episode10 「決着」
ラクとダリアの手合わせは激しい攻防戦を経て終わった。
ドシャァという音とともにうつ伏せの状態で倒れたラクは、しばらくそのままでいた。
「大丈夫ですか!?」
ダリアは短剣をしまい、ラクのもとに駆け付けた。
するとラクが地面を転がり、仰向けになってダリアを見上げた。
「ああー楽しかった。降参するわ。」
すがすがしいほどの笑顔でそう言ったラクは、上体を起こすと、もう一度「シフト」といった。
すると右手に消えたはずの短剣が現れ、しばらくして地面に落ちていた両手剣が光の粒子になって消えた。
「とてもいい勝負でした。ラク様はとっても素早く動かれるので剣を当てるのがたいへんでした。」
「ダリアさんこそ。というかあの蹴りは何なんですか?ものすごく重かったんですけど。」
「あ、それはですね。」
そういうとダリアはしゃがみ、履いて居るブーツに手を当てた。
「それはこのブーツのおかげです。脚力を何倍にも上げるこのブーツがあの威力を産んでいたんです。では今度は私から、あの突然現れた両手剣は何なのですか?」
「ああー・・・あれかぁ。あれは事前に準備しておいた両手剣を出しただけですよ。」
「そうなのですか。では手合わせの時におっしゃっていた秘策というのは・・・」
「あれのことです。といってもまだ完璧に使うことはできませんが。」
ラクが使ったのは西の森林のエリアボスである【古石板の岩巨人】との戦いでとっさに使った展開遅延がスキルになったものだ。
スキルの名前は【クイックチェンジ】。
このスキルは、常時発動型のスキルで、通常の場合一つの武器スロットが二つになり、そこに二つの武器をセットする。
そしてあらかじめ登録したワードを抜刀中に叫ぶと、その二つの武器が入れ替わるというものだ。
つまり、AとBの武器をセットした状態で、Aの武器で戦っている時に登録したワードを叫ぶと、Bの武器が現れ、10秒経つとAの武器が消えるのだ。
これによってわざわざ毎回装備ウィンドウを開く手間が省けたのだ。
しかしクールタイムがあり、変更してから5分間は再び変更することができなくなる。
ただし、非戦闘時ならBからAへの変更は可能であり、戦闘時と非戦闘時の判別はシステムが判断する。
このスキルは岩巨人の周回中にいつの間にか獲得しており、ラクはまだまだ使い方を理解していなかった。
「そうでしたか。それにしても短剣だけでなく、ラク様は両手剣もお使いになられるのですね。おどろきました。」
「まだ使いこなせていないんですけどね。」
「ふふ、ラク様のことです。近いうちに使いこなせるようになると思います。あ、立てますか?」
立ち上がろうとするラクにダリアは立ち上がって手を差し伸べた。
「ありがとうございます。っと。」
立ち上がったラクは、服に着いた土を払うと、ポーチから回復ポーションを二つ取り出すと、そのうちの一つをダリアに渡した。
「ありがとうございます。」
ダリアはそれを受け取ると、少しずつ飲んでHPを回復させた。
ラクもゆっくりと飲んでいると、
「あの、ラク様。」
ダリアは手を後ろで組んですこし恥ずかしそうにもじもじしながら話しかけてきた。
「はい、なんでしょう?」
「あの・・・・もしラク様さえよろしければ・・・・わ、私とお、お友達になっていただけないでしょうか!?」
「・・・・・はい?」
ダリアから言われたことをラクが理解するまで少し時間がかかった。
ダリアはNPCだ。
このゲームではNPCとフレンド登録はできない。
ではどうするのか?
簡単なことだ。
クレマチス・オンラインのフレンド機能ではなく、現実と同じようにすればいい。
プレイヤーだろうが、NPCだろうが関係なく。
お互いのことを知り、時に助け合い、時に他愛もないおしゃべりをしたりする。
それが一番だ。
もう一度言うのが余計に恥ずかしいようで、さっきよりも小声でしゃべった。
「ですから・・・・・私と友達になっていただけないでしょうか?」
「えっと・・・わたしでよければ・・・・ぜひ。」
「本当ですか!?」
「は、はい。構いませんよ。」
「ありがとうございます。」
ダリアはそういうとラクに抱き着いた。
しかしなぜそれを今・・・・それを聞こうと、ラクは目だけ動かしてダリアを見た。
だが、かなりうれしそうな横顔を見て、ラクはくすっと笑い、聞くのをやめた。
また今度改めて聞こう。
それにしても、まさかゲームの中で、プレイヤーと知り合うだけでなくNPCと友達になるなんてことはラクは想像すらしていなかった。
いったいどこまでNPCを現実の人間に近づけているのか・・・・・
最終的にプレイヤーを閉じ込めて疑似異世界転生でもさせるつもりなのだろうか、うちに両親とその会社は。
ラクはそう思った。
それにしてもダリアの抱きしめる力が強い。
「ちょっと、ダリアさん痛いです・・・・」
なぜか徐々に削れるHPを見て驚いた。
「あ、すみません。」
ダリアはとっさに離れてラクを見た。
「あの、せっかくお友達になれたので・・・よければダリアっと呼んでいただけないでしょうか?あと、
敬語でしゃべるのも・・・・・」
ダリアは敬語を使わない、親しい関係になりたいようだった。
それを感じたラクは、笑顔で答えた。
「わかった、これからよろしくね。ダリア。」
それを聞いたダリアは目を輝かせ、ニコッと笑った。
「はい。これからよろしくお願いします。ラク。」
「あ、ダリア敬語取れてない。」
「あ、すみません。なにせこれまで敬語でしかしゃべったことがないのでつい・・・・」
いったいダリアはどんな環境で育ってきた設定なのか。
周りの厳しい環境か、それとも裕福な環境か、わからないが、ラクはそれを聞かなかった。
「へぇ。じゃあこれからどんどん注意しちゃおっかな~」
「う・・・ラク、ひどいですよ。」
「ふふ、冗談よ。さぁ小屋に戻ろっか。ダリア、行こ。」
「はい!」
そういうと二人はアデンの小屋に向かって歩き出した。
ダリアはラクの腕につかまり、ぴたっとくっついて歩いた。
くっつきすぎて少々歩きにくいラクは、これでは友達じゃなくて、妹ができたみたいだなっと心の中で思ったのだった。
「ただいま戻りましたー。」
小屋に着いたらくはそういいながら中に入った。
「おかえり、ってどうした。そんなにくっついて。」
「聞いてくださいアデン様!私たち、お友達になったんです。ね、ラク。」
「う、うん。」
正直ラクはダリアのテンションの高さに圧倒されていた。
「なんかダリアさん変わったな。なんというか・・・・明るくなった。」
「そうですか?それもきっとラクのおかげですね。」
「それよりダリア、今からいける?」
「どこにですか?」
「討伐。疲れてるなら明日にするけど?」
「いえ、大丈夫です。ラクさえよければ行きましょう!」
「わかった。じゃあアデンさん行ってきます。」
「わかった。気をつけろよ。無理はするなよ?」
「「はい」」
そうして二人は【ハンターウルフ】を討伐するためにバリケードを越え、森林の奥に進んでいった。
ラクとダリアが親しくなり、残すは目標の討伐とその他諸々・・・・
次回から第二章の終盤戦が始まります!
お楽しみに!
ではまた次回!




