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第二話

月曜日と木曜日の夕方に投稿していこうと考えています。これからもよろしくお願いします!(*´∀`)

 やっとのことでルナを振り払い、レンは自分の部屋に籠った。


 片隅にベッド、中央に小さな机が置かれただけの、何の飾り気も無いレンの部屋。

 その隙間に乱暴に腰を降ろしたレンは、懐から古ぼけた本を取り出した。


 所々がちぎれて読めなくなっているその本は、一緒にデモに参加していた人からもらった聖書とかいう書物だ。


 質素な修道服を身に纏った女と、孤児らしき人物が描かれた黄ばんだ表紙を捲り、レンはプラカード以外ではすっかり見かけなくなった文字をうんうんと思い出しながら読んでいく。


 …………


 ――やめたやめた。

 ささくれだらけの粗末なベッドに身を投げ、レンは視界に映った朽ちかけの天井の木目をじっと見る。


 今を生きることにすら困窮している状況で、昔の聖人が言った言葉が何の役に立つというのか。必要なのは、この苦しい状況をいかにして乗り切るかという知識だけだ。


 乗り切った先にあるのは今と何も変わらない苦しい生活ではないか、という自分自身への嘲りには気づかない振りをした。

「レン、起きてるー?」


 ドア越しに聞こえるルナの声に、レンは思考の淵から引き上げられる。


「……起きてるけど、どうしたの?」

 訝しむ態度が不機嫌な声となって出てしまったが、全く気にしていない様子のルナは構わず話し続ける。


「買い出しに出掛けていた人達が帰ってきたのよ! 今夜は御馳走ね!」

「父さんが……帰ってきた!?」


 瞬間、勢い良く蹴り開けられた扉が悲鳴を上げるのも気にせず、レンは飛び出していた。


「レン! あーあ、これはしばらく戻って来ないわね……」

 その後には、額に手を当てるポーズの妙に様になったルナが、ぽつんと残された。


    † † †


「父さん!」


 買い出しから帰ってきた男たちは、ちょうど持ち帰った荷物を降ろし終わった所のようだった。

 女房達から受け取ったタオルで、疲れきった顔をしきりに拭っている男たちの中、レンは逸る心をこらえて自分の父の姿を探す。


 しかし、すぐにその中にいない事に気づいて、レンは首を傾げた。

 汚れた体をタオルで拭くだけではもの足りなくて、帰宅早々風呂にでも入りに行ったのだろうか。それとも世話好きな父の事だから、まだ厩舎に込もって仕事を終えた愛馬を労っているのだろうか。


「帰ってきたんだったら顔ぐらい見せろよ、あのバカ親父……」


 何とは無しにレンが零した愚痴に、なぜか男たちが目を伏せた。ちらりと目くばせしあうと、中央に立っていた大柄の男が一歩前に出る。


 彼は沈痛げに顔を歪め、レンの方を向くと、抑揚を抑えた声で静かに告げた。


「レン、お前の父親は国境を越える途中、憲兵に捕まって殺された。彼はもう帰って来ない」


 ――時間が止まった。

 男の口から出た言葉の意味が理解できず、一語一語、噛み砕くように繰り返してみる。


「父さんが……死んだ?」

 唇が震えた。自分の顔が強張っているのが痛いほどよく分かった。


「おい、嘘だろ……? 嘘って言ってくれよ!」


 ほとんど叫ぶようなレンの声に、男が一層深く顔を歪め、項垂れるようにして視線を逸らす。

 それがレンの父の身に起きた、悲しいまでに残酷な出来事の答えだった。


「すまない。本当にすまない……」


 絞り出すような声で謝罪の言葉を繰り返す男の横を、レンは幾度も倒れそうにながら通り抜ける。

 ふらつく足取りで、レンは表へと出ていった。


    † † †


 幽鬼のような足取りで外へと出ていったレンの後ろ姿を、カイはじっと見ていた。

 父親が死んだと聞かされた時の、何も映していないどこまでも虚ろな瞳。それは、断じて十代の子供が浮かべてよいものではなかった。


 もしも自分がその場にいて、自分が身代わりになって、レンの父親を逃がす事ができていたら、年端もいかない子供に親を失う苦しみを味わわせないで済んだはずなのに。


「くそっ……」


 思わず軋んだ声が洩れた。足に怪我を負ってしまったが故に、一人だけ買い出しに行けなくなってしまった自分が、今はどうしようもなく恨めしかった。

 カイは自らの無力さに奥歯をギリッと噛みしめ、一層深く俯いた。

主人公の普段の生活の描写、ちょっと短すぎたかな……

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