~プロローグ~
2017/3/26 文章全体を修正
2017/5/6 細部修正
たくさんのぬいぐるみが棚の上に置かれている部屋に、黒髪でショートヘアーの少女がベットに腰かけて料理雑誌を読んでいた。
学校から帰ってきた格好のまま、ブレザーはハンガーにかけ、靴下は脱いでいた。
程よく筋肉のついた少女の足首には痛々しく包帯がまかれている。
しばらくして少女は本を閉じ、棚の所定の位置にしまうと部屋を出て行った。
一階に続く階段を下りてリビングに行くと、ソファーに黒髪のポニーテールの少女がうつぶせの状態でごろごろしていた。
「あ、お姉ちゃん。どしたの」
スマホの画面で何かを見ながらポテチを食べている妹をみてため息をついた。
「どしたのって陽優(ひゆ)勉強は?」
「もうやったよ~。それよりどうしたの?」
「夕飯の支度よ。今日お母さん帰るの遅いとか言ってたから当番変わったの」
ショートの少女、高木宿梨はキッチンにゆっくりと歩いて行った。
すると、それを見た陽優はゆっくりとソファーから立ち上がり、キッチンに歩いて行って姉の横に立った。
「どうしたの急に?」
「私も手伝う。お姉ちゃんその足じゃ大変でしょ。なにすればいい?」
妹からの予想外な言葉に驚いた宿梨は、しばらく包丁を握ったまま陽優のほうを見ていた。
「お姉ちゃん?」
「どうしたの急に?変なものでもポテチに入ってた?」
「ひどくない!?せっかく手伝ってあげようと思ったのに」
「ごめんごめん。じゃあ後ろに置いてある野菜を一口サイズに切ってくれる?」
「わかった、任せて。ちなみに今日の夜ご飯はなに?」
「陽優のすきなシチュー。お母さんたちが帰ってきてすぐに食べれるからね」
それをきくと陽優は「やったぁ」と言って上機嫌に野菜を切り始めた。
それを横目で見ながら、宿梨もゆっくりと調理を開始した。
高木宿梨(たかぎやどり)は家族四人で暮らしている。
宿梨は公立高校の一年生。
妹の陽優は中学二年生、そして父と母は同じゲーム制作会社の別々の部署で働いている。
宿梨は中学までバスケットボールをしていたが、高校に入学してすぐに足を怪我してしまい部活をやめ、今は家で暇なときは読書をしている。
妹の陽優は部活はしておらず、あるゲームに夢中になっている。
『VRMMORPG』。
ここ数年で急激に発展したゲームカテゴリーである。
そのなかの自由度と広大なフィールドが売りのアルストロメリア社の「クレマチス・オンライン」に陽優は熱中している。
ちなみに両親はその「クレチマス・オンライン」の制作スタッフとして働いている。
そして宿梨はこのゲームに興味はない。
それどころかいままでその手のゲームだけでなく、TVゲームも小さい頃に少しやったがそれ以来一切やっていない。
一緒にやろうっとたびたび妹から誘われるが、そのたびに断っているので妹もあきらめている。
それから料理を完成させた二人は、できた夕食を皿に盛りテーブルにテキパキと並べていく。
シチューにサラダ、その他もろもろを並べたところで二人は向かい合うように椅子に座った。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
ふたりは黙々と夕ご飯を食べ始めた。
宿梨はちらっと陽優を見ると、ものすごく幸せそうにシチューを食べていた。
「ほんっと幸せそうに食べるよね。陽優は」
「だってお母さんとお姉ちゃんのシチューがおいしすぎるんだもん!こんな幸せになるのはシチュー食べてるときかクレマチスで強いボスを倒した時だけだよ!」
その後もスプーンをぐっと握って熱弁する妹を見ながら食べていると、瀬尾服のポケットに入っていた宿梨のスマホに電話がかかってきた。
それを取り出して画面を見ると、相手は幼馴染の陽二(ようじ)だった。
「もしもし?どうしたの?」
『よう。今大丈夫か?』
「うん。大丈夫」
『よかった。今から宿梨の家いってもいいか?』
「はぁ?なんで?」
『どうしても渡したいものがあるんだよ。それもなるべく早く。で、いいか?』
「まぁ…別に構わないけど……」
『サンキュー。じゃあすぐ行くわ。あとでな』
というと一方的に通話を終了してきた。
「陽二さんなんて?」
スマホをすぐに妹が電話の内容を聞いてきた。
「今から渡したいものがあるからうちに来るってさ。」
「ふーん。渡したいものってなんだろうね。」
「さぁね。でも陽二のことだから変なものではないと思うよ。」
「だね。ごちそうさまー。」
陽優はぱたぱたとスリッパを鳴らしながら、皿を片付けて自分の部屋に戻っていった。
そのあと宿梨は使った皿を洗い、それが終わるとソファーに座ってテレビを見ながら陽二が来るのを待っていた。
テレビの画面には料理番組が映っており、宿梨は今後作る料理の参考にしようとメモとペン片手に熱心に画面を見つめていた。
それから10分後、インターホンが鳴った。
陽二が来たことを確認し、ドアを開けると少し大きめの段ボールを持った髪の少し長い黒髪で少年、陽二が立っていた。
「わるいな、こんな時間に」
「ほんとよ。で、渡しに来たものってこの箱のこと?」
「そうだ。上がっていいか?」
「ここでいいんじゃないの?それぐらいならこの足でも持っていけるし」
「いや、設定とか説明とかあるから上がらせてもらうぞ」
というと答えを聞かずに高木家の自宅に上がり込んだ。
そのままリビングに……と思いきや、階段を上がって宿梨の部屋に入っていった。
「ちょ、ちょっと。何勝手に私の部屋に入ってんの?」
「だから設定とか説明しないとわからないだろ」
「そもそも何を持ってきたかわからないからどうとも言えないわよ。」
宿梨は文句を言っている間にも陽二はテキパキと箱の中に入っていたものを出している。
少し丈夫そうな箱や薄い板状のもの、冊子などなど。
「簡単にいうとクレマチス・オンラインだ」
「それって陽優が夢中になっているあれ?」
「ああ。実は俺もやってるんだけど雑誌の懸賞で機器本体とソフトのセットが当たっちゃってな。売るのも考えたけど結局、宿梨にあげる事にしたわけ。」
「なんでそういうことになったかわからないんだけど」
「実際に見てみたくないか?両親がどんなものを作っているか」
宿梨は陽二のその言葉にだけは返す言葉がなかった。
実際、宿梨は親があれほど熱心に作っているゲームがどんなものなのかを一回見てみたいと思っていた。
願ってもないチャンスであることに間違いないが、宿梨はあることを気にしていた。
「その、確かにどんなものかは気になってたけど……」
「なんか心配なことでもあるのか?」
「陽二と陽優のことみてるとね、その、経験の差とかもあるけど一緒にできないし学校の課題とか家事とかあるから……」
最後のほうはごまかす宿梨を見て陽二は笑うのを我慢していた。
「そんなことを気にしていたのか。なら大丈夫だよ。なにも無理やり俺たちにレベルに合わせて強いボスに挑もうってわけじゃない。俺たちのことは気にしないで自分のペースでやればいいから。」
それを聞いて多少安心した宿梨は「それならやってみようかな」といい、陽二と一緒に基本設定をすることにした。
PCで「クレマチス・オンライン」公式サイトにアクセスし、アカウントを登録。
そしてキャラクター登録ページから各設定をしていった。
名前・ラク
性別・女
初期武器・短剣
顔認証・OFF
個別詳細設定・ON
それから30分ほどキャラクターの新規設定をした。
最後に陽二がヘッドフォン型の機器にさきほど作ったキャラとIDデータを移し、「クレマチス・オンライン」のアクセスメモリーを差し込んだ。
「よし。これで基本登録は完了したぞ」
宿梨はその言葉を聞くと立ち上がり、ベットに倒れるように身を預けた。
「疲れたぁ。まさか自分のキャラを一人作るだけでこんなに時間がかかるなんて思わなかった」
「お疲れ様。ちなみに俺は2時間かかったぞ」
「……こだわりすぎじゃない?」
「これでも結構平均的な時間だぞ」
「……そうなんだ」
「まあどこまでこだわるかって感じだな。それじゃあ行ってくるといいよ」
というと陽二は手に持っていた『ラク』のキャラデータの入ったヘッドフォン型端末を宿梨に投げ渡した。
「っと。って今からやるの?明日じゃないとダメ?」
「ダメ。というか宿梨があっちの世界に行くまで俺は帰らないつもりだから」
陽二はそういうと、さっきまで宿梨が座っていた椅子に座り、ベットに寝そべっている宿梨のことをじーっと見つめ始めた。
最初は気にしていなかった宿梨も、徐々にみられるのが恥ずかしくなったのか、心が折れたようにヘッドフォンを付けた。
「わ、わかったわよ。行けばいいんでしょ。だからもう見ないで」
顔を少し赤くして言う宿梨をみて陽二はクスっと笑った。
「わるいわるい。じゃあ横になって右耳の部分にある突起があるからそこを押して。そのボタンが起動ボタンだから。」
「突起ってこれのこと?」
宿梨は言われた通り右耳にあるボタンを一回押した。するとカチッという音とともに機械が起動し、アナウンスが流れた。
『まもなくクレマチス・オンラインの世界に移動します。目を閉じてください』
「それじゃあいってらっしゃい。楽しんできな」
アナウンスと陽二の声を聴き、深い眠りにつくような感覚に襲われると、宿梨は現実世界から両親の作っているVRMMORPG『クレマチス・オンライン』の世界に移動した。
みなさまはじめまして。今回より投稿することにしました「グリティア」と申します。
はじめて書く作品ということでまだまだ不慣れではありますが、楽しい作品を書いていこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
さて今回は「クレマチス・オンライン」の世界に行くまでのお話でした。さてさて次回からはどのようなことが主人公の宿梨・・・ではなく「ラク」の身におこるのでしょうか。
お楽しみに!それでは!!