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俺の手を掴み駆け出した彼女。
よく見るとかわいい。
すらっと黒く伸びた髪と白の肌とのコントラストがより魅力を引き立てている。
まあそれはそれとして、何故俺は美少女に手を引かれているのだろう。
もしかすると俺の人生初の告白イベントだろうか!?
泣いている姿が素敵とか、そんな感じで俺のことを好きになってしまったのか?
そんなことを考えていると、また涙が出てきた。
「あなた泣いてるわよ? 気持ち悪い。でも情報は本当だったようね」
気持ち悪いだと···何度も言われた言葉だが初対面の人にこうもはっきりと言われたのは初めてだ。
こんな女なんかこっちから願い下げだ。
彼女の制服を見てみるとリボンが赤色であることに気づいた。
この学校では学年ごとに男子のネクタイと女子のリボンの色が分けられている。
ちなみに1年の俺達は青色、2年は赤、3年は緑となっている。
どうやらこの女は2年生のようだ。
「ついたわよ!入ってちょうだい」
入り口の札を見ると生徒会室と書いてある。
なぜ生徒会室に俺は連れてこられたのだろう?
ドアを開けると、そこには担任の岩倉先生がいた。
「おー工藤よく来たな」
「先生なんでこんなところに?それに俺はなんで連れてこられたのでしょう」
「それは私から説明するわ、私の名前は岡崎 夏希。この学校の生徒会長よ」
生徒会長だったのか。
確か入学式でも挨拶していたような?
でも泣いていたのでよく覚えてない。
「あなたには生徒会に入ってほしいの」
「なんで、俺なんかが生徒会に」
「それはあなたに生徒会の秘密兵器になってもらうためよ」
秘密兵器だと···!
そんな隠された力が俺にはあったのか···ってあるわけがない。
寧ろすぐ泣いてしまう体質故に欠点だらけだ。
「あのー僕にはそんな力ないと思うんですが」
「岩倉先生から聞いたところ、あなたはすぐ泣いてしまう体質らしいわね」
「そうですが···」
「その泣いてしまう体質を武器にするの」
この体質を武器に?
いつも気持ち悪がられるだけの体質なのに役に立つことがあるのだろうか
「この学校はとても良い学校よ、生徒は真面目だし、不良と呼ばれる生徒もいない。ただ一つの問題を除いてはね」
確かにこの学校は偏差値も悪くはなく、地元でも上の下といったところで、学校外の評判もそこそこである。
俺はこの体質だから不良とかに虐められないように中学時代は勉強して、この学校に入学を決めた。
「あの?問題とはなんですか?」
「そうね···、一言で言うなら無気力ね、この学校に通う生徒は真面目で、それでいて普通。体育祭や文化祭はあるけど盛り上がりは微妙。それに積極的に学校行事に参加する生徒はほとんどいない」
「まあ、確かに高校ともなると漫画やドラマみたいに青春したいと思うんですが、実際そんなことをできるのは一部だけで、やる気なんか出てこないですよね」
「私はその問題をどうにかしたいと思ってる。生徒会事態も普通は3年生がやるのだけど、誰も候補者がいないものだから私がなることにしたの」
岡崎先輩の言うことはなんとなくわかったのだが、その問題と俺とがどう関係してくるのだろう。
「あなたには秘密兵器として、涙を武器に生徒に訴えかける役割を担ってもらうわ」
何という提案だ!
高校に入ってまだ1ヶ月ちょっとしか経ってないのに全校生徒の晒し者になれというのか!
こんな提案のめるはずもなく断ることにした。
「そうね、条件も無しにお願いするのは野暮よね。交換条件としてあなたのその体質を改善する手助けをするわ」
俺のこの体質を改善?
そんなことできるのだろうか?
「もし仮にも改善できてしまったら、先輩の言う俺の武器は使えなくなるんじゃないですか?」
「それはそれでいいのよ。改善するまで手伝ってもらえれば」
「そうですか、でも改善することとかできるんですかね?」
「私は心理学に興味があってね、あなたが涙を流す条件を掴めればきっと改善に繋がるはずよ」
心理学か、いままで他人の視点から見てもらったことはないからこれはいい機会なのかもしれない。
でも協力するのは面倒くさそうだしな···。
迷っている俺を見て岩倉先生もお願いしてきた。
「もちろん先生も協力してあげるから、岡崎さんのお願い聞いてあげてくれないかな」
まあ先生も一緒だから悪いようにはされないだろう。
そう思って俺は渋々条件を承諾した。
「じゃか契約成立ということで、早速来週あなたには活躍してもらうわよ」
「来週ですか!?何をしろと?」
「ボランティア活動の人員集めよ!来週の集会で募集をかけるのだけどあなたにはそこで呼び掛けを行ってもらうわ」
いや待て、俺は全校生徒の前で呼び掛けなどできるわけもないし、また泣いてしまって笑われるのがオチだ。
それなのになんでこの人はそんな事を俺に任せるのか。
「いや!俺には無理ですって!」
「台本はこちらで用意するからあなたはそれに沿って話してくれればいいだけよ」
「わかりました···」
仕方ない。
この体質が改善されるなら安いものだ。
いざとなったら休めばいい。
だが俺はこの初仕事を期にどっぷりと生徒会に浸かっていのであった。