悪い状況は放置するともっと悪くなります。
今、私は警察署に来ています。時刻は夜22時30分ぐらいでしょうか?私は先ほど差し出された500mlペットボトルのお茶を見ています。目の前にいるのは50代中盤ぐらいの男性警官(私服)と、私と同じぐらいか、少し若いぐらいの制服女性警官の2人です。何があったのか?特に何もありません。本当なんですよ。だから、もう帰って良いでしょうか?誰か、私を家に帰して下さい。
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本編での、引き延ばし作戦は止めろと、本当に嫌なんですよ。絶対にみなさん、しょうもない話だって言いますから……期待しないで下さいよ。
それは、23年前のことです。ガヤガヤ、ワヤワヤ。
……ちょっと、今度は何ですか?前話から23年経ったのか?犯罪者になったのかって?先で分かりますから、お静かに、続けますよ。
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それは、23年前のことです。私の祖母は、事故で両親を亡くした私を引き取りました。私は、祖母の元で5歳から18歳までの13年間を過ごしたのです。そんなことは知っている。話はここからです。その13年の間、私は祖母に育てられましたが、実はもう一人、育ての親がいたのです。実は、話の最初に登場しているのですけど、常連でやってくる近所の【おじさん】です。祖母が亡くなっているのを見つけてくれたのもそのおじさんです。
私には親族といえる人が、祖母以外に居ませんでしたので、私にとっておじさんと言えば、このおじさんだったのです。そして、このおじさんは、他のおじさんと違って、私を実の子供のように厳しく、優しく躾けてくれたのです。外でも家でもお店でも。私の祖母、おばあちゃんはお店もありましたし、年齢も年齢でしたから。私を引き取ったの67歳ですよ。きっとたいそう苦労したはずです。そこで、父親役をしてくれたのがおじさんでした。そして、祖母では足りない母親役が、おじさんの奥さん、おばさんだったわけです。そうそう、おじさんとおばさんの間にもお子さんがいました。私と同級生は居ませんでしたけど、私より上がが一人、下が二人いました。そして、時々、おじさんの家に、預けられていました。
そんな、おじさんがよりにもよって、私が役所から帰宅した当日の午後一番でお客として、やってきたのです。このおじさんそして、その奥さんであるおばさんをここからは他のおじさんやおばさんと区別して伯父さん、伯母さんとします。
まことぬいは、残りのビデオを見ていてくれれば良かったのですけど、まこもぬいも、童という神様のお遣いですが、今は、直という坊やが私にくれたネックレスの影響で、私の童となりました。ちなみに、このネックレス外しても、まことぬいとの関係は断ち切れないようです。
実は昨晩寝るときに外して、今日は着けなかったのですけど、お店を開店すると……皆まで言わなくても分かるでしょうけど敢えて言います。そうですよ。首に掛けられていたのです。呪いのネックレス(水色)とか言わないで下さいよ。一番怖いのは当事者の私なんですから。加護のネックレス(水色)です。
話を戻しますよ。私は、ビデオを見ていてというお仕事を与えたのですが、二人とも納得してくれなかったのです。いや、正しくは私がそれでも、ビデオを見ていなさいと言えば、もしかするとそれがお仕事になったのかも知れません。後から考えるとそう感じます。しかし、その時は、じゃあ何か仕事を与えようと思ったのです。
そこで、言葉遣い以外は、一通り出来そうな、ぬいにテーブルを拭いたり、モップ掛けをしたりという仕事を与えました。当然ぬいは少し大雑把でしたが、ちゃんと言われた通りの仕事をしました。褒めると、「当然だろ!」と平静な大人を装いつつも、「フンフン♪フフッフー♪」とそらに浮かぶお城で少年が吹いていたトランペットの鼻歌を歌って、るんるんで仕事をこなしていました。
そうすると、当然、戸籍上、次女のまこも仕事を欲します。本人が自己紹介で言ったように、この子は相当なポンコツでした。口が悪いと思うでしょうけど、これより良い表現がありません。ぴったりなんです。お皿を洗えば割れる。カップは取っ手が砕ける、取れる。掃除を頼めば汚す。バケツをひっくり返して、自分もずぶ濡れ。ほうきで掃いてといえば、ほうきが1本折れました。
原因は、本人は意識せずに、強力を使ったこと、うれしさのせいか、抑えられないようです。さらに元々おっとりしているのに、落ち着きがなく、注意が散漫なため、あり得ないミスが多いのです。なにもないところで躓く、花瓶にほうきの柄がぶつかるとか……。
ただ、取り柄もあります。素直で優しいという点と、積極的で単純と言うことです。
だから、失敗してごめんなさい素直に謝り、しょんぼりします。「良いよ」といえば、すぐに立ち直り、次は頑張るからと仕事をねだる。ちょっと今は止めて、と言えば、しょんぼりして、ぬいがその横でうまく別の仕事をやるから、さらにしょんぼり。仕事を与えると失敗。
結局、店の前にあるプランターと垣の水やり(取っ手が金物の如雨露使う)を命じました。これは、出来ました。まあ、それが後ほど、別の問題を持ってきたのです。
-爆発6.5時間前-
あおばは午前の2時間、10時~12時までを臨時休業にしましたが、12時から18時の営業は予定通り行いました。最初のお客さんとしてやってきたのが、伯父さんでした。カランカランと店の呼び鈴がなって、伯父さんがいつものように、「来たぞー」というはずが、「外に居る子、誰?オーナーの子。」と言いました。ちなみに、伯父さんは私がこの店のオーナーになってからは、オーナーと呼んでくれます。その方が店主らしくなるだろうと、言っていました。ちなみに、以前は「お前」とかでしたから、出世しました。伯父さんは自分の子もそんな扱いでしたので、名前で呼ぶのが、照れ臭いのだと思います。私がニヤニヤしながらそんなことを考えていると、
「おい、聞いてんのか?って、もう一人いるぞ。神社喫茶でも始めるのか?」
店のテーブルをフキフキしている。ぬい、外でお花に水をやるまこ。ちなみに衣装は、袴のままです。
伯父さんは、ぶつぶつ良いながら、カウンターに座ります。私は、お水とおしぼりを渡します。伯父さんのオーダーはいつも決まっているため、何も言わずとも準備します。
「で、そこにいる子達は誰よ。オーナー。」
私の目を見て、伯父さんが問いかけます。
当然ですが、私は目をまっすぐに見られずに、視線を逸らして答えます。
「私の妹達――かな?」
今、何ではっきり言わないのと思ったでしょう。親族並に私の事情を知っていて、おばあちゃん……祖母が亡くなったときには、お葬式の手配とか、喪主の挨拶の仕方とか、金額の調整とか、49日の準備とか手伝って貰った仲ですよ。当然、私には他に家族が居ないことぐらい分かっています。
伯父さんは冗談だと思っているようです。笑顔になりました。
「そうかそうか?で、本当は誰の子なんだ。」
いや、本当なんですよ。ここで、冗談ですよ。友人の子を預かっているだけです~。何て言えばどんなに楽か。考えはしたのです。脳内会議では賛成2、反対8で否決されました。ただ、先の見通しがない嘘は、いつかバレます。伯父さんの場合は特に。ということで、もう一度言うしかありません。私は、真剣な顔で言います。
「本当に、私の妹なんです。」
「エイプリルフールならもう過ぎただろう。お前の娘か、なら別に怒りはしねえぞ。」
先ほどより怖い顔つきになりましたが、ここは押し通すしかありません。
「嘘だというなら、市役所に問い合わせて確認してみて下さいよ。代理人が必要ならお店が休みの日にでも行きましょう。」
とまくし立てます。が、伯父さんも引き下がりません。
「お前、何か悪いもんでも喰ったか?もしかして、ばあさんが死んで、寂しいから子供を誘拐してきたのか?そもそも、お前の親はお前が小さいときになくなっているだろうが、こんな小さい子が居るわけないだろう。」
と、次のテーブルを掃除中のぬいを見て言います。
「あの子達、戸籍上は24歳ですよ。」
と一言。伯父さんは、笑い出します。
「ワハハハッ。24歳はないだろう。6歳とかそんぐらいだろう。」
当然の流れです。だから、私も役所で動転したのです。私は、神様の話は上手に回避して、伯父さんに説明します。父は不倫していて、別の女性と間に、双子が、認知もしていたらしいみたいな。ただその双子には先天的な病気が……。私頑張りました。無理筋なのは分かっていますし、そもそも伯父さんを納得させられるわけはありません。でもそれしかなかったのです。伯父さんは哀れな目で私を見てから一言。
「お前、明日店休みだよな。ちゃんと休めよ。そして、気づいてやれなくてすまんかった。とにかく、休んで、その後でも良いからもう一度話を聞かせてくれ。」
とオーナー呼びからお前呼びに降格させられ、さらに心配され、そして謝罪されました。とりあえず、猶予期間を頂けましたが、その代償として、私に対する伯父さんの評価は、かなり哀れな子になったようです。まあ、それでも猶予は頂けました。私が、安堵した直後のことです。
「おい、親父。邪魔。」
とぬいがぶっきらぼうに一言。そこで、伯父さんは、眉間にしわを寄せて、私に一言確認します。
「こいつは、本当にお前の妹なんだよな。24歳で、ここの店員で良いな?絶対にお前の親族だな?」
私は、これはヤバいと思いましたが、頷くしか出来ません。伯父さんは、
その直後に、げんこつがぬいの頭の上に落ちました。ぬいは、驚いた表情をした後に、うぇーんと、泣き出しました。伯父さんは、ぬいを叱っています。
「オーナーの私が恥を搔いても良いのか?」
といった話をされています。
しかし、童でも泣くんですね。――そして、昔の私もあんな風に怒られていたのかと、感慨にふけながら、伯父さんいました。私はそんなことを思っいながら、伯父さんに、サンドイッチとコーヒーを出します。そして、伯父さんに
「ごめんなさい。伯父さんと私が謝ると。」
伯父さんの怒りは、私に向かいます。
「お前、なんでこんな状態の子を前に出しているんだ。」
から、お説教が始まりました。容姿が子供っぽいから、少しぐらい大丈夫かなと思ったんだろう?という言葉がグサリと突き刺さります。そして、最後の極めつけは、
「最初が肝心だ。最初に、問題点を正さないと、善悪の判断が乱れて同じことを繰り返すぞ。」
と叱られました。伯父さんの言っていることは正しいのです。正しすぎるのです。ですが、私はこの状況を望んだわけではありません。寝ずに、いろいろ調べて、朝から役所に行って、そして帰ってきたら仕事を求められ、少し楽をしたって良いじゃないですか?って、思うのは間違っていますか?
ここで爆発5.5時間前です。常連の他のお客さんも数名来ていましたが、ねちねちと1時間絞られました。
私は、疲労も重なり、この言葉を上手く受け入れられなかったのです。
最終的に、ぬいは居間に戻しました。私の後ろで、めそめそシクシクやっているだけで、ぬいもあれからは、手伝いたいとは言いませんでしたし。爆発4.5時間前です。
さて、その後にまこが問題を持ち込みました。
生き物を店内に持ち込んできたのです。
「お姉様、可愛いのを見つけました。」
って言うのです。
まこの手両手に包まれた、みゃあみゃあと鳴く、手乗りネコ?耳はウサギ、しっぽは子豚で?二足の生き物がいました。変なネコなんですけど。焦げ茶色のそれを、まこは飼いたいと言い出したのです。当然私は、駄目だと伝え、夕方まで戯れるならOKで後は、外に返すという方向で決着しました。3時間前です。
私は、疲れていました。今日に限って、午後からのお客さんが、いつもより多く、てんてこ舞いでした。お客さんが増えたのは、3.5時間前~2時間前。
そして、18時の営業を終えて、会計を締めて、居間に戻った時に、トドメがやってきました。
昨日今日と、とてつもなく疲れているのですけど……。いつもなら、倒れ込むところですが、今日は違います。
「お姉様。」
「何ですか?」
「この子、賢いですー」
イラ
「まだ、元の場所に返していないのですか?」
イライラ
「やっぱり、賢いので飼うのですー」
イライライラ
「姉貴、そんなことより腹減った。」
イライライライライラ苛……かち~んと何か頭の中で音がしたような、そんな気がしました。
「なんで、私があんたたちの面倒をみなきゃいけないのよ!あんた達が、勝手に私のところに来たんでしょ。私を守って、助けてくれるんじゃないの?私が何であんた達の代わりに食事を作って、生き物を飼う許可を与えないといけないのよ。生活だって厳しいのに。っていうか、なんで直君は使えないのを寄こしたのよ……」
と、爆発してしまったのでした。
そこのお母さん、そんな経験ありませんか?家の場合は、訳ありの子が、やってきてまる1日で、堪忍袋の緒が切れました。私より短気な人が居て、良かったって言わないで下さい。私の場合は、生活がギリギリな上に、こぶが2つやってきました。そこに昨日出来たばかりの妹が、どこから拾ってきたか分からないペットを飼いたがり。お客さんで、父親代わりの伯父さんに小一時間説教され、他のお客さんに醜態をさらしたのですから。私は、このとき自分が何を言ったのか分かっていませんでした。
私は、疲労困憊の中でご飯を作ります。2人分。私は食欲がないので、牛乳を飲んで凌ぎます。そして、ご飯が出来たときに、2人は既に家の中に居ませんでした。店の中も、家の周りも一応探しましたが見当たりませんでした。
「何してるんだろ。私。」
居なくなったということは、神域に戻ったのかもしれません。そうでなければ、すぐ帰ってくるでしょう。少し、心に引っかかるものはありましたが、脳内会議は、6:4で神域に戻ったという意見を可決しました。何でしょうこのザラザラした嫌な感じは。
残ったのは、私とまこがペットにしたいといった、ネコの鳴き声をする生き物だけです。これは、仮に偽ネコとでも呼びましょう。この偽ネコは、昼間に見た時より、一回り大きくなっていました。これ、絶対に神がかり的な何かだと分かりました。
「あんたに罪はないのは分かっているけど、家で飼うのは財政的に厳しいんですよ。今夜は置いてあげますけど、明日は出て行って貰います?ごめんなさいね。分かって貰えますか?」
と、私が偽ネコに向かって独り言をつぶやくと、偽ネコは、
「ニー」
と鳴きます。今回は「にゃあ」ではありません。まるで、私の言葉が分かって鳴き分けているように感じました。ふさふさとした毛並みを少し撫でながら、私は夢の中へと誘われていきました。何か心地の良い、そして懐かしい夢をみたような気がします。
お店の電話が鳴る音で、目覚めたのは22時頃でした。私は、いつの間にか居間のちゃぶ台に伏せて寝ていたようです。2時間ぐらいでしょうか?そして、いつの間にか私の膝の上で、偽ネコも眠っていました。私は、偽ネコを起こさないように、座布団の上に置いてから、お店の電話に出ます。
「はい、喫茶店あおばです」
「喫茶店あおばのオーナーさん。私は、中央警察所の、小山と申します。夜分遅くにすみません。」
「何か?」
「双子の妹さんが、四角公園のベンチに座っていたところを保護されまして。……もしもし、聞いてますか?」
あの子たちは、向こうに帰ったわけではなかったようです。まあ、何となく分かっていましたけど。結局、あの子達は、私に迷惑が掛かる行動を取るのです。
「はい、聞いています。すみません。まことぬいがご迷惑をおかけしました。」
「それなら良いんですけど、二人は家にお連れしようとしたところ、帰りたくないというもので、要らない子だとか、見捨てられたとかなんとかいって……出来れば迎えにきて貰えないかと思いまして。」
「はい、分かりました。すぐ行きますので。」
「そうですか。では後ほどお待ちしております。失礼します。」
「はい、すぐにお伺いします。」
私は、電話を切ると、顔を洗って、軽く身なりを整えます。偽ネコは眠ったままです。部屋の明かりは付けたまま、玄関から、出て車に乗り、警察署へと急ぎます。私が行くのは交番ではなく、警察署です。やっぱり緊張します。
さて、警察署に入ってきょろきょろ辺りを見回し、夜間受付で私の名前と小山さんから連絡があったことを伝えると、すぐに女性の警察官さんが、1人出てきてくれて、案内してくれます。自動販売機のある休憩スペースのような場所でした。二人は肩を寄せ合って座っています。その横に私服の男性が座って彼女たちを見ています。保護したくれた警察の人でしょうか?
「あんた達……」と少し声を荒げて、前に出ようとしたところで、その男性に「しー」と止められました。二人はどうも眠っているようです。
「先ほどお電話しました刑事課の小山です。少し前まで起きていたんだけどね……。疲れたのか寝ちゃったんだよ。それよりちょっと、良いかな?君……中田君この子達をちょっと頼むよ。」
「はい」
男の刑事さん、小山さんに連行されていく間、私は気が気ではありませんでした。刑事課っていったら、事件は現場で起きてるって奴ですよね。取り調べを受けるのだろうか?神様と彼女たちの(戸籍偽装の)秘密が、ばれたのでしょうか?……冷や汗が背中を流れ下るのが分かります。その部屋の入り口を開けて明かりを付けた小山さんに目をやると、小山さんは
「補導とか逮捕とかじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあってね。」
と言って笑いました。この会議室は、20人ぐらいが使うような教室です。長机が縦5列、横2列ほど並び、正面にホワイトボードがある会議室?でしょうか。「適当に座って待ってて」と小山さんは出て行きました。小山さんが、戻ってきたのは5分ぐらいして、先ほど案内してくれた女性(中田さん?)と戻ってきました。
「喫茶店の店主さんだからね。」
と、私の目の前にペットボトルのお茶を置いてから、私に向かい合う形で、座りました。
これが、冒頭のシーンです。そうそう、もしかすると逮捕されて、次回から「面会に神様も来ません」というタイトルになっているかも知れません。それでも、皆さん私を見捨てないで下さい。お願いします。