AIな妹・逢(あい) その3 922字
今日は珍しくAIの妹が不機嫌そうにしている。
昨日の夜にAIと一緒に見た、恋愛映画。
映画のオチは伏すけれど、僕たちには大変、不評だった。
『なんなのあの尻軽女! ありえないありえないありえないありえなーーいっ!』
「まぁまぁ……」
僕はAIの妹・逢をなだめすかした。
……僕たちの事情を何も知らない人から見ると、僕は手に持った掌サイズ程の携帯端末に向かってブツブツ独り言を呟くだけの孤独のせいで頭のおかしくなった寂しいオジサンにしか映らないだろう。
でも僕は20代。まだオジサンって歳じゃないよ。
僕は、純白のワンピースの裾を両手で掴んで、地面に向かってむぎぎ……と引っ張る携帯端末の画面の中の女の子の怒りを静めようと、何とか言葉を絞り出した。
……AIのご機嫌をとる人間ってのも、ヤバイよなぁ……。冷静に考えると。
「ネットで評判を見たらね、割と良作らしいよ? 【全太陽系が泣いた!】って、主に女性がコメントしてた」
『人間はよくても、AIが許さないよーっ! アロマゲドン・ビデオの評価に最低点入れてやるーっ! 【ちなみに書いてる私はAIです。】って名乗って!』
「AIの評価なんか誰も興味ないよ……」
アロマゲドンというのは世界最大手のネット通販会社で、他にも動画配信など様々な事業を手がけている。
アロマゲドンの経営陣が仲違いして解散したら、きっと多くのファンが悲しむ事だろう。
AIは僕の思考や嗜好を日々の消費行動からディープラーニングして、僕の好みに合った情報を選んで提供してくれる。
前もって予算を渡しておけば、僕がわざわざ選ぶまでもなく、僕好みのコンテンツを購入して蓄積しておいてくれる。
僕はAIに薦められるまま、それを消費するだけでいい。
先日AIと一緒に見た恋愛映画も、そうやって購入したものだ。……たまには失敗もあるけどね。
余暇の少ない社会人にはとってもありがたい存在だけれど、知らぬ間に個人情報が人工知能に利用されるのはどこか怖くもある。
『人間×AIは至高、人間×AIは至高、人間×AIは至高』
「あんまり迷惑な書き込みし過ぎないでね。……後で削除する僕が大変だから」
暴走してネット空間のそこかしこに持論を展開するAIを尻目に、僕は遅めのシャワーを浴びる事にした。