episode7
2017/5/20 全体修正
二日後、ログインしたラクのもとにセロシアからのメッセージが届いた。
『よう!早速本題に入るが明日、ラクにとっては今日の22時30分ごろに紹介したい奴がアマドコロに来るから来てほしい。よろしくな』
短いメッセージだった。
視界右下の時計で時間を確認すると8時半で言われた時間まではまだ時間はあった。
「紹介したい人ってだれだろう……まぁ考えても仕方ないし昨日の場所で戦闘の練習でもしてようかな」
そういうとラクは広場の中央にあるあの柱、【転移柱】に触れ、表示されたウィンドウから行き先を設定した。
表示された選択肢の中から一つを選択するとウィンドウがきえ、ゆっくりと柱が青い光を放ち始め、ラクの体その光に包まれていった。
あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑っていると、妙な浮遊感に一瞬襲われた後、どこかに着地したような感覚を足裏で感じた。
体をやらしく撫でるような風を感じながらゆっくりと目を開けると、ラクは【第一の街】から【西 森林エリア入り口 セーフティゾーン】に移動していた。
この【転移柱】のシステムについては一昨日、街に戻る途中にセロシアから教えてもらっていた。
各街に一つずつある装飾のされた柱【転移柱】に触れて念じることで、一度行ったことのあるセーフティゾーンや街に数秒で移動することができるのだ。
ただしセーフティゾーンから柱には移動することができないのは注意しておかなければならない。
「さて、じゃあ昨日戦ったやつとでも戦おうかな」
ラクはそういうと、中に伸びる林道沿いに森の中に入っていった。
林道を外れて森の中を進んでいく途中、先ほど送られてきたメッセージと一緒に送られてきた納品依頼リストに書かれているアイテムをいくつか回収していった。
リストには薬草や木の実などの簡単に手に入る採取系アイテムがいくつも書かれており、ものの数分で数種類のアイテムが必要数手に入った。
残りのアイテムを回収するのに夢中になっていたら、ラクはいつの間にか地面の土がむき出しの開けた円形の場所に来てしまっていた。
「ここどこだろう。セーフティゾーンでもなさそうだし……。それにあれなに?」
ラクの視線の先、円形の中心部分には、岩が乱雑に積み上げられた5メートルほどの山があった。
しかしよく見ると、岩は薄い板状のものや、きれいな丸などの明らかに人の手がはいったさまざまな形のものがあり、その一つ一つに読めない文字のようなものが刻まれていた。
「何かの残骸かな?ーーそれにしても結構大きいわね。これ」
ラクはそれらの岩の一つに触れた。
ゴツゴツとした表面にザラザラとした手触り、少し撫でるとボロボロと崩れてしまいそうな岩だった。
だがそんな岩の感触を確かめていると、突然岩がガチャガチャという音を立てて震え始めた。
ラクは慌ててそれらの岩から離れ、何が起きても対処できるであろう円の内周直近にまで後退した。
それから岩山のほうを振り返ると、なんと全ての岩が宙に浮きあがり、岩を積み上げて何かを形作っている最中だった。
「なにあれ…。もしかしてモンスター?」
まず柱のような足が組み上げられ、続いてどっしりとしたおおきな胴体、力溢れる豪腕、サイズ差のせいで小さく見える人と同じパーツがついた頭部という順に組み上げられていった。
やがてすべての岩がその巨体にくっつき、最終的に8メートルほどの一体の巨人が動き出した。
「ゥゥゥゥウオオオオオオオオ!!!」
声になっていないような咆哮が地面を揺らした。
その揺れは震度の低い地震のようにしばらく続き、突然その開けた場所を囲むような形で分厚い岩の壁がせりあがってきた。
背面で突然起きたことにラクは呆然と、巨人と岩壁を交互に見てあっけにとられていた。やがて地面からせり上がってきた壁の動きが止まり、360度どこからも逃げれないフィールドが完成した。
最後に視界の上部にこのMOBの名前とHPバーが現れた。
【古石板の岩巨人】
HP500/500
それがいま目の前に立っている巨人の名前だった。
HPは草原エリアにいた中ボスの【猛進牛】より200高く、名前の文字はその辺にいる黒字のMOBと違い赤く染まっている。
「【古石板の岩巨人】……?ここまでにいた【ゴブリン】とは全然違う……。どうしようかな」
ラクはこれからどうすればいいかを脳をフル回転させて考えてた。
後ろを振り返るも壁に阻まれて退路はない。
壁を越えようとも考えたが、どう考えても超えれるはずのない高さ。
そう簡単には逃がしてくれないということだけはひっきりとわかった。
そんな中今までぼーっと突っ立っていた岩巨人が突然動き始め、がっしりとした片腕を振り上げ、ラクに接近して右ストレートを繰り出した。
「え……ちょ!?」
ラクはとっさに【身体強化:スピード】を発動。
岩巨人の右ストレートを咄嗟に横に飛んで回避した。
「ふぅ。間に合った……。ってちょ、きゃああぁ!」
振り下ろされた拳に潰されはしなかったが、地面を殴ったときの勢いで発生した衝撃と爆風でラクは前から思いっきり突き飛ばされ、その先にあった壁に背中背中から激突した。
HP:90/135
衝撃と暴風で飛ばさせただけで4割ほどHPを持っていかれ、ラクは壁から剥がれてお尻から地面に着地した。
「いったぁぁぁ〜……。ってやば!」
急いで飛び前転をして移動すると、岩巨人はラクが座っていた場所に走って行き、再び右拳を振り下ろした。
ドォォォォン!という轟音を立て、振り下ろされた拳が地面を揺らすほどの衝撃で地面はへこませ、その衝撃で土煙と土塊が宙を舞う。
「けほっけほ。これはまずいかも……」
休憩する暇もなくゆっくりと、今度は両腕を交互に突き出してラッシュをしてきた。
動きが遅いおかげで避けることができたが、数発避けた後に退避先の選択に失敗していまい左アッパーを受けてしまった。
アッパーで吹き飛ばされたラクは再び壁に激突し、地面に崩れ落ちた。
しかしそれだけではすまなかった。
激突した衝撃で壁の一部の表面がはがれ、その瓦礫がうつ伏せの態勢のラクの上に落ちた。
ガラガラガラガラ……!!
崩落音が広場を囲む壁に反響し、土煙が舞って巨人はラクの姿を確認することができなくなった。
直立の態勢に戻り、巨人はラクが再び確認できるようになるまで動かなかった。
やがて土煙が晴れ、がれきの山になった場所を巨人は注目した。
しかしその直後、巨人の後頭部に何かぶつかったような強い衝撃と、続いて軽い衝撃の二つが走った。
そして一つの人影が巨人の背後に着地した。
「っ~!やっぱ固いなぁ」
巨人の背後に立っていたのはのはラクだった。
壁に激突して地面に倒れたがすぐに横に転がって瓦礫を回避。
土煙に隠れながら【身体強化:スピード】を発動し、壁沿いを走って巨人の背後に移動した。
それから短剣を抜刀して順手に持って跳躍。
巨人の後頭部を思いっきり短剣を振り下ろした。
しかし短剣で岩を砕けるはずもなく、攻撃を弾かれるとすぐに巨人の後頭部を蹴って背後に着地したのだ。
「それにしても【身体強化】って使うとこんなに跳べるんだ。結構便利じゃない。ーーさてと、本当にこれからどうしようかな」
結論から言ってラクにはもう打つ手がない。
短剣が弾かれた以上、ダメージを与える手段はもうないのだ。
残る選択は逃走ただ一つ。
しかし分厚く高い岩壁を超えるのは容易ではない。
待って……あれを踏み台にすればもしかしたら……。
「……いけるかも」
そう呟くと一旦後ろに飛び、着地すると【身体強化:スピード】を発動。
クラウチングスタートをして巨人に向かって走っていった。
そうとは知らない巨人はゆっくりと振り向くと、向かってくるラクに右ストレートを繰り出した。
ゆっくりではあるが確実に巨大な拳がラクに迫っていく。
だがラクは止まることも、避けることもせずに走っていった。
徐々に加速していく中、ラクはその勢いのまま思いっきり跳躍。
跳んで拳をかわすと巨人の腕に着地し、そのまま巨人の頭部めがけて駆け上がっていった。
腕から肩へ、肩から頭へと駆け上がり、ラクは巨人の後頭部を勢いよく蹴り、あたかも走り幅跳びのように斜め前へと跳躍した。
「と……どけえぇぇ!」
どんどん壁の上に飛んでいく中、ラクは上体を前に傾けながら左手を伸ばした。
あともうすこし手を伸ばせば壁に届く。
それほどまでに距離が縮んだ時、ラクは内心ほっとしてした。
これであの巨人から逃げることができる……
その時だった。
ギュンっという風を切るような音ともに、ラクは後方から飛んできた何かに背中を押され、今日三度目の影への激突をした。
ガアァンという音とともに岩陰の表面をはがし、そのなんかと壁に押しつぶされるような状況になった。
「が!!?カハ……」
肺から一気に空気が抜けるような感覚に襲われ、体に岩のとがったかけらが突き刺さる。
そして、そのコンビネーション攻撃のような状態に襲われたラクのHPが0になる。
背中から圧迫していた物体がはがれ、地面に落ちたような重低音が壁に反響した。
それからラクは全身から力が抜け、剥がれ落ちるように落下していった。
風が装備と髪をはためかせ、風の音が耳に入っていく中、ラクはぼやけ始める視界の中でどこからか飛んできた物体を確認した。
「はは……そんなん反則でしょ……」
今なお落下する中、ラクは光の粒子を放出して体が消滅。
残った光の粒子がその場から上空にゆっくりと昇っていった。
最終的にその場に残ったのは。【岩巨人】が破壊した壁の一部だったがれき、ラクを押しつぶした物体「巨人の頭部」と巨人本体だけだった。
それから巨人は自分の頭を拾い上げて装着、初期位置に戻って再び岩の積み上げられた山に姿を戻した。
〇――〇
「……あ~あ!負けちゃったなぁ」
ラクは第一の街の装飾のされた柱のある広場に座り込んでいた。
あれから少したって【第一の街】の転移されたラクは、広場のすみで座り込んでしばし休息をとっていた。
ぼーっと空を流れる雲を眺めていると、思い出したように現在時刻を確認した。
22時19分。
それが今の時間だった。
「ん~……。セロシアにあの巨人のこと聞きたいしもう行こうかなっと」
ラクは勢いをつけて立ち上がり、広場をまっすぐと進んで『アマドコロ』に向かっていった。
〇――〇
『アマドコロ』に到着して中に入ると、棚の前に立ってアイテムの陳列をしていたセロシアが歩いてきてきた。
「いらっしゃい。思ってたよりもはやいじゃないか」
「そうですか?ちょうどいい時間だと思ったんですけど」
「そうか?ってもう25分か。それならちょうどいいな」
「それで少しお聞きしたいことがあるんですけど」
「ん?なんだ?」
ラクは自分の身に起きたことを事細かくあの巨人のことをセロシアに説明した。
突然せりあがった壁のこと、巨人そのものについてをできるだけ詳しく説明した。
すると……
「あはははは。――そりゃ災難だったな。まさか採取してたらエリアボスのところに行くなんて」
「エリアボス?」
「そうだよ。【西 森林エリア】のエリアボス【古石板の岩巨人】。いまのラク一人じゃ到底勝てないMOBだね」
「まぁそうでしょうね。剣がはじかれちゃいましたし」
「そう。一言でいうと武器の相性が最悪だな」
「じゃあどうすればいいんですか?あれを倒せないとこの先には進めないんでしょう?」
「いいや。それなら問題ない」
「どういうことですか?」
「それは会ってからのおたのしみ」
そういえばセロシアさんが誰かに会わせたいって言っていたような……というか今日はそのために来たんだよね。
ラクは今日のセロシアに呼び出されたことを思い出し、そのことについて質問をした。
「そういえばだれなんですか?私に会わせたい人って」
「それはあってからのお楽しみだって。――それより今のうちに渡しておくよ」
といってセロシアはカウンターまで歩いて行くと、カウンターに立てかけられていた一振りの両手剣を手に取った。
それは余分な装飾のされていない刀身と持ち手だけのシンプルなデザインの両手剣だった。
そしてセロシアはそれを、普段短剣を使っているラクに差し出した。
「あの……どういうことですか?」
「今後必要になるからだよ。短剣の場合、堅かったり大きかったりすると倒せないMOBも結構いるんだよ。とくにダンジョンにはそういう類の敵が多いから、その時用の両手剣ってわけ」
「なるほど……でもどうして片手剣じゃなくて両手剣なんですか?」
「火力重視だからだよ。ラクの場合は短剣だけどそれじゃあ倒したいときになかなか倒せない。あとは両手剣のほうが後々役に立つことが多いからね」
「はぁ……。つまり一応持っておけっと。そういうことですか?」
「まぁそんな感じかな」
「……わかりました。では持っておきますね」
ラクはセロシアから鞘ごと渡され、受け取るとすぐにそのまますぐにインベントリにしまった。
ここで振り回すわけにはいかないので試し振りは今度やることにした。
それからセロシアが棚に置くアイテムを保管庫から取ってくるということで、ラクは店内にあるソファに座って戻ってくるのを待っていた。
その間インベントリ内のアイテムを確認し、頻繁に使いそうなものはインベントリ上部に移動させる作業をしていた。
しかし突然、バンっという大きな音を立て、入口の扉が勢いよく開いた。
ラクは突然の不意打ちにかたを ビクンっと動かして扉の方向を見た。
だが入口から差し込む光で逆光になっていたため、シルエットしかわからなかった。
その影は長い髪とそっそりとした体型、服装から少女だということが確認できた。
その少女は店の中に入るや否や、少女を見つめているラクを発見すると走りだして抱き着いた。
「え、ええ……」
妙に抱きつく力が強く、引きはがそうにもいまのラクの体ではびくともしなかった。
仕方なくラクはその状況から少女の容姿を確認した。
金髪で後ろで縛ってもなお腰まで届きそうな長さのポニーテール、腰からは黄色と白をベース色にした片手剣をさげている。
装備は白を基調にした服、同じデザインの丈の短いスカートを身に着けており、ほっそりとした足には白い二―ソックスとブーツを履き、防具のついていないその服装はまったく戦闘には向いていないような印象を持った。
それからもラクはどうにかこの状況から脱しようともぞもぞと動くが、少女は一向にラクを離そうとしなかった。
「あの……そろそろ離してもらえませんか?」
「やだ!」
即答だった。
しかもさっきよりも抱き着く力が気のせいか若干強くなっている。
それにさっきから少女のきれいな金髪が足にそわそわとあったってくすぐったい。
「ねぇ……」
「聞こえなーい」
「……」
ラクはついに脱出を諦め、全身に込めていた力を抜いて店の奥をじっと見つめた。
するとタイミングを計ったのか、セロシアがひょっこりと戻ってきた。
「ん?なんだアキレア来てたのか」
どうやらセロシアはこの少女と知り合いのようだ。
何の疑問も抱かず、全く動揺もしないもしないでラクの元まで歩いて来た。
するといままでラクに抱き着いていた少女が突然頭を上げてセロシアのほうを見た。
「ねえセロ!この子が昨日言ってた初心者の子?」
「そうだよ。名前はラク、武器は短剣だが……そろそろ離してあげたらどうだ?さっきからすごい困った顔でこっちを見てるんだが」
「うう…。――まぁ仕方ないかぁ」
セロシアに説得されたアキレアと呼ばれた少女は、あっさりとラクから離れてセロシアの横に立った。
「ごめんね」
「いえ、大丈夫です。少しびっくりしただけなので気にしなくていいですよ」
「……よかった~。出会って早々嫌われたかと思ったよ~」
「ところでこんな場所でもなんだし、奥の部屋で話さないか?」
「賛成!ねぇねぇセロ!いつものお菓子ある?」
「もちろん。食べたかったんだろ?」
「えへへーばれたか。ねぇ早くいこうよ!」
「そうだな。じゃあ行くか」
そういってセロシアは奥に歩き、彼女に続いて少女がラクの手を引いて奥に歩いて行った。
突如抱き着いてきた少女の正体とは?お楽しみに!
書いてて思たけど岩巨人、自分の頭こわれなくてよかったね。