episode9
アキレアは数十人のプレイヤーと対峙していた。
その中には見慣れたメンツもおり、いつものフレンドリーな雰囲気はみじんも感じられなかった。
それどころか完全に敵意むき出しのギラギラとした目になっていた。
アキレアは右手一本で剣を地面から引き抜き、そのまま剣先をプレイヤーたちへと突き出した。
「さて!私達から奪えるものなら奪ってみてよ!」
アキレアは堂々と言いつつ左手に持っている箱の赤いボタンに人差し指を当てた。
このボタンを押した瞬間、1対多勢の圧倒的不利に見える戦いが始まる。
だが、アキレアはそれでも堂々と剣を突き出し、進路を阻んでいた。
参加者のプレイヤーたちはアキレアの覚悟を感じ取ったのか、はたまた装備を見てなのか、開戦への一歩を踏み出せずにいた。
そのようなプレイヤーの大半はあの装備を付けたときのアキレアとダンジョンに潜入した者、実力を目の当たりにした者だった。
硬直状態が続き、刻一刻と制限時間に近づいて行く中、集団の中から見慣れた装備のプレイヤーたちが先頭にやってきた。
それはアキレアがよく一緒に行動してるプレイヤーたち、『旋風団』のメンバーだ。
大きな盾と片手剣を持ったPTの盾役のトウジ、攻撃を受けたトウジの影からカウンター攻撃を仕掛ける格闘家スタイルのハル、PTとは別行動をして、薙刀を駆使して死角から猛攻撃をするヒナツ、そして二本の異なる種類の片手剣を持つ黒と赤の装備を身にまとったアタッカーのカデンの四人だった。
四人は横一列にならんでアキレアと向き合った。
それからカデンは一方の剣で肩をたたきながら、ニヤッと笑った。
「まさかアキレアがその装備を使うなんてな」
「こうでもしないと負けちゃうもん」
「違いない。――けどいくら本気装備を出したところでこの人数差。どうやって乗り切るつもりなんだ?」
「フッフッフ……。だから助っ人用意したんだよ!」
アキレアはそういうと左手に持ったあの箱のボタンを押し、空高く投げた。
ボタンを押された箱は空中でくるくると縦回転押して昇っていくと、突然青い光を放ち始めた。
青い光はプレイヤーたちの目をくらまし、周囲一帯を一瞬だけ真っ白に染め上げた。
そしてその場でアキレアが選択したMOBを形成されていった。
亀のような長い手足、楕円に近い体、細く長い首、そして鼻先にかけて段々細くなっていいく頭、そのすべてのパーツが巨大、プレイヤーたちをその陰で飲み込んでいった。
実態を得たその巨体はゆっくりと草原に舞い降り、勇ましさを越え恐怖すら覚える雄たけびを上げた。
「おいおいおいおいおいおい!!どうしてあれがここにいるんだ!?」
そのMOBを見たトウジが珍しく声を荒げて叫んだ。
だが、そうしたのはトウジだけではなかった。
「幻覚?……でもなさそう。あれはあそこにいる。認めたくない……」
「まったく……とんでもないものをアキレアに渡しやがったな。Pは」
「おい!あのでかいのはなんなんだ!?てかみんなどうしたんだよ!」
それをにらんで歯を食いしばるヒナツ、あきれたような様子でそれを見上げるカデン、そして何が何だかわからないといった様子でカデン達に問うハルという状況ができていた。
そして後ろにいるプレイヤーたちも、それを知っているものは唖然とし、逆にそれを知らない者は景色を見るようにぼーっとそれを見上げていた。
「ハルは知らなくて当然だよな。――あれは……いや、やつは第二の街の先にある海上に浮かぶ島【激流島】で戦った、西の【蛇龍ハアラシ】に匹敵する強さを持っている。――ここまで説明したらもうわかるだろ?」
「東……東……なにか……ってまさかあれなのか!?」
「ああ、そうだよ。俺たちを何度も街に強制転移させた怪物、【泳龍ナツハ】だ!」
【泳龍ナツハ】と呼ばれたその強大なMOBはカデン達を深い青の眼で見降ろしていた。
首元から胴体にかけてついている黒く堅いごつごつとした甲殻、薄い水色のような皮膚、
口から覗く鋭い牙。
プレシオサウルスを連想させるような形をしたナツハはアキレアの横に頭を置き、アキレアはナツハの頭をそっと撫でた。
「――で、いつ始めるの?私もこの子ももう待ちくたびれたんだけど?」
「――いいぜ……。始めようぜ!」
カデンは笑いながら剣を構え、メンバーに指示を出した。
それはいつも通りの布陣。
攻撃は盾に隠れて守り、隙をついて攻撃するといったものだった。
幸いなことに、【泳龍ナツハ】は水中からの攻撃を得意とする龍。
しかしここは草原エリア。100%の実力を出せないのは明確だ。
だがそれを補うように本気のアキレアが横に立っている。
こちらの戦略を熟知し、対応してくるアキレアは【ナツハ】と並ぶほどやっかいな相手であることに間違いない。
だがやるしかない。
報酬を獲得するため、新エリアへの先行招待権を獲得するために!
カデン達は剣を構え、進路をふさぐ【ナツハ】とアキレアに向かって走っていった。




