episode5
豪華な装飾のされた空間。
その中央に、三本の剣を携えた黒い鎧の騎士が立っていた。
二本は片手剣で腰の鞘に、もう一本は右手に。
そのすべてに竜をかたどった金色の紋章があった。
【伝承に伝わるかつての聖騎士】
それがその騎士の名前だ。
すらりとした体型と鎧に釣り合わない両手剣を振り回し、片手剣を素早く動かし、二本の片手剣を使って戦う姿は迫力のある舞いのよう。
その聖騎士は一言で言って驚異的なステータスをもつMOBだった。
9人ものプレイヤーをねじ伏せ、プレイヤーを圧倒しているその聖騎士は、いまはラクとカデンのペアと対峙していた。
「・・・・・・・・・・」
一言も発しないその騎士からは相手を委縮するようなプレッシャーが発せられているようだった。
「ラク・・・・まずは俺が前に出て相手の動きを見る。その間に違和感の正体を可能な限り考えてくれないか?」
「それはいいけど・・・・・それなら私があいつに動きをとらせた方がいいんじゃないの?違和感の正体がわかればカデンのほうが有利に戦えると思うし・・・・・」
「それは俺が負ける。と言いたいのか?」
カデンから発せられた言葉には、騎士に負けないほどの気迫がこもっていた。
「あ、ごめん。そうは思ってはいないけど・・・」
いまだにフードを被っているラクはカデンから目をそらし、自分の顔が見えないようにした。
するとカデンはフード越しにラクの頭に手刀を下した。
ゴスッ
結構な勢いで振り下ろされた頭を押さえ、ラクはカデンと向き合った。
「痛い!なにすんの!?」
「心配するな。そう簡単にやられねーよ。それにこっちも剣は『三本』ある。知ってるか?武器はうまく使い分けることが大切なんだぜ。」
その言葉の意味が伝わったのか、ラクはカデンに任せることにした。
「わかった。カデンの案で行こ。けどちゃんと『三本目』も使うんだよ?」
「ああ。まかせろ。」
そういうと、カデンはラクを置いて騎士の前に歩いて行った。
「よう。待ってくれてありがとな。といっても伝わらないか。」
カデンはそういうと腰に下げていた二本の剣を、騎士は右手に持っていた両手剣を構え、激しい戦闘が始まった。
最初に仕掛けたのはカデンだった。
カデンは【身体強化:アタック・スピード】を発動し、騎士に向かって跳ぶと、騎士の腹部めがけて右手の剣を突き出した。
その突きは騎士の反応する前に命中し、ここからカデンが『連撃』と呼ばれる所以が始まった。
「はぁぁぁぁ!」
腹部をついた剣を引き抜き、左手の剣で胸元を一閃、そのまま回転して右手の剣で同じ場所を一閃、その後二本を交互に振り下ろし、騎士の攻撃を許すことのない15連撃が繰り出された。
しかし連続攻撃の最後の一撃を振り終えたカデンは目を大きくとっさに剣を前で交差させた。
なんと、あの15連撃を受けた騎士は、ひるむことなく両手剣を一閃してカデンを壁沿いまで吹き飛ばした。
「ぐううぅ・・・」
ギリギリのところで剣でガードしたカデンは、飛ばされた方向にあった壁に足を付け、そのまま蹴って騎士に突っ込んだ。
「まだまだぁ!」
カデンの振り下ろした剣は両手剣に受け止められ、甲高い金属音をたててはじかれた。
ガキィン・・・・ギイイィン
その後もありとあらゆる連撃で騎士にダメージを与えようとするカデンだったが、その攻撃の大半は両手剣でガードされてしまった。
「!!!そんなんありかよ!」
カデンの連撃は相当なスピードで繰り出された。
そのスピードは短剣に相当しそうなほどで、一撃食らえばほぼ致命傷になるはずの攻撃、カデンも、壁の向こうで見守っている五組目も、希望を持ち始めたとき、その希望はすぐに消え失せた。
これまでカデンが騎士に当てた攻撃は計21回。
武器もかなりパラメーターのいいもの。
なのに聖騎士のHPは全然減っていなかった。
【伝承に伝わるかつての聖騎士】
HP:854/1000
「おいおいおい、なんで減らないんだ?」
「なんであの攻撃で全然減ってないんだ!?」
「前のやつらはもっと削れてたぞ!」
壁の向こうからも似たような会話が繰り広げられていた。
しかし、ラクだけは動揺せず、ひたすら考えていた。
カデンと前のPTとのダメージ差はなんなのか。
前の三組の戦闘時の違いは?
武器は?
戦い方は?
いくら考えても原因はわからなかった。
その間にも徐々にカデンのHPは減っていく。
「ラク!避けろ!!」
「・・・・・・え?」
うつむいて考えることに集中していたラクは、カデンの声でふと前を見た。
それと同時に腹部を何かに押されるような衝撃が走り、ラクはそのまま壁に激突した。
「かはっ。な・・・・なにが・・・・」
衝撃の走った腹部を見下ろすと、そこには騎士の持っていたはずの両手剣が深々と突き刺さり、光の粒子のようなものを出していた。
HP:152/197
まだ半分も切っていないことにラクは安堵していると、カデンが走ってきた。
「ラク!大丈夫か!?」
カデンはすぐに両手剣も引く抜き、ラクをおろした。
そしてすぐに回復ポーションを取り出してラクに使った。
「ありがと。もう大丈夫。」
「まったく。よく無事だったな。直撃したときは心臓止まるかと思ったぞ。」
「ゲームなのに?」
「それだけ言えるなら大丈夫だな。ほら、立てよ。」
差し伸べられたカデンの手を握ってラクは立ち上がった。
「ありがと。・・ねぇカデン。」
「ん?なんだ?」
「一回私が行ってきてもいい?」
「はぁ!?今度こそやられるぞ!?」
「確かめたいことがあるの。お願い。」
「・・・・・・・わかった。ただし、俺が危険と判断したらすぐに割り込むからな?」
「ありがと。じゃあ行ってくる。」
そういうとラクはローブを外し、短剣を腰の鞘から引き抜いて騎士に向かって歩いて行った。
中央にたたずむ騎士のもとに、徐々にスピード上げ、【身体強化:スピード】を発動してラクは近づいて行った。
接近してくるラクに対し、聖騎士は腰の鞘から右手で一本剣を引き抜くと、すぐさまラクに振り下ろした。
それを短剣で受け流したラクは、すぐに聖騎士の右手を切りつけた。
「一式:颯!」
その素早い一閃はしっかりと聖騎士の腕に命中し、聖騎士は腕を抑えるようなしぐさをして剣を落とした。
「・・・・効いた・・・」
「ラク!離れろ!」
突然、壁沿いで戦闘を見守っていたカデンが叫んだ。
そのカデンの声を聴いたらくは、とっさに後方に跳んだ。
地面に着地して聖騎士を見ると、左手に右手に持っていたはずの剣をもち、剣先を前に突き出している状態だった。
もしあのままあの場所にいたらどうなっていたことか・・・・
しかしラクはそれでもいと思っていた。
あることを確かめるためには一回あの騎士の攻撃を受ける必要があるからだ。
ラクは、今度は攻撃を受けるために聖騎士に向かって走っていった。
途中、カデンが「止まれ!」と言っていたがラクはそれを無視した。
「やあああ!」
わざと攻撃を受けるためにラクは剣を大げさに振って隙を作った。
その隙を聖騎士が逃すはずもなく、剣を振り下ろし、思いっきりラクを蹴って壁まで飛ばした。
「ぐあっ・・・・・」
ラクは壁からはがれ、その場に崩れ落ちた。
ドサッ
「おい!大丈夫か!?なんであんなことしたんだよ!」
慌てて寄ってきたカデンは、もう一度ポーションを使おうとしたが、ラクはそれを止め、自分で回復した。
「ふぅ・・・・痛かったぁ・・・・」
「まったく。なんであんなことしたんだ?」
「ちょっと確かめたいことがあってね。」
「・・・・それで?何かわかったのか?」
「ばっちり。あいつにあった違和感の正体と倒し方をね。」
そういって立ち上がったラクの目線の先には、聖騎士が投げ、ラクに刺さり、カデンが引き抜いてほったらかしになっている両手剣があった。
次回!間章最終回!
違和感とは?倒し方とは?
強敵の聖騎士相手に取った作戦は?
それではまた次回!




