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「いやーとうとうやってきてしまいましたね工藤選手!」
「はい···! この絶対に負けられない戦いで、俺は実力を発揮して伝説となります!」
そんな脳内実況をしつつ、青く茂った木々が新緑の季節を伝える通学路を歩いていた。
だいたい伝説になってしまっては困る。
自分の脳内実況に軽くツッコミを入れる。
くそっ!
昨晩はまったく寝れなかった。
というより寝なかったのほうが正解だろうか。
先輩からもらった台本を紙が擦り切れるまで読み返した。
暗記するまで練習したが、どうせ本番では泣いてしまうのだろう···。
それにしても、体質を改善する手伝いをしてもらうからってこの代償は大きすぎる。
はぁ···今日から全校生徒の笑いものか···。
おっと、すでに目から涙が。
学校近くの堤防に着くと、背後から夏希先輩に肩を叩かれた。
「工藤くん、おはよう!」
「おはようございます。どうして先輩がここにいるんです? 家逆方向ですよね?」
「ああ、実は工藤くんが来ないんじゃないかと思って迎えに行こうかと思ってたんだよ」
「いやだなー先輩! 僕は約束は守る男ですよ?はははっ···」
いやだなー先輩! バレちゃってるじゃないですか?
行こうか、休もうかギリギリまで悩んでいたけど、頑張って来た俺グッジョブ!
「工藤くん! こんなことを頼んでしまって本当に申し訳ないと思ってるんだが、引き受けてくれてありがとう」
「急にどうしたんですか!? 先輩が俺の体質改善を手伝ってくれるから引き受けたんですよ? Win-Winな関係なんでそんなに畏まらないでください」
「そうだな! 私も工藤くんの体質を改善するために頑張るよ」
朝の忙しい通学路を先輩と二人で歩く。
俺の人生でこんな美人とともに歩む通学路があっただろうか?
いや、ない!
というか男女問わず、妹以外と一緒に登校したことがない。
「ところで先輩、体質改善の方法とか、なにか考えてくれてるんですか?」
「もちろん考えてある。また今日の放課後に詳しく話すけど、幾つか作戦を考えてあるから期待していてほしい」
おーなんと頼れる先輩なのだろう!
これは期待できそうだ!
神様、仏様、夏希様!
どうか俺に普通の人生を!
学校につき、出席確認を終えるとさっそく朝の全校集会が体育館で始まる。
みんな時間を無駄にするように全校集会を受けているが、俺にとってこの集会は特別だ。
まあ俺もこんな役割がなければ全校集会など微塵も興味はない。
普段前に出て話しているハゲた校長や生徒会のみなさんをこの時ばかりは尊敬してしまう。
夏希先輩に呼び出され、俺はそそくさと前に移動する。
もう心臓が口から出そうだ、いや俺の場合は目から涙か。
校長の話が終わり、続いて生徒会長の夏希先輩の話が始まる。
「工藤くん私の話が終わったらよろしくね!」
夏希先輩はそう言い残し壇上へと登っていった。
「えー生徒会の―――」
夏希先輩が喋っている内容もまともに聞こえてこないくらい俺は緊張していた。
緊張しすぎて死んでしまうことはあるのだろうか···?
もしここで俺が死んだら死因は『緊張』です。
とか医者に言われてしまうのだろう。
頼む涙よ! 壇上に上がる前から出ないでくれ。
だが俺の願いは無残にも叶わなかった。
流れた涙は緊張というエンジンを手に入れ、より盛大に頬を濡らす。
俺は自分の不甲斐なさを認める様に一歩一歩壇上に続く階段を登った。
あぁ···意識しなくても聞こえるクスクスとした笑い声。
昔のトラウマが脳裏に流れそうなのを全力で塞き止めながら呼び掛けを始めた。
「み···みなさん! ボボボボランティア―――」
さすが俺だ。
泣きながらの吃りに関しては右に出るものはいない。
これで爆笑を掻っ攫い、俺の高校生活も掻っ攫われてしまうのだろう。
だが爆笑されたことにより、俺の心を締め付けていた緊張という名の鎖は崩れるように解けていった。
これなら泣きながらでも幾分かまともに言葉を伝えることができるだろう。
いつの間にか何度も練習した台本のことはすっかり忘れ、たった2行の言葉を口にしていた。
「生徒会では、ボランティアを募集しています。よろしくお願いします!」
この時、皆が思ったであろう。
いつ、どこで、なんのボランティアなのかと。
それを知りつつもこの場から立ち去りたい思いが先行して俺は壇上を降りた。
先輩すいません! やはり俺はダメな子でした。
直視することができないのでチラッと夏希先輩を見る。
怒りに震えているのではないかと思っていたが、先輩は何故か満足そうな顔でコチラを見ていた。
そのすぐ後。
華奢な体からは想像もできない大きな声で夏希先輩はみんなに呼び掛けた。
「来週の日曜日! 地域交流会のボランティアを! 生徒会では募集しています! みなさん、よろしくお願いします!」
言葉を言い終えた先輩は再び満足そうな笑みを浮かべこちらを見ていた。