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目に見えない絆があるほど人は、失うのが怖くなります。

邪なるものというのは、神様の病気だそうです。しかも、一度掛かるともう治ることはないそうです。

「もし、邪なるものに掛かると、どのぐらいで最後がやってくるんですか?症状は?」

私は、クシさんにたずねます。

「私も、実際に見たという人は初めてよ。そもそも、私も会ったことはないのよ。たいていは、邪なるものになる前に消えるし、彼らは神域には入れないから――何か、よほどのことがあったのね。」

邪なるものは、神域には入れないそうです。その理由をたずねると、神でもお遣いでもないからだそうです。私達が、神社などのお社に行っても、神域の入り口が見えないのと同じことのようです。だから、邪神でもないのです。神という言葉が既に抜け落ちて、よこしまなものになっているということらしいです。

それから、少し脱線する方向になりましたが、私はもう一つ以前から訊ねたかったことをこの機会に聞きました。神様や童の寿命(最後までの期間)です。だって、クシさんだってなるかも知れませんし、どのぐらいなのかたずねました。まことぬいが急に消えても困ります。

「童は成長しないし、何千年と存在する神様もいるとか他の神様にも聞きましたけど、その辺りはどのぐらい生きるというか、存在できるかご存じですか?」

クシさんは、

「あらっ、話が飛んだわね。まあ、良いわ。童は童であることを望み、望まれる間は成長しないわ。ただ、望まれれば、変わる事もあるけど。いくつか条件があるから、ぬいやまこは無理ね。一つの条件が神域にあるの。だから、この2人はここに居る間は、ずっと童よ。それから、神様の存在期間だけど、あなたが知っている神様は、1万年前にあなたのご先祖様が崇めていた神様と同じだと思う?ミチさんがそうでしょう?」と言いました。

そうか、ミチさんは、元々人だったんだ。自分は神様なんかじゃないと言っていたし。

「私達神は、あなたたちが神様として祀っているか、または居て欲しいと望まれているから神様でいられるのよ。もし、人々が神様と認めなかったり、神様とは別のものだと言ってしまうと、私達だって神様じゃ無くなったり消えることはあるわよ。そうね。その前触れが神様の病気よ。で、邪なるものっていうのが、ぬいちゃんの元の神様に付けられた病名ってこと。」

クシさんは、まこの隣私の正面に座って、

「それで、問題は何故邪なるものになったか原因なんだけど、何がきっかけでなるのかまでは私は知らないのよ。私も見たこともないし、なった神の話も私は知らないのよ。普通は忘れられた神は、神力を失いながら穏やかに消えていくだけらしいから、私も何人かの神様が消えたという話は知っているけど、その辺りを知っているのは、同じ邪繋がりの神様、邪神とか?かしら。あの人長いらしいし。私は2回ぐらいしかあったことないけど。」

と、少しほほえんで云いました。

「それで、私達は、これからどうすれば良いでしょうか?きっとまた来ますよね?」

私が、クシさんに質問すると、

「そうね。お目当てのがいるんだから、来るでしょうね。そして、次がどうなるかは分からないわね。」

とぬいの方を見て云います。私は、クシさんに

「何とかなりませんか。クシさん。倒す方法とか、ぬいやまこを守る方法とか?」

と聞くと、クシさんは少し考えてから、答えてくれます。

「オーナーが望むなら、一つあるわよ。」

私はクシさんの言葉を聞いて、飛びつきます。

「教えて下さい。」

クシさんは、ニヤリと笑って答えます。

「神域に童を連れて帰ります。オーナーが許可するなら、状況が好転するまで、連れ帰って保護できますから。」

私は、クシさんの言葉に唖然とします。まだ一ヶ月ですけど、やっと慣れてきた途端に、ぬいとまこを連れ帰られては困ります。でも、次は3人とも命がないかもしれません。でも、やっと慣れてきたのに、今抜けられては困ります。私は、他に方法はないか確認します。

「他に・・・他に方法はありませんか?武器とか、神力とか、バリアとか?何か――」

少し、声を荒げてしまいました。周囲の空気に気が付きます。

「お姉様・・・・・・大丈夫ですか?」

まこが、私の動揺に気が付いたようで、心配そうな表情で、私を見ています。

「・・・だいじょうぶですよ。まこ。ごめんね。」

私は何故か、まこの顔を見て謝ってしまいました。

クシさんがハァと大きくため息をついてから云います。

「私も、邪なるものがどういう存在か知らないのよ。神なのにね。ただ、邪なるものは神の領域、神域には入れない。だから、一時的に守ることが出来るわ。別にオーナーから取り上げる気もないわ。それに、なおびもそれを許したりしないことぐらいは知っているわ。もちろん強制もしないわよ。オーナーが嫌がることも、童が嫌がることもするつもりもから。」

私は、それを聞いて頷きます。

「少し考えさせて下さい。」

クシさんは、

「良いわよ。ここに泊めてくれるなら、明日の夜まで待ってあげる。3人で考えなさい。私も気分転換できるし、良いでしょう?」と云いました。

私は、「分かりました。」と答えて、その日は仕事を切り上げます。

それから、伯母さんに電話して、明日はお店を臨時休業にすることを伝えました。


クシさんは、一階の一室に泊まって貰うことになりました。普段で「やっと念願のお店に泊まれる~。一つ屋根の下。ウフフ。一緒のおふろ」なんて言われたら、どん引きで追い出すのですが、今回の私は全く別のことを考えていたため、それどころではありませんでした。

その日の夜は、静かに更けて行きました。少しまことぬいが、寝る前に怯え私がついていないと眠れかったことと、深夜に起きて来たことを除けば、髪を撫でながら寝付くのを待ちました。



2人が寝入った後で、私は居間で6缶目の缶ビールを飲んでいます。何も音がないのは、昼間の恐怖を思い出してしまいそうなので、ラジオをボリューム最小にして点けています。

私の膝の上ではミイが目を閉じて座っています。この1ヶ月でミイは、夜、私の愚痴に付き合う仲になっていました。何かするわけでもなく、ただ私の横の座布団に寝ているか?それとも、私の膝に来るかどちらかです。時々鳴いてくれます。

いつも、ビールは1缶で終わるのですが、今日は止まりませんでした。

僅か1ヶ月でまことぬいが、私の元から居なくなること、消えるかも知れないことに恐怖している私がいました。1ヶ月前に、邪なるものが来ていたら、きっと私は2人を助けなかったでしょう。そして、今の仕事のことを考えて、今回も店に残したかもしれません。


身を挺して庇うとき、あの子達2人を失うのが自分が死ぬよりも恐ろしい、苦しくなると咄嗟に思ったのです。

「ミイ、居候って言ったけど、まことぬいが居なくても、あなたは一緒に居てくれる?」

私は不意に口から出た言葉に、余計に自分が情けないと感じます。

「ニャー」

と、鳴き私の膝から離れました。やっぱり都合が良すぎるよね。


ラジオから声が響きます。

ラジオネーム「今夜は新月」さんから、2ヶ月前職場の先輩が会社を辞めて実家のお店を継ぐと、退職されました。私は学生時代は根暗でオタクで少し変わっていたので、皆、私のことを避けていました。でもこの先輩は、私に皆と同じように接して、話を聞いてくれ、私の居場所を作ってくれました。2ヶ月立経って先輩の大きさを痛感しています。でも、ご家族をなくして、一人頑張っている先輩の方がきっと大変だと思います。私や先輩や新しい環境に戸惑うみなさんにエールを送るために、この曲を選びました。曲は水瀬いのりさんで、いつもずっと。


私は、その夜、クシさんに童を預けることを、決めました。


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