episode4
現実世界に意識を戻した宿梨は、ヘッドフォン型端末を頭から外して横に置くと、自室を後にしてリビングに向かって階段を下りて行った。
ガチャ――――パタン
リビングに入ると、ソファに母親と父親が座ってテレビを見ていた。
「あれ?お父さん仕事は?」
つい数時間前までハイテンションで抽選クエストの司会をしていたはずの父親がなぜか家にいた。
「さっきまでやってたぞ、家で。・・・・・・ところで宿梨。」
上半身だけ動かして宿梨のほうを向いている父親はそういうと、ソファの空いているスペースをポンポンとたたいて隣に座るように誘導した。
しかし宿梨はそれに従わず、キッチンに歩いて行くと冷蔵庫の中から麦茶を出し、コップに注いでゆっくりと飲んでいった。
「なぁ宿梨。ラクってプレイヤー知ってるか?」
「っ!ゲホッゲッホゲッホ・・・・・い、いきなりどうしたの?」
まずい!!
でもなんで・・・・・・・・話した覚えは・・・・
・・・・・・・ある。
昨日の夜うっかり話してしまったことを思い出した。
恐らくそこから今日の午前中に陽二から聞き出したのだろう。
ドキドキと高まる心臓の鼓動を抑えるようにゆっくりと、深く呼吸をした。
しかしこのすぐ後にさらに驚くことになった。
「あら、あなた知らなかったの?」
「な、なに言ってるの?私あのゲームやって・・・・・・」
「な!!知ってたのか!?なら教えてくれればよかったのに・・・・・」
「だって・・・陽二君に宿梨に渡すように頼んだの私だし。」
宿梨は硬直していた。
母親が知っていたことにも驚きだが、なにより元凶だったとは・・・・・・
「そろそろ腕前もそこそこ上達したかなーと思って今日ばらそうかと思ったけど、昨日宿梨が自分から言っちゃうんだもん。あれはびっくりしたわ。」
「っということはラクっていうのは?」
「ええ。宿梨のキャラ名よ。」
完全にばれた。
そう確信した宿梨は逃げるように足早にリビングを出て行こうとしたが、とっさに見事な連携で進路をふさいだ母親と、背後にまわりこんだ父親の双方からじりじりと迫ってくる二人によってあっさりと捕まえられてしまった。
「ちょっと!放してよ。」
腹部をがっしりとホールドしている父親の手から離れようと、必死に抵抗するがかなわず、必死に手足をバタバタと振り回していた。
父親の手によってソファまで運ばれた宿梨は、すっかりあきらめ、おとなしくなっていた。
「それで、本当か?」
「はぁ・・・・・そうだよ。お母さんの言っている通り、私はラクっていう名前で遊んでるよ。でもそれがどうしたの?」
それを聞いた二人は顔を合わせてうなずくと、もともと何か決めていたかのような顔で宿梨の肩を掴んだ。
「宿梨、いまからやろう。」
「いまからやりましょう。」
まぁ大体予想していた通りのことが起こって二度目のため息をついた。
「はぁ・・・・・・わかった。で、何するの?言っとくけど私そんなに実力ないよ?」
「それは任せるわ。宿梨のやりたいことでいいわ。」
そういわれたとき、すぐに何をやるか決まった。
「ならクエスト手伝って。一人じゃ難しいクエストだから。」
「わかった。なら今からやろう。集合場所は第一の街の転移柱広場でいいか?」
「うん。それでいいよ。」
すると、母親が思い出したように妹のことを言い出した。
「そういえば陽優はどうする?あのこいまもプレイしていると思うけど・・・・」
「たぶん陽二君たちといるんじゃないか?」
「そう。そうなんだ・・・・・」
そういえばその話を聞いておもったのだが、陽優のキャラ名を知らない。
それに両親のキャラ名も知らないから集合できないのではないか・・・・・
そう思った宿梨は二人に聞いていた。
「そういえば二人のキャラ名ってなに?名前わからないと集合できないんじゃない?」
「確かに・・・・・じゃあ教えないとな。父さんのは・・・・」
二人の名前と集合場所を教えてもらった宿梨はすぐに部屋に戻り、再び「クレマチス・オンライン」の世界に意識を移した。
目を開けると、第二の街の転移柱のある広場にラクは立っていた。
すでにイベントが終わってから数時間が立っているので、広場の賑わいも通常通りのすこし騒がしいぐらいになり、転移柱まで容易に行くことができた。
そしてその転移柱から第一の街まで移動したラクは、集合場所である西エリアに続く門の前にやってきた。
何度も森林エリアに行くために通過している場所だが、じっくりとその場所にある店を見たことがなかったので、二人が来るまでの間に見て回ることにした。
少し閑散としたその場所には、中心地に負けないほどの豊富なアイテムが店舗で売られていた。
回復アイテムやMOBのドロップアイテム、本や石などの小物まで、様々なものがあった。
とくにラクが目を奪われたのは【突進牛】の頭そっくりの置物だった。
興味を持ったっというわけではなく、そのインパクトの強さと異彩を放つものとして目を奪われた。
しかも値段はカデンがくれたあのローブ以上。
一体何に使うのか・・・・・・・・
たぶん運営側が用意したお遊びアイテムみたいなものだろう・・・・・
そう思ったラクは、、今にも突進してきそうな牛頭を置いている店を去った。
「・・・・・・・・遅い。」
あれからすべての店を見たが、それでもいまだに来ない両親にすこしイライラしていた。
転移柱を使えばすぐのはずなのにあれから10分は経っている。
最初は入れ違いになってるかその辺にいるだろうと思って周りを見回していたが、それらしき名前が見つからない。
「一体どこにいるの・・・・」
そういいながら、西エリアと第一の街にの間にある外壁にもたれかかったラクは、アデンが翻訳して書いてくれた紙を取り出して、西の森林に関係しそうな部分を読んでいた。
大いなる森にすむ眷属は蛇のごとし
「西の森林の広さはこの世界最大だ。あまり奥に入っていくなよ?」とセロシアから聞いたことがあった。
それを考えると、「大いなる森」とは西の森林エリア、眷属の蛇は新しいエリアボスの類なのだろう。
ラクそう考えていた。
しかしこの推測が当たっているとは限らない。
そもそも大いなる森が西の森林エリアではない可能性もある。
これについては実際に見つけて確認するしか確かめる方法がない。
果たしていったいこの世界でのストーリーはどうなっているのか。
それに文の最後にあった「鍵正しき場所に差し込みし時、すべてが始まる」とは何を差し、何が始まるというのか。
「ま、今は考えてもしょうがないか。今度セロシアにでも聞いてみようかな。」
その紙をしまうと、目の前に二人のプレイヤーが立っていた。
一人は男性。
すらりとした長身に短く整えられた白い髪、赤い目の持ち主で白い首元まである白いノンスリーブのシャツと防具は小手と足腰だけ。
なにかの鱗と皮膚で作られた赤い鎧をまとい、背中には鎧と同じ赤い鱗と皮膚が装飾として使われている両手剣を背負っており、勇敢な戦士といった印象だった。
そしてもう一人は女性。
男性同様スラリとした体形だが、身長はラクより少し高く、大人っぽい印象をかもし出していた。
髪は黒の長髪で左右で縛り、目はピンク色でぱっちりとしていた。
服は赤い白い生地に赤で模様の刺繍がされたチャイナドレス風のもの、その上に小手と膝から下の防具を付け、武器は男性のものと一緒の両手剣だった。
「おまたせ。ちょっといた場所が場所で来るのに時間かかちゃった♪」
「こんなに時間かかるなんて一体どこにいたわけ?」
「南エリアの奥だ。いやー参ったよ。転移柱が南の街にないからここまで全力で走ってきたんだ。」
そう語る男性の名前は「ゼラ」
女性の名前は「アオイ」
ラク、宿梨の両親であり、『旋風団』に並ぶトップギルド『タイラント』のメンバーだ。
カデン達『旋風団』は北を攻略しているのに対し、ゼラ、アオイ達の『タイラント』は南を攻略している。
ちなみに北と南の難易度は同じくらいである。
「あ、そうそう、ラク。あと一人PTに追加していいかしら。」
「?別にいいけど・・・・」
「だって。よかったわね。アキレア。」
「・・・・・・は?」
アオイの目の先には、すごい気迫でこっちをにらんでいる金髪長髪のポニーテールの少女、アキレアがいた。
アキレアは『旋風団』のメンバーでいまは北にいるはずなのだが・・・・・・
アオイに呼ばれたアキレアはこっちに来るとラクの頬を両手でしっかりとつかんで顔を近づけてきた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・|(なにこの状況)」
「ねえアオイ。本当にラクちゃんがそうなの?」
「ええ。現実で確認したわ。」
ん?現実?
「ねぇ。おか・・・・・アオイさん。もしかしてアキレアって・・・・・」
「ええ。あなたの妹よ。」
「なんだ。ラクは気が付いてなかったのか?」
一回二回あっただけで分かるわけがなかった。
そもそもあきれあもわかっていなかったようだし・・・・・
「お姉ちゃんなんで今まで言わなかったの!リアルで!」
「い、いえるわけないでしょ!?ただでさえばれると面倒なことになりそうだし!」
「う・・・・・確かに面倒なことになるの私も経験したから否定できない・・・・・」
どうやら陽優は両親にばれたときに大変な目にあっていたようだった。
まあなにをされたかは大体想像できるけど・・・・・・
「ってそれよりアキレア。カデン達はどうしたの?」
「ん?置いてきた。」
「・・・・はい?」
「結構難しいダンジョンに入ってたけど、急用が入ったーっていって抜けてきたの。」
三人はカデン達の惨劇が想像できた。
きっとハルさんやトウジさんたちはめちゃくちゃ怒ってるんだろう・・・・・・
アキレアの後日が心配だ・・・・・・・・
「そ、それより!!そろそろ行こうよ!早くしないと夜ご飯の支度ができなくなるよ!!!」
「あ、ちょっと!」
そういうとアキレアはラクの手を引いてどんどん草原エリアを進んでいった。
「なぁ、アオイ。」
「なに?」
「私たちの願い。叶ったな。」
「・・・・・そうね。・・・・・さ!私たちも行きましょう!早くいかないと置いてかれちゃうわ。」
そういうとゼラ、アオイの二人はラクたちを追いかけるように草原の道を歩いて行った。
『余談』
ラク、アキレア、ゼラ、アオイという四人PTを見た周りのプレイヤーは四人が去った後、どうしてあんなPTが組まれていたのか。という議論が数時間にわたってくり広げられたようだ。
ちなみにその時出た結論は「なんでかわからない。」だそうだ。
さあばれた!
ばれてしまった!
そんなわけで次回から高木家PTの愉快なお城探し?がはじまります!
それではまた次回!!




