祖母の入れたコーヒーにはいつも砂糖が4個入っていました。
一体何が起こったのかは分かりません。目をつぶり、次に目を開けたときに、神と名乗った男の人は消えていました。本当にそんな人が居たのか?それとも、幻だったのか分かりません。ただ、今でも鳥肌が立っており、ぬいは恐怖からかしゃくり泣いています。まこは、震えています。私も腰が抜けたのか、立ち上がれません。庇った状態で動けず、二人も怖くて動けないようです。
まだ、近くに先ほどの男がいるのではないか?そういう潜在的な恐怖心が私達を支配していました。
その時、カランコロンと店のドアベルが鳴ります。私達は、再び、男が来たのではないかと、身構え、ビクッビクッと震え上がります。
「ごめんくださ~い~♪。あれっ。お留守ですか~♪。」
この声は、
「くじざぁ~ん~」「ぐじ様ー」「クッジぃー」私達は、一斉に鳴き声を上げます。ここだけの話ですが、クシさんの訪問を最初から歓迎したのは、今回が初めてです。
クシさんは、
「あれあれ、どこですか~。かくれ~ん~ぼですかぁ♩。」
と言いながら、私達のことを探し、厨房で抱き合って泣いている。私達を見つけて、
「あらあら、もしかして皆さんは、雷と停電が苦手さんなんですか?クスクス。」
と、笑われました。ただ、
「でいでんじまじだげど。」「がびなりじゃないでずー」「がびざばぁがー」
と、泣いている私達を見て、その後周囲に何か気配を飛ばし、悟ったのか?真剣な顔で、私達から一端離れ、入り口の方へ行きます。
私達は、「「「びがないでー」」」と叫びます。
外の看板を閉店に掛け替え、扉の鍵を閉めて戻ってきてくれたようです。
それから、私達を立ち上がらせます。ぬいとまこはすぐに動けましたが、私はまこの強力で助けられながら、テーブル席に腰を下ろします。
停電は今し方復活しました。ラジオの声が響きます。
パーソナリティ:今日はゲストの方にお越し戴いております。
ゲスト:レベルアップ記念で来たの。レベルが2に上がったの。
パーソナリティ:それは、おめでとうございます。
ゲスト:ありがとうなの。うれしいの。
パーソナリティ:後のなのがつくのは何かあるのですか?
ゲスト:毎回、しゃべり方は変える予定なの。変えると、皆が考える顔のイメージが変わるの。そうすると、物語は楽しくなると思うの。
パーソナリティ:作品のこれからについて教えて下さい。
ゲスト:分からないの、最初に、一話と結末を書いたの。15分ぐらいで書きあげて、校正も殆どしてないの。でも、その後の話はかなり校正したの。4回ぐらい校正して、辞書とか実際の法律とか、調べたの。敬語は、ビジネス敬語の本と経験を参考にしたの。そうやって、現実に近づけているの。それでも、後から穴は見つかるの。暖かい目で見て欲しいの。
そんなだから、これからは未定なの。結末は、決まっているから、主人公の成長ものなの。あと、この作品は番外編なの。この作品次第だけど、もし完結まで息が続いたら、本編シリーズに何かが繋がるの。2回読みたくなる作品を目指してるの。でも、本編は全然進んでいないの。
パーソナリティ:後書き前書きを使って紹介しないのですか?
ゲスト:本編に出演して、執筆レベルを上げるの。これからも、時々そうするの。これも「こせい」なの。
パーソナリティ:今日はありがとうございました。
ゲスト:ありがとうなの。
クシさんがお店のラジオを切ります。
「落ち着きましたか?3人共。しかし、本当にこうやって見ると、3人姉妹みたいですね。」クスクスと笑いながら、クシさんは言います。私の顔が熱くなりうつむくことしかできます。
私達3人は、泣きはらした目で、クシさんが入れたコーヒーとお茶を飲んでいます。この人、この店のコーヒーやお茶の入れ方を既に完璧に覚えていました。しかも、私の入れ方ではなく、おばあちゃん方式の懐かしい味です。一口飲んだ時に、別の意味でまた泣きそうになりました。ストーカー神様ではありませんでした。
「落ち着いたようなので、そろそろお話をしましょうか?」
今のクシさんは、いつものぽわぽわオーラがありません。初めて会った時のような、優しく、凜々しく、頼りがいと抱擁感(大きな胸という意味ではありません。)のあるお姉さんオーラを感じます。
「雷が怖かった訳では無いのですよね。」
私達は頷きます。
「それじゃあ、黒い艶々した昆虫ですか?あれは確かに沢山出てくると、私でも、悲鳴を上げてしまいそうになります。ここはお店ですから、出てくると風評とか怖いですよね。それですか?」
と、現実的な路線で、怖いことを言われます。いや、だいたい飲食店の倉庫とかには、Gがいます。私が知る限り、あのお店も、このお店だって。こういうのは、バックヤードが見えるか見えないかと、程度の問題です。夏場はお休みの日など定期的に殺虫剤で燻蒸しても、全滅させるのは難しいのです。奴ら億年単位で子孫を繁栄させてきましたから。だからお客さんは知らぬが仏なのです。しかし、その話ではないので、私達は、頭を振ります。
「じゃあ???はて?なんでしょう?」
と首を傾げます。だんだんと、ぽわぽわモードが戻ってきているような気がするのは、気のせいでしょうか?
そんなとき、ミイが居間から出てきました。
「にゃあ」
「ミイさん。説明してくれるの。何かあったのですか?」
クシさんは私達の頭を撫でながら、ミイに訊ねます。
「みゃあ、にゃあ」
ミイが何か答えます。ここからはクシさんとみいの掛け合いです。
「ふむふむ」「みゃあ」「ハイハイ」「ニャー」「お、それは」「ニー」「なんとそんなことがそれで」「ミャー」「なんと」「みゃあぁ」「う~んそうですか?分かりました」「にゃー」
私達には、ミイが何を言っているかは分かりませんが、クシさんは分かったようです。私達は、いつの間にか怯えを忘れ、クシさんの凄さに、驚きと羨望の眼差しへと変わります。
クシさんが笑顔でうなずきながら、言います。
「そうですか~そうですか。ではそのように……」
クシさんが、みいから話の全容を聞いたようで、クシさんは何度も頷いています。
私でも、ミイが何を考えているか等分かりません。ミイは私の言っていることが、分かっているような気もするので、私に伝えたいことがあると、教えようとはしてくれるのです。でも全部は分かりません。だから、私も、まこも、ぬいも、クシさんを羨望の眼差しで見ています。
「凄いですー。」
とまこが、云ってぬいとわたしも頷きます。
クシさんが口を開きます。これからの対策を話し合おうみたいなノリでしょうか?
「やっぱり、何を言っているのかわかりません。ということが分かりました。」
と、壮大なぼけを噛ましてくれるのでした。
「クシさん。」「クシ様ぁ」「クッシー」
私達3人の呆れた顔に、クシさんは
「あら、みなさん変な顔ですよ~。でも、先ほどよりはお元気になられたようで~。」
と笑顔でほほえむのでした。
確かに、先ほどまでの恐怖心や、不安感など諸々のものは綺麗さっぱり消えていました。
泣きはらした目元も、まこもぬいも、元の状態に戻っているような気がします。
これが、ストーカ……慈愛の神様の力なのかも知れません。
私は、私達を消そうとした、ひょろっとした男性神様の話をします。
「そう、それで、あなたに手を触れようとしたとこで、男が消えたと。そういうこと?」
クシさんが、あごに左手を当て、右手にコーヒーカップを持って、私達の座る席の周りをうろうろしながら、確認してきます。
「そうです。私がもう駄目だと思って、目をつぶった後、目を開いたらその人はいませんでした。」
まこやぬいも目をつぶっていたようで、目を開けたら、消えていたと云います。
クシさんは、
「分かったわ。じゃあ次は、ぬい。あなた何か私達にお話はないですか?」
とクシさんは、ぬいの前で立ち止まり、ぬいの目線まで屈んでから優しい声で言いました。
ぬいは、そう言われてびくりと肩を震わせましたが、何か覚悟したかのような顔をして、小さな声で話を始めました。
「姉貴、まこ。あれは私の(遣えた)最初の神様なんだ。」
それに、驚く人はいませんでした。ぬいの神様だろうと私達も分かっていました。
「それで・・・・・・」
ぬいは、何か葛藤しているようです。私は、椅子をぬいの側に寄せると、右隣に座っているぬいの肩に手を回し抱き寄せ、背中をさすります。少ししてから、
「姉貴、大丈夫だから・・・・・・」
といって、ぬいは私から離れ、話し始めます。
「私は、あの神様の元で生まれて、ずっと長い間働いてきたんだ。最初は誰にでも優しい神様だったんだけど、いつしか神様は、自分の言うことだけを聞けっていうようになったんだ――」
ぬいは、優秀な童だっただけではなく、昇進欲も強く、さらに神様への忠誠心も他の童より高かったようです。そのため、童上役一等まで上り詰めることができました。しかし、神様は徐々に荒んでいき、他の童やお遣いは、神様の元を離れていきました。一部のお遣いは、消されてしまったものもいたようです。
そんな中で、最後まで、残っていたのがぬいだったようです。神様が悪に染まっていく中でも、ぬいは最後まで尽くそうとしました。しかし、仕えていた神様の逆鱗に触れてしまい。童上役一等の役割を解任される事態となりました。そして、その神様の神域を追放されます。童上役一等とぬいは言っていましたが、それはぬいが階級を誇りに頑張り、神様の心変わりで失ったからでしょう。そして、その時のぬいにとっては、肩書きを失うことがきっと怖かったのでしょう・・・・・・?うん。そうでしょう。きっと。
それが結果的にぬいの立場をより悪くしました。ぬいは、立場を失ってからも、神様や童長など童上役一等の立場から見た上司の言うことしか聞かなかったと考えれば頷けます。その結果、ぬいは童としての神域での仕事を失いました。暫くの冷却期間をおいた後、私の元へと送られてきたそうです。私は、クシさんにぬいがここで頑張れば、童上役に戻れるのか質問しましたが、答えはNoでした。上がれても、上役にはもうなれないそうです。ぬいがここにやってきた秘密が見えてきました。
ぬいは、先ほどよりさらに、しょんぼりと落ち込んでいます。私達を巻き込んだとでも思って、後悔しているのか、それとももう元の役職に戻れないことを、悲しんでいるのかもしれません。
「邪なるものですね。」
クシさんの言葉に私とまこは、聞き返します。
「よこしま?」「なる?」
「邪なるものです。」
私は、聞き返します。
「何ですか?邪神ってことですか?」
クシさんは首を横に振ります。
「邪神という神様は神様として存在しますよ。とても神としては有能な方です。」
クシさん曰く、邪神は邪悪な神ではないそうです。厳密には邪悪なお願いを集めて、叶えられそうなら叶える担当の神様?みたいな神様です。どういう基準で叶えるかって?このノリでは聞けないので、また今度機会があったら誰かに聞きますよ。クシさんの説明する邪なるものの話に戻ります。
「邪なるものは、人で云えば病気のようなものよ。」
「神様にも病気はあるんですか?」
私の問いに、クシさんは少し柔和な顔になり答えてくれます。
「そりゃあありますよ。神様にも私にも、病気も最後の日もあります。もちろん、あなたの妹達にもね。」
私はクシさんの最後という言葉に違和感を感じました。
「最後?って死のことですか?」
「人で云えばそうよ。そうか、最後の意味。そうね。私達には死という概念はないから、貴方たちは生死があるけど。私達は命を紡いで生まれるものではないの。童も、私達も、最初から目的を持って生まれてくるのよ。そうねこの世界で言えば、貴方たちが生み出す道具ね。最初から役目をもってそれだけを遂行するために生まれてくる。でも、死はないの。壊れるか、消えるか、止まるか?そういうもの。だから、最後なのよ。分かったかしら?」
私は、頷きました。