episode20
「いまから【ハアラシ】戦、最後の作戦を伝えます」
ユリのその言葉には覚悟と絶対に勝つという意志が感じられた。
ラクは唾をのみ、一体どんな作戦なのか、それがユリの口から発せられるのを待った。
「‥…ふぅ――ではあなたには今、この瞬間から『戦場の女神』になってもらいます。」
「……はい?」
どういう意味なのかさっぱり分からなかった。
作戦を聞いたはずがなぜ『戦場の女神』にならなければならないのか。
いろいろ聞きたいことがあるような困惑した表情で、ラクはユリを見つめていた。
「あの‥…どういうことですか?」
「す、すみません!説明を省略しすぎました!」
ユリはまた緊張し始めたのか、もう一度深呼吸をして落ち着くと、立ち上がって足場の先ぎりぎりのところまで歩いて行った。
それから斜め下、【ハアラシ】との戦闘場所を、正確にはエントランスのある場所の屋根を指さした。
ラクはユリの横まで歩いて行き、その示す場所を見てユリに説明を要求した。
「あれがどうかしましたか?」
「あなた、名前は何て言いますか?」
「へ?あ、ラクです」
「ラクさんですか。ではラクさん、ここから飛び降りてくれませんか?」
「はぁ!?」
ユリのそのぶっ飛んだ提案はラクに衝撃を与えた。
その意味がさっぱりわからない。
目を見開き、口を開け、唖然とした。
一体全体どうしてそんなことを言ったのか。
「…ごめんなさい。よくわからないんだけど‥‥」
「……ですよね。もっと詳しく説明します」
それから数分にわたって作戦が説明された。
「はぁぁぁぁぁ~~……ふぅ~~~‥‥」
ラクは目を閉じて大きく深呼吸をした。
ユリからすべての説明を聞き、やろうとしていることを理解した。
今からやろうとすることは一か八かのダイビング。
しかも落下地点は動いており、失敗すればもう勝ち目はないときた。
「はぁぁぁ…なんか中学最後の公式試合並みに緊張する‥‥しかもあんなこと言わないといけないなんて・・・」
ユリから説明を受けたとき、その最後にあるフレーズを言うように頼まれたのだ。
それがすごく恥ずかしいものなのだ。
そんなものを人生で一度も口にしたことないラクが言うためには相当な覚悟が必要だった。
そして緊張と覚悟、その二つに対して決心するのに時間がかかった。
「‥…よし!」
ラクはようやく覚悟を決めた。
ウィンドウを開き、インベントリから白いローブを取り出して羽織った。
そして真剣な眼差しで両手剣を引き抜き、ラクは階段の最上段ぎりぎりのところまで下がっていった。
ユリは祈るような眼と素振りでラクを見つめた。
勝つための最後の道。
それはラクに託した。
そして結果はラク次第。
勝ってほしい
そんな気持ちを込め、ユリは言った。
「お願いします、ラクさん。下の皆さんに勝利を」
「はい。いってきます」
ラクはうなずき、走り出した。
吹きつける風に髪を、服を、白いローブをなびかせ、ラクは空中に跳び出した。
これから始まるのはとある戦場の女神になりきる少女の短い舞台。
その舞台に降り立つため、ラクはその場所から降りて行った。
下から吹き上げる風で髪は立ち、ローブと服はバタバタとなびいている。
そんな強風の中でもラクは目をしっかりと開け、落下する位置を微調節していた。
「カデン、アキレア、ゼラ、アオイ、ギンヨウさん、トウジさん、ヒナツさん。無事でいて…」
その言葉は誰にも聞かれることなく、無残に風と一緒にどこかに行ってしまった。
だがそんなことはどうでもいい。
「どうしよう‥‥もう遅いけど急に恥ずかしくなってきた‥‥」
だんだんと【ハアラシ】と地上に近づいていく中、ラクは顔を赤くしてあのフレーズを言うのが恥ずかしくなってしまった。
だがその途端、そんなことは吹き飛んでしまうことが起きた。
それは決してプレイヤーが空中で抵抗できない自然現象。
突風がラクを襲い、落下地点をエントランスの上にある屋根に変更してきたのだ。
「う、うそ‥‥どうしろっていうの‥‥」
ぶつかれば確実にHPは0になる。
そうなればユリが提案した作戦は決行できない。
どうすればいいのかをラクは必死に考えた。
一度屋根に着地するしてからもう一度落下する。
それとも諦めてみんなが勝つのを祈る‥‥
そんなことは絶対にあってはならない。
ラクは歯を食いしばり、もう一度覚悟を決めた。
「もうなるようになれーーーー!!」
ラクは両手剣を前に突き出し、右手でもしっかりと持つと体を地面と垂直にしてまるで落ちる槍のような態勢をになった。
それは落下に、運に身を預けた行為だ。
そして目を強く閉じ、両腕に力を籠めた。
‥‥‥‥‥
そしてぶつかった。
ドゴオオオン!!
轟音を放ち、がれきを生みだし、屋根を貫通し、れきとともに落下していった。
そして目と鼻の先には【ハアラシ】の首がある。
ラクは【ハアラシ】に剣を向け、体勢を変えることなく突き刺しに行った。
「いっけええええぇ!」
ズドン!
剣は深々と【ハアラシ】の首筋に突き刺ささった。
そして不意を突くように攻撃された【ハアラシ】は落下してきたラクの勢いに負け、顎を地面に強打した。
……ズウウン…
辺りには重低音が鳴り響き、落下してくるがれきと【ハアラシ】が地面にぶつかることで土煙が発生し、エントランス全体に瞬く間に広がった。
「ゲホ‥ゲホ…何が起きたんだ!」
「ケホ……ケホ‥‥一体なに!?」
どこからかカデンとアキレアの声が聞こえる。
どうやらまだ二人は無事なようだ。
ラクはほっと胸をなでおろした。
間に合った……でもこれからが私の役目!
ラクは【ハアラシ】の体に突き刺さった両手剣を引き抜いた。
そして深く、長い深呼吸をしてある程度土煙が収まるのを待った。
そしてカデン達が目視で確認できる程度に煙が収まった。
ラクは左手一本で両手剣を掲げた。
これから演じるのはこの場限りの『戦場の女神』
絶対に演じ切って見せる!
濃度の薄くなってきた土煙の中、ラクがぶち抜いて落ちてきた天井から陽の光が差し込み、ラクの姿をはっきりとさせた。
そして大きく息を吸い、発した。
さあ、短い短い舞台の開演です!
『戦場の女神』になりきった少女は一体何を言うのか!?
それではまた次回!
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