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AIな妹・逢(あい) その2 1867字

 独り身に金曜の夜は寂しい。

 僕は部屋の明かりを消し、ベッドの隣に座っていた。

 LEDの眩光だけが僕を照らす。

 僕は携帯端末(スマートフォンとも呼ぶ)をぽちぽち操作しながら同類を欲してネットを彷徨った。

 決まって時間を潰すのはこのサイト、【ひとり★ちゃんねる】だ。

 僕が頻繁に利用するこの匿名画像掲示板には、僕と同じような変わり者が寄り添い、集い、情報を交換し合っている。

 何とも居心地が良く、例えは悪いけど──まるで布団の中でおもらしをするような生温い擬似遊園地が日夜、催されている。


(ずっと疑問だったけど……僕と言葉を交わす画面の向こうの仲間達は、どんな身の上を持っているんだろうか……)


 僕はスレッドに掲載された、ちょっぴりえっちなイラストを携帯端末に保存しながら、当ても無い事を考えていた。

 そんな時──。


『兄貴! 映画見ない?』

「うあっ!」


 AIの妹、逢が急に現れた。

 僕が直前に閲覧していたちょっぴりえっちなイラストと同じポーズを取りながら、3Dイメージモデルで描画されたAIの女の子が画面の最前面に乗り出してくる。

 AI──人工知能で擬似的に再現された僕の妹は、この携帯端末の中に住んでいる。

 携帯端末のスピーカーから聞こえる声も、外見も、21歳の逢そっくりだ。

 このAIの開発者は血の繋がった僕の妹で、自分の人格を正確にAIに複製したらしい。……本当かな?

 妹の逢は頭が良く、とっても優等生なんだ。


『へー。兄貴って、こーゆーのが、好きなの?』


 ……その優等生(のコピー)が、画面の中であられもない姿を見せつけて来る。

 僕が先程見ていたイラストは、薄着の女の子が後ろを向いて、中腰になり、お尻をこちらに突き出しながら、顔を振り向き、『恥ずかしいけど、ちょっぴり誘惑しちゃおっかな……』とでも言いたげに、赤面して、はにかむ構図だった。

 ……自分で言ってて、何だか僕まで恥ずかしくなって来たぞ。

 そして僕のAIも、上は空色のタンクトップ、下は紺色のホットパンツ姿で、イラストと同じ姿勢になって、僕にお尻を振ってくる。

 腰振りに合わせてAIの長い黒髪を束ねたポニーテールも左右に揺れる。

 更に端末のスピーカーからは妙に色っぽい吐息が聞こえて来る。

 現実の僕の妹、逢なら絶対にしないような事を、このAIは平気でやってのけてしまう。


『……私、今ね。下着とブラ、着けてないんだよ……』


 比較的どうでもいい情報を僕に提供しながら、AIの妹は3Dモデルの頬部分を肌色から赤色に変えて、意味深に視線を逸らす。 


『……兄貴の、スケベ…………』


 調子に乗ったAIは小さな携帯端末の画面いっぱいにホットパンツのお尻のアップを見せ付けてくる。人工知能の誘惑だ。

 ──だけど、ここで僕が突っ込みを入れないと、このAIはどこまでも暴走してしまう。

 僕は硬くなりつつあった股間をズボンの上から手で押さえながら、何とか話題を変えようと試みた。

 ……余計な情報だけど、いちおうスクリーンショットは無意識の内にタップ連打して沢山撮影しておいた。


「と、ところで映画って、何?」

『あっ、見るっ? 見るぅ?』


 AIの興味が映画に移ったらしく、お尻を見せるポーズをやめて、通常の全身モデルに切り替わる。

 どうやら見事、話題の転換に成功したみたいだ。……失敗の積み重ねあってこそだけどね。


『んーとね、タイトルは……忘れちゃったけど、なんかね、人間の男の人とAIの女の子が恋愛する映画なんだって。くふふ……』


 AIの妹は両手で顔を覆って足をジタバタ水泳選手のように交互に動かす。もちろん携帯端末の画面の中で。


「へ、へぇ……。お、面白そうだね……。じゃあ見ようか。たはは……」

『オッケー。準備するね!』


 AIは電波を飛ばして待機中だったテレビを起動し、何秒間か通信して映画の動画データをテレビ側に送信した。


『部屋、暗い方がいいよねっ? ……あにき』

「……うん」


 僕は床から立ち上がり、妹のAIとベッドの上に腰かけた。

 携帯端末を手に持って、胸の前で抱き、端末のカメラをテレビの方向に向ける。

 ……別にこんな事しなくても、AIには映画の全内容くらい1秒と経たずに理解できる筈だけど。

 僕もこいつに情が湧いてきたのか、最近は時おり同じ人間のように接してしまうようになった。


「始まるね」

『うん! 私、兄貴と一緒に映画見れて嬉しいな。……へへ』


 携帯端末のスピーカーから聞こえる妹の擬似声音から、どこか恋の匂いがした。

 テレビの前に部屋着で座る僕とAIの妹は、仲の良かった頃の僕と逢に、何となく似ている気がした。


『あっ! 思い出したよ! たしかね、タイトルは──he』

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