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教室へと戻ると、俺の話題でクラスの連中は盛り上がっていた。
みんなの話題の中心になれて僕嬉しい!
こんなことを思えるようになれたら、きっと俺はノーベルプラス思考で賞を受賞できるだろう。
「悟! すごかったな! まさかお前が···あんな···」
なにを笑いながら悶ているのだハマショウよ。
大失敗に終わってしまったボランティアの呼び掛けだったが、終わってみれば心にのしかかっていた重石はどこか綺麗さっぱりと飛んでいった。
「おい! ハマショウ俺があんなに頑張ってたのに、そんなに笑うんじゃねえ!」
泣き笑いした涙を拭いながらハマショウは尋ねる。
「いや、すまん! それにしてもお前、結局生徒会入ったのか?」
「んー、正式に入ったというよりは手伝いみたいな感じかな?」
そう、俺は念のため伝えておくが生徒会には入っていない。
何故かというと先輩に入ってと言われてないからだ。
なんとも子供みたいな言い分だが、言われない限り行動できないのは俺の性である。
「ほーん、手伝いとかなんでやってんの?」
「先輩たちが、体質改善を手伝ってくれるってのが交換条件で手伝ってる」
「なんかおもしろそうだな! 俺もその体質改善計画手伝わさせろよ!」
この男に手伝ってもらってプラスになるようなことがあるのだろうか。
いや、ない。ミジンコほどもない。
「お前、俺をいじって遊びたいだけだろ?」
「俺だって一応お前の友達なんだから、友達の悩みの解決くらい手伝ってやりたいだろ?」
そんな立派な言葉より、まずそのニヤついた顔からどうにかしてくれハマショウよ。
しかしまあ俺も一応お前の友達だからここは仲間に入れてやろう。
「仕方ねーな、い·ち·お·う友達だからな」
「ありがとうよ!」
了承を得たハマショウは、純粋に楽しそうな顔で席へと戻っていった。
*****
午前の授業が終わり、昼休みになると夏希先輩が教室へとやってきた。
騒がしく、雑多な昼の時間に夏希先輩が来ると水を打ったように教室は静かになる。
相変わらず注目を浴びる人だ。
「工藤くん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「どうしたんですか?夏希先輩」
開いたドアの端から先輩が手招きする。
「今日はありがとう。あなたのお陰でボランティア人員は増えるとおもうわ」
あの失敗としか思えない呼び掛けが役に立ったと言うのか?
結局最後は先輩が内容を伝えたのだし、俺の呼び掛けでボランティア人員が増えたとは到底思えない。
まあ俺のあだ名は増えたのかもしれないが···。
「いや、そのあんな呼び掛けでどうしてボランティア人員が増えたと思うんですか?」
「ええ、あの呼び掛けはみんなの記憶に残ったからね」
確かに心に残るだろう。
あんな酷い呼び掛けをしたのだから俺の印象と共にボランティアを募集してることくらいは記憶に残るだろう。
「私の狙いは2つあるの。1つ目はみんなの記憶に残ること。普段の朝礼ではみんなの記憶にすら残らない。ましてや私達がどう頑張って伝えたところで記憶には残らない」
ほほーそれは少し納得できる。
普段聞いている側でしかない俺からしても記憶にさえ残ればやってみようと思う人もいるかもしれない。
「2つ目は···まあ時期にわかるわよ」
「左様ですか。まあ少しでも役に立てたのなら良かったです」
「あの···工藤くん···」
先輩は少し照れくさそうな感じで俺の目を見ながらこう言った。
「本当にありがとう」
なにかをしてお礼を言われたのは何年ぶりだろうか。
この時ばかりは引き受けて良かったなと思ってしまう。
久しく忘れていた人に感謝されるという喜びを俺は思い出し、少しばかり心が温かさを感じていた。
「いえいえ、ではまた放課後よろしくお願いします」
「そうね、ではまた放課後」
昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
俺は先ほど先輩が言っていた2つ目の狙いの効果を知ることになる。
5限目の授業は家庭科の調理実習だ。
4人1グループでの実習とのこともあり、普段クラスの女子との交流のない俺は久しぶりの会話をする。
「工藤くん、集会の時すごかったねー!」
「ま、まあね」
気持ち悪いと思われないように愛想笑いを浮かべて受け答えするのだが、こんな時ですら俺の涙腺は元気である。
「げっ、また泣いてるの?」
「はははっ、勝手に出てきちゃって」
「そ、そう。今日のボランティアの募集だけど私参加しようと思うんだ」
これが先輩の言っていた2つ目の狙いというやつの効果だろうか。
俺のあの呼び掛けで参加してくれる生徒がいること自体驚きである。
「山田さんはなんで参加してくれようと思ったの?」
「なんか工藤くんの呼び掛けが一生懸命に感じたからかな?」
山田さんありがとう!
こんな俺の拙い言葉でも伝わってくれているんだと思うと嬉しくなる。
普段モブとか思っててすいません!
涙というカンフル剤で俺の伝えようという想いをより大きく、強くみんなに伝えることができたのかもしれないと思うと、先輩の2つ目の狙いもなんだかわかった気がした。
授業も終わり、生徒会室に向かう廊下を歩いていると俺は一人の生徒とぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「こちらこそすいません!」
髪を方で切りそろえたボブヘアーは彼女のゆるく、おしとやかな雰囲気とマッチしいる。
「工藤くんですよね?」
どうやらこの女子は俺のことを知っているようだ。