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episode4 

2017/5/11 文章修正

 ラクはカデン、セロシアという名のプレイヤーともに最初にいた街に戻り、セロシアが経営しているというアイテム販売店『アマドコロ』の前までやってきた。

無言でセロシアは扉を開け、二人を先になかに招き入れた。


「奥で話そう。ついてきて」


セロシアはすたすたと店の奥に歩いて行った。

そのあとに続いてカデンも奥に歩いて行こうとしたが、後ろからついてくる足跡が聞こえないことに気づき、足を止めて振り返った。


「どうした?」

「ううん…なんでもない。行こ」


ラクはタッタッタと軽い音をならし、カデンを追い越して奥に入っていった。


「……なんなんだ?あいつ」

カデンはラクが何かを言いかけたような気がするが想像できず、諦めて奥に歩いて行った。



 店の奥は自宅のリビングのような空間になっていた。

低い木製の長テーブル、それをはさんで向かい合うように置かれている足や手すりに植物のような模様を彫り込まれているクッション部分が緑色のソファ。

壁には店のほうにもあったのと同じデザインの棚。

キッチンの手前にあるカウンターの上には紙の束や小瓶に入った丸い飴玉のようなものがあった。


「二人とも座って。いまお茶出すから」

「わかった。ほらラクも」

「う、うん」


カデンはラクの背中を押してソファのほうに歩いて行った。



カデンとテーブルを挟んで対角線上に座って待っていると、おぼんに紅茶の入った透明なポットと、赤色の花の模様が描かれた白いカップを三つのせてセロシアがやってきた。


紅茶をカップに均等に分け入れて二人の前に置き、ポットを置いて代わりに自分のカップを持って、ラクと向き合う位置に座った。


紅茶からはアールグレイの柑橘系に似た香りがしており、その香りが部屋中に広がった。

それからセロシアはウィンドウを開き、インベントリからちょうどいい焼き色のついたクッキーらしきものが盛られた木製の皿を取り出し、それをテーブルの中央に置いた。


それから3人は紅茶を一口。

柑橘系の紅茶は初めて飲んだが、そこまで柑橘系は強調されておらず、さっぱりとした心を落ち着かせるような味だった。


「ふぅ。……さて、じゃあ始めようか」

「ん…ああ、そうだな」


カップをテーブルに置き、ラクをマジマジとみ始めた二人の表情が、先ほどまでの穏やかなものから真剣なものに早変わりした。


いったい何が始まるのか。


恐らく昨日の出来事、私を殴り飛ばしたことが関係しているけどそれ以上はわからない。


ラクは紅茶をもう一口飲み、二人の口から出る言葉を待つことにした。


するといきなりセロシアが頭をテーブルにぶつけるのではないかという勢いで頭を下げた。


「え…」


突然のことにラクは理解できずにいた。


「昨日は本当にすまなかった!!」

「え……と」


セロシアは頭を上げ、うつむいた状態で説明し始めた。


「あの時は頭に血が上って周りが見えていなかった。結果、君を攻撃するような結果になってしまった。本当に申し訳ない」


「い、いえ…その、私も話を聞かずに逃げてしまってすみませんでした」


それからラクは続けて言った。


「それと私は気にしてないのでそんなに自分を責めないでください」


セロシアはまだ納得していないのか、「しかし…」と言って続きを言おうとした。

だか、それを言わせることなく2人の終わりの見えない会話を見ていたカデンが笑い出した。


「な、なんで笑うんだよ」


「はははは…ふぅ。だから言ったろセロシア。ラクはあの程度で怒るようなやつじゃないって」

「それは昨日聞いた。けどそうだとしてもだ。私がやってしまったことに変わりはないんだ」


どうやらカデンはラクが怒っていないことを予想していたのか、ある程度事前に話していたようだった。


その後も少しだけラクのことを知っているカデンと、責任感が強いセロシアの話し合いがラクを無視して繰り広げられた。




その後、硬直状態に陥りしばらくの間沈黙が続いた。幼いころから静かな状態が嫌いなカデンは、何かも思いついたように、「ラクはもうあの件については気にしていないんだろ?」と聞いてきた。


「うん。気にしてないよ。私を人質にして巻き込んだ男は許さないけど。」


それを聞いたカデンは少し考えてから、


「ならこういうのはどうだ。今後セロシアはラクが東の街に行くまで各面でのサポートをするってのは」

「いや、だから私はもうあのことは気にしていないからそんなことしてくれなくても…」

「その話のった!!」

「……はい?」

「ぜひそうさせてもらうよ。それにこの子の戦闘見て少し興味を持ったし。ラクさんはそれでいい?」


ラクの主張を無視した提案だが、目を見るにセロシアは一歩も引くつもりはなさそうだった。

それによく考えると、これから何をすればいいかさっぱりわからないラクにとっては、とてもありがたい提案であった。


「……わかりました。セロシアさん?がそれでいいのなら、ぜひお願いします」

「よかったなセロシア」

「カデンはいろいろ言いたいことがあるから明日覚悟しておいて」

「oh…」


低く鋭い声でそういったラクにカデンだけでなく、セロシアまでもが委縮していた。


「ーーさ、さて、二人とも納得したことでこの話はおしまい!これからについて話そうぜ」

「そ、それがいい!でもそれより、まだ自己紹介をしていなかった。私はこの『アマドコロ』の店主で商人プレイをしているセロシア。これからよろしく」


セロシアは手を出して握手を求めてきた。

その手をラクは握り、返すように自身の自己紹介をした。


「昨日カデンに強引に誘われて試しに初めてみたラクです。よろしくお願いします」

「よろしく。あと私あんまり敬語とか使われるの好きじゃないからため口でいいよ。あ、それと私のことはセロシアって呼んで」


最後の一言をなぜか力強くいう意味が分からなかったラクだが、とりあえずそうすることにした。

ラクとセロシアがお互いの自己紹介を終え、雰囲気が穏やかになったことを悟ったカデンは紅茶を一気に飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ俺はもう行くわ」

「カデンどこ行くの?」

「スキル取りに行ってくるんだよ。とりあえずラクはセロシアからいろいろ教えてもらえ。じゃあな」


というとカデンは入ってきた扉から部屋を出て行った。


「……さて、じゃあまずあいつからどこまで聞いたか教えて。それを踏まえて話を進めたいから」


ラクはカデン、陽二から初期設定をしている時に聞いたことを思い出してみた。


「えっと、あいつの名前と短剣の特徴、あとこの世界のことを少し…だけ」

「はぁ!?うそでしょ?」

「本当。だから朝移動中にアイテムについては頭に入れてきました」

「なるほどねぇ。なら基本的なものから順番にしていくことにするよ。まずは武器について。何があるか言ってみて」

「えっと、たしか、剣の中で最も一撃のダメージが大きい「両手剣」、剣の中で応用力に優れ、初心者でも扱える「片手剣」、一撃は小さいけど攻撃の多さで攻める「短剣」、打撃を利用した気絶?がとりやすい「ハンマー」、主に壁役が使う「やり」、唯一の遠距離攻撃武器の「弓」だったかな」


「惜しい。あとは「特殊武器」があるね」

「特殊武器?」


「そう。分類は前の6つに入るけど、特殊なスキルが必要だったり、使用中にスキルが追加されたりする武器のことだね。多くの武器はこれに該当するかな」


「って話が逸れた。とにかく、武器は6種類+アルファが基本になっているんだ。それと特殊なスキルってのがあって、例えば片手剣を二本持って「二刀流」をしたい場合、「剣聖」ってスキルが必要なんだよね。カデンは今まさにその「剣聖」スキルをゲットしようとしているんだよ。とまあこんな感じで武器の使い方や戦闘方法はほぼ無限大といってもいいぐらい多種多様でね。だからのんびり自分の戦い方を見つけるといいよ」


ラクはセロシアの話の内容はほとんど理解することができたが、あるワードだけはまだ理解できていなかった。


「あの、一つだけわからないことがあるんですけど…」

「ん?何?言ってみて」

「その…【スキル】ってなんですか?」


ラクはまださっきからでてくる【スキル】というシステムについて調べ忘れたせいで全く理解できていなかった。

そしてセロシアも結構肝心なことを説明するのを忘れていたようで、頬をかきながら目線をそらした。


「あー…ごめん。説明するの忘れてた」


どうやらこのセロシアという女性プレイヤーは根はしっかりしているがところどころ肝心なところが抜けているという印象だった。


「じゃあ【スキル】について説明するね。まずはスキルの種類。「戦闘スキル」「支援スキル」「生産スキル」「加工スキル」「特殊スキル」といった感じに大まかには分類できるんだけど…」

「何か問題でも?」

「まぁ…そうなんだよね。実はスキルの正確な数も種類もわからないんだよ」


「わからない?」

「そう、このゲームでのスキルの獲得方法は全部違って一定の条件を満たすことで獲得できるシステムになっているんだよ。だから初歩的なスキルとか条件の簡単なスキルはわかってても、一部を除いた高難易度のスキルや未発見のスキルは取得条件がわからないの。だから今獲得条件の分かっているスキルを分けた結果、さっきの分け方になったんだ」



「つまり、判明しているスキルは手順通りにやれば手に入るけど、それ以外のものはいつどんなタイミングでどんな条件でスキルを獲得できるかはわからない。もしかしたら未発見のものを手に入れることもあるってことですか?」

「そういうこと。中にはひたすら草原にいるあの牛を倒し続けたら、【牛の解体者】っていう牛型のMOBから手に入るアイテムの数が増える、あまり使い道のないものを手に入れたプレイヤーもいるぐらいだからね」


地道にプレイしていたらそのうち何か自分にうってつけのスキルが手に入るかもしれないことにすこしわくわくしながらセロシアの話を聞いていると、視界の右下にある時計の表示がすでに12時を回っていることに気が付いた。


「ってもう12時!」

「ん?どうした?」

「すみません。もうログアウトしないといけないです」

「そう。ラク、明日は来る?」

「はい。明日も9時から来ようかと思ってます」

「なら明日は戦闘システムについて教えるから夜の9時にうちの店の前で集合でいい?」

「わかりました」


返事を聞いたセロシアはウィンドウを開き、そこからさらに何かのウィンドウを開いた。すると少ししてラクの目の前に横置きA4サイズの半透明のウィンドウが表示された。

   

 【フレンド依頼】

      セロシアさんからフレンド依頼が届きました。承認しますか?

             YES/NO


ためらうことなく[YES]を押し、セロシアとこのゲーム初のフレンドになった。


「なにかあったらいつでも連絡して。答えれる範囲で答えるから」

「ありがとうございます。じゃあまた明日」


それからすぐにラクはクレマチスの世界から現実の体に意識を戻した。


ゆっくりと目を開け、見慣れた自室の天井を眺めた。


「……意外と楽しいかも。ーーとりあえず第二の街っていうところに行くまで続けてみようかな」


ラクはヘッドフォン型デバイスを頭部から外し、明かりを消して目を閉じた。

それから宿梨は朝までぐっすりと眠ったのだった。 



今回はゲームの設定紹介がメインの話でした。

さて次回は戦闘システムについての説明です。いったい何を倒すのか・・・・。

お楽しみに!

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