後編
ついに本番を明日に控えた十三日のこと。
なりなりとらんは本番用を作るとか言って今日の放課後もチョコ作りに勤しむらしく、やたらと張り切っていた。
そこまで本気で作るのだから、なりなりの本気度がこちらにも伝わってくるようで、なんだか私までソワソワしてしまう。
まぁ、私自身は変わらず怠惰な日々を送っているが。
ここは幸か不幸か女子高であり、またそういった話題は私の周りには寄ってこない。
どうしたところで同性同士なのだから、滅多には本気の告白はされない。かと言ってそういう子たちがいないわけではない。私もちらほらと、どう見ても友達以上のスキンシップをしている子たちを見たことがある。近しい人で言えばらんとかああ見えて恋人がいる。しかも年上のお姉さん。
そんなことは今どうでもいい。今はなりなりのことである。
あの様子だと同じ学校の子に渡す予定のようなので、どうやらなりなりもそっちの子だったらしい。普段そういうことは話さないようにしているからか、こういった行事で友人の趣味や趣向を知ったりすることが多かったり。
「ちな~、どっか寄って帰ろ~」
なりなりとらんが早々に帰宅をしてしまったから、なんとなく帰るタイミングを逃してしまった私にクラスメイトが声をかけてきた。
正直そんなに仲良くない子たちだったから、いつもならやんわりふんわりお断りするんだけど、暇だし今日くらいは付き合おうかなと思います。
「あー、うん。いいよ」
そう返事をすると、クラスメイトは珍しいといった表情で「マジ? やった」と目を輝かせながら近づいてきた。
その表情はなんだか、昔のなりなりを見ているようで少しおかしかった。
クラスメイトとは定番中の定番であるカラオケに行き、その後お茶をして帰宅した。
帰って携帯を見るとらんから着信3件。メッセージもいくつか残っていた。それを見るにどうやら作りすぎたから処理のために家に寄ってほしい、といった用事だったようだ。
ついでになりなりからのメッセージも残っていた。明日の本番に向けて作ったものを試食してほしいらしく、明日の朝早い時間に教室に来てほしい、とのこと。
これを見るにしばらくは甘いものを控えないといけないかもしれない。
ところでですが、本番用の試食が明日で大丈夫なのでしょうか。私はそれが心配でなりません。
不意に窓から月の光が差し込む。星の輝きは少し物足りない気がするけれど、それを補うように目いっぱい月が輝いていて、私はどこか寂しさを感じた。
一体私はどうしてそれが欲しいと思ったのか。どうして知りたいと願ったのか。
全くもって恋という感情は、愛という願望は、形にならず言葉にできない不完全なものなのだろうか。
でも、だからなのだろう。それを自分のものにしたいと思ってしまうのは。