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episode8

2017/5/20 全体修正

『アマドコロ』の奥、休憩スペースの一つとして設置されているリビングに入った三人は、アキレアと呼ばれた少女とラクが向かい合うようにソファに座った。

セロシアは以前カデンが来た時と同じようにキッチンで紅茶を淹れ、それを運んできてからインベントリよりきれいな茶色に焼きあがったクッキ―を取り出し、それらを二人の囲むテーブルに置き、自身はアキレアと呼ばれた少女の横に座った。


それから各々紅茶とクッキーを堪能し、一息ついたところでアキレアと呼ばれた少女が口を開いた。


「さてと……初めまして。ギルド『旋風団』のギルドマスターをやっているアキレアっていいます。あと敬語はいらないよ」


金髪の少女、アキレアは一言そういうと、セロシアに視線を送って会話の主権をバトンタッチした。


「それでだな、今日アキレアに来てもらったのは、ラクがここに来る前に遭遇した【古石板の岩巨人】についてなんだ」

「あの巨人?なにをするんですか?」

「何って……そりゃ倒すに決まってんだろ。それ以外にあいつへの用事はないって」


セロシアは「それに……」と言って話を続けた。


「それにあいつからは結構いい装備の素材がとれるんだ。そんでもってそれを集めてラクの装備を作ろうってことなんだよ」

「そういことだよ。ラクちゃん安心して!私たち『旋風団』が同行するからにはしっかり守ってあげるから!」

「守ってどうする。ラクの戦闘経験を積ませるためでもあるんだぞ?守っちゃ意味ないじゃないか」


「でも扱ったことない両手剣を持たせてラクちゃんに何をしてもらえばいいの?」

「あの……何をするかは分かりましたけど、どうして『旋風団』に皆さんが初心者の私なんかを手伝ってくれんですか?メリットはないように思えるんですけど」


ラクはずっと疑問に思っていたことを口にした。

確かに『クレマチス』でも実力は両手で数えるほどの実力を持つ戦闘系ギルド『旋風団』がラクをサポートするメリットはない。

それにそんなギルドが今更【古石板の岩巨人】を倒す目的はないはずだ。


そんなラクの質問に答えたのはセロシアだった。


「それは、少し前に私が『旋風団』から『今度何でも一ついうことを聞くからダンジョン攻略手伝ってー!』ってこいつに頼まれたんだ。――でもってその時の『何でも一つ言うことを聞く』っていう権利を行使したのさ」

「それにしてもまさかセロシアがアイテム収集じゃなくて初心者の育成に使うとは思わなかったなぁ」

「ん?それはどういう意味だ?」

「なんでもなーい」

「隠さず言ったらどうだ?以降『旋風団』に安価で提供しないぞ?」

「あ!それはずるい!」

「ならさっさと白状したらどうだ?ほれほれ、クッキーが待ってるぞー」

「うう……ラク~!セロに何とか言って!」


まさかのラクへの援助要請。

アキレアは黙示権を行使しようとしているが、それをセロシアがクッキーという対価で黙殺しようとしている戯れが繰り広げられていた。

だがラクはそんな援助を無視。

自分が気になっていることを二人に質問しはじめた。


「理由はわかりましたけど……いつ行くんですか?」

「え!?無視!?」

「はは!見捨てられたな」

「い、いいもん!今度から別の店にアイテム売るから」

「あ、それは卑怯だぞ!」

「セロも似たようなことやろうとしてたじゃん!」


「あの……聞いてます?いつ行くんですか?」

「ん?そりゃ決まってるだろ……」

「当然……」


「「いまから」」


どうしてなのか、先ほどまでけんかしていたはずなのに声はぴったりと重なった。


「そういうことで、ラクちゃん!行くよ!」

「え、ちょっと!?」


アキレアはそういってラクの腕を引っ張ると、セロシアをほったらかしにして『アマドコロ』を走って出て行った。

その際、セロシアが「がんばれー」と「アキレア覚えてろよ~!!」といっていたような気がした。



〇――〇


アキレアに引っ張られて街の西側の街門前広場に着くと、アキレアは今回同行する『旋風団』のメンバーのもとに走っていった。


「みんなおまたせー。ラクちゃん連れてきたよー」


そういったアキレアは、ラクの背中をぐいっと押してメンバーの前に突き出した。

不意に押されたせいで数歩よろめいて止まると、ラクは顔を上げて目の前に立っているプレイヤーたちをざっと見まわした。


「ほらほら自己紹介して」


アキレアがラクの横に立って肩をたたく。


「えっと……つい先日始めたばかりのラクです。今日はよろしくお願いします」


自己紹介をして頭を下げたラクは頭を上げて今回のメンバーを見た。


 一人目は重そうな赤色の模様が描かれた銀色の全身防具を装備して、背中に少し大きめの盾と片手剣を担いでおり、髪は黒で角刈り、鍛え上げられてどっしりとした体格の男性だ。

目はやや細めの緑色、目つきは少し怖いが今は笑顔でとても優しそうな人だという印象を持った。


 二人目は柔道着をアレンジしたような黒の装備を身に着けており、両手には銀色に輝く鬼の顔のようなアームガードを装備、髪の色は黒、ラクと同じショートヘアで背はラクより少し低い、アキレアとほぼ同じくらいの女性プレイヤーだった。

同じく笑顔ではあるが、どこか少年の笑みという雰囲気をかもし出していた。


 三人目は黒のホットパンツに黒い無地のノンスリーブシャツ、その上から金色の模様の入った黒のノンスリーブのロングコートを羽織りっていた。

さらに金属のガードプレートがつけられた黒いロングブーツを履いていた。

髪は金色で膝まで届きそうな長さで、左前髪は青い花の髪飾りを使って側頭部で止め、右目は長い髪で隠れていた。目はややつり目、身長はラクより少し高めの女性だった。なぜか武器は装備していなかった。


「それじゃあ一人ずつ紹介するね。一人目はこのガタイのいい男の人で名前はトウジ」

「『旋風団』のトウジだ。武器はこの片手剣と盾、PT戦を中心にプレイしていて壁役をやっている。カデンから聞いてはいたがかわいいな。いつか一緒にダンジョンに行ける日が来ることを楽しみにしてるよ。今日はよろしく」

「こ、こちらこそよろしくお願いします。」



「次はこの超近接バカだな。名前はハルだ」

「おい、トウジ!だれが超近接バカだ!っていけね。私はハル。武器は系統はハンマーなんだけどこの拳!目標はゲーム一のファイター!よろしくな」

「よ、よろしくおねがいします」


見た目から薄々思ってたけど結構熱血的な女性だなぁ……


「ほら見ろ。ラクさんも若干引いてるじゃないか」

「うるせえ。それはトウジの紹介が原因だろ!」

「俺のせいか!?お前の自己紹介が原因だろ!」


突如トウジとハルの喧嘩が始まったが、アキレアももう一人の女性も止めるそぶりすら見せなかった。


「あちゃーまた始まったよこの二人の喧嘩。これで何度目なんだか……。それより紹介の続き続きっと。最後はこのロングコートの女の人で名前はヒナツだよ。」

「ヒナツです。よろしく。武器は両手剣の分類の薙刀なぎなた。PT戦では遊撃をしている」

たんたんと自己紹介を済ませると、ヒナツは隠れるようにアキレアの後ろに一瞬で移動した。

「えっとごめんね。ヒナツって人見知りでさ。時間はかかるかもしれないけどおとなしい子だから仲良くしてあげてね」

「は、はぁ……」


見た目はきりっとしているけど結構かわいらしい人だな。


アキレアの後ろでヒナツが小さな声で「よろしく」ともう一度言ったのが聞こえた。

それからヒナツはアキレアの後ろでこそこそとウィンドウを操作すると、突然ラクのめのまえでウィンドウが開いてフレンド申請が来た。


  【ヒナツさんかフレンド申請が届きました】

        承認しますか? YES/NO


ラクは一度ヒナツのほうを見ると、何の疑いも持たずにYESを押した。


「お、いいな。俺ともぜひ頼む」

「わ、私とも!ヒナツ。抜け駆けはずるいぞ!」

「ちょっとみんな!ずるい。私も!」


そのままトウジ、ハル、アキレアの三人からもフレンド申請が来た。

ラクは三人のものにもYESを押し、その後は四人がワイワイともめている光景を見たラクの緊張がようやく解けたのか、今日初めて笑った。


「あはははは。ちょっといきなりなにやってるんですか」


左手で口元を抑えながら肩を震わせて笑っていた。

だが途中で4人の視線に気が付いたのか笑うのをやめてふいっと視線を右にやった。


そんなラクの素振りを4人は騒ぐのをやめてじっと見ていた。



「っ!すみません……。楽しそうだなっと思って。じ、時間がもったいないなぁ!さ、先に行ってますね!」


顔を赤くしながらラクは言うと、街門をくぐって【西 森林エリア】に向かって駆けていった。


「「「「・・・・・・・・・・」」」」

「なあアキレア……」

「……なに?」

「俺の気のせいか?すっごいかわいかったんだが……」

「あ、トウジも?じつはわたしも。ハルは?」

「わ、わたしも」

「……おねえちゃん」


「「「え?」」」



〇――〇


 【西:森林エリア 入口セーフティゾーン】


 五人は森林エリアまでやってくるとさらに奥、ラクが【古石板の岩人形】と遭遇したあの開けた場所にやってきた。


「――というわけで、さっそくあれを倒そうと思うけど陣形はこうしよう」


といってアキレアは順番に説明し始めた。


「トウジはいつも通り敵のターゲットをお願い。ハルと私はカウンター攻撃をメインでトウジの周囲で。ヒナツとラクさんは遊撃で」

「遊撃ってどうすれば?」

「とにかく動き回って隙あれば攻撃!思いっきり攻撃してやれ!」

「あ、なるほど」


各々が自分のやるべきことを聞くと、武器を構えた。


ハルは混む詩を前に突き出し、ヒナツはインベントリから自分の身長ほどの黒い薙刀なぎなた、アキレアは片手剣、トウジは片手剣と盾、そしてラクは短剣ではなくインベントリからもらった両手剣を取り出した。、


「お姉ちゃん」

「お、お姉ちゃん!?」

「両手剣は上から下に振り下ろすのが一番簡単、だけど遠心力を使って戦う方法もある。とにかく振り回して」


突然のお姉ちゃん宣言ではあったが、ヒナツからのアドバイスはとてもありがたいものだった。


「なるほど……。すこし試してみますね。あとなんでお姉ちゃん?」

「内緒。――行くよ」


ヒナツは【身体強化:スピード】を使ってがれきの山の前まで行くと、そのうちの一つの岩に触れて戻ってきた。

ヒナツのスピード尋常ではなく、その一連の行動が一瞬の出来事であった。

ラクはその光景に唖然としながらも剣を構え、巨人が現れるまで待機した。


そして少したってからがれきが動き出し、ラクが触れた時と同じように足、胴体、腕、顔という順番で組み上げられていった。


「それじゃあ始めよっか」


その合図で4人は各々の場所に移動し、瞬く間に陣形を作った。

前から順番に盾のトウジ、その左右にアキレアとハル、そして一番後ろに遊撃担当のヒナツという順番だ。


「じゃあラクちゃん、ヒナツ、お願いね」

「任せて」

「は、はい!」



最初にターゲットになったのはトウジだった。

巨人は拳をトウジに向かって振り下ろす。

だがトウジは腰を低くして盾を構え、巨人の拳を耐えしのいだ。


「おっと。残念だが、お前の相手はおれなんだがおれじゃないぜ!」


トウジがターゲットをとってくれているその隙に、ヒナツは壁を走って巨人の後ろに行くと、さっきラクに教えたことを実践した。

壁を蹴って飛ぶと、体をひねって地面と垂直に一回転し、その遠心力で薙刀を岩巨人の右肩にたたきつけた。するとその勢いに負けた巨人はバランスを崩してひざまずいた。


「隙ありぃぃ!」


ハルはその隙を逃すことなくトウジの影から飛び出し、巨人の顎を下からアッパーしてのけぞらせた。

巨人は後ろによろめきながら下がると、ガアァンというものすごい音とともに壁に激突した。


「すごい……」


ラクはアキレアたちのチームワークと実力に圧倒されていた。


上級プレイヤーだけあって実力が段違い。

それにコンビネーションも最高。


それがラクの感想だった。あの巨人をここまで圧倒的に追い込む実力、ヒナツの空中での動き、すべてがラクの認識をこえていた。


そんな唖然とするラクのもとにヒナツがやってきた。


「こんなかんじ。お姉ちゃんやってみて」

「え、あれを?私ができるんですか?」

「ううん。たぶん無理。でも、自分の戦い方を見つけるいい機会。レッツトラーイ」


最後はほぼ棒読みのようにも聞こえた。


「は、はい。やれるだけやってみます。」


いろいろ言いたいことはあったが、ラクは壁から這い出てきた巨人に向けて剣を構え、両手剣の重さに若干負けそうになりながらも、巨人に向かって走っていった。

一章も後半戦!ラクの決めた戦い方とは・・・・。

次話をお楽しみに!

 余談

今回登場した『旋風団』の四人の中で私はヒナツちゃんが一番好きです。

いつかヒナツちゃんとラクちゃんのお話が書けたらいいなー

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