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何もしない儀式は、画にならない。

今私は、ハナさんの神力が、邪なるものに冒されていた神様の体を包み、神様が消えていく様を目の当たりにしています。神様でさえもこのような光景を見ることは少ないのかもしれません。光の粒子がキラキラと神様の体中から出てきて、お店の天上の方に消えていきます。まるで、何かのSF映画でも見ているかのような幻想的な光景に私は、目を奪われていました。そして、私はこれでぬいとまた暮らせると安堵していました。


皆さんこんにちは、あおばのオーナーです。えっ、挨拶じゃなく状況を説明して欲しい。だから、今、ハナさんが邪なるものに冒された神様の介錯をしています。そういう話じゃない。はいはい言われなくても、最初から説明しますよ。



私が自宅に戻ったのは、お店がオープンする15分前でした。8時00分ぐらいに家を出て、ホテルと駅を回ったので、1時間45分ぐらいです。まあ、ほとんどがホテルでの着替えとチェックアウトの時間でした。


その後、お店を開店します。カリトは家の方でお留守番、じっとしているのは苦手というので、最初の頃にまこ達が見ていたアニメ三本立てを見ています。今日帰るので表にはもう出ません。本人も、ミスが怖いようです。クイナはお客さんが来る前に、まこ+αに挨拶の仕方を教わっています。

「いらっしゃいませー」

「へい、らっしゃい。とか、チッ、なんだまたあんたか。」

「おはようございますー」

「はよう。とかオッス」

「申し訳ございませんでした。」

「おやじ、わりいわりいか、時々ごめんね。てへっ!って言うんだ。」

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」

「兄ちゃん、あんがとな、親父また来いよ。時々、お兄ちゃんまた来てよね。や・く・そ・くだよ。って言ってウィンク。」

「お薦めのメニューは、こちらのオリジナルブレンドコーヒーと、トーストのセットです。」

「兄ちゃん太っ腹、じゃあプレミアムブレンドコーヒーと、プレミアムケーキセットで良いんだな。」

っていう具合です。ああ、一番上から3番目、5番目・・・の奇数項目が、まこの優良接客例です。偶数番目の奴は、ぬいの一部のお客様に好評な接客例です。本当に使っているかは別ですよ。少なくとも最後のは、1度しか見ていません。えっ、店長、オーナー、マスターとしてそれで良いのか?好評なら良いのです。

なので、ぬいの例は真似しないようにクイナには言ってありますが、クイナは、これらの挨拶は全く学習する気配がありませんでした。


ただ、料理を真似る。掃除をするとか、そういう動作は、100%覚えていきます。そしてやっぱりこの子は、裏方専門にするしかないという結論に達しました。

人にも何でも出来る完璧超人はいませんから、仕方ありません。そうこうしながら、お客さんが来る合間合間に、クイナを指導していました。今日は雨の影響もあってかお客さんも少ないので、午前中のお客さんもいつもよりまばらでした。11時前には一度お客さんが途切れます。そんな時に、カランコロンとお店の扉が開き、ドアベルがなります。

「「「いらっしゃいま……せ」」」

私達3人の声が同時に響き、そして詰まります。

奴がやってきたのです。邪なるものが。いつものヒョロヒョロな姿の黒縁メガネ、潜在的に怖い、恐ろしいと感じるような威圧。まこ曰く悪い神様の状態の、邪なるものに冒された、元ぬいの主だった神様です。通称悪い神様とか、邪なるものと呼ばれています。

ぬいはすぐに私の側に逃げ寄って私の足の後に隠れしゃがみました。私は側にいたクイナの肩に手をやります。クイナも異様な雰囲気に少し怯えているようにも見えます。クイナの耳元でささやきます。

「クイナ、ハナさんを呼んで、どのぐらい掛かる」

と言うと、クイナは「2分、3分」と答えました。私は、3分間耐えなければいけません。

私は、

「いらっしゃいませ。神様」

と言って、笑顔を作ります。ぬいは、私が頭を抑えて屈ませました。神様はこちらをちらりと見てから、カウンターの方にやってきます。ニヤリと笑った顔がいつもより恐ろしくもありました。

「まこ、神様の御神酒あれを持ってきて。それからカリトにも伝えて。」

と私はまこに伝えます。

まこは、「はい、お姉様」といって母屋に戻りました。

まずは、神様を呼び出さなければ話になりません。3分で出来るかどうか分かりませんが、とりあえず、今日のメニューで準備していたポテトサラダを少し、小皿に出して悪い神様の前に出します。ちなみに、今回キュウリは入っていません。

「どうぞ」

その間にまこが御神酒を持ってカリトを連れて戻ってきました。

カリトはその神様を見たとき僅かに固まって「ウッ」と呻っていましたが、すぐに気を取り直し、クイナの側に行って何かひそひそとしゃべり始めました。


私はコップを用意して、ぬいの持ってきたお酒を、なみなみと注いで神様の前に出します。

神様は、ポテトサラダを一口食べてから、お酒を飲みました。そして、

「数が増えているな?全部で4か?」

「あ、はっ、はい。」

と童を見ています。私は、足下のまこにも気が付かれていることに、少し動揺してしまいました。

「何だ。何かあるのか?」

と、悪い神様の顔がこわばります。私の心の乱れを感じ取ったのでしょう。私は、一度深く息を吸い込み、吐き出し、言います。

「いいえ、何でもありません。本当に神様の力は素晴らしいと思いまして。」

と伝えます。

「そうか、まあ隠れているものがいることぐらい分かる。そいつは顔をださぬのか?」

私は、

「はい、この子は恥ずかしがり屋なもので、申し訳ございませんが、今回は許して戴ければと思います。」

と、言うと神様は、

「構わん。」

と答えお酒を飲み始めました。

「神様は今日は何をしにこちらに来られたのですか?」

と私が訊ねると、

ここが、気に入った。だから来た。悪いか?」

と、私は

「いえ、神様に来て貰えるとは、光栄なことです。」

「そうだろう。」

と、上機嫌な神様です。

「それで神様は、以前仰ったお願いを聞いて戴けますか?」

と訊ねてみます。

「何だ?言ってみろ。」

と神様、

「私は、ぬいと一緒に暮らしたいのです。」

「そうか……お前は……クソ」

と悪い神様は頭をかきむしり、頭を震わせます。ちょっと異様な光景が続いた後、神様の雰囲気が変わります。ぬいの雰囲気を持つふくよかな神様に変化したようです。ぬいも震えながらも、それを感じ取ったのでしょうか、少し私の足にしがみつく力が弱くなりました。

私が、

「神様?」

と訊ねると、

「うう、う、すま・・・ぬな。まず先にそなたの足下におる童は、顔を決して見せるな、声も出すな、私が消えるまで決してな。そうせねば、邪を抑えられぬ。もう名も呼べぬことを許せ、私の不徳だ……」

と神様は少し辛そうな顔で口にしたあと、私の方に向き直ります。私は、ネックレスを握り、まこに一言指示を出します。まこは頷きます。そして、私はぬいの頭を撫でながら、神様に話しかけます。

「神様、別の神様を呼んでいます。まもなく、こちらに到着されます。」

「そうか、ありがとう。これで、邪になる前に、消えることが出来る。お主には迷惑を掛けた。」

と神様は私に微笑みます。神様は目の前のサラダとお酒に手を付けます。

「その者から、私の話は聞いたかの?」

「はい。」

「そうか、そうか。私ら神が言うのも何だが、その童を守ってやってくれ、其方が生きている間だけでもよい。心を教えてやってくれ。」

「あのう?」

「何かな?」

「神様は何故、この子を守ったのですか?他の神を見ていると、思うのですが、悪事をした童を守る必要などなかったのでは?」

神様は、ふっと笑います。

「何故かは分からぬが、元は私も人。社を無くした時に、功徳や救いを思ったか?それとも、童に人の幼子を思ったのか?まあ、そんなもんだ。」

と神様は言いました。

「オーナー、来ます。」

と、カリトが言いました。

「お待たせ――」

と、ハナさんが突然お店の中現れました。

「ハナさん。来て下さって――」「それは後で、古神はあなたですか?」

と、席に座ってお酒をちびりと飲んでいた神様に声を掛けます。

「其方が、私の介錯をする神か?ひめ?か?」

と神様は後に立つハナさんの方を向きます。

「あら、○∀×/でしたか。ごほん――」

邪な神様の名前を、ハナさんは言いましたが、何と言ったのか分かりませんでした。

「では、始めましょうか。もうあまり時間がないのでしょう?」

と、ハナさんは神様に問いかけます。

「そうだな。では始めるか?」

と、立ち上がります。そして、ハナさんと向かい合う形になります。

「○∀×/。いくわよ。」

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

なにも起きません。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

ずっと、向き合ったままじっとしています。

これは、画になりませんよ。なんか、ハーとか、ヒーとか、言うか、神社のお祓いで唱える祝詞のりとでも上げるのかと思ったら、何もしないのです。

それから、2分か3分か、暫くそんな状態が続きました。


と、そんなことを思っていると、邪な神様の周りから少しずつキラキラと光が出るようになりました。そうです。このシーンが、最初のシーンに繋がります。私は、その光を見ながら、神様は徐々に薄れていくのかななどと思っていました。そして、これで、ぬいも戻らなくて済むし、借り受けている童も返せるとちょっと、安堵し始めていました。


神様は少しずつ薄れていきます。が、その時突然神様の表情が苦痛というか苦悩の表情に変わりました。

胸を押さえて、蹲ります。

「くっ、済まぬ。中止……ひめ、にげ――」

と言ったところで、神様の雰囲気は変わり、先ほどの邪な雰囲気が強くなります。悪い神様が戻ってきたようです。それと同時に、私の方から見える右手が黒く染まります。ハナさんは、ハアハアと息が上がっていて、意識も少し散漫としているようで、すぐには反応できないようです。

その隙に、悪い神様、いえ、邪なるものはハナさんのお腹めがけて、殴り掛かりました。

「っきゃぁ、ハナさん、危ない。」

と私は叫びましたが、ハナさんが邪なるものに気が付いたときには、ハナさんはお腹を殴られていました。

「ウッ、ォ」と小さなうなり声を上げて、前に崩れ落ちます。そして、倒れてしまいました。口からは、泡というかよだれのようなものが、出て失神しているように見えます。


邪なるものになった、神様はハナさんを殴って倒した後、

私の方を強くにらみつけます。目つきは以前より恐ろしくなっています。私は、その一瞬で、体中に恐怖による鳥肌が立つのを感じました。邪なるものは、私達の方に向きます。きっとぬいをどうにかするつもりだと思いますが、ぬいを守らなければと、体を動かそうとしますが、体が固まって動きません。これが、邪なるものの本当の力なのでしょうか?

ぬいも、足下で震えています。まこや他の童達も、同じ状態で動けないようです。


今度こそ私は、終わる気がしました。邪なるものは、一度しゃがむと、跳びはねます。まるでワイヤーアクションのように、カウンターの私達の間に向けて、そう、厨房の中に飛び込んで来ました。

私は、何とか動かせた首を邪なるものの方に向けました。


邪なるものは、きょろきょろを2度ほど左右を見たあと、まず、右手にいるまこ、クイナ、カリト達の方に目を向けているようです。3人とも飛んできたところで、腰が抜けたのか、床に座り込んでいましたが、邪なるものの目を見た途端に、涙を流して怯えていました。それから、邪なるものは私の方を見て、その下にいるぬいにも目線を向けます。

邪なるものは、私の私とぬいの方へと一歩、2歩と近づきます。私の体は、近づいている邪なるものに対して、全く言うことを聞かず動きませんでした。逃げることも、前回のようにぬいを庇うこともできません。ただ、僅かに動かせる首を、邪なるものに向け、目線で追うことしか出来ませんでした。

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