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幼い日のあれを大人になって見ると、ドキドキする。

私の目の前には、邪なるものになった神様がいます。彼は、私の目の前まできて、顔を私の側に近づけ、左耳の側に顔を寄せると、小さな声で

「私のものになれば、こいつらは見逃してやる。どうする。」

と言いました。私の体は動きませんから、喋る事もできません。

「そうか、動けぬか……うん?、チッ。また来る。次に来るまでに考えておけ。」

といって邪なるものは消え去って行きました。


先ほどまでの強い威圧が消え体は自由に動くようになりました。その途端に私は床に腰を落とします。隣にいるぬいもガクガクと震え私にしがみついて泣いています。まこたちも無事なようです。まこは、姉モードに入っているためか、涙目ではありましたが、零れていませんでした。カリトはクイナに抱きついてはな垂れになってヒグッヒグッ言っています。クイナも、カリトに抱きつかれながら、涙を流していました。邪なるものの神力は、前回より強く怖いものでした。


私はぬいの頭を撫で、自分の頭も落ち着かせます。そして、起きたことを順番に思い出します。邪なるものになったとき、ハナさんは黒いものを纏った拳でお腹を殴られていました。

「ハナさんは?」

と私は、震えてよろよろする足で立ち上がります。ぬいは私から、離れたくないのか、くっついて

「あねきぃー。まってー」

といってぐずぐずと鼻を鳴らしています。

「大丈夫、もう邪なるものはいないから、ハナさんを見てくるだけ。すぐ戻ってくるからね。」

と、ぬいに伝えて、厨房の縁に手を掛けながら、ゆっくりとハナさんの方へと行きました。

足がガクガクしてしまった上に、通路の間で怯えているまこたちも励ましたため、普通なら10秒も掛からない距離を歩くのに、2分か3分掛かったような気がします。私は、ハナさんの側に近づくまで、何度か、

「ハナさん!、大丈夫ですか?」

と声を掛けましたが返事はありませんでした。

側について、ハナさんの呼吸や脈を調べ、とりあえず正常なようで、ホッとしました。そうしている間に、私と同じようによろよろとやってきました。

「お姉様、ハナ様は大丈夫ですか?」

というまこに、私は

「大丈夫だと思う。まこ強力でハナさんを居間に運んでちょうだい」

とまこに指示すると、

「はい、分かりました。」

と元気に答えます。まこは私がしっかりしていれば、すぐに気丈で元気なまこに戻ります。私は立ち上がると、足をぐるぐる動かし、ジャンプをして震えを治します。そして、3人の童達の所に行って、一人一人を安心させるのでした。


最後に、ぬいをあやしていると、伯母さんがやってきました。いつもより少し早い時間でしたが、雨が少し小降りになったタイミングで来たようです。

「ぬいちゃんどうしたの?もしかして、帰るのが嫌になったとか?」

とニヤニヤしながら言われます。

「ち、ちがうわい」

と、ぬいは答え、私から離れました。ちなみに、今回、腕輪を使う余裕がありませんでした。私も、ぬいも、本当なら悪い神様が来たタイミングで、腕輪を使うべきでした。

伯母さんは、私の視線がぬいを追わず、真剣な顔をしていたことに気が付いたのか?

「何かあったの?」

と聞いてきました。

「悪い神様が来ました。そして、ハナさんが襲われました。」

と言います。それを聞いて、伯母さんは

「ハナさんは、大丈夫なの?貴方たちに怪我はない。」

と心配して聞いてきます。

「ハナさんは、まこが居間に運びました――」私は、ぬいの方を向くと、

「ぬい。外の看板を準備中に変えてくれる。」と言うと、伯母さんの方を向いてさらに、伝えます。

「服装も乱れたので、着替えと、後はカウンターを邪なるものに飛び越えられたので、その辺りの掃除もしないと。それから、ハナさんを布団に寝かさないと。」

伯母さんは、私の言葉を聞いて、

「こっちの掃除は私がやっておくから、あなたはあの子達と着替えてきなさい。」

と言ってくれました。私は、お礼を言って部屋に下がります。私はまず、まこが居間に運んだハナさんを、今朝までゆりちゃんが寝ていた布団に運びます。ちなみに、私には眠っているハナさんを運ぶことは出来ませんでした。結局まこの強力で運んで貰いました。

ハナさんは筋肉質なのか見かけより結構重かったのです。ハナさんが起きても本人に言っちゃダメですからね。


それから、4人揃って着替えます。その際に気が付いたのですが、カリトとクイナの私に対する態度が、何故か少し変化していました。クイナは少し甘えるというか、そんな感じです。カリトは私が言うことを、以前より目を見て、しっかり聞くようになった気がします。

それからお店に戻ります。まこはお店にすんなりと戻りましたが、ぬいとクイナは店の中に入るのに、少し怯えがありました。そして、カリトも静かにしているという条件で私の側にいることとなりました。邪なるものが、店の中で消えたことから、一人で部屋にいるのが怖いのかも知れません。私もちょっと怖いですけど、童達の前で恐れてなんていられません。

だって私が怖がると、皆怖がりますから。それに、カリトが怖がって側にいるということは一人にはなりませんから。

まあ、カリトが私の側にいると言った時の言葉は、

「オーナーも怖いだろうから、僕が一緒にいてあげる」

でしたから、私のためというのはあながち間違っていませんでした。


お店に戻ると、伯母さんはカウンター周りの掃除を終えていました。

私が戻るなり、

「オープンして大丈夫?また来るんじゃない。」

と心配そうな顔でしたが、私は

「大丈夫です。きっと今日は来ません。」

と答えて、伯母さんを安心させるのでした。



ハナさんは、その日目覚めることがありませんでした。そして、ぬいと私の腕輪、ブレスレットは、その日の夕方消えてしまいました。私は、ぬいを神域に帰らせようと思い、ぬい本人にそれを言って使ったのです。しかし、ぬいは神域に戻らず、ハナさんの寝ている部屋に飛ぶだけでした。

この腕輪は、神域ではなく、神域にいるであろうハナさんの所に飛ぶ腕輪だったようです。下手に使わなくて良かったと私とぬいは心底ホッとしましたが、これでぬいを神域で守って貰うには、他の神様がここにやってくるか、ハナさんが目覚めるかのどちらかしかなくなりましたが、もし邪なるものの前で、使っていたら、ハナさんの横に飛んだぬいは消されていたかも知れません。


そして、その日の夜、まこ、ぬい、カリト、クイナの4人は寝るまで私の側から離れませんでした。それを見て、昼間の惨状を知らないミイは、不満そうな顔をして、

「みいー、みいー」

と鳴いて私の背などに飛びついていましたが、結局私が、相手を出来ませんでした。その上、4人がいては私の膝に一度も座れなかったため、一匹部屋の隅でいじけていました。

ちなみに、子供は体温が高いので、梅雨時期で徐々に蒸し暑くなっていると、子供の体温の高さが、添い寝をするにも辛くなりそうだと、今日実感しました。


寝静まった後で、私はいじけているミイを抱いて、居間での飲酒タイムをします。お店やあの子達の世話、それにハナさんの容態の心配もありますが、もう、飲まないとやってられません。それに、最後に邪なるものが言った言葉が私の心にはずっと引っかかっていました。


私が、邪なるものの所に行けば、他の皆が助かるんじゃ無いか?という心と、邪なるものが、私との約束を守るとは思えないという心、そして邪なるものはどうせ次に来た時に、この話を忘れている。忘れていて欲しいという感情が頭の中で入り交じっています。いつもの脳会議?今日はそんな気分ではありません。

「ミイ、もし私が神様のものになったらどうなるんだろう?消えちゃうのかな?」

とミイに聞いてみますが、ミイは答えずに目を閉じていました。

今の私にとっては、妹達を失う方がやっぱり漠然と怖いです。でも、自分も消えたくもありません。そんな事を考えて次に考えたのは、最後の邪なるものは、今までの邪なるものより、恐ろしい感じがしたということです。まるで、元の神様が消えてしまったかのような、そんな感じです。もしかすると、あれが豊穣の神様最後の瞬間だったのでしょうか?だとしたら、どうやって止めればいいのでしょうか?


そして、極めつけはハナさんの目が覚めないことです。ハナさんは人ではありません。だから、病院に連れて行くわけにはいきません。それに、病院に連れて行ったところで、どうしてこうなったのか、説明も出来ず。名前も住所も無いはずです。だから、別のお遣いや神様が来るまではウチで寝かせておくしか方法はありません。


童達にも昼間確認したのですけど、お遣いは神様がいないから、探しに来たりはしないそうです。それに、呼びだそうにも神様の意識が無い状態では、神様を呼ぶことは出来ないとか。今回もそうでしたけど、お遣いが出来るのは、神様が来るための道を作るだけだそうです。そして、来るタイミングは神様自身が決めるようです。ただ、こういうケースはお遣い達も知らないため、童達も、呼べば必ず来てくれるのがこれまでの流れでした。だから、呼び出す力と同義のようです。


「ねえ、ミイ。ハナさん大丈夫でしょうか?ハナさんとクイナが連絡を取る前に、ぬいをあっちに戻していたら、こうはならなかったのかな?」

豊穣の神様はぬいと言葉を交わしたり、会ってしまうと、邪なるものを抑えられなくなると言っていました。だから、ぬいを先に神域に戻していれば、神様が消えるまで、時間を保てたかもしれません。私はそんな悪いことばかり頭の中で考えていました。

ミイはそんな私の問いかけに、

「ミャー」と鳴いて、私の方を見て、軽く一発私の胸にけりをお見舞いされました。

今日の私は暗いことしか考えていません。だから、元気づけたのかも知れません。そんな気がしました。


私は、そんなミイの声を聞いて、

「そうだね。」と独り言をつぶやきます。そして、

「ミイ、もうすぐ夏だね。皆でドライブでも行こうか?海が良い?山が良い?」

「みゃぁ」

そんな、夏の予定を考えながら、私とミイの夜は更けていくのでした。



夏がやってきました。私は、今まこ、ぬいとクイナ、カリトの4人で海に来ています。砂浜で、お城を作ったり、ボールで遊んだり、海の家でゴロゴロして休憩したり、そんな一日を今日は満喫する予定です。ぬいが、


お日様に照らされた砂浜、さわやかな潮風?という海の香り、暑い夏ですが、海は日差しこそ眩しくぎらぎらと厳しいものの、この風が気持ちがよい気がします。

「姉貴、早く海に入ろうぜ。泳ごうぜ。」と急かします。

まこが、私より10mほど先から「お姉様ー、はやくはやくですー」と先から手を振っています。

カリトは、クイナの手を引っ張り後から

「待ってよー」

と、追いかけてきます。そう。神様のこととか全て忘れて今日は、思う存分遊ぶのです。


私達、5人揃って浜におり、まずは満ち引きする潮の側に妹2人と立ちます。引く波を追って、戻ってくる波を除けて下がりしていると、足にザブーンと、水がかかりました。

ちょっとぬるい気もしましたけど、夏の海だからでしょう。ほらやっぱり、次第にみずに慣れ、冷たい水の感触?……


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