episode9
月曜日21時、ラクは第一の街の南側に武器を求めて来ていた。
ここに来る前にセロシアに武器を売っている場所をいくつか教えてもらい、今は自分に合う短剣を求めて教えてもらった店を回っている。
「これでもないなぁ・・・・・」
―――シュン・・・・・ヒュン・・・・・
ラクは短剣を振り回して感触を確かめていた。
しかし今持っているものは軽すぎた。
持ち手の太さはちょうどいいのだが、刀身のサイズも小さく、軽い。
ラクの理想のものとは少し違っていた。
そのあとも何本か手に取って感触を確かめたが、どれもしっくりせず、その店を後にした。
次にやってきたのは、先ほどの店の面する通りを少し先に進んだところにある店だ。
その店ではそもそも短剣が品切れで、すぐに店を出た。
セロシアに最後に紹介された店、ラクはその店先に立っていた。
「・・・・・ここ?」
それは南側にある門に近い場所にある店なのだが、なんといっても店の装飾が異彩を放っていた。
一言で表すなら江戸時代の建物。
木造で屋根には瓦、外とは障子で仕切られているだけだった。
そして店先には【刀鍛冶:シュン】と書かれた薄い青色の垂れ幕が下りていた。
「完全にここだけ別世界なんだけど・・・・・・・」
明らかに浮いている店に入るのにためらっていると、ひとりでに障子が開き、中から一人の女性が出てきた。
「誰だー?店先にずっと突っ立ってる奴は。」
中から出てきたのは柔道着をアレンジしたような装備を着たショートヘアーの女性、ハルだ。
ハルは『旋風団』に所属し、ラクが初めて間もない頃にアキレア達と一緒に岩巨人を倒しに行ったメンバーの内の一人だ。
それ以来あっていなかったので、どこかのダンジョンに行っているのかと思っていたが、もしかしたらずっとここにいたのかもしれない。|(店持ってるし)
そんなことを考えていると、ハルがラクに気が付き、笑顔で歩いてきた。
「ラクさんじゃない!!久しぶり!」
「お久しぶりです。ハルさん。」
「そう硬くならなくても私のことはハルって呼んでくれればいいし、敬語もいらないよ。ささ、立ち話もなんだし中に入ってよ!」
ハルはラクの背中を押して店の中に入っていった。
そしてラクを広間の畳の上に座らせ、ハルは奥に行ってしまった。
ハルが戻ってくるまでの間、ラクは内装をぐるっと見まわした。
外装は江戸時代にありそうな和風の建造物だったが、内装はというと、しっかりとフローリングが敷かれており、その上置かれた腰ほどの高さの台の上には何本もの太刀、脇差、鉈、ハンマーといった武器がきれいに並べられており、店というより展示場のような印象を持った。
壁は土壁・・・・・ではなく、木の板をぐるっと張り巡らせており、天井は吹き抜けになっており、二階にある手すりから一階の展示場所を見下ろせるようになっていた。
「外装にはびっくりしたけど中はどこかにありそうなデザイナーズハウスみたいかなぁ。」
そうぽつりとつぶやいたとき、ちょうどハルがお茶を乗せた御盆を持って戻ってきた。
「それがいいんだよ。私って見た目と中身のギャップがあるのが大好きでね。これはこれでおもしろいだろ?ほら、とりあえず飲んでくよ。」
ハルはラクのそばに置いてあった机の上に、お茶の入った湯呑をコトンッと静かに置いた。
それを持つと、ラクはずずっと一口。
かすかに苦みがあるが、その中にあるお茶特有のうまみが口中に広がった。
これもやはり現実のものと変わらないぐらいの再現度だった。
「あ、おいしい。」
「だろ!ラクならわかってくれると思ったよ。」
ハルは嬉しそうに、目をキラキラと輝かせながらこのお茶を手に入れた経緯を語り始めた。
それを数分ほど聞いていると、ハルがふと話すのをやめ、手に持っていた湯呑を机に置き、ラクをじーっと見つめ始めた。
「・・・・・・・・そういえばラクさんは何をしに来たんだ?」
その一言にラクは体中の力が抜けそうになった。
一瞬ふらっとなったのを手を畳についてこらえると、今回の用件をハルに話した。
「実は新しい短剣を探してるの。」
「短剣?前使ってたやつはどうしたんだ?」
「あれが折れたから新しいのを買いにあちこち回ったんだけど・・・・・なかなかしっくりくるものがなくて・・・それでここをセロシアに教えてもらったの。」
「なるほど・・・・・よしわかった。せっかく来てくれたんだし、ラクに合う短剣を探そう。」
そういうとハルは立ち上がり、短剣、短刀がまとめておかれている棚に歩いて行った。
そこから何本かの剣を取り出すと、空いている机の上にきれいに並べて行った。
それからハルに手招きされ、ラクはその横に歩いて行った。
「まずはこれらの使い心地を教えてくれないか?どんなものをラクが求めているかを知りたいからさ。」
といい、ハルは一番右に置いてあった短剣をラクに渡した。
それを鞘から引く抜き、少し離れたところで数回振って使い心地を確かめた。
「少し軽いっていうのもあるけど持ち手が少し太いかな。」
「なるほど・・・・・じゃあ次はこれ。」
今度渡してきたのは短刀だった。
その短刀を受け取り、数回振って感触を確かめる。
それを計5回ほど繰り返した。
それぞれ違った使い心地だったが、どれひとつしっくりくるものはなかった。
すべての感想を聞いたハルはそれらを踏まえて、棚の奥から一振りの短刀を取り出した。
その短刀はこれまで振ってきたものと違い、持ち手の部分だけがつけられたもので、必要最低限の作者の名前しか掘られていないシンプルなデザインだった。
それをラクに手渡した。
「たぶんこれがラクの求めているものに一番近いと思うんだが・・・・・・どうだ?」
「・・・・・・・・うん。これが一番理想に近いかな。」
重さ、グリップの太さ、刀身の長さ、どれも求めていたものに近いものだ。
両面に刃がついている短剣ではなく、片方の面にしか刃が付いていないという点は気になったが、使っていくうちになれるだろうと思ったのだった。
「なるほどな。うん。だいたいわかった。それで、両刃、片刃、どっちがいい?」
「どういうこと?」
「ん?ああ、そういえば説明してなかったな。うちは完全オーダーメイドの鍛冶屋なんだ。ラクに今まで
試し振りしてもらったのはあくまでその人の求めるものを知るための物。実際に売るものはそれらの感想を踏まえて作ったものなんだ。そして剣の形やデザインとかもその人のオーダーに合わせて作る。だからさっき両刃か片刃かを聞いたんだ。何か要望ってあるか?」
「要望・・・・・・両刃の短剣にしてほしいのと・・・・丈夫なものにしてほしいかな。それ以外はすべてハルにまかせるよ。」
「わかった。じゃあ値段だが・・・・・・今後どんどん変えていくことも予想して・・・・・15000Rでどうだ?」
「うん。それでいいよ。」
そういうと、ラクは躊躇なく15000Rをハルに渡した。
正直、短剣に15000Rとは今のラクにとっては結構高い買い物だ。
通常の露店や店では短剣の一般的なアイアンダガーで3000Rほど。
上質なもので5000Rぐらいだ。
しかしこれからハルに作ってもらうのは、完全オーダーメイド、自分が一番使いやすいモノを作ってくれるという。
今後重宝することになることを考えると15000Rを出してもいいと思ったのだ。
だから躊躇なく渡した。
「まいどあり!完成はこんどの日曜目標でいいか?」
「できるならそうしてほしいけど・・・・今回は私戦わないからさ。成したら取りに来るよ。そのときに連絡して。」
「わかった。そうさせてもらうよ。」
そういうとハルは棚から出したいくつもの剣をしまうと、あらためてラクの前に立った。
「ラク。一つ頼みがあるんだけど・・・・・・・聞いてもらってもいい?」
ハルはずっと我慢してきたが、もう限界だといわんばかりの目で言った。
「いいけど・・・・・それって私にできることなの?」
「うん。すごく簡単なことだから。えっと・・・・・その両手剣私に見せてくれない?」
ハルの頼み。
それはラクの今背負っている両手剣【バスターヒリカム】を見せてほしいというものだった。
「わかった。そういうことなら・・・・・はい。」
ラクはハルの頼みにあっさりと応じ、両手剣を抜刀してハルに渡した。
金色の龍の紋章が装飾としてつけられている両手剣【バスターヒリカム】
ハルはそれを受け取ると、刀身を見つめたり、刃先の具合を見たりと、剣の隅々まで観察し、ステータスウィンドウを開いた。
そして想像通り『再炎』に注目した。
「なぁラク。この『再炎』ってなんだ?」
「それね・・・・・実はまだ何かわかってないんだよね。スキルなのは間違いないんだけど発動できないし。」
「何か条件でもあるのかもよ?」
「私もそう思っていろいろ試したんだけど発動しなくて・・・・・・正直言って今完全にお手上げ状態なの。」
「なるほど・・・・・・発動条件不明、スキル系統不明の謎のスキルか・・・・・そういえばカデンも持ってたな。確か・・・・・『再臨』だったかな。」
ラクとカデンは抽選クエストのクリア報酬として、それぞれ片手剣と両手剣の【ヒリカムシリーズ】をもらっている。
カデンのもらった【アサルトヒリカム】には『再臨』、ラクのもらった【バスターヒリカム】には『再炎』というスキルが付いている。
抽選クエストの後、二人はくのスキルについて調べることにしたのだが、ラクは断念したのだ。
「そういえばセロシアからさっき伝言を預かったけど・・・・聞くか?」
「セロシアから?」
「ああ、なんでもそっちにいるだろうからハルから言ってやってくれーって言ってたな。」
セロシアどうしてラクに直接伝えようとせず、わざわざハルを間に入れて伝えようとしたのか。
その意図はわからないが、とりあえずその伝損を聞いてみることにした。
さて、セロシアからの伝言とは一体・・・・・
それではまた次回!
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