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意思疎通無くして命令は出来ません。

「「「いらっしゃいませ。」」」

「童を2人連れてきました。」

というのは、ハナさんです。ぬいがお願いしてくれたようです。先ほどより雨は弱まっていたためか、特に濡れてはいないようです。

「ご足労戴きありがとうございます。」

と伯母さんが言います。私も、それにのっかる形で頭を下げます。

「いえいえ、私もオーナーと話したいことがあったもので、ちょうど予定していたんですよ。」

とハナさんは、グラマーな大人の女性ですが、人では無いので大神でしょうか?いえ、それだとおどろおどろしくなってしまいます。大の右上に「、」を付けると、殺人事件が起きそうな雰囲気です。やっぱり大人の女性な神様です。商売繁盛とか、商いの神様らしいです。


ハナさんは、2人の童と思われる子を連れて、カウンター席に座ります。

「コーヒーとこの子達には何か、ジュースをお願いできるかしら。」

とオーダーを受けました。

「かしこまりました」

と、私はコーヒーを準備をします。まこは、ミックスジュースとメロンソーダを用意しています。まこの好きなチョイスです。2人の童が別々の味です。喧嘩とか、大丈夫なのでしょうか?まことぬいでは、違うものを与えると、時より喧嘩していました。好きなものだと量で喧嘩することもありました。たいていの発端はまこが仕掛けてましたけど。

「それで、早速だけど要件は、ぬいの前の神が、どうとかと聞いたけど。」

ハナさんは、すぐに真顔で訊ねます。

「はい、その神様が邪なるものに冒されているのですけど、まだ少しだけ自我が残っているようで、他の神様の助けを受けて、神様自身を消して欲しいと仰ったのです。それで、ぬいを通じてハナさんを呼び出して貰いました。」

私が、ハナさんの問いかけに答えると、ハナさんは暫く考え込んでいました。

そこに、まこと伯母さんが童2人にジュースを持ってきました。

「お待たせしました」

と、伝えたところで、私は、ハナさんに言います。

「ハナさん、お遣いの2人は奥の席に移って貰っても良いですか?」

と確認します。するとハナさんは、2人の方を見た後で、ああと納得します。

「いいわよ。貴方たちあちらの席で、休んでなさい。」「「はい」」

といって、まこと伯母さんに連れられて席を移動していきました。カウンター席は、椅子が高い上に、カウンターそのものも高いので、子供が食事や飲み物を飲むのは辛いのです。まこやぬいの背丈でも配膳は何とか1人ぐらいなら出来ますが、カウンターの接客はまこ達も苦手としています。私も昔は苦手でした。


話を元に戻しましょう。

私はハナさんにオーダーのコーヒーを出します。いつものブレンドです。

ハナさんはそれにミルクと砂糖を入れてから、かき混ぜ一口。その後、「ふう」と息を吐きます。そして、

「やっぱりここのコーヒーは一番よね。」

と、大人の一言を言った後で、本題の話を始めます。

「まず、その昔の神様を、介錯するとして、いつ来るのかが大事ね。それから、もう一つは、その神が持っていた神力がどの程度あったのかかしら。」

「神力の量が関係するのですか?」

と私が問うと、

「私達神は、神力を失えば消えるわ。でもそれを、自分で制御できないなら、他の神がサポートする必要があるの。その時に神力の量が消える神より同等以上でなければ、ならないの。それから、完全な邪なるものになると、神力そのものが変異しているから、その方法は使えないのよ。だから、その神様は自分が残っている間に終わらせたいって訳。」

私は、その話を聞いて考えます。

何故この神様は、邪なるものに心を奪われ始める前に、他の神様に頼んで手を打たなかったのでしょうか?

ハナさんは、コーヒーでのどを潤してから、話を続けます。

「私で出来るかどうか、力が及ぶかどうかは分からないけど、一応は試して見るつもりよ。とこれで、この話は終わりね。私からも一つ話があるんだけど。」

とハナさんから、今度は別の話があるようです。

私は、ゴクリとつばを飲み込んで

「何でしょう?」

と聞きます。

「あなた、ぬいちゃんをここに戻す気ない?」

と唐突に言われました。

「ぬいが何かご迷惑を?」

と質問すると、

「そういう訳では無いの、それに匙を投げた訳でもないわよ。一時帰宅させたいの。」

「……」

「元々、あの子、最初の神様の後は、ウチに流れ着いたみたいなのよ。私も、沢山いる童の一人だから、知らなかったのよ。で、当時は本当に同僚には横暴だったから、謹慎になったわけ。最近まで何百年かは知らないけど。それを、なおがあなたに、仕えさせたみたいなのよね――。」

へぇ~そんな話だったんだ。私は少し寒い目でハナさんを見ます。別にハナさんが悪いわけではありませんが、ハナさんもその目つきを見てちょっと目をそらして、コーヒーブレイクします。そして、話に戻ります。

「それで、今回戻ってきてから暫くは、今までとは打って変わって、よく働くようになったらしいの。でも、最近どうも邪神と会ったらしいんだけど、それから調子が悪くてね。お遣い2人一組で、買い出しに行くんだけど、話しかけてもあまり反応しないみたいなのよね。」

私は、

「それは、邪なるものを、恐れているからではないでしょうか?」

と言うと、ハナさんは答えます。

「そう思って、部署を変えてみたんだけど。同じだったわ。何か邪神が言ったんだと思うんだけど、あなたなら分かるかなと思ってね?」

私は、その言葉を聞いて考えます。きっと邪神Jさんに言われた、400年の話でしょうか?

「もしかすると、邪神Jさんが私に話したこと。邪なるものが、いなくなるまでに400年ぐらい掛かるって話が影響しているのかも知れません。400年だと私は生きていませんから。」

と、私は苦笑します。

「そうね。本当にそれだけなら良いんだけどね。私はそれ以外を心配しているのよ。」

「と、いいますと?」

「あの子、何か隠しているわよ。そして、それも400年とセットで影響しているのかもね?」

と、ハナさんは言いました。

「……!?」

ハナさんは慎重に言葉を選ぶように続けます。

「あの子は、きっと縛られたままなのよ。今の邪なるものになる前の神に。」

「それは、どういう――」と私が言いかけたところで、ハナさんは遮るように言葉を続けます。

「童に限ったことでは無いのだけど。お遣いというのは今の主に遣えているのは知っていいるわよね。でも、だからといってその前の主の命令……縛りが消える訳じゃないのよ。今の主が縛りの内容を知って、そこに上書きしてくれれば、前の主の縛りに強制されることはなくなるわ。でも、それがハッキリせず、広くて大きな縛りを掛けられていたら、どうなるか考えてみると分かるでしょう。」

それは、残酷な話でした。

ハナさんが言うには、お遣いは、主の命令(縛り)に従いますが、前の主の命令を忘れる訳では無いそうです。その命令を打ち消すには次の主が、その命を打ち消すような命令を出さないといけないということです。私は、

「ならば、前の主の縛りは今後全部無効って言えば良いのでは?」

と質問すると、

「それが出来ないのよ。童の縛りは、本人が納得して合意しているものには有効なの。経験は無いかしら、縛りを掛けたはずなのにっていうことは?」

といって、ハナさんの童と戯れるまこの方へと横目で合図しました。

「そういえば、最初の頃はよくありました。縛りの命令をしたのに通じてないというか?納得出来ずに同じことをして、イライラすることが、でも通る時にはすんなり通るのですよね?」

と私は、疑問系で答えます。ハナさんは私の言葉に頷きます。

「童に限らずお遣いに対する縛りは、年月を経過するにつれて、主の望むように理解を深め、それが結果的に強い縛りへと形を変えるの。あなたのように最初期の状況では、縛りの時間も短くなり、弱くなることが多いの。これは、人と人とのコミュニケーションと似ているわね。ただ、人と違うのは、主が絶対に拒否するような行動をしようとすると、強い不快感を感じるわけ。言葉で縛りと言うけど、実は言葉である必要はないの、主が嫌だと思うことを察すると、その何倍も不快に感じるわけ。」

私は訊ねます。

「どんな不快感なんでしょう?」

「人間で言えば黒板を引っ掻くとか、蚊が耳元で飛び続けるとか、背筋も凍るような気持ち悪いものや、怖いものを見るかのような感じといえば良いかしら。この感覚は、人のように、何度も経験したら慣れるというものではないみたいよ。私もお遣いに聞いた話の受け売りだけどね。」

私は、再び質問します。

「あの、でもその場合不快感を感じる訳ですから、やっぱり最初から言うことを聞くのではないでしょうか?」

ハナさんは、左手の人差し指を左右に振りながら言います。

「その言葉の意味が分かっていたら言うことを聞くわね。言うことを聞かないというのは、意味が分かっていないということよ。分かっていなくても、主が嫌がるなら、それは縛りになるわけだけど。主も縛りの意味を理解してない場合は、いくら前の主の縛りは無効と言っても、そもそもお遣いがそれを理解できるはずはないでしょう。まあ、オーナーとまこちゃんのように、お互いがここまで仲良しで、ダメっていっても認めることもあるような縛りだと、縛りの働きもちょっと変わっているだろうから、参考にはならないけれど。私達の場合は、仕事や行動そのものを縛るだけだから、あなたとは少し使い方が違うのよ。まあ、あなたのような使い方をする神もいるにはいるのよ。少数だけど。」

と、クスクスと笑われました。

私は、時と状況によって縛りを使い分けます。ここで言っちゃダメとか、ここでこんな行動はダメという時だけしか使いません。しかも、ショッピングセンターでは絶対に使いません。ぬいの駄々っ子が、ピタって止まって周りのお客さんと、店員にどん引きされたことがあるからです。

ハナさんのいうお遣いの使い方は、書類整理の担当は書類整理だけ、買い物は買い物だけというふうに機械のように使うということのようです。ハナさんは、笑顔で言葉を続けます。

「分かったかしら?だから、あなたの童、ぬいは何か前の神様に縛りを掛けられているのよ。それをきっと邪神が抉り出したのかもしれないわね。そして、その縛りが今の彼女を苦しめているのかも知れないわ。だから、主であるあなたが、一度会って話をする機会が必要と思ったの。どうかしら?」

とハナさんは私に不敵な笑みを浮かべます。

不適の意味を分かっているのかって?本当に不適なんですよ。怖いぐらい……この人、神様モードでお仕事中は、あの愚痴っぽいハナさんとは違うのです。これが、男性神から、姐御あねごと呼ばれる理由なのかも知れません。



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