サブタイトル無くしました。
さらに、3日が過ぎました。昨日と今日は梅雨の晴れ間が広がっています。
私は、ラジオを聞きながら、お客さんを待ちます。
~ラジオネーム、梅雨時日本列島さんからのリクエスト、JUDY AND MARYでHello! Orange Sunshine~♪~♪
ちょうど、まこがお外の掃除と水やりを終えて、店に入ってきました。ちょうど、音楽が流れ出した音楽に腰をふりふりしたり、音楽に合わせて、くるっと一回転したり、可愛いので、スマホで写真を数枚撮りました。私、まこのこういう姿に癒やされながら、ぬいがいない状態に慣れつつあるのが、かなしいところです。
そんな暇な時間にお店に訪れたのが、ミチさんです。暫くご無沙汰でしたが、都の方でお仕事だったそうです。モウさんは一緒ではありません。モウさんは一昨日このお店に来て来ています。モウさん曰く、移動の時しか呼ばれないので、それ以外は一緒に居ないとか。そんな話を聞きました。
お店に入ってからすぐに、ミチさんはまこの
「いらっしゃいませ、神様」
に目を丸くします。その後、私の
「いらっしゃいませ」
に我に返って私の方を向き、カウンターの方に向かいます。まこが、お水とおしぼりを持ってきます。
「童がいるのですか?」って、
そういえば、ミチさんはまことぬいがこのお店に来てから、一度もやってきていません。
「直神様から、神様避けにとこのネックレスを戴きまして、このネックレスの加護を使ったところ、ここにいるまこともう一人ぬいという童が私のところにやってきたのです。」
「そうなのですー」とまこも話に参加します。ほうと、ミチさんは私のネックレスを見ています。ミチさんはネックレスをひとしきり眺めた後、今度は目線を入り口の方に向けます。
「それに入り口のあの子、あれは?たしか――」
と,ミチさんはあごを撫でます。
「ああ、みいのことですか?あの子は、まこが可愛がっている家の看板ねこ?です。」といって、みいの方を向くと、ミイは、「みゃあ」と鳴きます。
「そうですか。それは珍しいですね。」
とミイの方を暫く見てから、私の方に視線を移しました。
「オーダーは、いつものブレンドコーヒーで、おやプレミアムというのがありますね。ではこれを一つ。」
まさかの、プレミアムコーヒーです。この町では、これで2杯目です。
あの日の小山さんと今回のミチさんの二人だけ。私は、少し浮かれ気分で、コーヒーを準備します。
「しかし、童をあなたにですか、彼は面白いことをしますね。」
私は、
「童を人に託すというのは珍しいのですか?」
と訊ねると、ミチさんは顔に優しい微笑みを湛えて答えます。
「それは、めずらしいことですね。私が知る限りでは直神が、人に童を分けるなど過去の文献にもないはずです。」
ミチさんの答えに、私は
「文献ですか?」
と反射的に質問します。ミチさんは、
「そうです。何かおかしなことを――。ああ、神域でも書物は編纂されていますよ。この世界で言う日誌のようなものもあります。私はそういう書物を読むのが好きなものですから、それで100年ほど前に直神についての歴史書や日誌を読んだ際には、そういう文献はありませんでした。よほど気に入られたのでしょう。」
と答えます。
「そうですか?どちらかというと嫌がらせだと思うのですけど。」
と私が言うと、ミチさんは?
「嫌がらせ?」
と、訊ねます。
「このネックレスを使うと、あの子達が出てくることも教えて貰えてませんでしたし、出てきた途端に妹になったんですよ。先日まで、私は、警察や近所の人にも疑われていました。」
ミチさんは、それを聞いて少し真剣な顔をして、
「それはそれは、同輩が心痛をおかけしたようで、申し訳ありません。」
と謝罪を口にされます。私は
「ミチさん、頭を上げてください。私、そんなつもりでいったんじゃありませんから」
とおろおろしてしまったのでした。真面目とモウさんが言っていた理由が何となく分かりました。この人は、きっと冗談が通じません。
私がコーヒーをミチさんの前に差し出すと、ミチさんは私に問いかけてきました。
「しかし、もう一人が見当たらないようですが、何かありましたか?」
ミチさんの質問に私は、これまでの経緯を掻い摘まんで話しました。
「邪なるものですか?それはそれは、厄介なものに。」
私が「そうなんですよ。誰も対処方法が分からないらしいので、どうしたものかと・・・・・・」
と言うと、ミチさんは私に予想外の言葉を掛けてくれました。
「そうですか。それなら一つお役に立つことがあるかも知れませんね。」
私は、その言葉にえっという顔をします。
「いえいえ、私も邪なるものと会ったことはありませんが、参考になるかもしれないと思うことがありましてね。」
私は、その言葉に飛びつき、「お願いします。」とキッチン側から首を乗り出すように、ミチさんに羨望の眼差しを送ります。ミチさんは、それに少し戸惑ったようですが、ごほんと一度咳払いをすると、話を始めます。
「その邪なるものというのは、私が文献で知る限り、未練や執着から神が変異したものです。一度それに染まると、記憶や我を徐々に失って行きます。残るのは、起因した現象とそれに対する怒りや憎しみ哀しみだけになります。オーナーの童は――」
「まことぬいです。ぬいがその神様の童でした。」と私が答えると、ミチさんは頷いて話を続けます。
「そのぬいですが、何故、先代の神が何故それになったかは――」
「知らないと言っていました。」
「そうですか――」
ミチさんは何か、腕を組み目を閉じ考えを巡らせています。そして、結論が出たのか、口を開きます。
「そうか・・・・・・か」
とミチさんは小さな声で何かぼそりと言いました。
「ミチさん?」
ミチさんは、
「これは、失礼。そうですね。日本酒を用意してください。できる限り上等な日本酒を一升瓶で、その神が来た時には、ここのメニューではなく、そのお酒と、質素な酒の肴でも一品出してあげなさい。後は、酌をしながら話をひたすら聞きなさい。その神は必ずまたここにやってきますから。
その際に、決して恐れてはいけませんよ。今私に接するぐらい気軽な方がどちらかと言えばよいでしょう。心から神様と対話をすると思ってください。
後は、神が酌を返してきた場合除いて、あなたは決してその酒を飲んではなりません。他のものに飲ませてもいけません。もしも、誰かに飲まれた場合は、新しい酒を用意するように。この店で、オーナーであるあなたと、童が出来ることはこれぐらいでしょう。」
私は、
「ミチさんは、文献をたくさん読まれていらっしゃるのですね。他の神様はここまでは教えてくれませんでした。」
と、言いました。きっと端から見るとキラキラした目だったはずです。
「否、これは生前の知識を絡めて、述べているだけですよ。今の方々には分からぬでしょう。我々の時代には、神道や仏道が今より遙かに盛んでしたからね。その元神が、ここに何度も足を運ぶということは、何かあなたに伝えたいことでもあるのかも知れませんよ。御神酒と飯は仏や神々が望むものです。そして、鎮めるには神々に語りかけ、神々と共にあることを伝えるのです。それに、神々の取り柄は違います。私が、知っていることを、他の神が知らないのは当然なのです。その一方で私が知らぬことを、他の神は知っているのです。それは、人も同じはずですよ。」
私は、その言葉を心に焼き付けます。そして、少し気になったことを質問しました。
「ところで、お話は変わるのですが、ミチさんは……このお店にお酒を置いて欲しいと?」
私が真剣な表情で質問すると、ミチさん笑いながら答えます。
「私は、このお店に一服とコーヒーを求めて来ています。今酒を求むるなら、他のお店を探しているでしょう。」
と答え、にこりと紳士スマイルを返してくれました。
そして、翌日は定休日、今日もお天気が良い快晴です。
日差しは既に夏のジリジリとした強い日差しで、蒸し暑くなってきました。私は、久々の晴れ間と休日にまこと貯まった洗濯物とお布団を干しています。
「うんしょ、うんしょ。」と敷き布団を運ぶまこに「がんばれー」と声を掛け、ベランダに二人で布団を干します。
その後、いつもの買い出しとウィンドウショッピングですが、今日はまこのあれが貯まったので、贈呈式が先に行われます。私は、まこをお店の方に呼びます。
「まこ、ちょっと来なさい。」
「はーい。何ですー、にんむですか、お姉様。」
とまこがやってきます。まこは最近お仕事、お手伝いとは別ににんむ即ち任務という言葉を覚えて使っています。私が、「まこ隊員!任務です!」と言えば、私の前に敬礼して整列するのです。これは、ニュースドキュメンタリーのようなもので、見た映像と、テロップの説明(まこはひらがなは読み書きできますが、漢字はまだ読めません。)を私から聞いて、使うようになりました。
「今日は任務じゃないよ。ご褒美です。」
そうついにまこのご褒美シールブックがいっぱいになったのです。
ぬいより、3週間以上遅れましたが、まこも順調に成長し、今ではがさつだった3週間前のぬいより、丁寧に接客や会計が出来るようになりました。漢字は読めないまこですが、お皿洗いも出来るようになり、おばさんにも合格を貰いました。ただ、人が多いと、少し苦しんでいますけど、お客さんに叱られることもありません。今は、コーヒーの入れ方や豆の挽き方、煎り方などを勉強中です。凄いでしょう。
そんなまこに、私はレジ下の引き出しから、ご褒美を取り出し、まこに渡します。
まこは、目をキラキラさせてご褒美の包みを手にします。
「ありがとうですー。お姉様。開けて良いですー?」
私が「どうぞ」というと、居間に戻って、ちゃぶ台の上で、綺麗な包装を綺麗に丁寧にはがし始めました。暫く経って、綺麗にはがれた包装用紙を外し、中身を丁寧に取り出します。
「お姉様、鉛筆?と絵本?ですー」
とまこが言います。
「それは、色鉛筆とスケッチブックです。」
そう、私がまこのご褒美として用意したのは、36色の色鉛筆と、スケッチブックでした。実は、これを考えた理由は、中田さんに、「まこちゃんは絵が上手なんですね」と言われたからです。ちらっと見せて貰った絵は、小山さんの似顔絵でした。それを思い出して、最初に3人で買い物に行ったときに、二人が椅子で休憩しているときにこっそり買ったのです。
「このスケッチブックって何ですー?真っ白ですー」
まこが質問します。
「それは、まこが書きたいものを書けば良いのよ。まこのお絵かき専用本かな?」
「それは、凄いですー。まこ、いっぱい書くですー。」
といってはしゃぎ、早速、私の似顔絵をそのスケッチブックと色鉛筆で描いてくれたのでした。
そんな贈呈式も終わり、お買い物へと行きます。季節は6月下旬で、お日様が眩しくじりじりとアスファルトを焼き、最近はセミの鳴き声も徐々に煩く聞こえるようになりました。
私達は、いつものコーヒーを卸して貰っている問屋さんに行って、次にスーパーでお買い物。そして、今回は酒屋さんにも、大吟醸の日本酒を一升瓶で2本買いました。
買った荷物を家に持ち帰ると、今度はお弁当をリュックに詰めて、45分ほどのピクニックです。まこ、みいを連れて街を流れる大きな川の河川敷でお昼ご飯を食べるのです。スマートフォンでまことみいの写真を撮ったりしながら、12時30頃から14時頃まで過ごしました。川の水はまだ多く、水辺までは降りることが出来ませんでしたが、気分転換にはなりました。
「今度は、ぬいと来たいですー」
とまこは、言っていました。
そういえば、最初の一ヶ月は、最後の日以外にこういうことはしていません。まだぬいもまこもこちらの生活に十分に慣れていませんでしたから、あまり外には出せなかったのもありますし、いろいろ生活面にも問題も抱えていましたし、おっとりだけど好奇心旺盛なまこと、がさつで活発に見えるけど実は用心深いぬいがセットだと、二人の行動を掴むのに苦労し、迷子センターのお世話になることが週1回のショッピング×1ヶ月で6回はありましたから、多過ぎ?。だって、私は一人っ子で子育て経験なしですよ。二人を見てたら買い物も、何も出来ません。まこ一人になってからも、1回迷子センターを使いましたが、このところは無くなりました。
最近は少し楽になりました。ぬいがいないというよりは、まこの成長と神様の話を伯父さんや伯母さん、小山さんに話したことが大きい気がします。特に、まこは、ぬいが居なくなってから、一気に成長しています。好奇心旺盛だけで、物覚えが悪く、何かと大変だったまこが、用心深さと、私やみいを気遣うことも増えました。まこの姉っぽい、ぬいが帰ってきたら、驚きそうです。
そんな話をまこにしたところ、まこは私に対して、心外という雰囲気で、プリプリ怒られました。
「ぬいより、私の方がお姉さんなんですー。」と言われちゃいました。この辺りが、ぬいより妹っぽいところです。ぬいは、この手のからかいには、あまり反応しません。ただ、まこに言われると喧嘩になります。私は、まこを髪を撫であやしながら、まこの成長に幸せを感じつつ、ぬいのいない右側に少しの寂しさを感じるのでした。
私達は、家に帰ると洗濯物を取り込み、私はラジオを聞きながら夕食の準備、まこは明日のお店の準備でお店の掃除を始めます。いつもなら当日の朝することなのですが、今日はご褒美が嬉しかったことと、外でのんびり過ごせたのが楽しかったのか、「お掃除、おそうじ~♪ですー♪」と歌いながら、お店の方へ降りていきました。
今日の我が家の夕食はコロッケです。茹でた、ジャガイモを潰して、炒めた挽肉を混ぜてここでちょっとチーズを……衣を付けて後は揚げるだけという段階で、ちょっと休憩と思った矢先のことです。まこが、ドタドタと、私の所に戻ってきて、私の足にしがみつきました。この先にどんな話が待っているか?何となく分かりますよね。