表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/209

episode9 

2017/5/21 全体修正

「なぁヒナツ。いきなりラクさんを一人で行かせるのはどうかと思うんだが」

「これでいい。人に教えられた戦い方より、自分で見つけた戦い方のほうが楽しい。それにこうしたほうが早く戦闘に慣れれる。」

「ま、その通りなんだがなぁ。大丈夫なのか?

「たぶん。もし何かあったら助けに行く」


ヒナツとトウジを含めた『旋風団』のメンバーは、ラクが巨人に向かって走っていく姿を見守っていた。


「確かにこうしろってセロに言われたけど……。なんだかラクちゃんがかわいそうじゃない?両手剣を扱いなれてないまま行かせて、その上エリアボスに挑ませるなんて」


実は昨日、セロシアからラクの育成を目的に西のエリアボスのもとに行ってくれと頼まれたとき、途中からラクだけに戦わせて、やられそうになった時だけ助けてやってほしい。――といわれていたのだ。

それを知っている4人は浮かない顔をしていた。


「いったいセロシアは何を考えているのか私にはさっぱりだ」

「お!巨人と接触するぞ!」


トウジがそういうと、4人は再びラクのほうを向いて見守っていた。



〇――〇


 ラクは扱いなれず、重さに若干負けながらも両手剣を肩に担いで巨人に向かって走っていった。


「やああぁぁ!!」


巨人の手前で跳んだラクは、落下任せで巨人の頭めがけて両手剣を振り下ろした。

しかしガアァン!という軽い音ともに剣がはじかれ、再び振り上げた状態にまで戻されてしまった。

そのまま無防備な体勢になってしまったラクに、巨人は右ストレートを繰り出した。

そして迫りくる拳に対応することのできなかったラクは、直撃してアキレアたちのいる方向のさらに向こう、巨人の激突した壁と反対の壁に激突した。

幸いというべきか、壁にめり込むほどではなかったが背中から激突したことによって、肺の中にあった酸素をすべて吐き出した。


「がは……」


そのままラクは地面にぶつかる前に空中でヒナツが受け止めてくれた。


「大丈夫?」


ラクを抱えて着地したヒナツは、心配そうにラクのことを見つめていた。


「はい。なんとか」

「よかった。――無理しないで」

「はい。……あ、一つ聞いてもいいですか?」

「ん?」


地面に下されたラクは、ヒナツにあることを質問した。


「――ということはできますか?」

「……できると思う。けど本気?」

「もちろんです。――ぷはぁ。では行ってきます」


ラクはインベントリから手製の小ポーションを取り出して一気に飲むと、再び巨人に向かって走っていった。

それから一人残されたヒナツは、アキレアたちのもとに戻った。

だがその表情は心配ではなく、すこし笑って嬉しそうな表情だった。


「なに話してたんだ?」


そう聞いたのはハルだった。


「見ればわかる。お姉ちゃん面白いこと考えてた」



〇――〇


 「さーて、うまくいくかなぁ……」


ラクはこんな状況でも笑っていた。

表情だけではない。

心も燃え盛って爆発しそうな、部活の公式初試合並の感情の高まり。

うまくいくか失敗するかのドキドキ感。

失敗したら別の方法を試して、うまくいったらそれで押し切ってみよう。


ラクは両手剣を左手一本で持ちあげて剣を肩に担ぐと、右手でメニューウィンドウの装備画面を開いた。

装備画面を表示し、ウィンドウを表示させたまま巨人の下を潜って背面に移動。

そのまま壁に向かって跳躍し、続けて壁を力いっぱい蹴って巨人の肩に落下地点を定めた。


「やあああぁ!」


ラクは落下中に逆手に持ち替え、両手で握って剣の剣先を下、巨人の肩に向けて突き出した。

風を貫き、巨人の肩に浅く、抜けない程度の深さで突き刺さった。

それでもまともなダメージ、巨人の行動に支障を起こすようなダメージとまではいかなかった。


「まだまだぁ!」


ラクは突き刺さった両手剣から手を離し、巨人の肩を思いっきり蹴って高く跳んだ。

そして空中で開きっぱなしの装備画面に手を伸ばした。


  【装備変更】

     アイアンブレード(両手剣)からアイアンダガー(短剣)に持ち替えますか?

      YES/NO


ラクはここでも迷わず【YES】を押した。

巨人の肩に突き刺さった両手剣から光の粒子が出始める。

それと同時に、ラクの腰に鞘に収まった短剣が現れた。

素早くそれを引き抜き空中でバランスをとり、落下する勢いを乗せて短剣の持ち手の先端部分で、消えかけている両手剣の持ち手の先端を思いっきりたたいた。


「いっけぇぇ!」


ガアァァンという軽い音とともに両手剣がさらに深く突き刺さった。

巨人の体を作っていた細かい岩やがれきの破片が飛び散りラクの頬をかすめる。

そして深々と突き刺さった両手剣が肩と腕をつないでいる部位が破壊し、右腕がゆっくりと崩れ落ちた。

それからラクはた肩の上でバランスを崩し、足を踏み外してがれきに紛れて落下していった。


「うそでしょ。今日何回目なのよおぉぉぉ!」


意外とその声と表情は余裕そうだ。

どうにか足で着地しようと手足をバタバタと動かしていると、またしても落ちるラクをヒナツは空中でキャッチして三人のもとに戻った。


「へぇ、やるじゃないか。『遅延』を利用とは思わなかったぞ」


そういってトウジは感心しながら地面に下されたラクの肩をぱしぱしと何回か叩いた。


「ところでいつ『武器変更時の遅延』のことを知ったんだ?あの両手剣は今日渡されたんだろ?」

「えーっと。なんて説明すればいいか……」


嘘はついていない。

しかしどう説明すればいいかわからないのは本当だ。

なにせこのことは、母親と陽優が会話していたことをたまたま思い出し、一か八かで使ったからにすぎないから……。


「なんとなく……です。えっと……できるかなーっと思って試してみただけです」

「それであんなことできちゃうんだ。ただ目の前の敵をぶん殴る私とは大違いだなぁ」

「お?やっと脳筋プレイヤーだと認めたか?」

「な!そうじゃねーよ!トウジは毎回そっちに持ってこうとするなよ!」

「いやだって、面白いじゃん」

「私は面白くない!」


「二人ともまだ終わってない。喧嘩するならあれ倒してたあと」

「そうだよ二人とも!ラクちゃんが頑張ったんだから私たちも頑張らないと!」

「まぁ……」

「確かに……やるか」


それから数分後、岩巨人は4人とラクの手によってあっさりと倒されてしまった。

そのあとも素材がそろうまで何体もの岩巨人を倒していった。

途中、ラクは何度かHPが0になりそうな場面があったが、いつの間にか前に来たヒナツがラクを守ったため、結果一回も死なずに済んだ。



〇――〇


 最初の戦闘からすでに二時間が経過していた。

あれからも何体っか巨人と倒してはドロップアイテムを回収するという行為を繰り返した。

さすがにぶっ続けはつらいので何回か休憩を入れながら周回した結果、必要だった素材はすべて集まった。


そして今は入口のセーフティゾーンまで戻ってきて一息ついていた。


「あー疲れたー!」

「ハルお疲れー」

「アキレアこそ。まさかアイテム集めるのに2時間もかかるなんて想像もしてなかったわ」

「今回に関してはハルと同感だ。あの巨人のレアドロップってあんなに確立低かったか?」

「ううん。そんなはずはないよ。私たちがあれ狙ったときはもっとあっさり出ていっぱい手に入ったもん。あの時は相当運がよかったんだね」


ラクが草の上に寝そべって休憩している場所から少し離れたところで、ハル、アキレア、トウジの三人が話していた。残るヒナツはというと……


「あの……何やってるんですか?」


ヒナツは寝そべっているラクの頭を自分の太ももに乗せ、じーっとラクの顔を見つめていた。


「なにって……膝枕?」

「……なんでですか?」

「ご褒美?」


なぜに疑問形?


「あとなんで私のことをお姉ちゃんって呼ぶんですか?」

「お姉ちゃんだから」

「はい?」


ヒナツはコクリと頭を動かした。


よくわからない。

一体何を考えているのだろうか。


「おーい二人とも~。そろそろ街に戻ろー!」


アキレアの声に反応して起き上がると、ラクは思い出したようにふとヒナツを見た。

するとなぜか少し残念そうな表情でラクを見ていた。


「えっと……ヒナツさん?いきましょ?」


ラクは立ち上がってヒナツに手を差し伸べた。

するとヒナツはうれしそうにその手を取って立ち上がり、逆のラクの手を引いて小走りに四人のもとに走っていった。



〇――〇


 第一の街に戻ってきた五人は、そのまま『アマドコロ』の向かった。

途中、またも周りのプレイヤーに見られているような気がしたが、ラクは気にしないようにしていた。


『アマドコロ』の戻ってくると、セロシアが出迎えてくれた。


「セロー。今帰ったよー」

「お疲れ様」

「それより聞いてよ!ラクちゃんがね……!」


「……というわけなんだよ!ラクちゃん絶対すごいプレイヤーになるよ!今のうちにもらっていい?」

「それは本人に聞け。それにしてもまさかラクがあれを使うとはねえ。予想の斜め上をいったなぁ」

「たまたま思いついて試してみただけですよ。そ、それよりこれ。集めてくるように言われた素材です」


ラクはメニューウィンドウを開き、セロシアに今回とってきたアイテムをすべて渡した。

そのアイテム一覧を見たセロシアは目を丸くして5人を見まわした。


「おいおいおい。まさかあの巨人のレアドロップをもう必要数とったのか?いくらアキレアたちがいるにしても早すぎるだろ。一週間ぐらい前にフレンドと取りに行ったときは丸一日かかったぞ」

「物欲センサーが強力なんじゃないの?」

「そういうアキレアも相当物欲センサー強いだろ」

「あーだからか~。全然落ちないなーって思ってたんだよねー」

「――っといけない。ラクは残りの素材アイテムはどうするつもりなんだ?」


実はまだすべての素材がそろったわけではないのだ。

今回揃えたのは「あの岩巨人から手に入るアイテム」で必要なものを一通り集めただけに過ぎない。

残りの、植物系の素材、中型、小型モンスターのドロップアイテムはまだすべてそろっていない。


「それは明日以降に一人で集めようかと。すこし試してみたいこともあるので」

「わかった。それじゃあ今日はこれでおしまいだな。4人ともありがとな。ラクのために時間をくれて」

「別に構わないぜ。結構楽しかったし。ラクさん、何か困ったことあったら誘ってくれよな。また一緒にプレイしたいから」

「あ!トウジずるいぞ!ねぇラク。私も!私も誘ってよね!」

「もう。トウジもハルも……抜け駆けはずるい!私も!!」

「……私も。行くときは誘って」

「――っぷ、ははははははは。ラクはずいぶん人気者だな」

「……見たいですね。はは……」


その後、ログアウトするまでの時間、奥の部屋で6人は紅茶を飲みながら他愛もない話をして過ごしたのだった。



〇――〇


 ここで今まで説明のなかった「遅延」について説明しよう。

これはクレマチス・オンラインの仕様の一つである。


よくある狩りをするゲームでは武器の変更は一瞬で行われることが多い。

しかしこのゲームでは、変更後の武器が出現してから10秒ほど後に変更前の武器がゆっくりと消えるという仕様になっている。

その間はその武器に触れることができる。


これが「武器変更時の遅延」である。

なお、この遅延は「武器変更時」と限定して言っているが、アクセサリーや通常のアイテムでも同じ現象が起こる。


前回と今回、結構登場キャラが多くてだれが何をしゃべっているかを書くのが大変でした。

さて、ついに次回。第一章最終話です。ついにラクは決めるのか!?

お楽しみに!

次回も言いますが、一章が終わっても第二章が月曜日から始まります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ