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episode3 

2017/4/10 全体修正

2017/5/6 全体修正

 ラクは逆手に持った短剣を構えて突進牛と対峙した。


「ブフオオオォォォオ!!」


勇ましい牛の声が、風でなびく草の音をかき消すようにあたりに響き渡った。

そして叫んだ突進牛は角先をラクに向け、ドスドスと重い音を立て、わずかに土煙を上げながらまっすぐと走ってきた。

速度はこれまでとほぼ同じで威力も変わらない。

しかしはじめたばかりでHPの心もとないラクには、そんな攻撃を何発も受けることのできるほどの余裕ない。


こんな始めたばかりの状況でも負けるわけにはいかない!


「やぁぁぁ!」


ラクは突進牛の突進に応えるように負けじと突っ込んでいった。

ガサガサと草をふみつぶし、まっすぐと、牛に向かって走っていった。

牛との距離が数メートルにまでなった途端、もう一度ラクは左手でインベントリから石取り出し、突進牛めがけて投げつけた。


「やぁ!」


その石はまっすぐと風に負けることなく、一直線に牛に向かって飛んでいった。

しかし牛は歩く速さにまでスピードを落とすと、飛んできた石を頭から生えているねじれた角で弾き飛ばした。


鈍い音を立てて角に打ち返された石は、悲しいほどあっさりと草の上に落ちた。


「ブルルルルルル……」


石を弾いてどうだ!と言わんばかりに正面を向いた牛だったが、すでにラクは正面にいなかった。


一体どこに行ったのか。


この辺りの草原は平地に近い土地だ。

逃げたのであればその背中がどこかしらの方向に見えるはずだ。

だがそれらしき背中は見当たらない。

格好は似ているが髪の色や長さが違うやつはいる。

だが牛と戦っているあいつはどこにも見当たらない。

突進牛はあたりをキョロキョロと見回して姿を探していると、フっとお一瞬だけ人の影のようなものが目の前に生えた草の色をを暗くした。


…まさか


牛はバッと勢いよく空を見上げた。

しかし…


「もう遅い!」


あの角と頭を振る一瞬の間にラクは高く跳んでいた。

そもそも最初は牛の目の前に着地する予定で跳んだのだが、想像以上に跳んだしまって少し動揺した。

だがすぐに落ち着き、作戦を変更したのだ。


空中で体をひねり、右手で逆手に持っている短剣を順手に持ち替え、落下する勢いを乗せて短剣を振り下ろした。


風を切る音とともに、ラクの攻撃はその勢いで牛の右角を切断し、その角はその場に落下した。

だが牛は角が切断された衝撃にひるむことなく頭を振り、いまだつながっている左の角でラクを横に突き飛ばした。


「ぐっ。さっすがに空中は無理だなぁ」


 HP:20/100

吹き飛ばされた先でうまく着地したはいいものの、あと一撃でも正面から突進を食らえばHPがゼロになってしまう。

だがそんな状態でもラクは楽しんでいた。


「やっぱやめられないね走るのは。現実だともうこんなに思いっきり走れないけど、こっちだと思う存分走れるし体を動かせる!」


ラクは笑いながら立ち上がり、再び短剣を構えた。

牛のHPはのこり半分。

もう一度さっきと同じ方法をできたらいいが、もうインベントリに石はない。

ほかのアイテムも使えそうなものはないので短剣だけで戦うしかなかった。


「さーて。どうするかなぁ。――それよりいつの間にこんなにプレイヤーがいたの…」


戦いに集中していて今まで気が付かなかったが、いつの間にかラクと同じ装備を着た、おそらく初心者プレイヤーや、そこそこの実力のありそうな通りすがりのプレイヤーが少し離れたところでこの戦闘を見ていた。


「ブオォォォォォ!!!!!」


これまでで最大の牛の雄たけびがびりびりと体を揺さぶるような叫びが周囲に響き渡った。

そして牛は目を細め、態勢を低くし、力いっぱい地面を蹴ってこれまでと比べても一番速い速度で突進してきた。


「これできめようってわけね。じゃ私も!」


そういうとラクも態勢を低くして牛めがけて走っていった。


「やああぁ!!」


そして両者がぶつかった。

ラクは走るのをやめ、その場で素早く剣を順手に持ち替え、ステップをし始めた。

迫ってくる牛の左角を身体をねじり、短剣で受け流してダメージを軽減した。

ガリガリという角と短剣のこすれる音があたりに響き、なんとか持ちこたえたラクは、振り返ってUターンして再度向かってきた牛の攻撃に、今度は剣を使わずに対応してみた。


突進をギリギリのところで横に跳んで避け、剣を持っていない左手で牛の体をつかんで飛び乗った。

揺れる牛の背中に乗ったラクは、右手の剣を逆手に持ち替えて牛に突き立てようとした瞬間、背中にしがみついたラクを振り下ろそうと体を左右に振ったり、走って曲がるときの遠心力で振り落とそうとしたりして抵抗した。


「こんな……ところで…振り落とされてたまるか!!」


ラクは、牛の抗うように背中に深々と短剣を突き刺した。

そして一撃のおかげで牛のHPがようやく3割を切った。


「あと…すこし…」


振り落とされそうな勢いに耐えながら、両手でしっかりと握り、短剣が抜けないように必死に押さえていると、牛は急にその場に立ち止まった。

そしてスピードが乗った状態で急に止まったので、牛に乗っていたラクは前にとばされてしまった。

空中で態勢を整えることができなかったラクは背中から地面に激突し、その衝撃でHPが10を切って6になってしまった。


「ブオオオオオォォォ!!」


ラクは残り僅かなHPを目視で確認すると、薬草を使った僅かな回復もせずにふらふらと立ち上がった。

さっきまで手に持っていた短剣は手元にはなく、いまだに牛の背中に突き刺さったままだ。


「さ、すがにもう打つ手が…ないかな」


満身創痍といった様子のラクを見た牛が勝利を確信したのか、再び地面を蹴って突進してきた。


「っ!やば!」


なんとか横に跳んで避けたが、着地先でなにかを踏み、おのまま倒れるように転んでしまった。


「きゃあ!なんなのよこんなときに…ってこれって…」


そのまま動かずに見ていると、牛がラクに狙いを定めてとどめを刺すための突進をしてきた。


「しまった!!」


とっさに立ち上がろうとしたラクだが気づくのが遅く、あっさりとかれ蹴り飛ばされた。



………ように思われた。


ぶつかる直前ラクはすぐに立ち上がり、自分が転んだ原因であるもの、「切断された突進牛の右角」をとっさに右手で持ち、それを牛の額にザシュっという音を立てて突き刺していた。


その瞬間、牛のHPが0になり、急に牛から力が抜け、轢き飛ばされることなく現体勢を維持できていた。


「モオォォォ…ォ…ォ……」


最後の声を出し、突進牛はラクの持った角とともに光の粒子になって消えていった。

それから数秒後、ラクの右前にはウィンドウが現れ、今回の戦闘で入手したものリストが表示されていた。


 突進牛の角×1

 草食獣の毛×2

 草食獣の皮(小)×2

 草食獣の骨(小)×2

 経験値+10

これが今回の戦闘で入手したものだった。


「や………ったぁぁぁぁ!!!」


勝ったことがあまりに嬉しく、ラクはその場でつい叫んでしまった。


パチパチパチ……


周囲のプレイヤーの拍手や感心したような声が聞こえた。

そんな中、久々に激しく動くことができたことへの満足感と初めての戦闘の緊張から解放されたためか、力が抜けたラクは背中から草原に倒れ込んだ。


草原の草がちょうどいい感じに柔らかく、吹き付ける風は心地よく、何もなければこのまま眠ってしまいそうになってしまいそうだった。


そんな草原のど真ん中で目をつむって草原に吹く風を感じていると、自分に向かって迫ってくる2組の足音があることに気が付いた。


「やぁ、おつかれさま。いやーすごいじゃない。始めたばかりなのにあの突進牛を一人で倒すなんて」


聞き覚えのある声に恐る恐る目を開けると、視界の下、足の先に昨日ラクを殴り飛ばしたハンマーを背中に担いだ、アイテム販売店『アマドコロ』の店主の金髪ポニーテールの女性がいた。


その女性のことを思い出し、ラクはまた飛ばされると思い、あわてて立ち上がって逃げようとしたが……


「おっと、今度は逃がさないよ」


といい逃げようとするラクのおなかの上に勢いよく座って逃げれないようにしてきた。


「ぐ……」


容赦のないそのヒップアタックはラクのおなかを強打し、思わず声になっていないような声を上げた。


「君とはいろいろ話がしたいからね。おとなしくしてほしいな」


と微笑みながらいうとラクの両腕を抑えて顔を近づけてきた。

女性の金色の髪が垂れてラクの顔をくすぐった。

その光景に、周りにいたプレイヤーが急にざわざわと騒ぎ出した。


「ストップストップ!セロシア落ち着け。ラクが怖がってる」


突然聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

その声のした方向を頭だけ動かして向いた女性は近寄ってきた男性とそのまま会話をし始めた。


「カデン。どうして?」

「どうせ詳しい説明もしないで連れてこようとしてただろ」

「だって…そっちのほうが手っ取り早くない?」

「はぁ……もういい。俺が説明するよ。だから少しどいて」

「……わかったよ」


そういうと金髪の女性はしぶしぶとラクの上からどいてくれた。


セロシアと呼ばれる女性から解放されたラクは上体を起こし、いままで見えなかった男性を見てその恰好を上から下に目を動かして確認した。


茶髪で髪は上げており、服は赤がベースで黒いラインの入っている服を着て、同じデザインのズボンを履き、胴、肩、腕、足に鎧をまとっていた。そして背中に片手剣を担いでいる青年がそこにいた。


「ようラク。大変なことになってるなぁ。ま、楽しんでるようでおれはうれしいけど」

「…私の名前を知っていてカデンって名前…ということはあんたがギルド『旋風団』のカデンね」

「正解。安全は俺が保証するからとりあえず『アマドコロ』に一緒に来てくれないか?」


二人がそんな会話をしていると、金髪の女性セロシアと呼ばれた女性がラクとカデンを交互に見てから、


「え、カデンこの子のこと知ってるの?」


と聞いてきた。


「ああ、知ってる。というかラクをクレマチスに誘ったの俺だし」


そう、カデンの正体は幼馴染の陽二ようじだ。


実は陽二がクレマチスで「カデン」という名でプレイし、ギルド「旋風団」のサブギルドマスターをしていることは初期設定の時に聞いていたのだ。

だから誰なのかすぐわかったし、すぐに安心できた。


「じゃあ最初からカデンがこの子と一緒にログインすればよかったじゃん」

「いや、おれラクの家にソフトとか持って行ったから、ラクがログインしたときは家に帰ってる真っ最中だったんだよ」

「え、あんたこの子と現実でも関わりあるの?」

「そうだが何か問題でもあるか?」

「どんな関係?」

「ただの幼馴染」

「ふーん。そうなんだ」

「おい、なんでニヤニヤしてるんだ?」


なにやら自分を放置したまま会話をしている二人を眺めていると、セロシアがラクの目線に気が付いた。


「それよりいい加減移動しない?この子に説明しないといけないし」

「ん。そうだな。じゃあ移動するぞラク。立てるか?」

「なんとか。でも手、貸して」


ラクはカデンに引っ張ってもらって立ち上がり、カデン、セロシアと一緒に街のほうに歩いて行った。

 


先ずはラクちゃん!初戦闘お疲れ様。そして初勝利おめでとう!

まさかあそこまで動き回る戦闘が繰り広げられるとは・・・・・・・

さて次回は・・・・・『アマドコロ』でのお話になります。

お楽しみに!

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