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ペテンの付け焼き刃はベテランの勘に敵わない。

私は、中央警察署で私服刑事小山さんに、話を聞きたいからと会議室的な所に案内されました。そして、中田さんも連れて部屋に戻って来ました。私の前にペットボトルのお茶を出します。

これから、話を聞かれるわけですが、取調室ではなかったので、きっと逮捕とかないですよね。セーフですよね。みなさんそうですよね?ね!頷くときに、目をそらさないでー。


小山さんが、話を始めます。

「中田君は、生活安全課の担当でね。今回の担当者は彼女なんだよ」

「改めまして生活安全課の中田由美子と言います。」

紹介を受けて、中田さんが自身の詳しい自己紹介をします。

私は、それに答えようとします。

「今回は、ご迷惑をおかけして……」

既に、パンク寸前の私の頭は、機能不全状態です。それに気づいたのか、中田さんが気を遣ってくれます。

「それは、もう良いですよ。それよりも、妹さんと、何があったのかを少し確認したいと、小山さんが煩くて、本当はもう……ふぎゃ。」

突然奇声を上げた中田さんに私は驚いてしまいました。。中田さんは小山さんの方をにらみ付けています。私の心の声は【逮捕ですか?】とたずねています。

小山さんは、それに気にもとめずに

「僕から話そう。単刀直入に、あの子達は君と姉妹ではないのだろう?」

その言葉に、私は動揺を隠せませんでした。

「小山さん、それはちょっ」「君は黙って……」

中田さんの言葉を、小山さんは止めてさらに私の目を見て言います。

「ゴメンゴメン。別に君を逮捕しようとか、あの子達をどうにかしようという話じゃないんだ。単に確認したかっただけでね。そもそも、何か悪い事実が見つかったわけでもない」(今はね)

真剣な顔から、一転、私の方に笑顔を向ける小山さんですが、その笑顔の後ろに、( )の言葉が見て取れた気がします。

「どちらかというと、僕は君達が事件に巻き込まれていて、何か言い出せない理由があるのか?それとも、暴力問題でもあるのかな、なんて思ったんだよ。まあ、刑事の勘って奴。それで心配しているわけで、外れることも多いけどね。」

と、おじさんウィンクが来ました。ここで目をそらしたら負けです。おどおどしてはいけませんが、私の顔は間違いなく引きつっているはずです。小山さんは続けます。

「それで、とりあえず、ちょっと君と話をしたいなと思ってね。あの子達の言動も気になったしね。もちろん、無理強いはしないよ。捜査とかじゃないから。言いたくなければ言わなくて良い。まずあの子達は、君の妹なのかだが、その雰囲気からしてもう答えは出ているね。」


と、言われます。私が何を言うまでもなく、答えが出ていますが、沈黙は同意でありきっとマイナスです。何か良い言葉はないでしょうか?いや、ここは沈黙でしょうか?重役脳会議を招集します。


-脳内会議-

ME(人格、私):素直に話すべきだと思いますか?

マスター(脳管理者):神様の話?止めた方が良いでしょう。だって、神様出てきたら変でしょう。きっと尿検査されるよ。任意で良くても、断ったら怪しまれるし、出なくてもマークされそうじゃない?

大脳一号:それでも、いいんじゃね?だって出ないんだから。薬なんてやってないし。

大脳二号:でも、マークされると近所とかに影響するのでは?うちは自営の接客業です。近所にもしかしたら、お薬が何とかって話をされたら……。変な人が来るかも知れないし……。廃業です。

小脳:全身の汗が、ちょっと水でも飲んだ方が良いよ。そこのお茶を一口飲むことを提案する。

中脳:もうちょっと落ち着いてくれないかな。情報が多すぎてパンクしそうなんだ。

下垂体:何で興奮ホルモンなの。もう、寝る時間だよ。昨日も殆ど寝てないし。

ME:じゃあ、神様は出さない方向?

大脳一号:いやいや、可能性は最後まで検討した方が良いよ。この人達、神様を信じる人かも知れないしさ。

大脳二号:そう言われてみるとそうよね。神様が好きな人ならもしかしたら。

下垂体:もう寝よう。すぐ寝よう。興奮を抑えよう。

マスター:一端閉会。

-脳内会議終了-2.006秒


会議は、不調に終わりました。

小山さんが、私の言葉を待っています。私は、口をもごもごさせて、前を向き、喋るモーションをスタートさせます。議題を変えます。とにかく、どうやってごまかすかです。会議の人数をMEとマスターに減らします。


-第二回脳内会議-


MEがとにかく回答案を出します。マスターは善し悪しを決めて下さい。急いで。

MEの回答その1:「実は秘密がありまして、ここだけの話、内緒ですよ。神様が何かの間違いで2人を置いてってね。てへぺろ!(;^^)ヘ..」→弟妹揃って電波さん→あおばというお店は電波さんのやるお店、警察がお薬関係で調べてみる。何も出ないけど脱法?→普通の客足が減る→倒産。これはないですMEとマスターは回答します。


MEの回答その2:「何言ってるんですか、あの子達は私の可愛い妹ですよ。」→「本当に」じろりと睨まれる→「本当ですよ」きょろきょろ→「Rarely?」→「Y...Yes」→「怪しいから、とりあえず今晩一泊してみようか?話す気になったら教えて」→あおばのオーナーさん警察に一泊したんだってどうも妹さんが……→信用が落ちるお客さんが減る→店が潰れる。これもない。


MEの回答その3:「実は闇の組織に狙われていまして、戸籍を隠すように指令が……。」→「ほうほうそれで君は何担当なのかね?」→「余計に怪しいから吐いて貰おうか」→「違うんです。私は騙されて」→「そんなわけないだろう。嘘をつくな」→とりあえず逮捕→ないです。


MEの回答その4:「妹達はあの背格好で、知能も低く幼いので、入院していまして先日退院してきたんですけど、喧嘩しちゃって。」→小山さん:「そうなのかいそれは大変だね」中田さん:「頑張って下さい。」→「今度お店に行くよ」→「商売繁盛」……マスター曰く模範解答。これで行こう。


-脳内会議終了-1.226秒-自己ベスト更新です。


私は、意を決して、4番目の模範解答を可能な限り胸を張って答えます。

「妹達はあの背格好で、知能も低く幼い」この後に小山さんの声が重なります。「か(の※)ら(でぇ!)、入院していましたとか?言わないよね?」と、私は今日一番の驚きで、目を丸くし固まります。小山さんはここで最高の笑顔を見せています。勝ち誇った顔が……私の敗北を物語っています。中田さんがどんな表情をしているかなど、もう私に見る余裕はありませんでした。


※( )は私と被った言葉です。


小山さんは、続けます。

「ゴメンね。僕も長年ここにいるからね。君のこれまでの表情とか仕草から見て、きっと何か取り繕うのだろうとは思っていたんだ。まさか、こんな変な形で、ストレートな返しをしてくるとは思わなかったけど。よほど何か言えない事情があるのかい?」

私は視線を下げると小さく私はうなずくしかありません。心臓はもうバクバクと音を立てて冷や汗がだらだらと流れます。中田さんが質問します。

「それを話して貰うことは出来ませんか?」

私は首を振り「できません。」と小さな声で答えます。

小山さんは、はぁとため息をひとつついてから、私に言います。

「これは、犯罪事件ではないし、被害届が出ているわけでもないから、逮捕したり無理に、聞き出したりはできない。でも、もしこれで君の妹さんが死んでしまったり、行方不明になってしまったら、君も大人なら、どうなるかは分かっているよね?」

私は、ハッとして小山さんの方を見ました。

「妹さんは、確かに幼い容姿だし、成人には見えない。きっと病院に連れて行って、この子は大人ですかと聞いても、誰も大人とは答えないんじゃないかと思うよ。でも、市役所の当直に確認したけど、戸籍上は問題は無いみたいだ。今日はそのことで、君は市役所に行ったんだってね?その担当者が残っていたので、すぐに聞けたよ。どうも、取り乱していたってね。そういうのが出てきたから、DVとか虐待とかじゃないか疑ったんだよ。たまたま私が2人を見つけたというのもあるんだけどね。」

私は、うつむいたまま話を聞くしかありません。

「まあ、事件にしても、そもそも、彼女たちが君を守ることを固持して同意しないんだ。お姉さんは悪くない。自分たちが不甲斐ないからいない方が良いんだってさ。遠くから見守るとまで言っていたよ。で、さっきの模範解答だよ。この意味は分かるよね?」

小山さんは、一つため息をついてから、言います。

「まあ、暫く署でも調査はさせて貰うけど、事件にはならないだろう?君が答えてくれない限りね。それにこれが事件だとしても、そうじゃないにしても、あの子達の年齢の割に幼い容姿や純粋な感情を守ることが出来るのは、君だけかもしれないね。他に君たちのことを知っている人が居れば別だが。あの子達は君を守りたいと言っていたが、君はどうなんだい。」

確かに、あの子達は、一度クシさんが居座るのを止めてくれています。あの子達は、あの子達なりに自分の努めを果たそうとし、手伝おうと頑張っていたのは確かです。そして、私の一言を聞いて側を離れることを決めました。全部私の言いつけを守ろうとしたのです。

「君が来るまで、あの子達と話をしていて、あの子達が、本当に純粋に君を想っているのは分かったよ。だから、何があったか知らないが、君の側にいない方が、君が喜んでくれると思ったようだ。こんな行動が出来る子はいないよ。たまに家出をする子はいるから、よくある喧嘩の口実なんじゃないかと思ったけど、君の文句一つ言わないんだ。本当に心から君を想っているんだろうね。大人ような子供のような、変な子達だよ。容姿や仕草では24歳には見えないがね。本当に、何者なのかね?あの子達は?」

中田さんが、会話に割り込みます。

「しかも、女性の私より小山さんにだけ懐くんですから……」「中田君は、合理的過ぎるんだよ。もうちょっと人情味と経験がいるんだ。」「好かれて良かったですね。小山さんはロリコンですか?」と中田さんが小山さんに細目の冷たい視線を送り、

「私に話してくれることと、君が好かれないことは、ロリコンとは関係ない。」

と、自然に返され、「けぇっ、面白くない」と中田さんが投げやりな態度をしています。

私は、それがおかしくてついクスクスと声が出てしまいました。

それを見て、警官の二人は、顔を見合わせます。

「笑顔になって、良かった。これなら、帰っても大丈夫だろう。まあ、どちらにしてもあの子達と君を引き離す権限はい・ま・は警察にも自治体にもない。だから、僕らとしては何度も同じことが起きて、最後は事件になるのは嫌なんだ。」

と笑って小山さんは言います。

「それで、本当のことを話す気になった?」

私は、中田さんの質問に、

「いいえ、ご心配して戴いたのに、恐縮ですが、話すことは出来ません。でも、安心して下さい。この先もあの子達が不幸になるような事件は起きません。私達はこれでも姉妹ですから。」

と、はにかんで答えます。

小山さんは、ちょっと残念な表情をして

「そうかい。それほど隠す秘密が何か知りたかったのだが、まあ仕方が無い。」

と言い、中田さんは

「もし事件になりそうだったり、困ったことがあったらすぐに連絡して下さい。」

と言ってくれました。

「じゃあ、解散で中田君後は頼むよ。事件じゃ無かったし、お疲れ」

小山さんはそういって、私たちを置いて部屋を出て行った。

「えぇー、ちょっと待って下さいよ。今回の書類は?」

「事件じゃないんだから、姉妹喧嘩ぐらいで良いんじゃないか?」

と、いう声が響きました。私的には、嬉しいのですが、それで良いのでしょうか?

いえ、きっとこの刑事さん小山さんは、そう言いながら、暫く私達の様子を見るのでしょう。何となくそんな気がしました。私は、中田さんにお手数と、ご迷惑をおかけしましたと、再度深々とお辞儀をして、寝ているまことぬいを起こさないように、車へと乗せます。帰宅したのは、夜11時過ぎでした。


2人を、寝室の布団に寝かせて、私は居間に座ります。帰宅した直後には寝ていたはずの、偽ネコが、目覚めたようで、私の膝にぴょんと飛び乗り、ニャーと鳴きます。私は、その背を撫でながら、幼い頃の自分を思い出していました。


私は、小学生一年生ぐらいの頃に道ばたで子犬を拾ったことがあったのです。

他の子は、連れて帰ろうとしませんでしたが、私は可哀想に思えて、連れ帰ったのです。

案の定、祖母に飲食店なので、他の動物は飼わないと言われましたが、裏庭や玄関で飼えば良いじゃんと、泣いたことがありました。結局飼えなかったのです。その子犬は、翌日には、処分場に引き取られていきました。その後、どうなったか知りません。

「まこには、あんなことを言いましたけど。私も、子供の頃ペットを飼いたかったんですよ。捨てられていた犬です。でも、おばあちゃんの許可は下りませんでした。」

わたしは、偽ネコに語り掛けていました。

「君は、何故家に来たの。神様のお遣いなの?」

質問に答えはありません。ただ、静かに目を閉じて、私に撫でられ、気持ちよさそうにしています。時より、ウサギのような長い耳が立ち上がるのです。

「私は君を飼うわけじゃなくて、居候だから、私が出ていけって言ったら出て行って貰うよ。」

と私は、再び1人自分を納得させるように言います。

そのタイミングで、

「みゃあ」

と偽ネコは鳴きました。


私は、深夜0時頃に、偽ネコと床につきました。


夢を見ました。

遠い昔の夢です。

父と母と私の三人で、電車に乗って海にいったんだっけ。

駅前から海まで歩いてすぐで、広い砂浜で私は遊んで、少し海に入って。ちょっと波が怖くて、でも凄く楽しかった。父と母の顔は、写真で見た顔でしか覚えていないせいか、はっきりしません。でも、楽しかったのです。

だけど、いつのまにか父と母はいなくなり、おばあちゃんが私のそばにいました。「お父さんとお母さんは」と祖母に聞くと、「遠くにお仕事だよ」と。私は父と母を探しましたが、見つかりません。気が付くと夕暮れ時、祖母の姿も消えていました。私は祖母を探します。

「オーナー・・嬢……嬢ちゃん」

私ははっとして目覚めます。ここは、あおばの店内です。どうも夢を見ていたようです。「すみません。寝ていたようで。」私はお客さんに謝り、オーダーを聞きます。「いつもの頼むよ?」「はいアメリカンで……」「それで、看板ねこは元気そうだが、あいつらはどうだい?」

お客さんは、質問を返します。看板ネコ・・・はて、そんなものがいたでしょうか?あいつら?あいつらって誰でしょうか?

「看板ネコって?」

「何寝ぼけてるんだそこにいるマスコット」

と私は常連さんが顔をやった先を見ると、戸口の前に置かれた丸イスの上に茶色の物体がいます。いえ、ぴょんと1mぐらい跳ねこちらを向きます。

すると、店の奥、自宅の方からひそひそと小さな声がしました。

・・・・・・

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