パメラとの約束
「マジお前役立たずだな!何の為にロゼの側にいるんだよ!ほんっっと使えねぇ!」
「はぁ?そんなに文句があるならお前が見張ってろ!人に任せっぱなしでフラフラ遊び回ってる奴に文句を言われたかないわ!!」
「私はお前みたいに暇じゃねぇーよ!!大事な用事があるから旅に出てんだよ!お前と一緒にすんな!」
元気に喧嘩を繰り広げる二人に呆れながらもサナは村の入り口から村の中へ視線を移動させた。
少し先の宿屋から一人の少女が飛び出して来ている。
ファイもそちらに気がつくと怒気を含んだ声を出した。
「テメェ!!ロゼ!」
しかし、ロゼはそんなファイにひるむ事なく真っ直ぐに彼女目指して走ってくる。
「ファイ!!」
ファイも怒ったまま、ロゼに向かって歩き出す。ルシフェルはその様子に少し心配になったのか止めようとしてやめた。
「ファイ!ファイ!!」
抱きついたロゼをファイは強く抱きしめ返すと低い声を絞り出した。
「お前が無事じゃなかったらお前を危険な目に合わせた奴等全員ぶち殺すとこだったぞ」
(こいつ、マジだな)
サナとルシフェルはそれが冗談ではないと分かった。しかしロゼはそれにも構う事なく嬉しそうにファイを見た。
「もしかして見つけに来てくれたの?」
「そうだ。お前がいきなりあんなもん召喚すりゃ知ってる奴はすぐに気づく。ギルドの間でもすでに噂になってるぞ」
「そうでしょうね。でも、きっとアレを使った理由を聞いたらもっと怒ると思うわ」
想像は何となくついている。まだ、信じられないが。
「詳しい話は中でもいい?あとそちらの方を紹介してくれない?」
ロゼがサナに目を向けたのでファイはもう一つの事実を告げる事にした。
「こいつはサナ。ウィンドレムで私が無一文で野垂れ死にそうな所で会った奴。世界を見て回ってるらしいから護衛する条件で連れてきた私のかね・・・仲間だ!!」
二人は呆れた顔をし、サナはそんな設定だったなとジト目でファイを見た。ファイは満足気に微笑んだ。
こうしてファイは役2年ぶりにロゼと再会した。
ファイはロゼが婚約者になった経緯や、ロゼが竜を召喚させた理由を聞いて全ての辻褄が合った気がした。
やはりガルドルムの王はパメラの愛するバルドに間違いない。
だが、一つ分からないことがあった。
「お前の婚約者はバルドの実の子供なんだな?」
「ええ。エレナ様がそう言っていた。王になる前に出来た魔人同士の子供だと」
もし、それが正しければ。その男はアーシェの可能性がある。きっと一目見れば分かるはずだが・・・それよりもファイはやらなければならない事があった。
「で。お前はその魔人を探すのか?」
「それは・・・・・」
ロゼはパメラを覚えていない。それにパメラは今ロゼと対峙すれば間違いなくトドメを刺しに来るだろう。
「お前がここで手を引けばお前は自由になる。元々お前には関係ない話だしな」
ファイには分かった。ロゼはもう決めている。
「だがお前は竜を召喚した。その男を助ける為に」
ファイの後押しを必要としている。
「何を迷っている?その男を愛したんだろ?」
「あ、あ、あい?」
狼狽えるルシフェルを無視してファイは話を進める。
「一度決めたなら迷うな。どんな事をしても手に入れろ。どうせお前のことだ相手の立場とか気持ちとか無駄に気を回して中途半端な態度しかとらなかったんだろ?」
図星だったのか、ロゼの身体が前のめりになった。
分かり易い。
「自分の心に正直に生きることだけが私達に与えられた物だとお前は忘れたか?いつ死ぬか分からないのに何故躊躇していられる?」
自分にも言い聞かせる様に、ファイはそれを言葉にした。
「その魔人の女を捕まえて殺せば全て終わる。その後どうするかはまた考えればいい。シンプルだろ?」
「物騒だなぁ〜殺すとか。他に方法を考えないのか?」
「その魔人が自分の愛する者を殺してもお前はそのセリフが吐けるのか?」
ルシフェルは冷めた目線を受けながら何かを勘付いたのかそれ以上口を挟むことなくやれやれと首を振る。
「ロゼ」
「何?」
「もう、いいんだな?アーシェの事は」
ロゼはファイの言葉に目を見開いた。ロゼは少しだけアーシェの記憶を取り戻したと言っている。もしかしたらすぐに残りの記憶も取り戻すかも知れない。
「お前があの時の事を思い出さないのはアーシェが死んだ事が原因だろ。でも今はもう大丈夫なんだな?」
ファイの言葉にロゼは明らかに顔色を悪くしている。まだ、アーシェの死を受け入れられないのだ。
「あの女だ。私達を騙しあの村の封印を解き、村を滅ぼしたあの魔人。きっとあいつに違いない」
ずっと、ずっと探していた。その女を。
「パメラ・リュー。そいつが呪いをかけた魔人だ」
「何故わかる?」
サナが落ち着いた様子で聞いてくる。ファイは思い出して苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「本人に聞いたからだよ!自分は愛する者に呪いをかけたってガキ相手に秘密を漏らしても何も出来ないと思ったんだろうが」
「お前が追っているもう一つはそれか?」
サナに尋ねられファイは舌打ちした。出来ればサナにはあまり突っ込んでほしくなかった。
「そうだよ。アイツだけは許さない。絶対に私の手で殺してやる!!」
この手でパメラを止める。あの日生き残ったファイは心の中で決めていた。
「分かったけど一人で飛び込んで行かないでよ?」
心配そうに手を掴んできたロゼにファイはあえて頷かなかった。
「約束は出来ない」
「大丈夫だ。俺が見張っておいてやる」
間髪入れずサナがそんな事を言ったのでファイは目が点になった。
「俺がコイツにいくら、貸していると思う?全てを徴収するまで側にいるから安心しろ」
「「・・・・・・・・・・・・」」
成る程。ファイに話を合わせるつもりらしい。
「・・・・ファイ・・・・・」
合わせただけだよな?と、サナを見てファイは満面の笑みを作った。そういう事にしておこう。
「大丈夫大丈夫!すぐひと山当てて倍にして返してやるって!!」
サナの目が若干本気だったが、ファイは気付かない振りをした。
****
「パメラの旦那ってどんな奴?」
「なぁに?急に」
パメラ達が来て暫く経つ。ファイは素朴な疑問を口にした。パメラ達は夫を探していると言っていたからだ。
「帰って来ないから迎えに行く途中なんだろ?冒険者なのか?」
ロゼの父親も帰ってこない。なんとなく親近感がわいた。
「いいえ。彼は他の女の所に行ったまま帰って来れないの。それで私、怒って彼にとびっきりの呪いをかけてしまったのよ?だから彼を助けに行かないと」
「なんだそれ。ひでぇ」
ファイはパメラの話に顔を顰めた。パメラは苦笑いした。
「若気のいたりよ。私も子供だったから」
「違うよ!パメラじゃなくて、その男だよ!何で裏切られたパメラがそいつを助けに行くんだよ?むしろほっとけば良くね?」
憤慨するファイに、パメラはパチパチと瞬きすると、可笑しそうに笑った。
「この話を聞いて私を庇ってくれたのはファイ、貴方が初めてよ。貴方はその呪いがどんなものか知らないから。皆この話を聞くと必ず私を責めるのよ?」
「なんだそれ?自業自得だろ?」
「そうね。でも、私も誤解していたから」
パメラは懐かしそうに窓の外を見た。
その顔は穏やかなのに、なんだか悲しそうだった。
「パメラ。大丈夫か?」
「え?」
「そんなに辛いなら、私もパメラを手伝ってやるよ。まだ今は外に出れないけど、大人になったらパメラを助けに行ってやる」
ファイはパメラの冷たくなっている手を握ってあげる。
いつも優しくファイの頭を撫でてくれる優しい手を。
「・・・ファイ。じゃあ私がいつか、どうにもならなくなった時。その時は貴方に助けを求めるわ」
ファイはそう言われパッと上を見上げた。パメラは、泣いていた。
「何故かしら。貴方は不思議な子だわ。私が失ったものを貴方といると取り戻してしまいそうになる」
パメラの言葉の意味が理解出来ずファイは首を傾げた。
パメラは一体何を失ったんだろうか?
「でも、私はもう前に進むしかない。後戻りは許されない。だから、どうかいつか私を止めに来て」
ファイは泣いているパメラが可哀想でハンカチで頬を拭いてあげる。もうすぐロゼ達が帰ってくる。ファイは泣き止まないパメラを抱きしめた。
「分かった。もしパメラが苦しんでたら、どこにいても探し出すから」
パメラは言った。止めに来てと。ファイに殺されたいと。
あの日、ファイはパメラを止める事が出来なかった。
だから今度こそ止めようと思う。この手で。
「ありがとう。ファイ」