もぐらくんとひまわりくんの出会いの話です。
「もぐらくんとひまわりくん 1話」
ある草むらの、土の中のずっと下のところに、もぐらくんが住んでいました。
もぐらくんは静かで暗いところが大好き。
いつも土の中のずっと下にある巣でのんびりと暮らしていました。
ある日のこと、もぐらくんが巣でのんびりしていると、どこからか声が聞こえてきます。
「いたいよー、くるしーよー」
もぐらくんは驚いて、声の聞こえるほうへ穴を掘って見に行きました。
するとそこには、顔を出したばかりの種がいました。
「君はだれだい?」もぐらくんが聞くと、種は「僕はひまわりさ」と言いました。
「どうしてこんな土の中に?」もぐらくんが聞くと、ひまわりは「わからないけど、芽を出したらこんな土の奥だったんだ。これじゃー、土が重たくて外に出られないよー」と言い泣き出してしまいました。
もぐらくんが困っていると、ひまわりは言いました。
「そうだ。君が僕を助けてくれないか?」
「僕はひまわりさ。僕は大きくなったら大きな花を咲かすんだ。そしてたくさんの種をまくんだ。この土の上を一面大きなひまわり畑にするよ。そしてたくさんのひまわりからたくさんの種を出して君にあげるよ。」
もぐらくんは「たくさんの種をくれるなんて、すばらしい。」「よーし、僕がきみを助けてあげよう。」と言うとひまわりくんを土の上の方に運んであげました。
もぐらくんに助けてもらったひまわりくんは、どんどん大きくなっていきます。
もぐらくんも、早くひまわりくんに大きくなってほしくて、毎日会いにいきました。
ひまわりくんは土から顔を出すまでに育ちます。
もぐらくんもキョロキョロと周りを気にしながら顔を外に出します。
そして、ひまわりくんと顔を合わせて一緒に喜びます。
ひまわりくんはどんどん大きくなって、周りの草よりも大きくなります。
もぐらくんも土の外に出てひまわりくんと喜び踊ります。
ひまわりくんは言います。
「僕はひまわりだ。太陽に向かってどんどん大きくなるぞー。」
「空も広いなー。」
もぐらくんも「僕にも空は見えるよ。広いねー。」と言います。
もぐらくんの言葉を聞いて、ひまわりくんは笑いながら言います。
「はははははは。もぐらくんの見ているのは空のほんの一部さ。本当の空はもっと、もっと広いんだ。」
「向こうには海もある。砂浜だってある。ここに咲いてない花だってたくさんあるんだ。」
もぐらくんはうらやましそうに「そーなのか。そんなに広いのかー。見てみたいなー。」と言いました。
ひまわりくんは「そうだ。僕の体を登って上まで来てごらんよ。」と、もぐらくんを顔の近くまで登ってくるように言いました。
もぐらくんは喜んで登ろうとします。
ところが、ひまわりくんは叫び声をあげて「痛いよー。そんなに爪を立ててつかまれたら体が傷だらけになってしまう。」泣き出します。
もぐらくんは、しょんぼりしながら「ごめんよー。僕の手は穴を掘るために爪があるから。」と言い、登るのをあきらめました。
ひまわりくんは回りの景色を見て楽しんでいましたが、もぐらくんはひまわりくんの見ている景色が見られないのが残念でたまらなくなり、しょんぼりと土の中の巣に帰ってしまいました。
ある日、もぐらくんが土の中の巣で眠っていると、上の方からすごく小さな声が聞こえます。
「くるしーよー。くるしーよー。」
もぐらくんが土の外まで見に行くと、そこにはいつも元気に太陽に向かっていたひまわりくんの顔が、げんなりと地面の方に向いていました。
ひまわりくんは、今にも枯れてしまいそうな顔をしています。
もぐらくん「どうしたんだ。ひまわりくん。」
ひまわりくん「もう何日も雨が降らなくて、僕はもうだめだ。これじゃ種をまくまでもちそうにないよー。」
もぐらくんはびっくりして、どうしたらよいかとひまわりくんの周りをおどおどと歩き回ります。
もぐらくんは、はっと思い出します。
「そうだ!土の中の僕の巣よりもずっと下に水がたまっているところがあるって聞いたことがあったぞ。」
もぐらくんはひまわりくんに言います。
「もう少しがんばってくれ。ひまわりくん。僕が土のずっと深いところから水を汲んでくるから。」
そう言うと、土の中の巣に戻りその下を掘り始めました。
どんどん掘って、どんどん掘っていくと、もぐらくんはお水のたまった部屋にたどりつきます。
「やった」と思うもぐらくんでしたが、水の汲み方をもぐらくんは知りません。
おどおどしていると、水の中から白いヘビが出てきて、もぐらくんに言います。
「わたしはこの草むらの神だ。この水はわしの水だ。ほしいのなら何か代わりのものを置いていけ!」
もぐらくんは神様にお願いをします。
「神様お願いします。ここにある水を土の外まで噴き上げてひまわりくんを助けてください。」
「ひまわりくんは助かったら、この草むらを一面ひまわり畑にしてたくさんの種を僕にくれます。その種を神様にすべてあげます。」
神様は少し考えたあと言いました。
「よかろう、ここにある水すべてをおまえが入ってきた穴から地上に噴き上げてやろう。」
ゴゴゴゴゴと音を立てて土の外に水が噴き上がります。
そして、草むら一面に雨のように水が降りました。
ひまわりくんも水を浴びて元気になります。
水と一緒に飛び出てきたもぐらくんが、ひまわりくんのところに向かいます。
ひまわりくんは「ありがとう。もぐらくん。」と泣きながら喜んでいます。
もぐらくんはひまわりくんに神様との約束を話します。
ひまわりくんがこの草むら一面をひまわり畑にして、たくさんのひまわりの種をまいたら、それを神様に全部あげる約束をしたことを話しました。
するとひまわりくんはワンワン泣き出してしまいました。
「ごめんよ。もぐらくん。僕は結局もぐらくんに何も恩返しができなくなってしまった。種から大きくなれたのももぐらくんのおかげ。今枯れずに助かったのももぐらくんのおかげ。でも僕はひまわりだから、種をまくことしかできない。その種ももぐらくんは手にできなくなってしまった。ぼくはなにも、もぐらくんのためにすることができない。こんな悲しいことがあるかい。」
しかし、もぐらくんはひまわりくんに言います。
「そんなことはないさ。ひまわりくん。」
「僕は君と出会ってからこうやって土の外にも出られるようになった。外が広いことも教えてもらった。そしてひまわりくんを助けられるほどの勇気だって持つことができた。ひまわりくんに会う前よりもずっとすごいもぐらになれたつもりさ。」
「だから泣かないでおくれ。」
「僕の前に現れてくれてありがとう。ひまわりくん。」
そう言うと、もぐらくんはにっこりと笑いました。
ひまわりくんも照れくさそうに笑いながら言います。
「僕はもぐらくんに助けられっぱなしだ。」
「でも、これからは君を助けられるような立派なひまわりになるさ。」
ひまわりくんの言葉を聞いて、もぐらくんは初めてひまわりくんにお願いをします。
「ひまわりくん。君は僕のために、草むら一面をひまわり畑にしてくれ。そしてたくさんの種をまいて神様との約束を守ってほしいんだ。」
「僕は外の景色を見に行こうと思う。ひまわりくんの教えてくれた、海や砂浜や知らない花とか今まで見たことのない景色をたくさん見てみたいんだ。」
もぐらくんの言葉を聞いて、ひまわりくんは驚いたあと、にっこり笑って言います。
「わかったよ。もぐらくん。僕はこの草むら一面をひまわり畑にしてたくさんの種をまくよ。そして神様との約束をやりとげたら、今度こそ、もぐらくんに恩返しをしたいから、だから、また会おうね。」
そして、もぐらくんとひまわりくんはまた会う約束をし、ひまわりくんに見送られながら、もぐらくんは元気に旅に出て行きました。
それからいくつかの時間が過ぎました。
もぐらくんはまだ旅の途中です。
ひまわりくんは、もぐらくんとの約束を守り、草むら一面を大きなひまわり畑にしました。
きっと、もぐらくんも見たことのないような、それはきれいなひまわり畑です。
もぐらくんと会うことを楽しみにしながら、きれいなひまわり畑の真ん中でたくさんの種をまくのでした。
つづく。