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ご都合主義は誰のため?

二人を風呂に入れた後は、とにかく寝かしつけます。布団は祖母の使っていたものと、私の古い布団を出して使いました。ダニとか気になりますが、童もアレルギーとかあるんですかね?まあ、明日にでも干せばいいでしょう。二人は疲れていたのかすぐに寝てくれました。


ぬい曰く、地上にいる間は人と同じように食事も、睡眠もするようです。神様の世界、神域では、食事や睡眠は必要なかったそうです。仕組みとか詳しくは知らないと言っていました。今度他の神様に聞いてみましょう。


ここで、インターネット様のお力を借ります。突然やってきた子供の養育とかその辺りを調べなければなりません。喫茶店【あおば】は、オープン当日から神様がやってきて、その後、変てこな神様が増え、そして神様から落ちこぼれの子供、わらべを託され、まだ経営も軌道に乗らない間から大ピンチを迎えています。世間的に見れば、結婚もせずにこぶつき、双子の親でシングルマザーみたいな立ち位置ですが、中身は複雑です。そもそも、まことぬいという童は、誰の子になるのか?


そして、何より問題なのは、この二人が私のことを慕っているという現実です。ただ、空から降ってきた女の子を助けるお話なら、まだ保護した。後は知りませんでも済みますけど。姉貴あねき、お姉様と言われていては、面識がないと言うのが無理な話です。


だから、ネットでいろいろ調べるのです。何々戸籍がないと学校には行けないが、法律上は義務教育を受ける権利があるので、住民票を取得するなど申請をすれば通えるとフムフム。ただ、出生に関わる認知が必要と……。親子関係不存在確認?、家庭裁判所?。これは大事おおごとではないでしょうか?放置しても、きっといいことがありません。ウチは接客業ですし、私は姉と呼ばれていますから、これを放置すると世間体が厳しいのです。明日は午前中、あおばを臨時休業して、この件について役所の人に確認することが脳内会議で決定しました。


私は、その夜殆ど眠れませんでした。パソコンの前で伏せて、短く質の悪い睡眠を取った後、夢ではないかと一縷の望みを掛けて寝室を確認しました。バッチリ彼女たちは寝てました。朝食の時に、まこに容姿を変える変化へんげについて訊ねます。もしかすると、変化で何とか出来るのでは無いか?と思ったのです。

「まこは、変化で大人になったり出来るの。」

と私が訊ねると、

「今は出来ないですー。」

と、残念な答えが返ってきました。

それは、練習すれば出来る?ということでしょうか?

「じゃあ、練習すれば出来るの?」

「う~ん。分からないですー。」

と首をひねって答えます。

「でも、お姉様が練習しなさいと言うならしますですー。」

と、元気に答えてくれます。が、今出来ないなら意味はありません。

それに追い打ちを掛けるように、ぬいがまこに質問します。

「まこって、どれぐらい変化出来るんだ?」

私はそれにかぶせるように質問します。

「どれぐらいって?どういうこと?」

ぬいが答えます。

「神力は使える時間が、童の力量によって変わるんだよ。神様なら長い時間でも出来るけど、お遣いの私達は、出来ても半刻はんこくぐらいなんだよ。」

私は再び、首を傾げます。ハン国?、はんこく、半刻かな?一刻の半分ってことだから、何分?

私は、恥を忍んで二人に、

「半刻って何分?」

と聞いてしまいました。

ぬいは「知るかー」と答えます。

するとまこが、

「15分ですー。お姉様。」

と答えます。まこが答えられたことに、ぬいが目を見開きました。まあ、私も軽くショックを覚えました。気を取り直して、とにかく、15分じゃあ仕事も何も出来ません。家で大人しくなんて、ぬいはともかく、まこには無理でしょう。ぬいは、まこに出来る時間を尋ねます。

「それで、まこはどれぐらい出来るんだよ。」

ぬいの質問にまこは答えます。

「ううんとですねー。長くても1日で一時いっときの半分ですー。」

そして、私が?マークを浮かべていることに気が付いたのか?まこは、現代時間で答えてくれました。

「一時間ぐらいですー。お姉様」と重なる形で、「すげえぞ、それ。」

とぬいが興奮し、なにやらまこにいろいろ聞き始めました。まこは、ぬいが興奮するほどに、普通の童から見ると格段に長い時間変化へんげが出来るようです。でも、大人にはなれません。じゃあ、何ならなれるのでしょうか?

「ところで、まこは変化で何になることが出来るの?」

まこは、得意げに、

「ええっとですね。おなじぐらいの童ならぜんたいが変化出来ます。後は顔だけ、とか、お姉様とか、動物さんの顔にはなれます。」

と答えます。ちょっと意味が分かりません。

ぬいの方にちょっと目を向けてみます。すると察してくれたのか

「変化は、全身でも一部分でも出来るってことだろ。ただ、全身変化は同じぐらいの背丈じゃないと出来ないから、姉貴ぐらい背丈だと、顔とか、背丈の影響を受けにくいところを似せるのがやっとってこと?」

ぬいの説明にまこが、ぱちぱちと手を叩きながら答えます。

「そうなのですー」

内容を理解した私は、もう一つ追加の質問をします。

「その変化を、ぬいや私にかけることは出来るの?」

「出来ますですー。その代わりまこがやる場合の半分の半分ぐらいなります。」

半分の半分は、15分です。まこ自身とぬいに一緒に掛けると、2人分ですから、10分も立たずに効力が切れるはずです。その上、店から少し遠くに離れると、変化は解けてしまいます。

この方法は2人の存在をごまかすための方法にはなりそうもありません。最悪の場合は、これを使って、何か考えるしかありませんけど。出来れば、使いたくありません。


私はやっぱり、市役所で確認するしかないという結論に達しました。


 ついでなので、他の強力ごうりき収納しゅうのうについてまこに訊ねると、強力は20倍ぐらい力が増すとか、収納は体重の3倍まで、荷物を神域ボックスに格納できるそうです。ただし、ぬいが昨日言ったように、家の中や、お店など氏神がいる場所なら神力が使えますが、氏神が少ないか、いない場所ではいくら神棚などがあっても、駄目だそうです。強力は全く使えなくなるか弱くなり、収納も収めたものを取り出したり、入れたりする機能が使えなくなるか、出し入れの口が狭くなるようです。


 ぬいは、光が全くない場所でも、昼間見るぐらい明るく周囲を見渡せる【暗視】、誰にもばれずに、気配を消して行動できる【隠密】、人々の心を読み取り心に動揺を与えて弄ぶ?ことが出来る【意識】。忍者か、仕事人のような恐ろしい技が使えます。こちらもまた、氏神がいるお店や住宅等と神域がある神社仏閣、限定のようですけど。どこで使えるのかは、行ってみないと分かりません。

ということが判明しました。この子達は、本当にお店における神様対策(クシさん対策)ぐらいでしか機能しそうもありません。クシさんが何も童対策を取らないならですけど。


――


私は一人市役所に来ています。まことぬいは、家でお留守番です。とりあえず、私が幼い頃に見ていたビデオを上映してきました。三倍録画のビデオテープVHSです。我が家には、テレビは薄型ですけど、デジタルビデオデッキはありません。祖母はああいうのが苦手でしたし、私は使いませんから。上映するお話は「キツネリスと少女の冒険のお話」と「空に浮かぶ城を探す冒険のお話」と「あの変な生き物のお話」の三本立てに見入っているはずなので、午前中はもちろん、昼過ぎまでは大丈夫です。たぶん、きっと。


4市民課の窓口の人に、「ウチに妹と名乗る子供が……」みたいな話をしたら、子育て課に回され、そこでまことぬいの話をすると、市民課窓口に戻され、市民課窓口で戸籍とかその手の話をしていると、福祉課に飛ばされ、メンタルは大丈夫ですか?とか、商工課?の人まで入って心配されました。

 意味が分かりませんよね。一言で言えば、神様は偽装戸籍を作っていました。ご丁寧に私(長女)の妹としてまこ(次女)、とぬい(三女)という3人です。しかも、年齢はあの容姿で24歳なのです。私が5歳の時に他界した両親の忘れ形見が3人になっていました。そこで、寝てないこともあって、理解が追いつかずに、軽く動転してしまったのです。最終的に、なんやかんやあって、二人の代理で住民票を取りに来て、ついでにお店の相談にという体にしたのです。しかも、睡眠不足でみたいな……。


結果的に、心配した職員のひとが、福祉課?まで引っ張り出して、カウンセリングみたいな流れになりました。驚いたのは、まことぬいの容姿と、知能?の情報が市役所にもあったということです。相談員の人が、おばあさんが亡くなって大変だろうけど、いつでも来て相談して下さい。みたいな流れで終わりました。


ほとんど寝てない体で、この変化球は辛い話でした。一応、オタク研究会の彼女が言っていたご都合主義は存在していたことは嬉しいことです。しかし、彼女が言っていたような、優しいご都合主義ではありません。彼女にはSMSメールしておきましょう。

「ご都合主義はご都合主義を用意した人達《神様》の都合になります。」

私にとっての都合も良いじゃ無いかって?いえ、もしも私の都合を考えてくれているなら、まこは無理でもぬいには伝言できたはずです。それに、私を終日守る体で二人を送り込んだとしても、普通は訳ありを送り込んだりはしませんよ。


お役所でいくつかの部署を回り、そして心のケアに関するパンフレットと、その相談窓口、相談日についての説明を聞いたあと、私は神様に対する怒りが収まらず、プンスカ独り言でいいながら、家に戻りました。帰ったとき、空に浮かぶ城はまだ健在で、2人は静かに仲良く見入っていました。


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