episode21
『いいですか?あなたには下で、これから私が言うことをしゃべってもらいます』
ラクは大きく息を吸い、叫ぶようにしゃべり始めた。
「勇敢なる兵士よ!散っていった兵士の無念を、成し遂げんとするその強き意志を胸に抱き攻撃せよ!諸君らの勝利は目前だ!この大蛇を討ち、勝利の雄たけびを上げるのだ!!」
その声はエントランス中に響き渡り、注目を集めた。
それは関心とかの前向きな目ではなく、ほとんどが疑問の目だ。
そしてあたりは静まり返った。
足元では【ハアラシ】が唸り、上からはパラパラと大小様々な大きさ、形のがれきが落ちてきている。
「‥‥‥これでいいんだよね……」
ラクは振り上げていた剣を下げ、あたりを見回した。
ぽかんと口を開けているプレイヤー、剣を構えたまま固まっているプレイヤー、などなど‥‥
どっからどう見ても空回りしていた。
まぁ無理もない。
いきなり天井が崩れたと思ったらラクが急に叫び出したのだ。
すでに知っていたならともかくとこの状況を理解するのは困難だ。
それを悟ったラクは顔を赤くし、慌ててカデンを見つけると両手剣をその場所から突き付けた。
「カ、カデン!早く!!」
「は?」
「い、いいから早く攻撃して!!こんなチャンスもう作れないんだから!!!」
「チャンス?――そういうことか!みんな今のうちにありったけ叩き込むぞ!」
意図を理解したカデンはそう叫ぶと、【ハアラシ】に向かって全力で走りだした。
それに釣られたかのようにほかの生き残っているプレイヤーも【ハアラシ】に向かって走り出した。
叫びながら走るもの、攻撃スキルを発動しながら走るもの、高く跳んで接近するもの‥‥
様々な方向から、様々な角度からプレイヤーたちは攻撃し始めた。
それを見たラクは慌てて【身体強化:スピード】を使って高く跳び、【ハアラシ】の上から退避した。
エントランスにあるところどころ崩れている階段の踊り場に着地したラクは急に足から力が抜け、その場にペタンっと座り込んだ。
「‥……こ、怖かったぁ~」
いつの間にか目から数滴の涙が頬を流れ、地面に落ちていた。
それを腕で拭ったラクは、首と腰をひねって【ハアラシ】のほうを向き、攻撃するプレイヤーたちを見守った。
「私にできることはここまでだよ。あとはお願い」
ラクが踊り場に座り込み、戦いを見始めてから5分ほど経過した。
【蛇龍ハアラシ:HP 105013/1300000】
ようやく【ハアラシ】のHPは10万を切ろうとしていた。
一体ここまで来るのにどれほどの時間がかかったのだろうか。
130万という桁違いなHPを何度も死にながら切り続けたプレイヤーたちは疲労困憊で、剣を振っているのが不思議なくらいだった。
しかし攻撃をやめることはなかった。
そして誰かの攻撃スキルが放たれ、砕け散る光のエフェクトとともに【ハアラシ】のHPは10万を切った。
「皆のもの!あともう少しだ!!ゼラ!アオイ!おぬしらは顔を攻撃してくれ!」
プレイヤーの叫びと剣が鱗にぶつかる音で聞こえにくくはあったが、どこからかギンヨウの声が聞こえた。
どうやらゼラとアオイも無事なようだ。
これまでラクの知り合いで生存を確認できたのはカデン、ゼラ、アオイ、ギンヨウの四人だけだ。
残りの知り合いはもしかしたら今頃は第一の街かもしれない。
そんなことを考えていると、ふとハルのことを思い出した。
ハルはラクが上に行く前、【ハアラシ】がこのエントランスに強襲をしてくる前にギンヨウのもとに走っていくのを見た。
だがそれ以降どうしたかはわからない。
もしかしたら戦っているかもしれないし、第一の街に戻ったのかもしれない。
気になってしょうがないラクはハルにボイスチャットを掛けることにした。
程なくしてハルとつながった。
『もしもし?もしかしてもう終わったのか?』
どう考えてもこの場にいないような発言だった。
「まだ終わっていませんよ。それよりハルさんは今どこにいるんですか?」
『今?セロシアのところだけど?』
「ええ!?なんで『アマドコロ』にいるんですか?」
『ギンヨウに頼まれたんだ。あることの準備をね。あ、やられて戻ってきたアキレア、トウジ、ヒナツも一緒だよ。』
どうやら『旋風団』のメンバーはカデンを除いて全員やられてしまったようだ。
そのことが確認できただけでも良かった。
『ところでラクはどこにいるんだ?』
「私はあの城ですよ。今目の前でギンヨウさんたちが戦ってます」
『まだそこにいるのか?ラクは参戦してないんだから戻ってきてもいいんだぞ?』
「いえ、私はこの戦いを見届けます。」
『…そうか。なら戻ってきたらアマドコロに来てくれ。じゃあな』
ハルはそういうと一方的に、急いでいる様子で通話を切った。
「‥‥‥切れちゃった…でもアマドコロで何してるんだろう」
そうつぶやいた時だった。
「動ける奴は急いで屋外に退避しろー!!!」
カデンの叫び、そして誰かの悲鳴が聞こえた。
「くそおおおおお!!」
「ギンヨウ!後は頼む!!」
「ギルマ…」
その声に反応してラクは頭を上げた。
するとそこにはさっきまで剣を振るっていたプレイヤーたちが倒れており、それを【ハアラシ】がバクっと一口で食べていっていた。
あの短時間、目を背けている間に何が起きたのか。
辺りにはきらきらとした何かが浮いており、プレイヤーは次々と食べられ、第一の街に転送されていっている。
そして、ついにエントランスに残っていたプレイヤーが全滅した。
辺りは静寂に包まれ、【ハアラシ】はきょろきょろと首を動かして残っているプレイヤーを探していた。
そしてラクは見つかった。
【ハアラシ】はゆっくりと地面を這って接近してきた。
「これは…死んじゃうかな。」
恐怖で足がすくんで立つことができない。
ラクはしりもちをつき、腕だけでじりじりと後ろに下がっていった。
だがそれもすぐにできなくなった。
急に体が、腕すら動かなくなり、ラクはあおむけの状態に転がってしまった。
「な…ん…で」
【ハアラシ】がなにかをしたようには見えない。
でも体が動かない。
しかしその原因はすぐに分かった。
場所はHPバーの下【状態異常:麻痺 9分35秒】と表示されていた。
「なる…程…これのせい…ね」
もう逃げることができなくなったラクはあきらめ、全身から力を抜き、ゆっくりと目を閉じた。
次に目を開けたときには第一の街のあの広場だろうなぁ…
そう思いながらラクは待った。
暗くなっても左上に健在なHPバーがなくなるのを。
HPが0になるのを。
「ん…」
頬を何かがくすぐるような感覚があった。
そして生暖かい風が顔に何度も吹き付けた。
それとともにどんどんカウントが減っていく。
9分4秒
3秒
2秒
1秒
8分00秒
その時だった。
「ブリッツバースト!!!!」
ザシュ!ザシュ!ヒュン…ドス…ブン
聞き覚えのある声とともに数回の斬撃音が聞こえた。
そして
ズウウン……
重いものがどこかに落ちたような音がして、その衝撃で地面が揺れた。
一体何が起きたのだろう…
ラクはゆっくりと目を開け、見える範囲で状況を確認した。
だが見えるのは壊れかけの二階に続く階段、天井、壁。
状況を把握できそうなものは何一つ見当たらなかった。
「何…が‥‥‥起きたの…」
「ラク!大丈夫か?!」
声の正体はカデンだった。
カデンは猛スピードで【ハアラシ】に接近し、『ブリッツバースト』を使ってある程度吹き飛ばし、ラクのもとに歩み寄ったのだ。
それからカデンはラクの上体起き上がらせた。
「よかった‥‥どうやら間に合ったようだな」
よほど急いできたのか、カデンは息を切らしながらも、安堵しているようだった。
「どう…してきた…の?」
「どうしてって、ヒナツに頼まれたからな。『私はここまで。お姉ちゃんは絶対に守って。じゃないと…』じゃないと『旋風団』をやめてお姉ちゃんのナイトになる。って言われてな」
いかにもラクに好意を抱いているヒナツらしい言葉だ。
その言葉をしゃべったカデンも若干あきれているような表情で苦笑いをしていた。
それに釣られたかのようにラクも苦笑いをした。
……それにしてももし守れなかったらラクのナイトになるという宣言。
いくらなんでも言い過ぎではないのだろうか・・・・
『旋風団』をやめるというのも衝撃的な発言だが、それ以上に『ナイト』になるという発言が謎すぎる。
一体全体どうしてそんな考えになったのか。
今度会った時に一応聞いておこうかな‥‥
こんな状況でもラクはカデンが来てくれたおかげでそんなことが考えれるほどリラックスしていた。
「まぁ…何はともあれ、まずはここから出ないとな」
そういうとカデンはいきなりラクをお姫様抱っこをして立ち上がった。
麻痺のせいで抵抗ができないラクは、されるがままに抱き上げられ、だれもいないのに羞恥心で顔を赤く染めていた。
「ちょっと‥‥なんで…この格好なの?」
「まぁまぁ。一度やってみたかったんだよ。あ、もうしゃべるなよ?舌かむからな!」
そういうとカデンは【身体強化:スピード】を発動して出口に向かって走り出した。
まずは総合評価700突破に感謝を。
はじめて投稿したのが2月上旬なのでだいたい2か月がたってますね。
すごくランキングで上に行った週があったり、原因は定かではないのですが突然PV数が増えたりといろいろなことがありました。
ですがこれからもこの作品を投稿していきます!
なのでこれからもよろしくお願いします!
さて、ピンチのラクのもとに駆け付けたカデンは無事に脱出することができるのか!?
それではまた次回!
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