過ごす日数より、共有した情景が別れを辛くします。
朝食は一人除け者にしたい神が居ますけど、4人と1匹で食べないと、きっとあの神様は拗ねます。
昨夜は遅くに寝ましたが、今日はスッキリといつもの起床時間よ早くに目覚めました。
朝食の準備に、卵サンドと野菜サラダを作ります。今日は、出来ればお昼過ぎには、童達を、神域に預けようと思っています。
「ふわぁ~。おはよう、姉貴。今日早くね?」
「お姉様、おはようございますですー。いつもより早いです。」
ぬいとまこがパジャマ姿で起きてきました。
「おはよう。二人とも、顔洗って、クシさんを起こしてきて。」
「ハイですー。」「了解。」
二人はドタバタを顔を洗いに行きます。そして、洗い終わったのか、
「クッシーおきろぉ」「起こしに来ましたですー」
と奥の方から大きな声が聞こえてきます。
私は、クスクスと笑いながら、朝食の準備をします。一瞬、胸に痛みが走ったような気もしましたが、気にせず、まこが好きな童謡を鼻歌で口ずさみながら、支度をするのでした。
クシさんは朝が苦手なようです。まだ寝かせて下さいということで、結局私達3人とミイで朝食は済ませました。食後は、掃除や洗濯をして、家を出ます。
今日は、臨時休業の張り紙をしてから、二人を連れて、初めて、歩いて昼間の街を散歩することにしました。そういえば、ぬいやまこが来る前も、私は、お店のことや、なくなった祖母の遺品や書類の整理ばかりしていて、歩いて散歩なんてしていませんでした。殆どこちらに帰ってきてからは、会社の退職金を叩いて買った、中古車での移動でした。向こうでは車も、レンタカーやカーシェアリングで時々乗るぐらいで、ほとんど歩きと、公共交通機関で当たり前の日常でした。こちらでは本当に久しぶりで新鮮です。
今日も、ミイはお留守番です。
二人を連れて参道の先にある神社にお参りします。500円玉を3枚、太っ腹でしょう。ハナさんに店に来る度愚痴られていますからね。ただ、このはミチさんを祀った神社なので、ハナさんには、ハナさん向きの、お祈りだと、ハナさんがたまたま通りかかれば、貰えることがあるとか。それと金額が大きいのは、もう一つ、大事なお願いがあるからです。叶えて貰えるかは、神様毎で異なる基準があるようなので、ミチさんが叶えてくれるかは分かりません。
神社の山手東側にある公園で少し休憩です。まことぬいは遊具で遊ぶのが初めてなので、楽しく遊んでいます。私も暫くは、ブランコで二人の背を押したりしていましたが、疲れて休憩です。今日は天気もよく暑いのです。自動販売機で買ったペットボトルのお茶を飲みながら、二人をベンチに座って見ているだけでも、暑いのです。
暫くすると、ぬいは一人私の所に戻ってきました。まこは、まだ一人遊んでいます。
そして、私の隣に座ります。私が、ぬいにもう一本のジュースをぬいに見せますが、
「いい」
と答えます。
「姉貴、ごめんね。」
と、ぬいが言います。いつもと違い丁寧な言葉遣いで、雰囲気も何か自然で違うような気がしました。
私は、軽く睨むように怪しいと目を細めて
「何?何か私に隠れていたずらでもしたの?」
と問いかけます。
「私、姉貴の言うとおりにするから、でもまこは姉貴の側に置いてくれよ。」
と答えにならない答えを私に告げました。私は、
「何言っているのか知らないけど、ぬいも私の側に――」
「判るんだ。私、神力でさ。姉貴の心も・・・・・・」
と私に言います。
「まさか私の心をずっと読んでたの?だって縛られてるんじゃ?」
「べー。」
と、ぬいは舌を出して、逃げていきます。騙された。こいつ、最初から填めてやがった。私は、コラーッと追いかけます。そんな様を見て、まこが、
「追いかけっこですー。私も仲間にいれてですー」
といって、ぬいと一緒に逃げ回ります。
そんな、午前の一時を過ごしました。
私は、家に帰るみちすがら、ぬいとまこに、これからのことを話します。
ぬいは、自分が神域に戻ることを、了承しました。しかし、まこは私の側に居ると言って、絶対に折れず、家路につくのでした。クシさんは、その状況をみて、
「それで、童の一人が拗ねて寝室のカーテンに丸まっていて、オーナーはそれを説得中ですか?完全に兄弟というか、お母さんですねー。やっぱり、私が見込んだだけのことはあるわー。見ていて飽きないですよ。うんうん。」
と言っています。何か、無性にイラッとするのです。この人。
私が、「縛ってお別れはいやなので、クシさんも説得手伝って下さいよ。」
と言うと、クシさんは、
「私は、ぬいだけで大丈夫だと思いますよ。邪なるものは過去に囚われているので、記憶も曖昧みたいですから。ぬいがいなければ、危害はないでしょう。」
エッ。何故昨日教えてくれないのです。そんな大事なことと私が問うと。
「調べるの苦労したんですよ。私も知ったのは、今朝ですから。撫でてくれても結構ですよ。それとも、私がオーナーを撫でても良いですか?」
と、後半がちょっと気持ち悪いですけど、朝眠いからと言っていた理由が分かりました。朝まで邪なるものを、調べていてくれたようです。これで、変態モードがなければ私の中の神様ランキングNo.1間違いなしなのですが、如何せんこの人、今も気持ち悪い目つきで、私を見ています。
「駄目です。」
蔑んだ目も可愛いとか、言っていますが無視です。私は、ぬいが今も説得中の、まこがくるまれたカーテン。カーテンにくるまったまこの側に言って、まこはウチに居て良いと、伝えるのでした。
そして、お昼ご飯を食べたら、気持ち悪いのでクシさんに出て行って・・・・・・もとい、ぬいを暫く神域に戻して欲しいと伝えました。クシさんは、
「私が担当になるかは分からないけど、いいですよ。」
と了承してくれました。
さて、お昼ご飯は先ほど決まりました。
まこを説得したり、朝食前にクシさんを起こしたりといった功績を称えて、ぬいのご褒美シールブックに2枚のシールを貼り、ブックを完成させ、ぬいは(包装が)豪華ハンバーグセットです。
まこにも1枚貼りましたが、まだ20枚ほど足りません。まこはお預けです。ハンバーグはぬいがウチに来てから、これで3回目です。
そして、クシさんはお店の方で待ってあげると言って、遠慮してくれました。
私とぬいとまこそして、ミイは3人+1匹でランチを楽しみます。といっても、ぎこちないです。
何か、お葬式みたい?いや、祖母のお葬式の後でもこんなに暗くありませんでした。こんな時に暗く考えるなんてダメダメです。大人の私が盛り上げないと……。
私は、笑顔でぬいのハンバーグランチを用意します。私とまこは、昨日の残り物です。
「ぬいは、暫く家のご飯は食べられないから、特別だけど。美味しい?」
私が、笑顔で言うと、まこが
「食いしん坊なぬいには、ハンバーグはぜいたくですー」
と、いつもならぬいが怒るような、一言を浴びせます。するとぬいは、
「悔しかったら、まこもシール全部集めてみろよ」
と、挑発します。
「ぬいは、最後の二枚がずるいですー。ねえねえ、お姉様、まこのご褒美もハンバーグですー?」
私は、まこのしゃべりを真似て、
「さあ、それは全部集めてのお楽しみですー。」
と答えると、ぬいは
「なんだよそれ、私もまねするですー」
とまこ真似で答えます。
「う~。みんなにてないですー。まこの真似はやめるですー」
と、ほっぺを膨らませます。
そんな、今では日常となったやりとりをしながら、食事の時間が過ぎていきます。
ほんの一ヶ月も前まで、私は昼も夜も一人でテレビを見ながら、時にパソコンやスマートフォンを操作しながら食事をしていました。そこに神様である直君が、まことぬいを授けてくれて、まこがみいを連れてきて、まことぬいが家出して、居なくなったと喜んだら警察から電話があって……あのときは、二人が居なくなることを喜んだのに、今はぬいが居なくなると思うと、胸が熱く苦しくなります。まこが残ることが心強く嬉しく思えます。私の斜め向かいに座るまことぬいが、いつのまにか私を心配そうに見ています。
「あれ、何でだろう」
ことが終わるまで暫くの間の話ですが、何故かまこの顔がにじんでぼやけて見えます。熱いものがこみ上げてきます。まこが、私の左そばに寄ってきて
「お姉様、まこはずっとそばにいるですー。ぬいの分も頑張るですー」と言います。
ぬいが右側によってきて、
「姉貴、私も必ず帰ってくるから。」と言います。
私の膝の上にミイが座り、「にゃあ」と励まします。
私は、妹達を強く抱きしめました。ぬいもいつの間にか泣いていて、私とぬいの涙が止まるまで、まことミイが寄り添いまこが私達の頭を撫でてくれるのでした。
そして、食事を終えてから、ぬいはクシさんとともに、店から去って行きました。
まこが去ったあと、食後、私がお皿を洗っている時、ぬいが、隣でお皿を拭きながら
「今日のハンバーグより、姉貴の作ったハンバーグの方が美味しかった。」
という言葉が、頭の中で何度もリピート再生されるのでした。
その日の夕食は、まこがいつも以上に元気でしたが、ぬいが居たときよりもべったりで、夜、寝付くまで私から離れませんでした。
そして、寝付いてからは、いつものように、みいに話を聞いて貰ったのは、まこにはないしょです。
この日から、喫茶店あおばは2人+1匹から、2人+1匹になってしまいました。
まあ、翌日からは泣いて居られない問題がいくつもあるのですけどね。