AIな妹・逢(あい) その0 677字
妹の四十九日が済んだ頃だった。
そろそろ部屋を片付けてあげなきゃねと、母に促されて。
僕は初めて、妹の部屋に足を踏み入れた。
僕と両親の住む県から車で約二時間。
首都に建つ高級マンションの一室に、妹の部屋はあった。
思えば血の繋がった実の兄妹のくせに、僕と妹とは随分と疎遠だった。
出来の悪い僕とは比べ物にならないほど、妹の逢は頭が良かったから。
地元の大学を出て、地元の中小企業になんとか滑り込めた僕とは違って、国の最上位大学に合格して情報処理技術、とりわけ人工知能の開発に没頭していた逢は、僕とはあまりにかけ離れた高い世界で暮らしていた。
住む世界の違いは、妹の部屋の内装にも顕著に現れていた。
まず目に飛び込むのは、天井まで届く高さの本棚。
アルファベット表記の難しそうな背表紙の本がずらりと詰め込まれ、この光景だけで教養レベルの高さが見て取れる。
でも部屋にはまるで女子大生らしい女の子の気配はない。
カーテンは元から備え付けてあったであろう、暗いグレー。
ベッドには最低限の寝具のみ。
……彼氏の服の一枚でも干してあったなら、僕たち家族は多少なりとも安心できたかもしれない。
でも、そんな気配は微塵も無かった。
きっと妹は、大学の研究室からこの部屋に寝るためだけに帰ってきたのだろう。
この部屋は、死に向かってただ突き進むための牢獄。
それが僕の印象だった。
不気味なほど生活感のないこの息苦しい部屋で、僕の妹は、二十余年の短い生涯を閉じた。
つづけるのがつらい