変な夢を見た日に、いつもと違うことがあると、夢のせいになる。
今日は、朝からまこに顔を蹴られて目が覚めました。ここに来て一ヶ月半ぐらいは寝相がよかったのですが、最近少し蒸し暑いからですかね?それとも、この家の生活に慣れたからでしょうか?ちなみに、他の子達も凄い寝相です。
そうそう、昨夜のぬいの話が大きなものだったせいか……え、止めてくれ?ループする。何を言っているんですか?まあ、別にいいのです。夢の話ですし。あらましを言うと、私がテレビか何かの撮影で女優?になっている夢を見たって話です。ぬいとの過去の絡みで、監督と揉めるのです。ちなみに監督は伯父さんでした。それが生放送で、途中からモニターの放送が「絶海の車窓から」に変わるのです。何で私が怒ったのかとか、流れとかよく覚えていないのですけど、流れがとても支離滅裂だった気がします。時々覚えている夢ってありますけど、それもたいていは現実にはあり得ないようなストーリーもちぐはぐな夢だったりしませんかって話です。
さて、今日は4人の童がいて、お休みです。今日は、取引先の予定はありませんが、買い物に行く予定です。特に、クイナとカリトの2人に制服とエプロンが必要です。それから、ぬいの夏服も足りません。そういうお買い物があるのですが、今日は曇り空で、午後から晴れのお天気です。そして、私の車は軽自動車、子供が4人。そうです。誰か1人お留守番になるか?または2人ずつ交替にするか考えた結果、まこにお留守番を頼むことにしました。
まこはぐずることもなく、あっさりとOKしてくれましたが、その代わり午前中は3人の買い物に専念し、午後から希望者を連れて公園へ行くことになりました。
3人を車に乗せて、いつもまこと買い物に来る格安衣料品店で買い物をします。カリトは昨日もここに来て買っているようなので、今回は特に買うものはありませんが、クイナとまこの夏物洋服と夏物パジャマを買いました。
それが終わると、足早に次のお店です。以前ぬいとまこのシャツとエプロンを揃えたショッピングセンター内のお店に向かいます。そこで、2人のシャツとエプロンを揃えます。
クイナのエプロンはクリームっぽい薄黄色、カリトは黄緑色になりました。
後は、小物です。茶碗や箸なども一応揃えます。どれぐらい居るのかもまだ分かりませんが、あっても困ることはないでしょう。と、ぬいとクイナの2人で、小物を漁っている間に、カリトが消えていました。当初のまことぬい状態になってしまいました。
迷子センターに行ってみても見当たらず、3階から探しまくってやっと見つかったのは、1階でした。まこのような迷子というより、1人で勝手に歩き回っていたようです。疲れました。とにかく、家に帰ります。
車の中で、
「なんで、何も言わずに勝手に1階まで行くの?」と私が、カリトに聞くと、
彼は、特にごめんなさいという素振りもなく、
「終わったら、この車の場所に戻ればいいと思っていました。」
と、言います。私が、
「何も言わずにどこかにいったら、私達が心配するでしょう?」
と言えば、
「別に心配してくれとは頼んでいませんよ。」
と言うのです。この子は、そういう問題児であることに、私は気が付いたのでした。そして、私や周りが心配する理由を懇々と諭したのでした。いえ、実はまだこれは問題の始まりに過ぎませんでした。
その日のお昼を食べて、私達はまこの要望通りの公園に行きます。私とまことぬい、クイナの3人だけです。カリトとミイはお留守番を選びました。
私達は、3人で神社の裏手にある公園に向かいます。昨日まで雨だったのですが、天気予報が外れ、午前中から晴天だったこともあり、既に遊具も、地面もほとんど乾いていました。ぬいが別れる日に来て以来まこも私もここには来ていませんでしたから、ぬいもまこも喜んでいました。
クイナは神域から出るのも初めてだからか、午前のお店でもそうでしたが、「あれ、何?」「これ、なに?」と終始聞いては、目を丸くしています。そして、公園に着くと、まことぬいに遊具の使い方を教わり、一緒にはしゃいでいました。
「そろそろ帰ろうか?」
と私が呼びかけると、子供達は私の側に走り寄ってきます。
まこが、ぬいと同じくらい率先して私の言うことを聞く辺り、私はまこを誇らしく思います。ぬいもその行動に驚いているようです。
そして、帰りに妹達は口喧嘩になりました。
「お前、本当にまこか?偽物じゃないか?」
って、ぬいが言いだしたことから、始まります。
「まこは、まこなのです。」
とまこが答えると、
「まこは、もっとおねえさま~もっとあそぶとかいってたじゃん。」
とぬいが言うと、
「いまのまこは、お姉様の次のお姉さんなのです。だから、しっかり者なのです。」
とまこが胸を張ると、
「まこは、ずっと童見習いじゃん。」
と痛い一言、
「うー。そんな、ぬいだって夜お姉様に抱きついて指しゃぶって寝てたです。」
と、夜中のぬいの姿を言います。
「そんなことないやい。嘘つくな。」
「ぬいだって、まこをにせものって言うな、ですー」
と、そんな喧嘩を見て、クイナは
「2人、仲良し。ですか?」
と私に聞きます。
それが聞こえていたのか、
「違いますー」「どこが」と同時にツッコミが入ります。
そんな姿を見て、私は久しぶりに微笑むのでした。
「何ですか?これは?」
と私は、これまでに出したこともないような低い~声を出します。側には、私の声に怯えたのでしょうか、ミイがいつものと違う雰囲気に、角の方へと後ずさりしました。私は、ミイをキッとにらみ。
「ミイがやったの?」
と、怒気を込めて確認します。ミイは違うと必死に体をひねって答えます。
そうなると、やったのはもう一人のやんちゃ坊主です。あいつしばく。
状況説明が欲しいって、嫌ですと言いたいところですが、どんな状況か説明できないと、場合によっては幼児虐待になっても困りますよね。おしりを叩いて、虐待とか言われそうです。私は今、我が家のキッチンと居間の間に立っています。ここには、当然ですが冷蔵庫、食器棚、お菓子や食材、電子レンジ、コンロやお鍋などがあります。キッチンがきちんとしているってダジャレが言えるほど、綺麗ではありませんでしたけど、ここまで散らかっていませんでした。
何が散らかっているかというと、キッチン横のテーブルに置いていたお菓子が下に散乱しています。少し食べ散らかした後があります。さらに、コップが1つ割れて床に落ちています。
飲み物は入っていなかったようですが、落として割ってしまったのでしょう。
私は、ミイに言います。
「ミイ、あなたがやっていないなら、カリトはどこに居るか教えなさい。」
と言っても、ミイはブルブルしているだけでした。場所も分からないのでしょうか?
「もしかして、家の中にいないの?勝手に、外に出ちゃった。」
と聞くと、頷きます。
ちなみに、側に居たまことぬいも、この状況に驚き、最初は
「大変です。」「ミイじゃないよな。」「泥棒、入った?」
とか、言っていましたが、私の切れっぷりに完全に黙り込んでいます。
私は、まこ達の方を向いて、可能な限りにっこり作り笑いを浮かべると、
「まこ、ぬい、クイナ掃除を手伝って、お願い。」
と、手を合わせて祈るようにお願いします。
ちょっと、引きつった表情を見てか、まこは少し固まった後、
「……は、はい手伝うです。」
と真剣に答え、ぬいやクイナも一緒に掃除を始めました。
ミイは、変なねこですが、割れたコップの破片を集める作業を手伝わせました。この子は結構何でも出来ます。
私は、3人に掃除をお願いしている間に、電話をします。自分で、さんさくして歩くので無ければ、カリトが行ける場所は、1カ所だけです。
「もしもし、伯母さん?」
「あらどうしたの?」
「そっちに、カリトは来ていませんか?」
「来てるわよ。というより、あなたにいわれて来たって言ってたけど。」
と言われて、私は
「分かりました。私が電話したという話はせず、カリトもそこから帰さないで下さい。それから、カリトから目を離さないでください。すぐに行きますので。」
と言ってから、電話を切ろうとしたら、
「ちょっとカリト何やって……」という声が聞こえました。あ、もう手遅れです。
ハナさんは、とんでもない子を連れてきたようです。というか、このままでは、ぬいのように神域に戻れなくなるのでは?
私は、
「ぬい、ちょっと来て」
と私は強い口調でぬいを呼びます。
「姉貴、何ですか?」
と、私の口調がいつもより厳しいせいか、ぬいの口調が、「何だよ。」から「何ですか」に変わっていました。
私は、怒りを抑えて、他に聞こえないように、小さな声でぬいに聞きます。
「童は、人に悪さをしたら、神域に戻れなくなるのよね?」
「あぁ、うん。」
「今回のカリトの行動は、カウントされるの?」
ぬいは少し考えて答えます。
「たぶん、大丈夫だよ。神力は使って無さそうだし、縛りに逆らっているようにも見えないから。」
と、私はそれを聞いて、
「そう、分かったわ。それから、ちょっと私は伯母さんの家に行ってくるから、掃除をまこ達と協力してやってね。」とまこの頭を撫でます。
「お……はい。わかった。」と少し緊張感が抜けてた笑顔を見せました。
「じゃあ、まこを呼んで来て。」
と、私が言うと、ぬいはまこを呼びに行きました。
「お姉様、何ですか?」
とまこがやってくると、私はまこに
「まこ、私は少し伯母さんの家に行ってくるから、他の二人とミイと掃除をお願いね。」
と頼みます。まこは、
「お姉様。任せて下さいですー。」
と嬉しそうに答え、「いってらっしゃい」とお見送りをしてくれます。まさか、まこが癒やしと、頼れるお姉さんになるとは思っていませんでした。
私が、まことぬいとの関係を折角少し作り上げたというのに、神様達は何で次から次へと出来の悪い童を私に押しつけるのでしょうか?もしかして、ぬいとまこがまともになったら、あの子達に入れ替わるってこと……それは嫌です。クイナはまだ可能性がありますけど、カリトの方は今のところ放蕩ですよ。体の割に善悪が理解できていないような気がします。
私が、そんなことを考えながら、伯母さんの家に着いたとき、カリトの泣き声が聞こえました。カリトは伯母さんの家で、しっかり叱られていました。勝手に伯母さんの家の冷蔵庫を開け、棚を漁って面白いものが無いか探したからです。その上、私との電話の内容を不審に思った伯母さんが、問い詰めたようです。その結果、神域ではほとんど使われる事もない泣くという経験をすることになったようです。
伯母さんは、私にも謝るようにと、カリトに言いました。カリトは、私に謝りますが、その後で、さらに何が悪かったか言ってごらんと聞かれて。分かっていないことに指導が入っていました。そういう姿を見ていると、私は叱れなくなりました。
その代わり、怒るとおじさんより怖いのです。手は出ないのですけど、日頃と違う、落差のある怖い声が響いて、その後はネチネ…懇々と有り難いお説教が続きます。そして、最後にごめんなさい。と言って、ほっとしたのもつかの間、ネチネ……懇々とお説教された内容について質問が飛びます。
それに答えられたら、晴れて開放されますが、答えられなかったら振り出しに戻るのです。二度目はさらに怖いので、「ヒッ!」て声が出るのです。これだけ怒らせたと言うことは、これは3度目だと思います。3度目は私と、伯父さん一家の兄弟の中では、激レアと呼ばれています。私は過去に、この次の死回と呼ばれる状況まで見たことがあります。4回目になると、げんこつが落ちた後、玄関に裸足で放り出されるとか、押し入れにしまい込まれるとか、そんな刑との組み合わせが待っています。
結局、泣いているカリトを抱いて、伯母さんに謝り、家に戻ることになりました。伯母さんが怒る姿は、あまりありません。私も1度か2度見ただけです。
家に戻ると掃除は終わっていました。カリトは他の童達に「ごめんなさい」と謝ります。そして、まことぬいをカリトの教育隊長、副隊長に任命して、カリトが悪い行動をしたら、止めるという任務を与えました。まずは、それで様子を見ることにしました。
折角ぬいが、一時的に帰ってきたというのに、今日は朝から変な夢で目覚め、良いことがありませんでした。今夜はよい夢が見られたら良いななんて思いながら、今日も、一人と一匹で晩酌をします。先ほどからミイは私にすり寄って、ご機嫌を取っているのです。その理由は、私に叱られているからです。
「ミイ、あなた食事の風景を見る限り、カリトを止められたでしょう?」
「みゃあ」
と鳴いて、私の膝にすりすりしますが、
「そんなに甘えても、許しません。明日のお昼ご飯はミイの分は一品減らします。」
と言うと、ミイは、そんなぁという声で鳴きます。
「にぁ~ん」
「次からは、ちゃんとカリトやクイナが問題行動をしたら止めるように、いいですか?」
と言うと、しょんぼりと
「ニー」
と鳴くのでした。