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第五話

ふぅ、なんとか投稿予定日に間に合った……(書き溜めは尽きた……)

「報告します! 宮内に侵入した賊を捕えました!」

 息急き切って駆け込んできた伝令の言葉が、帝国の中心――白陵宮の皇帝の間に響き渡った。


「何、白陵宮に賊が入り込んでいただと!?」


 会議の途中に発覚した突然の事態に、大臣達が一斉に顔を見合わせてひそひそと言葉を交わし出す。


 当然だろう。なにせ、白陵宮への侵入が行われた事など、帝国史上、一度も無かったのだ。むしろ動じていない人間の方が少ないくらいだった。


「──静まれ」


 もはや手のつけようが無いくらいに騒然となったと思う玉の間に、突如太い声が響いた。さして大きな声量で放たれた訳では無いその言葉は、しかし不思議と良く通り、その場にいた誰もをまるで電撃に打たれたかのようにびくりと震わせ、凍りつかせる。


 言葉を発したのは、帝国の全てを武力によって掌握し、帝国の重鎮達の畏敬を一身に集める現皇帝――エルメス・ハルフォード。


 帝位継承後、すぐさま旧皇帝派――自分の父親の親派を粛正して独裁体制を作り上げ、先代皇帝の放っていたカリスマを遥かに上回る圧倒的な恐怖で帝国を纏め上げている男。


 玉座にゆったりと腰掛けた彼は、一切気負う様子も見せずおもむろに口を開き、

「殺せ。死体は八つ裂きにして……そうだな、正面広場に掲げろ。民衆のさえずりも好い加減煩わしくなってきた所だ。それも同胞の死体を見れば少しは静かになるだろうよ」


 そして何のためらいも無く、殺害命令を下した。不法侵入の大罪人に対してであるとはいえ現皇帝の下したそれは、彼の父によって定められた帝国法典の手順に乗っ取った処刑ですらない。


 その口元に浮かんだ嗜虐的な笑みは、エルメスが逆らう者は容赦なく消し去るという域を越えた、極度の残忍さの持ち主である事の現れ。その恐怖は皇帝の側に仕える者ほど身に染みて理解している。


「お待ち下さい、皇帝陛下」


 自らの身に刻みこまれた恐怖に怯え、顔を上げることすらままならない者達が大半を占める中、皇帝の決定に異を唱えた者がいた。


 アルフレッド・ディケンズ――ホムンクルスの作成を可能にした帝国随一の魔術研究者にして、数ある弱小国の一つに過ぎなかった帝国を世界有数の大国にまで押し上げた立役者。


 大臣として今回の会議に参加していた彼は、賊が白陵宮に侵入したという報告を聞いても全く動じなかった数少ない者の一人だった。


「実はつい先日、新しいホムンクルス――感情を持ったホムンクルスの試作体が完成しました」


 その途端、一斉に玉の間がざわめく。


「ついにホムンクルスが感情を……」

「ホムンクルス風情が、生意気な……」

「俺のリアちゃんが感情を持つように……はぁはぁ」


 深い感慨の籠った溜め息や軽蔑するようなせせら笑い、一部妙に荒い息遣い?など、様々な音声が飛び交うが、皇帝の一睨みですぐに静寂が戻る。


「ご苦労だった。……それで、それと咎人の磔に何の関係が?」


 訝し気に声を潜める皇帝に、アルフレッドは顎の立派な白鬚を揺らしながら、ゆっくりと、噛み砕くように言葉を紡いでいく。


「新型のホムンクルスにはまだ一つ、致命的な欠陥が残っております。動物を仮想敵とした性能テストでは問題無く基準値をクリアしたのですが、ラボの職員が相手となって行ったテストでは、何故か魔法の行使中に暴発を起こしてしまうようなのです。……既にそれで三人が精神に深刻な障害を負い、職務続行不能でラボを退職しました」


 そこで一旦言葉を区切り、アルフレッドはふぅーっと息を吐き出した。彼は全く異なる理由で息を吐いたのだが、それが皇帝の目には、共に開発に携わったメンバーの悲劇を悼んでいるように映った。


「なるほど……つまり貴様は新型ホムンクルスの性能テストの際、死ぬ事が確定していて精神に深刻な障害を負わせても問題にならない咎人を利用したいと?」


「……仰る通りでございます」


 正直な所、アルフレッドは驚愕していた。皇帝はラボの人間では無い。完全に門外漢である。だから説明にもっと言葉を尽くさなくては伝わらないだろうと思っていた。結論を先回りされたことも余計に驚いた原因だった。


 御託は良い。そんな皇帝の言葉が聞こえた気がした。


「――いいだろう」


 短い黙考の末、皇帝の告げた返答は許可。精一杯の感謝と共に、アルフレッドは深々と頭を下げた。


「お許しいただいた事、深く感謝いたします」


「ただし、期限は一週間だ。一週間後の夕方、その咎人を磔にする。その間に生かそうと殺そうと貴様の自由だが……磔にした時、人だと分かるように原形だけは留めておけ」


「身命に替えましても」


 今一度、皇帝に向かって深く頭を垂れた後、リパルスはこの会議中、ずっと傍らに控えていた銀髪の少女に顔を向け、そして少女だけに見えるように、寂しそうな笑いを浮かべた。


「さあ行きなさい、イリナ。――君が君らしくいられる場所に、ね」

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