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第九話

段々3000字投稿が苦じゃ無くなってきたような気がします。慣れって凄ぇ!

 ガチャンッ! モリディアニ街区に素焼きの陶器の砕ける、甲高い音が響き渡る。


「 はぁ……ルナ、お前これで今日何回目だ?」

「……ごめんなさい」


 あたしは今、食器作りに勤しむカイの手伝いをしていた。モリディアニ街区では皆、カイの作った食器を使っているのだ。


 カイが趣味で始めた食器作りが街区の皆にとても好評だったという事もあったが、一番の理由はやっぱり、高価な陶器の食器を買うお金が無いから。

 趣味で金を稼ぐ気はねぇからよ、と豪快に笑うカイは、ある意味では村の救世主だった。


「別に怒ってるつもりはねぇけどよ。でも、もうちっと集中してやってくれねぇかな。それ、結構気に入ってたんだぜ?」


 あたしはカイの視線から逃げるようにして俯いた。カイに今の自分の顔を見られるのが怖かった。

 ──だって、今の自分はきっと、凄くみっともない顔をしているだろうから。


 こうなった原因は自分でも分かってはいるのだ。それもはっきり。でもそれを解決する為の行動を、何一つとして自分がとれないという事が、余計に落ち込む原因になっていた。


「……ごめんなさい」

「だから怒ってるつもりはねぇって」


 あーあ、何やってんだろ、あたし。

 丹精込めて作り上げられた陶器が自らの手から滑り落ちてゆく時の喪失感は、レンがいなくなった時の胸が締め付けられるような思いと、少し似ている気がした。


 レンのいない寂しさから逃げる為に、暇が出来そうになる度に必死で大人達の手伝いをやった。でもその手伝いの最中でさえ、ふとした拍子にレンの事が脳裏に浮かぶ。


 ……ねぇ、レン。どうしていなくなっちゃったの?


「ルナ? おーい…………ル・ナ!」

「……あっ、ごめんなさい、すぐに運びますね」

「いや、……今日はもういいよ。あっちに座って、少し休んでな」


 不機嫌そうな荒っぽい声音なのに、その言葉は叱るというより、むしろあたしを心配しているように聞こえた。

 手伝っているのは自分のはずなのに、逆にカイさんに気を遣わせてしまっている……


「……はい」


 それだけ返して、あたしはゆっくりと立ち上がった。自らの不甲斐無さに唇をギリッ、と噛み締めながら。


    † † †



 少し離れた所にある石の上に、あたしは膝を抱えて座り込んでいた。この位置ならば、カイから見えることはない。

 代わりに、ひび割れた地面の割れ目から生えているシロツメクサを、ミユがじっと眺めているのが見えた。


「おにいちゃん、まだ帰ってこないねぇー」

「そうだね……」


 シロツメクサを眺めるのに飽きたのだろうか、ミユが近寄って来たが、それに応える声にも力が入らない。


 何をするにしても無気力で、半分寝ているようだったあたしを飛び起きさせたのは、まだ六歳になったばかりのミユの一言だった。


「ミユね、おにいちゃんが帰ってきたら一緒にでぇとするんだ!」


 バケツ一杯の冷水をぶっかけられたような、あるいは特大の爆弾を投げつけられたような気持ち、とでも言うのだろうか。とにかくあたしは形容し難い何かをぶつけられたような気がした。


「あ、あはは……」


 ……まだミユは小さい子供だから、今の台詞はふざけて言ったんだよね。ただ単純に、大人っぽい言葉を使って見たかっただけなんだよね、きっと。うん、そうに違いない。証明終了QED。


 ……あれ 、そもそも何でこんなにあたしは慌ててたんだろう? しかも、よりによって六歳児相手に。


 なんだか無性にしゃくに障った。でも六歳の女の子相手にキレる訳にはいかないし……


 私が一人で頭を抱えて唸っていると、カイさんが近づいてきた。どうやら食器作りが一段落したらしい。


「どうだー、少しは落ち着いたか?」

「カイ、さん……?」


 その声に、あたしは奇妙な違和感を覚えた。何だかいつもより少し上擦っているような気がする。


「あん? どうしたんだよ怪訝そうな顔しやがって。可愛い顔が台無しだぜ?」

「あなたが言うと真面目に気持ち悪いんで止めてください」

「ひ、ひでぇ……」


 いつもよりさらに質の悪いギャグは、何故だか凄く寂しそうに聞こえた。


「……っ !?」


 ──そっか。何で気づかなかったんだろう、あたし。普段から明るいこの人は、普段以上に明るく振る舞う事で気を紛らわそうとしていたんだ。カイさんだって、レンの事が気になっていないはずはないのに。


「レンは、大丈夫なんですかね……」

「さあ、どうだろうな。案外上手くやってんじゃないか? あいつ、昔からそういうのは得意だったからな……そういうのだけは」


 そういうなり、大袈裟に苦虫を噛み潰したような顔を作ってみせるカイ。少々オーバー過ぎるそのリアクションも、今ならすんなりと受け入れられた。


 そういえば、街区が平和で、私たちがまだ八歳くらいだった頃、レンがふらっと隣町の街区まで行ってしまった事があったっけ。


 あの時は街区の皆が丸一日総出で探しまくった。どうやら隣の街区で預かってくれているらしいという噂を聞いて息急き切って駆けつけた時、レンが隣の街区長さん家のこたつで、のほほんとお餅を食べていたのを見て、皆揃って脱力したっけな……


 思い出したら自然と笑いが込み上げてきた、のだったが。


「レンももう立派な男だからな。ひょっとしたら、今頃はもう別の国で結婚なんかしちゃって、またのほほん、ってしてるかもな、なんつってね、ガハハ」


 け、結婚……

 カイの何気ない台詞が、鋭い杭となってあたしの心に突き刺さった。


「どうしたんだい嬢ちゃん? やっぱりレンの結婚が気になんのかい?」

「あ、いや、べ、別にレン君の事がきき、気になってる……とかそういうんじゃなくて!」


 途端にしどろもどろになるあたし。


「あー、ルナおねえちゃん顔真っ赤ー!」

「悪かったわねっ!」


 しまった、やってしまった。


「ふぅーん、おねえちゃんはレンおにいちゃんの事が好きなんだぁー」

「ほおぉー、ルナも大きくなったのぉー」


 次の瞬間、あたしは二人分の好奇の視線に晒されることとなった。カイなんか、完全に孫を見守るおじいちゃんの口調になってしまっている。


「そ、そう言えばだけどさ、ミユちゃん、デートなんて単語どこで覚えたのよ?」


 なんでもいいから、とにかく話を逸らさねば……あたしは必死だった。


「うんとね、前にカイおじちゃんと一緒に出かけた時に、これはデートなんだぞっ、て教えてもらったの」

「あんたのせいかぁーっ!!」


 六歳の女の子になんて事吹き込んでんだよこの変態ロリコンじじいっ!


 ──何だかんだ言って、ここにあるのは楽しい日常だった。

 でもこの中に、レンはいない……


 再び深い憂鬱の底に沈んでいこうとしたルナを遮ったのは、六歳の女の子が伸ばした小さな手だった。


「おねえちゃん、これあげる」


 それは、鮮やかな緑の葉を純白の円弧で彩られた四つ葉のクローバー。ありがとう、とあたしが上辺だけの優しい笑みを浮かべるより、ミユが続けた台詞の方が一瞬だけ早かった。


「おにいちゃん、きっと大丈夫だよ。 ミユがホショウしてあげるから!」


 頬を透明で熱い液体が流れるのが分かった。

 ──それはきっと、涙という液体。


「分かった。ありがとね、ミユちゃん」


 全く 、どこまで意気地無しなのよ、あたしは。こんなに小さな子にまで心配かけて、気を遣わせてさ。

 とっとと帰って来なさい、レン。そしたらあんたのあほっつら、思いっきりぶっ叩いてあげるからさ……

自称ネタ回(第七話)よりもネタっぽくなってしまったorz

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