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ルシフェル

ある日の夜ファイは寝る前に喉が渇きロゼを部屋に残し一人で台所まで歩いていた。

その途中、リュナの部屋のドアが僅かに開いているのを確認して閉め忘れたのかと、ドアに手をかけて中にいる人物に気が付いた。

そこにはベッドでスヤスヤと寝息を立てているリュナと、それを優しい表情で見つめているルシフェルがいた。

ファイは特に何も思わず、そのまま立ち去ろうとしたのだが、ルシフェルの行動を目の当たりにして思わずそれを凝視してしまった。あろう事か、眠っているリュナにキスしたのだ。頬ではない唇にである。


(・・・・・・・・・え?)


ファイはびっくりし過ぎて動けなくなってしまう。そうこうしてるうちに体を起こしたルシフェルと目が合ってしまった。ルシフェルはびくりっと体を揺らし、そして頭を押さえた後、立ち上がってファイの所まで近づいて来た。

黙って部屋を出ると溜息をつく。


「今の、見たよな?」


ルシフェルは苦悶の表情である。何か事情がありそうだがファイは何て言ったらいいのか分からなかった。


「台所に行くんだろう?説明する・・・しても結果は同じだが」


明らかにルシフェルは自分が悪いと分かっているようだった。ファイは思わず首を傾げたが、取りあえず話を聞く事にした。


「それで、何から話せばいいのか・・・」


ファイは自分の手元にあるお茶を見ながらずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。


「あれは、お前が魔人である事と関係してるのか?」


いきなり確信をついてきたファイに、ルシフェルは目を剥いた。そう。ファイはずっとルシフェルが魔人だと気がついていた。


「・・・お前、なんでわかった?」


「私にも事情があんだよ。言えないけど」


ファイがそれを分かるようになった経緯は口に出せない。きっとシャイアがファイを助けた時何かしらの術がかけられたのだとファイは思っている。


「でも、完全じゃないな?どうしたんだお前の身体」


ファイが聞くとルシフェルは自称気味に笑った。


「俺は子供の頃イントレンスに住んでいたんだが、あそこを出る時、体の一部を失ったんだ。本来なら持っていた魔力をな」


魔力が無いとはどういう事だろう?ルシフェルは聖魔力を使っている。


「魔人は聖と魔を司る者だ。俺はその魔の部分を失った。つまり、もう魔人とは呼べない代物だ」


ファイはとても驚いた。ではシャイア達と同じという事だろうか?いや、しかし。


「それなのに、魔人としての習性はしっかりと身体に残っている。知ってるか?魔人がただ一人しか愛せない事を」


まさか。ファイはパカリと口を開けた。ルシフェルは笑いながらもその表情は苦しげだった。


「しかも、それは突然なんの前触れもなくやってくる。選ぶ余地なんてない。心が定めてしまったら、もう引き返せないんだ」


つまり、ルシフェルはリュナに会った瞬間、彼女に恋してしまったのだ。あり得ない。


「これほど自分が魔人である事を呪った事なんてない。しかも、相手は一回りも歳が離れた子供だなんて」


「それは、そんなに苦しいのか?」


ファイは無意識にパメラを思い出した。彼女を狂わせた愛しい伴侶。この世界を壊してしまいたいほど彼女を狂わせた男。


「そうだな。死んでしまいたいぐらいには」


きっと他の人間族なら大袈裟だと言って笑っただろう。だがファイは決して笑えなかった。


「じゃあこの事は黙っててやるよ。お前の想いがリュナに届くまで」


ファイの言葉にルシフェルは絶句した。ファイは真顔でルシフェルを見つめ返した。


「諦めるのか?何もしていないのに」


死んでしまいたい程苦しいなら、その前に精一杯足掻けばいい。


「お前はまだ、リュナに何も伝えてない。それが出来る様になるまで、あいつに男が出来ないように見張っててやるよ」


それでも駄目で、もしルシフェルが狂ったら、ファイは自分が殺してやろうと心に決めた。





****




先を急いでいると、その前方に見覚えのある銀色の髪を持つ人物が足早に歩いているのを、ファイは発見した。思わず舌打ちしてしまう。ルシフェルはロゼの側にいなかったらしい事が分かり、ファイは内心イラついた。その勢いのままルシフェルに向かって走り出したファイをサナは止めずに歩いて追いかけた。

脇道に入ろうとした彼の背中を思い切り蹴り飛ばすとルシフェルはその衝撃で身体が前に倒れた。


「うおぉ!!」


振り返ったルシフェルはファイを見ると額に青筋を立てた。


「よう!久しぶりだな役立たず」


「お前!!来るのが遅いんだよ!どれだけ探したと思ってるんだ!」


見つからないように動いていたファイは、その事は適当に誤魔化しルシフェルと合流した。

話を聞き今、ロゼの近くに誰もいない事が分かってファイは考えを巡らせる。


「それならロゼは逃げたかもしれないな。ロゼの力が知れてしまえば、それを悪用する人間が必ず現れるからな」


「魔力もあまり残っていないなら、まだ国境の近くにいるかも知れないぞ」


「また戻るのかよ。まぁもしかしたらベルグレドの所に居るかも知れないな」


ルシフェルが口にした名前にファイは思わず聞き返した。


「ベルグレド?」


「ああ、事情があって。今ロゼの婚約者になっている奴がいるんだが、そいつの弟だ。実はそいつも、お前やロゼと同じらしい」


ファイの心臓の音が煩いくらいに耳の奥で響いている。ファイはその名に聞き覚えがあった。


「神の御子でお前達は5つの宝玉というものらしぞ。それ以外詳しい事は分かっていないが」


ファイがロゼに教えなくとも、ロゼはちゃんと自分達が何者かという答えに辿り着きそうなのだ。ファイは思わず笑みを浮かべた。


「しかし、参ったな。ロゼの事がバルドの耳に入らなきゃいいが・・・・」


しかしその笑みはルシフェルの次の言葉でかき消えた。


「まてよ、お前バルドと言ったか?その名の奴がロゼの近くに居るのか?」


ファイはその名も鮮明に覚えている。アーシェが言っていたパメラの愛する男の名である。


「この国の皇帝陛下の名前だ。直々の指名でロゼは貴族の竜騎士団長と婚約する事になったんだ」


そんな馬鹿なとファイは目眩を覚えた。

ファイはパメラから昔、愛していた男から裏切られ、その男を呪った事があると聞いた事がある。その時は冗談半分で聞いていたのだが、もし、パメラのバルドがこの国の王、本人であるならばパメラに対する酷い裏切りである。


「とにかく、急いでロゼを探そう。詳しい話はそれからだ」


ファイがいない間にロゼの周りで色々な事が起きていたらしい事を知り、また苛立ったが後悔していてもしょうがない。ルシフェルの言う通りロゼを見つける事が最優先である。


「おい!居るか?」


ファイが空に声をかけると妖精達はすぐに現れた。


[いるよ?誰かを探すの?]


「ああ、急いでる。ロゼという赤髪で私と同じ色の瞳の女だ。探してくれるか?」


ファイが聞くと妖精達は嬉しそうに笑った。


[ファイと同じ量の魔力を辿ればいいんでしょう?このまま真っ直ぐ戻った村からそれを感じるよ?先に確認してくるね?]


そういうと彼女達はあっという間に飛び出して行った。ファイが止まる間も無く。


「あーあ。やる気出しちゃったぞアレ。大丈夫なのか」


「私達も行くぞ!誰よりも早くあいつを見つけてやる」


ファイはそう言ってきた道を引き返して行く。ルシフェルはうんざりとした顔でサナを見た。


「悪いな。危なっかしいだろ、あいつ」


サナは笑うと彼女の後をやはり歩いて追いかけて行く。


「まぁ、お互い様だからな」


その呟きはルシフェルには届かなかった。

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