人は神というだけでは信じません。神のような力を見て信じるのです。
今日は、小山さんが猶予期限とした三日目です。
夕方まで二人で順調とは言えない流れでこなします。今日は金曜日でお客さんが夕方頃に増えてしまい。まこが空回りしてしまったのが原因です。オーダー順を間違えたのです。
そして、間違えた相手が初めてのお客さんで、怒り狂ってしまいまして結果的に、まこは下げることになり、お客様は怒りながら、帰って行きました。
常連のお客さんは、なだめてくれましたが、今までは、伯母さんやぬいがフォローしてくれていたため、ここまでのことはありませんでした。まこにはショックだったようです。
そんな、一日を終える頃に、小山さんがやってきました。
「いらっしゃい――なんだ、小山さんか。」
と私はいいます。3日前のことがあるので、お客扱いはしません。
強いて言えば、小山さんは今日私の餌食になる獲物です。
「お客さんにその態度――」
という小山さん言葉にかぶせる形で
「あッ。店の外の看板を、閉店に変えて下さい。どうせ3日前の答えですよね?」
と私。小山さんは、ぶつぶつ言いながら、看板を掛け替えてくれました。
小山さんは、周囲を見渡してから、カウンターに座ります。
「もう一人の妹、まこちゃんは?」
と聞いてきました。
「今日は、お客さんに怒られて、奥で泣いているはずです。」
と私が答えると、
「そうか、それならいい――」
「また居なくなったのかと思いましたか?」
「いやそういう・・・・・・そうだよ。」
小山さんは否定しかけた後、私の顔を見て認めました。
「心配されているようなので、まこを、呼びましょう?待ってて下さい。」
私がまこを呼びにいこうとすると、小山さんが
「いや、いい。それよりも前回の答えを聞きたい。」
と遮りました。私は小山さんの顔を見てから、「はぁ」とため息をついて、
「分かりました。長くなるかも知れませんので、前回と同じ席で、それから、コーヒーを用意しますので――」
飲んでお金を払って帰ってくださいということです。
小山さんも意味は分かっているのか?
「ああ頼むよ」といって、席を奥に移動していきました。
私が、一番高いコーヒー980円(オリジナルブレンドプレミアム・使用する豆の量を通常の1.3倍にしました。)と、一番高いケーキ1200円(裏メニュー、近所のケーキ屋さんにお願いしたレアチーズケーキ、テスト販売の残り)を小山さんの前に置き、オーダーシートをテーブルの端に置きます。そして私の前にはお茶を置きます。小山さんは、ケーキを見た後、私の方を軽くにらみつけましたが、私は気にするそぶりもなく、対面の席に着きます。
「昨日、中田が来たんだろう?」
「来ましたよ。何か言っていましたか?」
「いや、何も聞いてない。」私は、そうですか?というそぶりで、お茶を一口飲みます。
小山さんは、気にせず話を続けます。
「中田の上司は俺と同期なんだよ。だから、たまにあいつの課に行くことがあると、あいつの上司と話をするんだ。それで、時々あいつの姿を見かけてたんだが、あるときデスクの右下の引き出しをガサゴソやっててな。他の奴に、資料どうしたとか、言われてたんだ。それで、俺が声を掛けたのが始まりだった。それ以来、妙に頼られるんだよ。」
どういう意味でしょう?
「はい?」
と私が聞くと、小山さんが?
「あいつは、頼る相手を見つけると、決して離さないということだ。そして、面倒な奴だ。君もその一人だよ。」
「はぁ。でもそれを教えてくれたのは小山さんだって、中田さんは言っていましたけど?」
私の口から出た一言に小山さんは、唖然としています。
「何言ってんだ。」
「俺も、若い頃に仕事をためてどうとか?言って貰ってそれから、もっと頼ろうと思ったらしいですよ。」
と私が伝えると、
「はあ?なんでそんな――。僕が言ったのは、若い頃に一人怖い上司がいて、よく怒られていたという話と、書類整理の仕方を、上司からこんな形にすれば楽だと教わったって話をしたんだよ。」
と、かなり声を荒げています。何か誤解があったようですが、私にきつく言われても、私は当事者ではないので、知りません。
「そうですか。それについてはご本人と話し合ってください。」
小山さんは、そうだなというと、コーヒーを一口飲み、落ち着きます。
「話が、逸れたが本題だ。話す気になったのか?」
私は、首を横に振ります。
小山さんは、それを見て
「そうか、身辺の捜査を――」
と話し始めますが、私はそれを遮るように言います。
「いえ、私自身が理解できない部分もあるので、全て話すことは出来ませんが、誤解は解くつもりです。」
と強く宣言するように言います。
「そうか。ならば、その誤解をどのように説くのか、確認させて貰おうかな?」
小山さんは、ニコッと笑います。
そして、小山さんは疑問を訊ねてきます。
「まず、君の妹さん達は誰の子で、本当の年齢いくつなのか?どうやって、戸籍を作ったのか?」
私は、私の知る限りの全てを説明するつもりです。理解して貰えるかどうかは二の次で。
「その前に、この話調書とかに残るのですか?」
私が訊ねると、小山さんは、
「今日は、僕はオフなんだ。だから、よほどのことがなければ、残さないつもりだよ。後は、この言葉を君が信用するかどうかだけだ。」
これも、きっと小山さんの脅しです。こうやって、私を精神的に揺さぶり、本音と嘘を見抜くでしょう。この人マジやばい。
「分かりました。一つだけ私から言っておきますが、私も【神に誓って】嘘はつきませんが、小山さんが嘘だと言っても、信じてくださいとは言いません。小山さんが信じるかどうか、調書に残すかどうかも全て小山さんにお任せします。」
と、一応小山さんと同じ手段で揺さぶっておきます。
「そうか分かった。」
小山さんはそう言うと、私は一度頷いて、深呼吸をしてから答え始めます。
「では、妹達、まことぬいの正体です。彼女たちは、神様のお遣い童です――」
小山さんはそこで、
「はっ、あぁ?」
と間の抜けた声を上げますが、私は構わず話を続けます。
「――年齢は、数百歳以上だと思います。そして、私はある神様からこのネックレスと一緒にまことぬいを託されました。」
私は、胸元からいくら外しても、店に入ると胸元に装着されるのろ・・・ごほん、加護のネックレスを取り出し見せます。
「戸籍は妹達を託してくれた神様が、準備しました。どうやって準備したのかは分かりません。私も、妹達が警察署のお世話になった日に初めて、戸籍のことを知りました。」
小山さんは、当初何言ってるんだこいつという目で見ていますが、後半、警察の件は考えるような仕草をしていました。そして、暫くの沈黙がやってきて、小山さんは、私を見つめて、私が嘘を言っているかどうか、探っています。
・・・・・・
小山さんがやっと口を開きます。
「そうか、とりあえず信じるかどうかは別として分かった。じゃあ、次だ。君のいう神様ってのは誰のことだ。危険な宗教か何かか?それから、君にその子達、わらべを託した理由は?何が目的の組織か?後は、どこで知り合い会っているのか?ぐらいか?」
私は、淡々と答えます。
「神様は、私達が神社などでお祈りする神様。私も最初はそう思いましたけど、宗教団体等ではありません。童は私を神様達から守るという名目で、託されました。活動目的は分かりません。きっと、世の中を見て楽しいことでも探しているんだと思います。出会ったのは、この店にお客としてやってきました。あ、小山さんも何度か会ってますよ。あの店に居座る変態もその一人です。」
私は、ここでお茶をちびちび飲みながら、小山さん姿を、見ています。
小山さんは、もう頭を抱えています。もし、漫画のように小山さんの頭を抱えるシーンに、オノマトペを付けるなら、「ぐぬぬぬ」という感じでしょうか?きっと、私は相当な電波さんで、つかみ所が無いのです。もしかすると、事件になる前に、精神病院に連れて行くことも考えてと思われているかもしれません。
おっ。復活しました。何か、額に汗がにじんでいます。予想の遙か上でしかも、変態なお客さんまで、神様扱いしたのでもう突っ込みたくて仕方がないはずです。でも、先に信じるも信じないも小山さん次第と伝えているので、突っ込めないのです。
ごほんと一度咳払いをします。
「君の妹が一人消えたのは、なぜなんだい」
と一言。埒があかないと思ったのか、巻きで行くようです。
「ぬいの前の神様が、神様の世界を追放され、ぬいに恨みをもって消しにきたからです。神様の世界に戻れば、手出しが出来ないので、そうしました。」
と私は答えます。
小山さんは、そのまま質問を続けます。
「最後に3つ質問だ。この内容で、本当に信用を得られると思っているのか?もし、そう思っているなら、何か証拠はあるのか?最後に、いろいろと大丈夫なのか?だ。」
私は、最後の質問の意味が、動揺を示しているのだと思います。最後はなんて答えればいいんでしょうか?
「ええと、信用を得られるつもりかと言われても、事実ですから、信じて貰えなければそれまでかと思います。ただ、もし私が小山さんの側なら、私は信じません。病院送りです。証拠は、このネックレスを使えば分かります。また、まこの能力をお見せすれば、理解戴けるかも知れません。3つ目の質問は、意味が分かりません。では、2つ目をお見せします。ちょっとついてきて貰えますか?」
と言うと、私は立ち上がります。小山さんも立ち上がり、母屋の居間の方へ向かいます。
まこが、居間ではふて寝から、そのまま寝込んだと思われるまこが寝息を立てていますが、それは放置して、「どうぞ上がってください」小山さんを居間に上げます。
私は、ネックレスを外すと、小山さんに渡します。
「それをしっかり握っていてください。」
というと、私はお店の方に戻ります。するとネックレスは私の胸元に戻ります。
小山さんの声が聞こえます。
「どういう仕掛けだ?」
という声とともに、居間の方から小山さんが顔を出します。
私は、
「分かりませんが、このネックレスはお店の中では、外すことも出来ません。お店の外では外せますが、お店に入ると、私が装着していなくても、私の胸元に戻ってきます。押田雲巧のイリュージョンではありません。もう一度やってみますか?」
と私は、居間に戻って今度はちゃぶ台の上に置いて試します。最終的に、小山さんが、ポケットにしまってみたり、私から見えない場所に持っていったり、家の外や店の前に持ち出して試してみましたが、結局全て私の首に戻ってきました。
どうも、そんなやりとりを15分ほど続けたあたりで、小山さんも納得したくないけど、納得されたようです。ちょうどその頃にまこは目が覚めたようで、お店の方に下りてきました。
「お姉様。ごめんなさい。寝てましたですー。」
まこが、下りてきたことで、私はまこに収納と変化と強力を小山さんにお見せすることにしました。
「まこ、ちょうど良かった。小山さんに神力を見せてあげたいんだけど良いかな?」
というと、まこは
「やるですー。何を見せますかー」
と嬉しそうに飛びついてきました。
とりあえず、小山さんに顔だけ変身、私に変身、小山さんを私の顔に、私の顔を小山さんの顔になどの変化を見せて、収納からまこの衣装やおもちゃを取り出してみたり、強力を使って小山さんを椅子ごと持ち上げてみたりしました。
小山さんは、今私の目の前で、先ほど以上に頭を抱えています。信じられないけれど、信じない訳にはいかない。でも、やっぱり何か種のあるマジックに見えて、怪しいという感じでしょうか?
そして、小山さんはやっと、質問を再開しました。
「それで、先ほどの3つ目の質問――これは誰かに話しても大丈夫なのか?」
そんなこと、今更聞かないで欲しいです。小山さんが聞きたいって言ったんじゃないですか?
「小山さんが信用してくれないって言うから、私は考えに考え抜いて、決めたんですよ。それなのに、大丈夫ってどういうことですか?」
と、攻めてみます。
「いや、すまない。」
「今回小山さんに話したことは、私の責任になりますけど、小山さんが他の人に広める場合は、私の責任ではありませんので、小山さんから神様の了承を得てくださいよ。お願いしますね。」
と私は、うまく小山さんの口止めを行います。
その後、小山さんに神様の話を暫くした後、小山さんはしっかり食したケーキ代とコーヒー代を「高っ!」と言いながら払って、帰っていきました。
私にとって、神様の秘密を共有する最初の仲間をめでたくゲットしました。しかも、公権力です。でも、これは私からすればサイドストーリーの話なんですよね。ぬいと前の神様が罹っている病、邪なるものの問題が解決したわけでも、伯母さんや伯父さんとの関係が回復した訳でも無いのです。次は、伯父さんと伯母さんを、同じ手で引き込まなければ、と私は決意するのでした。