフを当てる。


「待て!」


サナが気づいて止めようと手を伸ばしたが少し遅かった。そのまま腕を切りつけ血を鏡に落とす。ロゼも慌ててファイの腕を掴んだ。


「ファイ!!」


「あわてんな。黙って見てろよ」


鏡に落ちた血がその中に吸い込まれると、その直後、光が飛び出して来た。ファイはやはりと苦笑いした。その光は真っ直ぐガルドエルムの首都を指していた。


「・・・・ファイ」


明らかに怒っているサナをファイは無視した。


「まどろっこしいんだよ。外行くぞ」


睨んでいるサナを見ずに外へ出る。ルシフェルが呆れながら回復魔法をファイにかけた。別にいらなかったが後でうるさそうなので黙ってやらせておく。


「この方向・・・・・」


ロゼも気付いたようだ。

きっと今ガルドエルムは大変な事になっているに違いないとファイは予想した。


「こりゃあ灯台下暗しかぁ?」


ロゼがぶるりと震えたのをファイは見逃さなかった。

これでファイのこれからすべき事は決まった。


「手間が省けて丁度いいな。私達は魔人を殺す。ロゼは婚約者を連れ去らう」


「ま、まて!何でそうなるんだ?連れ去らうって乱暴な」


もし、その男がアーシェなら、あの場所に置いておいてはいけない。あそこは人間族の国だ。彼の居場所ではない。


「お前まだ何も言ってないだろ?」


ロゼはファイの言葉にじっと彼女を見つめて来た。ファイは思いっきりロゼの背中を押してやる事にした。


「だったらちゃんと振られてこいよ。まぁ本当にお前の事振ったら、私がそいつぶっ飛ばしてやる」


ファイの言葉にロゼは柔らかく笑った。きっとロゼは恐れているのだ。彼に拒絶される事を。


「そうね、ファイに言われるまで気がつかなかった」


彼女は何度も愛する者を目の前で失っている。彼女は覚えていないが遠い前世でも。


「私。まだ、何も伝えてなかったわ」


ロゼが笑いながらもその瞳が潤んでいる事をファイは知っていたが、気が付かないふりをした。彼女の絞り出した勇気が消えてしまわぬように。


「行かないと。彼に伝えに」


(行ってこい。そして、今度こそ手にいれろ)


ファイは最高の笑顔を彼女に贈った。


四人はルシフェルの道を使いガルドエルムの城下街に着くと、そこにはミイルとラウルという冒険者仲間が先に到着していた。この前ファイの話をしていた二人である。


「ロゼ!!」


「ごめんなさい。二人共心配かけたみたいで」


その少し遠くから兵士らしき男達がこちらに向かって来るのが見えたファイはサナに目線をやった。サナも直ぐに気付き魔術の詠唱を始めた。


「ロゼ様ですね?お手数ですが私どもと御同行頂きたい」


「おいおい大歓迎だな?早速こんなに沢山のお出迎えとは愛されてるなぁ?ロゼ」


ファイは剣に手をかけたが、ファイの言葉に兵士が動揺したのを見て手を止めた。どうもロゼに対して敵意があるように感じない。むしろ・・・。


「それは誰の指示?貴方達竜騎士じゃないけど陛下のご指示なのかしら?」


「いいえ。陛下ではございません」


なんだか、はっきりしない物言いだ。様子もおかしい。


「私どもはバードル家の方に指示されここに来ました。貴方を宮廷にお連れするように・・・」


「バードル家?何故?陛下はまたお倒れに?」


「陛下はお亡くなりになられました」


その言葉にファイは頭が混乱した。バルドが死んだ。ではパメラは?


「アストラ様が貴方がこの町にきたら捕らえよとおおせになられました。ロゼ様・・・・・」


兵士は今すぐロゼに、この場を去って欲しそうだ。ファイはロゼが少なくともこの兵士達に慕われているのだと理解した。


「じゃあ私は自分の用事を済ませに宮廷に行くわ。私の婚約者に会いに」


兵士は激しく首を振りロゼを止めた。

しかし、ロゼを止める事は出来ないだろう。


「貴方達も全力で追いかけて来るといい。でも私は簡単には捕まらないわよ?」


「ダメです!エルグレド様はもう以前の彼ではないのです!」


(・・・・・エル、グレド・・・)


ファイはその名を聞いて胸が痛くなった。思わずロゼを見る。

ロゼは唇に指を当てて笑うと、チラリとファイを見た。ロゼとは一度ここで別れる。


(・・・・・ロゼ)


走り出すロゼをミイルとラウル、そしてルシフェルが追いかけて行く。ファイはざわりと鳥肌が立ち街の外れから感じられた気配を睨みつけた。


「・・・ファイ。気づいたか?」


「ああ。間違いない」


近くに彼女がいる。しかし。


「おかしい。魔人の気配じゃない」


ファイは、その異変に嫌な予感がした。

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