episode14 東:森林エリア北 VSハンターフェンリル
両手剣が【ハンターフェンリル】に粉々にかみ砕かれ、武器を一つ失ったラクはすぐに装備画面から短剣をセットしなおし、鞘から抜いて構えた。
俊敏な動きと眷属を破砕する顎、それに並ぶであろうほかの攻撃をどう耐え抜き、ダメージを与えればいいのか。
はっきり言ってラク一人では手に負えない相手だった。
【ハンターウルフ】が連携攻撃で戦うMOBに対して【ハンターフェンリル】は単独で戦うMOB。
勝手が違うのだ。
「どうすればいいんだろう・・・・下手に攻撃を剣で受け止めたら剣が壊されるかもしれないし・・・・」
インベントリには役に立つそうなアイテムはない。
スキルでフェンリルに対抗できるのは支援スキルの【身体強化】と短剣スキルの【一式:颯】のみ。
恐らく【身体強化】は使って役に立つのはスピードだけ。
【二式:連歌】はウルフ相手なら有効だが一対一では全く意味がない。
ここから導き出した結論は・・・・・・
「ダリアがくるまで何とか耐えるしかないかなぁ。」
ダリアはいま二匹の【ハンターウルフ】を相手にしている。
その二匹が終わってこっちにこれば勝機はある。
ラクはそれまで耐えることにした。
ラクの様子をうかがっているフェンリルは少しずつではあるが距離を縮めてきていた。
そして、3メートルほどの距離にまで近づいた時、ラクが動いた。
【身体強化:スピード】をかけ、ラクはターゲットをダリアに移されないように一定の距離を保って木々の間をジグザグに走っていった。
「ほら!こっちだよ!」
さらに大きな声でターゲットを固定させると、ラクは走り、フェンリルはそれを追いかけた。
「ガァァァァァ!ガウ!」
フェンリルは自分の通れる木々の間を瞬時に見分け、ラクを見失わないように走っていた。
途中、進路をふさぐ倒木を乗り越え、穏便なMOBを蹴り飛ばし、ただラクという獲物をしとめるために走っていた。
そしてラクとフェンリルはあの【ビーズフィッシュ】を釣っていた湖までやってきた。
「ハァハァ・・・・さあ・・・・ここなら・・・・・・・・かかってこい!!」
剣を構え、再びラクは対峙した。
しかしフェンリルは走った勢いのまま突進して、前足の爪で攻撃してきた。
「ぐっ・・・」
ギイイイイン
という固い爪と短剣のこすれる音が響いた。
なんとか短剣で受け止め、ダメージを受けずに済んだラクは一か八か、バランスを崩したフェンリルに攻撃を仕掛けた。
「やあああ!」
フェンリルの顔めがけて縦に剣を振った。
するとその攻撃は前足の足首に当たり、フェンリルは目を細めて後退した。
「当たった・・・・・!これなら・・・・」
ラクは反撃をさせることなく追撃するために跳んで距離を詰めた。
「一式:颯!!」
剣を振り上げるその一撃はフェンリルの右の目元をかすめた。
「ギャウン・・・・・・グアァ!」
しかしフェンリルもやられるだけではなかった。
颯を受けてのけぞった状態から首を回してラクの腕に噛みついたのだ。
「あああああああ!」
牙の深々と刺さった左腕を痛みが襲い、ラクは顔をしかめた。
なんとか抜こうと抵抗するが抜けず、それどころかみるみる減っていくHPを見て焦り始めた。
「抜けて!抜けてよ!」
短剣の柄でフェンリルの頬のあたりをガンガンと殴りつけるが、腕がそれで抜けるはずもなく、HPは三割を切った。
「早く!早く抜けて!」
ラクがあきらめずに柄で殴っていたその時だった。
「五式:風舞!」
五連撃の風舞を受けたフェンリルは口を開けてラクの腕を開放すると、苦痛の表情でラクの背後に飛んで行った。
ドシャアアァ
という音を立てて地面に転がったフェンリルと、その場に腕を抑えて座り込むラク、そしてそのラクの目の前にスタッっと着地するダリアが一列に並んでいた。
「ラク!遅れてすみません!」
「大丈夫だよ・・・・・っぷは・・それより早くあれを倒そう。」
回復ポーションを飲み、立ち上がったラクはフェンリルのほうを向いて剣を構えた。
「今のところほぼ防戦一方かな。速いし攻撃の威力が高いからうかつに間合いに近づけない。さっきもカウンターで噛みつかれたし。」
「なるほど・・・ラク。このまま囮を任せてもよろしいですか?」
「わかった。引き付けている間になるべく早く倒してね。いつまでもつかわからないから。」
「はい。では・・・お願いします!」
短い作戦会議が済んだ二人は、ラクは前に、ダリアは後方に移動し、それぞれの役割を全うするために動いた。
ラクは囮としてフェンリルを引き付け、ダリアは後方から弓での攻撃、短剣での一撃離脱を繰り返した。
「ふっ。やぁぁぁ!」
だんだんとフェンリルの攻撃スピードに慣れてきたラクも隙をついては攻撃をし、フェンリルのHPを削っていった。
そしてついにフェンリルのHPが4割を切った。
「もうすこし・・・もう少しで倒せる・・・・・」
「ラク!ここから一気に攻めましょう!」
弓で射撃していたダリアは弓から短剣に武器を変え、距離をとっているラクの横に立った。
「それはいいけど私の颯じゃあ削れないよ?」
「はい。ですから考えがあります。」
そううとダリアは作戦をラクに事細かく伝えた。
「・・・・・本気でやるの?それ?」
「はい。これしかないと思います。このまま地道に削っていくと行動が変わってやられてしまう可能性があるので一気に攻めるべきです。」
「わかったよ。成功するかどうかわからないけどやってみる。」
「うまく当ててくださいね。」
そういうとダリアはラクを置いてフェンリルのもとに走っていった。
正直ダリアの提案した作戦は正気の沙汰ではない。
失敗すれば二人ともやられてしまう一か八かの一度きりの作戦だ。
しかしその作戦でなければ倒すことは難しい。
ラクは覚悟を決めた。
「ラク!いまです!」
フェンリルをよろめかせたダリアがフェンリルの向かって左横に移動して叫んだ。
「いっけええええぇぇ!」
ラクは【身体強化】をスピードからアタックに切り替え、駆けだして、フェンリルの許に・・・・・・ではなく、ダリアの許に向かった。
そして剣を横に構え、ダリアに攻撃した。
「二式:連歌!」
「三式:水鏡!」
ラクはダリアに連歌、ダリアはフェンリルに水鏡を放った。
ラクの連歌は一撃目にダリア、ニ撃目にフェンリルに当たったことで威力が上がり、ダリアの水鏡は攻撃を受けたことによって威力が上がり、カウンター攻撃をラクではなく、フェンリルに当てた。
「グアアアァァァ・・・ア・・・・ア・・・ァ・・・・・・・・」
強力なニ撃を受けたフェンリルのHPがついに0になり、光の粒子になって消えていった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・」
「ハァ・・・や、やりましたね。ハァ・・・・倒し・・ましたぁ。」
緊張が解け、安心して力が抜けた二人はドサッしりもちをついて草の上に座った。
「ラク。・・・・フフ・へとへとじゃないですか。」
「ダリアこそ。足が震えてるよ・・・・・」
二人はその後、しばらくの間立つことができなかった。
「あ、そうだ。」
ラクは思い出したようにメニューウィンドウを開き、クエスト情報を確認した。
【クエスト更新】
クエスト更新:ハンターウルフを討伐せよ:達成
追加:ハンターフェンリルを討伐せよ:達成
アデンに報告せよ
クエストは最終段階に来ていた。
ラクはウィンドウを閉じようと開いたとき、新たに別のウィンドウが勝手に開いた。
【総合戦闘報酬】
ハンターフェンリルの牙×4
ハンターフェンリルの爪×2
狩猟狼の体毛×8
獣の骨×5
ハンターフェンリルの尻尾×1
これは今回の【ハンターウルフ】、【ハンターフェンリル】の連続戦闘でのドロップアイテムだった。
そのなかで、ラクは尻尾がとても気になった。
「尻尾って・・・・・・・」
思わず実体化させた尻尾はフェンリルの大きな尻尾で毛はふわふわ、大きさ的に枕にしたら気持ちよさそうな尻尾だった。
「それってあのフェンリルの尻尾ですか?」
「そうみたい。ってダリアどうしたの?」
ラクがダリアを見ると、ダリアは目を輝かせてラクの抱いている尻尾を見つめていた。
「あの・・・・さ、触らしてもらってもよろしいでしょうか・・・・・」
「え?あ、うん、いいよ。」
そういうとラクはダリアに抱いていたふわふわの尻尾を渡した。
「ん~気持ちいい・・・・・とても気持ちいいですね。」
ダリアの顔はおままで見たことのないほどゆるみ、ダリア本人は尻尾で癒されているが、それを見ているラクは尻尾を抱いているダリアを見て癒されていた。
それからしばらくの間はフェンリルと戦ったことを忘れ、ゆるく、ふわふわとした時間を過ごした二人だった。
ハンターフェンリルとの戦い、いかがでしたでしょうか。
はじめてみる【三式:水鏡】と【五式:風舞】そして尻尾・・・・・
一か八かの作戦で倒した二人の癒しの時間はもうすぐ終わり、そして次回第二章最終回です。
第三章の予告もあるのでぜひ見てください!
それではまた次回!




