人生は、相手の手を読み続けることの連続です。
姐御なハナさんは、ぬいを外泊させてはどうかと、提案してきました。その理由は、きっとぬいから神様情報を集めるためでしょう。ぬいが、何か隠しているとハナさんは考えています。私も、そう言われてみると、思い当たる節がいくつか。
私は、ハナさんに
「分かりました。」
と伝えます。
「それじゃあ、今日から3日間ってことで行こうか?」
なんか突然るんるんのフレンドリーモードになるハナさん、しかも今日から3日間です。今日から、今日……
「うぉへ――」
と、私は驚きのあまり、意味不明な、声を出してしまいました。
「ちょ、ちょっと待ってくださいハナさん。今日からって、今日ですよ。それはちょっと準備とか諸々考えると、ひ、酷くないですか?」
と私が、抗議の声を上げると、ハナさんは、
「あら、それを私に言う。私も、ぬいが戻ってきた時に、当日突然だったんだけど。まあ、これはオーナーのせいでは無くて、クシのせいでもあるから、あなた【だけ】に言うつもりもないんだけどね!」
って、凄くいやらしい目つき、魅了するという意味では無く、ねちねちと私もあなたに同じ事されたんだけど、それでも断るのって目つきです。
「……」
私は、先ほどの勢いを失い。目線が空を彷徨います。
「それでも、って言うんなら仕方ないけど、その場合は邪なるものの、あれとかこれとか、どうなるかな?やらないってことはないけど、ちょっと【ぬい】のメンタル管理とか、配置先の変更とかで遅れたりすることもあるかもなー。まあ、仕方ないよねー。」
って、私に聞こえる程度の小さな声で、ぼそぼそ言っちゃってくれます。
私は、再び神様の手中に収まっていることを実感しました。そして、
「分かりました。でも、もしぬいに何かあったらどうするんですか?」
と確認します。
「その場合は、この腕輪を手首に填めてください。」
と渡されたのは、ブレスレットです。ゴムのような伸縮性のある素材で出来ているようですが、布ではなく、触った感じは金属みたいです。ただ、弾力があって、伸び縮みします色はクリーム色で、幅が1cmぐらいです。厚さは5mmぐらいでしょうか?
「ブレスレットですか?」
と私が聞くと、
「そうです。私の神力が収まったブレスレットです。」
とハナさん。
「へえ、それで、どんな効果があるのでしょうか?」
「私の住む神域に1回だけぬいを飛ばす効果があります。一度使うと解けて無くなってしまいます。」
凄いかどうかはよく分かりませんが、ぬいの避難経路を確保しました。これが、あれば3日と言わずにぬいはここに居られるのではないでしょうか?
「ぬい限定ですか?」
と私は訊ねます。ちょっと私は笑みを零していました。
「そうですよ。でも、あなたが予想するように上手くはいきませんよ。」
「???」
「その腕輪は、対象のものを登録して、神域から一度出してしまうと、最大でも4日しか持ちません。それを過ぎると崩れて消えてしまいます。だから、3日間だけぬいを里帰りさせると言うことです。」
私の計画は脆くも崩れ去りました。
「これって、作るのは大変なのでしょうか?」
と私が諦めきれずに質問すると、
「一つ作るのに大体半年ぐらいかしら。それをぬいにも持たせるのだから、1年になるわね。」
と、簡単に渡してくれた割に、凄く重い贈り物でした。
しかも、使わなくても、4日後には無くなるものです。返すわけにもいきません。これが手中で踊るということです。神様の手中で踊る私、一部のグラマー神様信者の人には、きっと何故喜ばないと怒られそうです。だけど、ここは敢えて言っておきます。これも、必ず私が神様との間で借りを作ったことになります。商売の神様ですから、絶対に耳を揃えて返さないと行けない日がやってくることでしょう。
何故、クシさんはこの人の所にぬいを託したのでしょうか?クシさんのところで預かって欲しかった。私は、考えるのを止めて、話を進めます。
「で、ぬいはどちらに?」
「あら、あなたが今から呼び出すのよ。忘れたの?首飾り。」
と言われます。「そうですね。」と私は言って、呼び出そうとしたところで、今度はハナさんに止められます。
「その前にちょっと待って、もう一つ話しとかないと、ちょっと貴方たち――」
と、ハナさんは、まこと、伯母さんと何かしらの会話をしていた童2人に声を掛けます。
「「はい、神様」」
と2人の声が重なり、ハナさんの側にやってきます。
「このお店のオーナーで、貴方たちの主になる人よ。主に挨拶をして――」「ちょっ、まってください。」
ハナさんの爆弾発言に、私は咄嗟に、ハナさんの言葉を遮ります。私は、一度息を飲み込んで、唾液を飲み込んで、頭を整理します。
-脳会議-
ME:今ハナさんが言ったことをもう一回再生して欲しいんだけど出来るかな。
ざわざわ、がさごそ、
大脳新皮質管理局長:すみません。まだデータ整理が出来ていないもので、後ほどお越しください。
大脳辺縁系管理部主任:申し訳ありません。そのデータに関しては、ウチでは扱っていない用なのですが……。
ME:そんなはずはないでしょう。どちらかにあるはずですからもう一度調べてください。大脳新皮質管理局長:ウチは、ちゃんとライブラリーに保存するデータを様式ファイルと、説明文、それから索引を付けて保存しています。だから、所定の書式で届いていれば分かるはずです。
大脳辺縁系管理部主任:こういう内容は局長に聞かないと、しかし局長は忙しく出払ってまして、今外が大変じゃないですかぁ、だから……。
ME:言い訳は聞きません。だれでも良いから用意して。って、いつもまとめ役のマスターは?
大脳新皮質管理局長:今週は有給休暇中です。確か、4泊5日で小腸絨毛にバカンスに行っています。今流行の絨毛テニスをするとか。
ME:私は年中無休だと言うのに……。
????:みつかりました。これですか?
ME:おおー。それだよ!それそれ、でかしました。ところで君は誰?
????:私はか――
-脳会議強制終了-ここまで0.891秒
私は、記憶の確認を終えました。そしてハナさんに質問します。
「ま、ま、まま、まさか、こ、このふ、ふたりが、私の童になるってこ、ことじゃないですよね?ハナさん。」
と私は、震える声で問いかけます。ハナさんは笑顔です。回答はもちろん、
「いいえ、違います。」
でした。って、あれ?
「あの、もう一度良いですか?」
と私は聞き返します。
「何がですか?」
とハナさん。
「私の童ということでは?」
と私。それに対するハナさんの答えは、
「そんなに童がほしいの?どうしてもっていうなら、用意しても良いけど……」
という回答です。
「じゃあ、主ってどういうことですか?」
ハナさんは、
「それも含めて、説明するつもりだったのよ。まあ、良いわ。先にその点から、この子達を暫くあなたのサポートに付けるからって話よ。邪なるものに冒された神が来たら、この子達に伝えれば、私が来るってわけ。邪なるもの問題が終わるまでの伝令役よ。で、この店のオーナーであるあなたはその間お世話になる主でしょう。仕事も多少は手伝えるように、あなたに従うようには言っているけど、あなたの童のように出来る子になるかは分からないわよ。――」
完全に私の早とちりでした。顔が今はゆでだこのように真っ赤になっているはずです。全身が煮えるように熱いです。
「そ、それなら問題ありません。」
と私は、平静を装って取り繕います。もちろん、ハナさんと、私の動揺に気が付いた伯母さんは、可哀想な人を見るような目つきをしています。
「それと、彼らの食事の面倒もお願いね。食費と寝るところが必要になるわよ。大丈夫?それから、ぬいが戻ってくることもね。良いかしら?」
私の頭は再び混乱しています。まことぬいぐらいの子供が2人増えます。この2人の寝食を用意する。って、また食費が増えます。
「それって食費とか、私持ちですか?」
と投げやりになって私が言うと、伯母さんが、
「ちょっと、神様に失礼じゃ――」に被せるようにハナさんが、「いえ、食事代は今日置いていくから、ついでに、その子達少し素行が悪いから、矯正してくれると有り難いけど。その分色を付けておくから。」
って、言われました。もう、いろいろとこんがらがって何がなにやら分かりません。
「分かりたくないですし、実際にはよく分かっていませんけど、分かりました。」
と私が答えます。
「それじゃあ、オーナーが分かるまで、休憩ってことで、貴方たちも、もう少し靴露居ていて良いわよ。それから、もう一つオーダーしても良いかしら?」
とハナさん。それに、答えるのは伯母さんです。……
ハナさんのオーダーはコーヒーではなく他から仕入れているケーキを使ったオーダーだったので、伯母さんに任せて、私はまこを連れて居間の方へと一端引き上げます。まこに3日間だけぬいが戻ってくることと、2人の童を預かることを説明します。ぬいが戻ってくることには、まこも喜んでいました。
しかし、童が2人増えることには、まこは反発しました。
「ダメです。絶対にダメです。まこのお仕事がなくなっちゃいます。」
と、言うのです。
私が、
「まこの仕事は、取らないし、悪い神様が消えるまでだから……」
と説得しますが、全く受け入れません。
「お姉様にはまことぬいが居れば良いのです。他の童は要らないのですーー。」とまこ
「でもまこは、今居ないでしょ。」と私
「今日帰ってくるって、言いました。」とまこ
「それは三日間だけだから……」と私
「でも帰ってくるですー」とまこ
私は、このとき、【しまったぁ】と先にまこが帰ってくることを話したことに後悔するのでした。まこは、一度、こうだと言い出すと聞きません。
食べ物で釣ろうとしても、聞かず、まこが欲しそうな、ものや服で釣ってもダメです。
私が、次のアイデアを考えながら、ぬいや、この後のこと、童のことも考えていると、まこが、私の心を見透かすような一言を言ってきました。
「それにお姉様も要らないと思っているはずですぅ。」
と言われて、カッチーンと来た私は、
「そんなこと言ったって仕方ないでしょう。ぬいが戻ってくるためなんだから……」
と爆発してしまったのでした。これなら、まだこれは命令と縛った方がよかったのかも知れません。
そんな、声を聞いてでしょう伯母さんが、私達のところへやってきました。