神対応より素晴らしい対応、胸を打つ対応、ためになる対応の方が人らしい。
伯母さんがやってきました。
まこは、目頭に涙を一杯ためて、ヒクヒクと少ししゃくり上げています。
「なに、揉めてるの?」
私は、伯母さんの方を見て、少し冷静になります。やってしまった。私も、痛いこと言われて、頭に血が昇りカッとなって言い放ってしまいました。
私は、伯母さんに
「まこが、悪い神様対策で用意してくれるお遣いを受け入れてくれなくて、つい……」
と伝えると、伯母さんは、私の側に来て方をトントンと叩いたあと、まこの前に立ちます。
「まこちゃん。」
とまこの目線になって言います。いつのまにか、まこさんからまこちゃんに戻ったようです。
「ヒク、はぁ゛い」
と半泣きで、返事をします。
「まこちゃんは、オーナー、お姉さんのことが好きで、それで他の子は要らないとおもったのよね?」
と伯母さんが優しく聞くと、
涙が零れ始め、「ヒクッ」となりながらうんとうなずき、
「おっ、ねえさま――ヒック――はっ、まこどぅ、ぬいだけで――ヒッ――いいとおもっでるっ、です――ヒッ」(訳:お姉様は、まことぬいだけでいいとおもってるです。)
と、言います。
それにおばさんは、
「そうね。伯母さんもそう思うわよ。まこちゃんとぬいちゃんが、大好きだから――」
と言って、まこの頭を撫でます。まこは、
「だから――ヒック――まごが、おねえざまう゛ぉ、まもる――ヒック――でずぅ」(訳:だからまこがお姉様を守るです。)
とまこが言います。
「そうね。でも、もうまこちゃんは十分お姉さんを守っているでしょう?ぬいちゃんがいないのに頑張ってるのは、伯母さんもお姉さんも知っているのよ。だから、まこちゃんだけじゃなくて、みんなでお姉さんやまこちゃん、ぬいちゃんを守るのよ。」
まこは、
「でもぅ――ひっぅ」
伯母さんは、
「それに、まこちゃんは、ぬいちゃんよりもお姉さんで、新しい子達のお姉さんにもなるんでしょう?新しい子達は、ずっとは居ないけど、その間はまこちゃんが新しい子達のお世話も、お姉さんのお世話もするのよ。それって、まこちゃんをお姉さんが信じているからじゃないかしら。」
まこは、私の方をチラリと上目遣いで見ます。
私は軽く頷きます。伯母さんは、そこにだめ押しの一言。
「ほら、そうだって。まこちゃんはそれでも嫌なの?それとも、まこちゃんは、赤ちゃんだから、お姉さんを取られると思って焼いているのかなぁ?」
と言ったところで、
「ち、ちがう――ヒック――の、ですー。ま、まこは……」
……
と、何というか私が浅はかだったようです。まこのやる気を使えばもっと簡単だったのです。伯母さんは、その後、伯母さんはいくつかまこと話をして、落ち着かせていきます。
「それじゃあ、後は仲直りね。」
といって、私の方を見て、私に促します。
「まこ、ゴメンね。まこの言うとおり、私もまことぬいだけで良いと思っていたのは本当だから、でもこれは私がまことぬいと一緒に暮らすために必要な事なの、分かってお願い。」
と私が言うと、
「ま、まこも、ごめんなさい。」
と2人和解をするのでした。まこのことは、暫く伯母さんに任せて、私は店の方に戻ります。
私は、従業員通路を出て、カウンターのハナさん元に行きます。
「ハナさん、お待たせしました。聞こえましたよね?」
と私が聞くと、ハナさんは、
「ええ、きょう……じゃなくて、大変ね。あなたも。」
と言います。きょうの後が気になりますが、まあ良いです。
「裏で、いろいろありまして、聞き苦しい思いをさせまして、申し訳ありませんでした。」
と私が謝ると、今までで一番最高に嬉しそうな顔をして、
「大丈夫ですよ。よい……気にしないでください。」
私は、ハナさんに訝しみの目線を送ります。
ハナさんは、目を少しそらした後、
「そうそう、了解も得たみたいだから、それじゃああの子達の挨拶をさせましょう。」
といって、ハナさんが連れてきた2人の童を私の前に立たせます。
「右の子が、クイナ、左の子がカリトです。」
と、ハナさんが2人のことを紹介します。
そして、ハナさんに促され、
「わたし、クイナ。よろしく。」
と、右の子が挨拶をします。
「僕は、カリトと言います。暫くの間、よろしくお願いします。」
と左の子が挨拶しました。
まこやぬいの最初の頃と同じように、クイナは朱色の袴姿です。カリトは水色です。それからカリトは男の子のようです。
私も挨拶をしました。
ハナさんから、ひとしきりの説明と、童2人分の生活費(一週間分)を貰った後で、最後にぬいを呼び出します。私が、ネックレスの石を握って願うと、久々にぬいが私の目の前に現れました。ほぼ一ヶ月ぶりに私の目の前にぬいが帰ってきました。
私は、
「お帰り、ぬい」
と言うと、ぬいも、
「ただいま。」
と少しうつむいていました。感動的な対面でもなかったからか、ハナさんは少しがっかりしていました。さて、伯母さんによって、元気を取り戻したまこが、母屋から戻ってきます。伯母さんもその後から、顔を出します。
ぬいがいたことで、まこが嬉しそうに、
「おかえりですー。ぬいー」
とぬいに抱きつきます。伯母さんも
「ぬいちゃんおかえりー」
と帰宅を歓迎します。
私は、それを見た後、ハナさんとこれからについて、もう一度確認します。
「ハナさん。いろいろ面倒なことも、押しつけられている気がしますけど、今回はありがとうございます。それから、この腕輪の使い方を教えて貰えますか?」
「それは簡単よ。あなたが危険だと思うなら、手で腕輪を握って、助けたいとでも思えば反応するはずよ。そうそう時々興奮して握るとそれだけでも、反応するから気をつけてね。」
それって、不良品なんじゃないでしょうか?
「あ、不良品とか思ったでしょう。大丈夫よ、だいたい300回に1回ぐらいしかそういうこと起きないから。」
と、ハナさん。300回って多いのか少ないのか分かりません。それに、何基準で300回かも気になります。仕事中以外は外しておきましょう。
「後は、邪なるものの件お願いします。ちゃんと来て下さいよ。」
と私は、ハナさんに言います。ハナさんは、
「大丈夫よ。直のように傍観だけしたりはしないから、それとも私、神と契約する?」
と言われて、私は鳥肌が立ち、首を振ります。
「そう、残念。契約すれば、いろいろお願いできるのになぁ」
と、怖いことを言われました。
私としては、この問題がサッサと終わって、日頃のお店で愚痴るだけの神様に戻って欲しいと心から思っています。この神様、いろいろ契約すると私に対する態度が、豹変しそうな気がします。
「次は3日後か、問題の神が来たときにくるわね。」
といって、ハナさんはお店を去って行きました。2人の童を置いて。
残ったのは、まいとぬい、クイナとカリトという4人と伯母さんです。実はこの一連の流れで、伯母さんの勤務時間、16時をとうに過ぎてしまったのですが、伯母さんはお店に残ってくれていました。
まずすべきことは、クイナとカリトの着替えを用意することですが、クイナはまこやぬいや私の幼い頃の服でも着れば、何とかなりますが、カリトは男の子の服がありません。
そこで、伯母さんが
「じゃあ私が」といって、カリトを連れて帰って行きました。何かアテがあるようです。
私は、お店の番を暫くまこに任せて、居間にクイナを連れて行きます。ぬいは奥で着替えて、まこと仕事をするようです。
私は、居間でクイナにいくつか質問します。
「クイナのお仕事と階級を教えて?」
と聞くと、
「私、伝役」
と答えます。
「そう、それでどこで働いていたの?」と私
「神域」とクイナ
「今までに伝役の仕事は何回やった?」と私
「……1回」とクイナ。
「伝役って何をするの?」と私。
「神様、呼ぶ、いろいろ、伝える」とクイナ。
「いろいろってどんな」と私。
「……あれこれ?」
皆さんも、お分かりでしょう。伝役なのに詳しく伝えられない伝役です。ハナさん。どうしてこんな子を伝役にしたのですか?と叫びたくなります。あっ、でも、今回は呼ぶだけだから、大丈夫です。呼べば来るので、伝える必要がありません。まあ、ウチに置いて働かせるのは、このトーク力では、厳しいでしょう。って、もう見た目が小学生の童を働かせる予定になっている自分と、クイナの現状に私は頭を抱えるのでした。
私が、頭を抱えている間に、ぬいが制服に着替えて戻ってきました。
久々のぬいの制服姿に、少し嬉しくなります。
「姉貴、神様のこと……」
とぬいは私に何かを言おうとしています。私は、
「今は良いからまこを手伝って」といって、ぬいを店に出しました。あっちの問題は別に解決しましょう。幸い明日は、お店も定休日です。今はこっちの方が問題です。さあ、どうしたものか?
「クイナは文字は書けるの?」と聞くと、
「書ける」と言います。
書かせてみると、今のまこより悲惨でした。「あ」が鏡文字のようになり、ぬとめが逆です。本当に伝役に選んだのは誰なんでしょうか?
ここで、まこから
「お客さんですー。」
という声が響き、一端クイナの学力調査は、お開きとなりました。
やっと今日の仕事が終わりました。ハナさんが帰った後から雨も止み、お客さんがどっと押し寄せたのは、神様後のフィーバーなのでしょうか?それとも、雨がやむのを皆さん待っていたからでしょうか?いや、それだけではありませんね。きっと。
忙しい状況でも、てきぱきとこなすまこを見て、ぬいは少し驚いています。私に小声で、
「まこ、なんか変なもんでも喰ったの?」
って聞いてくるほど。私は、
「まこは、ぬいみたいに食いしん坊じゃないよ。」
と伝えると、ぬいに足を踏まれました。
たまたま来た昔の常連さんがぬいが居ることに驚き、ぬいをオーダーする場面もありました。まこが、接客に行ったら、
「ぬいちゃん、ひとつ」
って、ぬいが、
「おやじ(おい兄ちゃん)、わりいけど気持ち悪いからパス。」
って、悪態をつくと、喜んでいるおじさんやおにいさん連中がいました。
でもみんな「元気になったんだぁ」って言ってくれるところを見ると、心配していたようです。知らない人は、あの接客態度に少し戸惑っていましたけど、まこがフォローしていたので、私が出る幕もありません。
今日の終わりが近づくに連れて、これまでの閑古鳥が慌てて飛び去っていったかのような勢いで、お客さんからオーダーが来るのは、きっと誰かがぬいのことを喋ったからでしょう。
17時30分以降はほぼ、ぬいファンのお客さんでしたから。
そして、18時20分過ぎには今日のお仕事が終わりました。
後は掃除と片付けをして、夕食ですが、ここでクイナを呼びます。クイナの指揮権?は今、私の下に付いているため、私の命令は絶対です。そこで、私はクイナに一通りの仕事を見て貰うことにします。
まこが、
「コップをおしこむと、水がでます」
と教え、クイナにも同じ事をさせます。
「水、出た。」
言葉は、外国人かそれとも、話が出来るようになったばかりの子供ぐらいの返しですけど、興味津々なようです。そして、言葉は覚えませんが、まこやぬいが出来ることは一通り覚えました。何より驚いたのは、一通りの手順を1度見ただけで覚えたことです。
そこで、私がコーヒーを入れるところを見せ、やらせてみるとやはり一発で全く同じことをしました。これは、凄い子です。厨房担当にしましょうか?
今日は、クイナに私が作る料理を見せて、それをクイナに作らせるという手段で、夕食が用意されます。作るときに、手順も言葉で説明していきます。私が言うことを真似させるのです。
「タマネギを刻みます。」と私が言えば、
クイナも
「タマネギ、を、刻みます。」と言います。
この方法を、まことぬいにも実践して貰えば、クイナももう少し言葉を覚えるでしょう。
そうやって教えていると、お店を戸をトントンする音がします。チラッとみると、伯母さんとカリトと伯父さんのようです。
「まこ、扉を開けてあげて」
と伝えて、まこが扉を開けます。
「遅くなってごめんね。」
と伯母さん。
伯父さんは、「おう。」ってまさか夕食目当てでしょうか?
さっさと、テーブル席に座っています。
カリトは、衣装がハーフパンツにTシャツ姿に変わっています。そして、お店の袋をいくつか持っているのは、伯母さんです。
「もしかして、伯母さん?買ってくれたんですか?」
と訊ねると、伯母さんは、
「いいのよ。給料貰っているだから気にしないで……」
って、給料出しているんだからこそ、従業員が社長の関係者に自腹で品物を買ってくるのはよくないと思うのですけど。私は、お金を払おうとしましたが、結局押し通され、私は伯父さんと伯母さんに夕食をご馳走して、それで服代という形になりました。だから、伯父さんも来たんですね。
そして、伯父さん達が帰った後は、カリトを残して、他の童は3人だけでお風呂に入って貰います。日頃は、一緒に入るまこは喜んで二人とお風呂へと向かいました。クイナにはまこのパジャマを貸すそうです。私は、カリトに、クイナと同じ質問をします。
「カリトのお仕事と階級を教えて?」
と聞くと、
「僕は、待役」
と答えます。
「そう、それでどこで働いていたの?」と私
「神域の童侍従室です」とカリト
「今までに待役の仕事は何回やった?」と私
「……さあ、回数まではおぼえていません。」とカリト。
「待役って何をするの?」と私。
「神様や他の童、お遣いから集まる情報を集めて、まとめるお仕事です」とカリト。
「へえ、具体定期にはどんな仕事なの」と私。
「例えば、神様がお遣いに買い物に行かるとしますよね。その時に神様の欲しいゲームが買えなかった時に、それを、担当のお遣いが、神域に伝えます。それが神力の道を通って、僕に届くのです。それを僕はまとめるのがお仕事です。」
私は、その話を聞いて【ハナさんって、ゲームするんだ。】ということを考えていました。
そして、【この子は普通だな】なんて思っていました。この童の確認は結構早く終わります。クイナとのギャップがありすぎたのも油断していました。既に問題があったことに気が付いていなかったのです私って詰めが甘いです。
結局、途中からまこたち3人が入るお風呂に、乱入しました。
もちろん、カリトも一緒ですよ。詳しく?って。
一つだけいっておきますけど、4人の子供と一緒にお風呂に入るのは、戦争みたいなものです。特に、ぬいとカリトのセットは、男の子が2人居るみたいでした。