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神のお遣い

 それから、1週間、昨日は30人の大台を越えました。持ち家で、地方都市ならこれでもまあ、生きていけますが、出来れば平均40~50人/日は欲しいところです。まあ、常連のお客さんが週1~2ぐらいで来てくれるので、嬉しい限りです。また、学生時代の友人も、数人足を運んできてくれました。ただ、流石に毎週というのは難しいみたいです。もう少し、お客さんが増えたら、サービスもするんですけど。



 そんな、本日はカウンター席に一人、私の事をキラキラした目で見つめる女性の姿があります。胸の大きな女性、私ぐらいの年齢のに見えますが、歴とした神様のクシさん(私名:ぽわぽわさん)です。

本人曰く、

「愛称のクッシーでもいいですよ~」

などと言われましたが、丁重にお断りしました。彼女は、我が子を見守るような目でずっと私を見つめています。それって前回と一緒じゃんなどと思った人は、甘いです。砂糖より甘いのです。これからお話しする内容を読めば分かります。


今はお客さんがクシさん以外に、常連さんが一人、初来店の人が、二人と3人いるため、クシさんの相手をしている場合ではありません。

「ブレンドコーヒーと、サンドイッチセットお待たせしまた。」

私は、窓際のテーブル席にオーダーをお持ちすると、隣のテーブル席で、他のお客さんが、私に手招きをし、耳元でこう言いました。

「あの人大丈夫、ずっとオーナーを見てるけど。危ない人じゃないの?警察呼ぼうか?」

心配されちゃいました。無理もありません。何故なら、10時の開店から15時過ぎの今の今まで、ずっと彼女は私を目で追っているのです。

「ああ、心配していただきありがとうございます。大丈夫です。あの人は先代からの常連さんで、私もよく知っている人なのです。まあ、ちょっと?……いえ、かなり?心配性なんですよ。」

「そう、なら良いけどさ。何かあったら言ってよ。オーナーが刺されたとか、嫌だからさ。」

今日心配されたのは、このお客さんで8人目です。

この人は常連さんでしたけど、常連ではない、初めて来店のお客さんも3人ほど心配してくれました。そして、初来の4人ほどは気味悪がっていましたので、このお店には来ないかも知れません。正直、とっても迷惑な面もあります。一部は営業妨害なのです。でも、既に一人で万を越えるオーダーを入れてくれているので、邪険には出来ません。私としては、お金を払ってくれるなら、今は目をつぶるしかありませんが、これからのお客さんも捨てるわけにはいきません。


厨房に戻った私は、「はぁ」とため息をつきます。ちなみに、クシさんは、ここに来てから15分置きに種類の違うコーヒーや飲み物を注文しています。人ならお腹たぷたぷですけど、神様は違うようで、ちゃんと飲み干しています。ただ、時々トイレには行っているようで、生理現象はあるのだと思います。成人病とか、カフェイン中毒とか大丈夫なんでしょうか?


それから、お昼にはトーストセットとサラダ、15時にはケーキセット2つも注文してくれているため、無碍にするわけにも行かないのです。


私が耐えさえすれば良いのです。ずっと監視されているような雰囲気で、いつもと違った意味で気が滅入ってしまいます。何というか、授業参観にホームビデオ片手に我が子を撮りに来た親が、授業参観の時間を終えても、ずっといるような気分?……う~ん。そんな意味の分からないことを、言いたくなるほど疲れている。と、考えて貰えばオッケーみたいな疲労感と圧迫感があるのです。慈愛の神様もここまで来ると、病気だと思います。今度、神様の病気について、ハナさん辺りに聞いて見ましょう。


そろそろもう一度挑戦してみようかな。ということで、再アタックです。

「あの、今日ずっとここにいますけど、本当にお仕事は大丈夫なんですか?」

「ええ~♪。今日はお休みですよ~♪。だからお気に~なさらず~♫」

にこにことした笑顔を浮かべていつもの、何ですか?この音楽みたいに流れるソプラノヴォイスは……。しかし、その笑顔は前回と違い、少し悲しげでもあり、威圧を含んでいるような気もします。

【私に帰れというの?】

と問いかけるような慈愛の眼差しと神力の波、この人策士です。今し方、私を心配して話してくれたお客さんが、なぜか【オーナー追い出して良いの?】的な目で見ています。私に放たれた慈愛ということは、周りにも放たれるわけで――。私が悪者とまではいきませんが、結局オーナーさっき良いって言ったじゃん的な目で見られていました。


この流れも実は4度目です。これに貧乏が重なりました。私はとりあえず、閉店時間(18時)までは様子を見るしか選択肢はないという何度目かの結論に至りました。


そして、18時までに、私を心配した人の数は、さらに4人増え12人になりました。ということはどうなっているか誰でもお分かりになるでしょう。案の定、最後のお客さんが帰るまで、クシさんはその時間が過ぎても居座り続けていたのです。

「クシさん。今日はもう閉店ですから、帰って下さい。」

と私は言います。

「大丈夫でーす。私は明日の朝まで、ここに静かに座っていますのでー、お構いなくー」

この人喧嘩売ってんじゃないかというぐらいのにこにこした顔で、気味の悪いことを言っててきました。そういえば、直君がクシさんは気に入ると3日ぐらい同じ店にいると言っていました。クシさんは神様です。氏神うじがみがいる場所でしか、実体を持っていることは出来ないようですから、24時間営業のお店ではなく、店舗兼住宅みたいな場所で、二泊三日ぐらいしていたこともあるのでしょう。

私はクシさんにそれについて尋ねてみることにしました。

「直君に聞いたのですが、クシさんは、お店に宿泊したことがあるのですよね?」

「はい~ありますよ~。最近だとお寿司屋さんとか~。ですよ~。お布団とか用意して貰いました~。ただ、ここでは宿泊希望ではなく、私は愛でているだけですから~。」

誰をとは、聞けません。目を合わせると危険です。

しかもこの話の間、先ほどまでと違って、やっと二人になれた的な顔なのが、本当に気味が悪いのです。まさか、ここまであれな人とは思っていませんでした。このまま夜になると、襲ってくるんじゃないでしょうか?神様だからないと思いますが、このキラキラうっとりした目を見ていると、事件が起きても、おかしくない気がいます。私の背筋にゾゾゾと鳥肌が立ちます。私は、目をそらしました。


「仕方がない。」

私は、後ろを向くと、ついに加護のネックレス(水色)の石を胸元から出し握ります。帰って下さい。お願いしますと祈りながら……。どうも、それが気になったようで、クシさんは、こちらを心配したのか声を掛けてきました。

「脅かして、ごめんなさぁー」「帰れよ」「帰らないと怖いのですー。」

小さな子供のような声がクシさんの声を遮えぎりました。私がその声に振り向くと、巫女のような出で立ちの少女が二人、クシさんに背中に飛びつき、おなかに張り付いています。

「あなた達~、まさか?どうして~。」

くしさんが、驚いた顔で訊ねながら、二人を引きはがします。左の手でお腹に張り付いた子を、右の手で背中の子を難なく引きはがしました。どうも神力を使ったようです。下に落とされると、少女達は、今度左右の足にとりつかれています。クシさんは、嫌なものでも見るように二人の少女を見下ろしました。二人の少女は、表情を崩さずに、しゃべり始めます。

「姉貴が呼んだのさ。」「お遣いの神力ですー。首飾りですー。」

クシさんの表情が、変わり、ちょっと真剣な顔になり私の方を見て訊ねます。

「首飾り?」

私は、握っている首飾りを見せます。

クシさんは、刺すような視線で私の首元を見ました。がすぐに、いつものぽわぽわした表情に戻りました。はあとため息をついてから、

「わかりました。今日のところは帰ります。そうですね。私もちょっと長居しすぎました。」

といって、クシさんはお金を払い立ち上がります。私は、クシさん達が出たら鍵を閉めるため、後についていきます。店を出る前に、クシさんは私を、ちょっとと内緒話をするような仕草で私を呼びました。


その後は、神様と言うより、スリみたいな動きというべきでしょう。

私のネックレスに触れようとしたのですよ。たぶん奪うつもりだったのでしょう。

しかし、どうも何らかの結界が張られていたようで、バチッという音とともに、クシさんの手がはじき飛ばされました。クシさんは手を、擦りながら、ネックレスを睨んだと、私の方に笑みを見せます。その後再び、首飾りを見るとにらみつけます。もう、あまりの展開に、ぽわぽわを装っていた、仮面がはがれたという感じだと思います。


この人本当に慈愛の神様なんですか?私の、神様イメージがどんどんと崩れていくんですけど。私の子どもの頃の思い出と前回の優しいクシさんのイメージはどこ行ったのですか?


そして、クシさんは結局、

「やっぱり、帰りたくない~」

と言いながら、二人の子供に引っ張り出されていきました。この子達も実は結構な力の持ち主なのかもしれません。先ほどとは違って、クシさんを倒して、首根っこを引っ張りながら、「よいしょよいしょ」「わっせわっせ」と言いながら、外に追い出して行きました。扉も閉まり。静かになります。一体何があったのか、よく分かりませんが、これで今日は安眠できそうです。

めでたしめでたし、流石直君などと思っていたのは、その瞬間までです。


次の瞬間、カランコロンと入り口のベルがなり、二人の巫女っぽい子供は、店内に戻ってきました。

私と対面するように二人は並ぶと、

「駄女神様は追い払いましたです。お姉様。褒めて下さいですー。」

緋袴ひばかまの少女が褒めて褒めてビームを放ってきました。

「今日から、姉貴の側に仕える。よろしく。」

ちょっとボーイッシュな浅葱袴あさぎばかまを着た少女は、そういいました。


【ヘイボーイ!私に一体何を寄こしたんだい?】私は、神様によって新しい問題を突きつけられることになりました。

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