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9・野生のゴリラにも気を付けろ



 ズタボロに引き裂かれちまった馬竜。

 その中でも一番良さげな馬刺的な食用部分は、すでにグリさんが喰い散らかしてしまっていた。


―ところで、これも一種の解体と言えるのだろうか?。


 とりま鑑定してみた。



『馬竜の死骸』


状態、出来立てホヤホヤ


補足、鱗は様々な用途あり。享年9才



 鱗か……。

 確かに残ってる物はもうそれくらいしかないもんな。流石のグリさんもコレだけは硬くて喰えねえっつってたし、そう言う意味では使えるんだろうな。

 良く見ると結構綺麗な模様も付いてるし。


 ただなぁ…。

 もう血だらけでドロまみれなんだよな。まあ汚れは落とせばいいんだけど回収するのがね、面倒って言うか邪魔くさいって言うか…。(どっちも同じ事だぞ…)


 嫌だけど、でも仕方ない。俺は拾ってきた小枝二本を箸っぽく使い、ちみちみと選別、回収する事に。


 で、以上を持ちまして今日の狩りは終了、と言う事になった…。


 だってグリさんが腹一杯で完全に閉店終業状態だから。

 ま、確かに野生動物ってそんな感じだよね。今食う分しか捕らないって言うかさ。それに俺たちもなんか一杯一杯だ、メンタルの方が。


 てな訳で、とりあえず俺は回収した素材を持ち運びしやすいように一纏めにした。

 一応それ用に買っておいたロープで、馬竜の残骸をまとめて縛る。そしてそれをグリさんに持たせて飛んで貰う、ただそれだけですが何か?。


 ちなみに、もし帰り道で何かに襲われる様な事があった場合、そんな時はこの残骸的素材はあっさり手放してそれに対処すればいい。

 どうせこんな所で拾う奴が居る確率は低いし、流石にもうこれ以上ボロくはならんでしょ。


 それにグリさんはこの地域じゃ(ほぼ)無敵らしいし。

 まあ、実は直接闘ったらヤバい敵も少なからず居るみたいだが、とは言え高速で空を飛べてなおかつ高い戦闘力を有するグリフォンってのは、確かに大抵の相手に有利が付くと考えていい。(ふふ、そうだろう?)とグリさん

 ちなみにワイバーンは、機動力的には遅い方らしい。

 ただ、最悪逃げ足だけは誰にも負けないってのは、無敵と呼ぶには少しセコい気がするけどなw。(な、なん、だと?!)グリ


 と言う訳で、一応危険には備えていたが、特に何の問題もなくウズランダルの街に帰り着いた俺たち。

 そして街に戻ったら、さっそく馬竜素材を売りに市場に向かうのだが、何故か一緒に付いて来るグリさん。また来るの?。


 いったい街の何処に惹かれるのかは分からないが、なんか市場って奴を見てみたいらしい。

 グリフォンが市場見てもあんまり意味無さそうなんだけどな、でも見たいって言うんだから仕方ない。


 俺は正門付近で暇そうにしていた小僧に声を掛けると、台車をレンタルして馬竜の残骸を運んで貰う。

 彼らはどうもそう言う小遣い稼ぎを生業としている子供たちなのだ。


 ところで、馬竜のボロい残骸を見た人々の反応だが、意外に素材としての価値を期待させる声が多かった。

 もちろん初見では、その馬竜の成れの果てにドン引きするのがデフォだが、物珍しいせいか皆勝手にあーだこーだとウンチクを垂れてくれる。おかげで、だいたいの買い取り価格がこの時点で判明してしまったくらいだ。


 とは言っても買い取り所は公営で、しかも独占的に行われている。

 つまり完全に言い値で定価なので、事前に値段を知った所で交渉の手助けになる訳ではないのだ。ただまあ、それなりに考えられた上での価格設定である事が分かるだけだ。


 そんな訳で俺たちは、この前と同様にほぼパレード状態で通りを歩いた。

 一応衛兵が非常時に対応出来るようグリさんに付き従ってはいるが、これもまたすでに見慣れた無駄な光景である。


 ところで、パレードの途中で知らないおっさんたちと話をして分かったのだが、馬竜ってのはなかなかヤバいモンスターであるらしい。

 どうも馬竜ってのは、草食性のくせに何故か気が荒くて喧嘩上等な性格をしていると言う。

 しかもスキルにブレス(小)を持っていて、接近戦は鬼の様に強い。それでいて機動力まであるから、この街でまともに狩れるハンターはほぼいないらしい。

 ま、一応竜種だしな。

 そう言えば、グリさんの馬竜狩りは不意打ち一閃だったので、馬竜のブレスは見れなかったな。


(フフン、そこはむしろテクだよテク!)とグリさん


 つまり極力敵の技を封じつつ、自分の技は最大限に活かして勝負を決めたと、そうグリさんは言いたい様だ。

 まあ体格的にグリさんの方が少しデカいから、一対一なら飛んでるグリさんが確実に有利なんだろう。でもなんかグリフォンってズルいな…。


 ところが、こうしてなごやかな賑わいを見せるパレードの途中、馬竜の鱗をこっそり盗もうとする輩がいた。

 突然の叫びに俺が何事かと振り返ると、腕をウーハーにザックリ切り裂かれた男が一目散に逃げる姿が。

 そして地面には、数枚の馬竜の鱗が散らばっていた。


 どうやら、盗みを察知したウーハーが未然に対処した様だ。

 その状況を終始目撃していた第三者も居たようだが、あくまで未遂に終わったので俺としてはスルーしておく事にする。

 まあ俺的には、鱗が数枚失くなった所で元の数すら分からないしな。しかも泥だらけだし、そんなに執着心が湧かないと言うのもある。


 それにしても、意外とウーハーの射程範囲は広いよな。

 俺はウーハーの頭バシバシと撫でて褒めておいた。


「うん、よくやったぞ。よしよしバシバシっと」


(痛ぇんだよっ…)ウーハー


 そしてようやく買い取り所に到着。


 そこは公営施設と言うよりは、単なるオープンスペースって感じだった。

 まあ時間的に今は暇な時間帯なのだろう。ただでさえ広い空間が閑散としている。

 そんな買い取り所の片隅にぽつんと受付があり、そこに身なりの良い役人が待機してるのはちょっと違和感があった。


 さっそく買い取りが行われ、結局グリさんが食い散らかした馬竜の残骸は約25万THで売れた。

 もう少し上手く解体して、鱗に傷が無ければ35万とも言われた。


 ところで馬竜の肉は、普通に食えるが特に貴重でもない単なる食肉扱いだっだ。そしてどうやら馬竜の素材としての本質は、むしろ鱗の方にあった様だ。


 馬竜の鱗は希少で、かなりの需要があるらしい。

 その用途は幅広く、鎧等の武具や宝飾品に至るまで様々だ。なので、たった馬竜1体で30万前後と言うのはかなり美味しいモンスターと言えるだろう。

 ただしグリさんですらそう簡単に狩れないと言うのなら、それくらいの価値が有るのも頷ける。


 ちなみにそのグリさんは、しばらく市場内を覗き回るとすぐに市場に対する興味を無くしたようで、すぐに帰ってしまった。

 果たしてこの市場見学がグリさんのお気に召したのか、召さなかったのかはさっぱり謎のままだ。ただ、わざわざそんな謎を解き明かす気はさらさら無いものの、行動の読めない連れと一緒なのはちょっと困りものではある。


 さて、今日の狩りはこうして終了した訳だが、時間はまだお昼を少し過ぎたばかり、宿に帰って寝るには早すぎる。なので俺は、とりあえずこのまま領主館へと足を向けた。


 俺はこの世界に来てまだ数日だ、知らない事が多すぎる。だからここからは情報収集に努めようと思うのだ。

 そして、どうせ教わるのなら可愛い女の子の方がいいに決まってる。


「つー訳でさ、色々教えて貰いたいんですけど?」


「え?」


 俺は領主館の正面玄関から当然のようにお邪魔した。そしてまた使用人の一人を捕まえるとルキの所まで案内して貰ったのだ。


 当のルキシュエリーは、自分の執務室で何やらお仕事中だった。

 実は彼女、一応次期ウズランダルの当主候補の一人らしい。なので現在彼女は実務の見習いみたいな事をしていると言う。


「俺、魔法を覚えてみたいんだけどさ、具体的にどーすればいいのかな?」


 ニブい彼女はいまいちこの展開に付いてこれないみたいだが、それでも生真面目に俺の問いかけに答えてくれた。


「え…、とりあえず魔導協会に行けば?」


「魔導協会…、なにそれ?」


「そこから?」


 とその時、部屋の扉が荒々しく開かれ一人の女?が入って来た、ズカズカと。


「おい、お嬢は今忙しい。話ならあたしが聞いてやるからこっちに来な!」


 なんだか全身筋肉の塊みたいな大女が登場すると、軽々と俺を掴んでルキの部屋から連れ去った。まるで暴風のごとき勢いである。


―な、なんだこの展開?!。


 突然現れたその女の名はラオーナ。

 廊下を引き摺られる最中、俺はこいつを鑑定したのだった。



ラオーナ・バンダム、27才


クラス、戦士


レベル31


スキル、憤撃


補足、ラオーナ・バンダム見参!



 なんだよコレ?。

 それにしてもこれまたとんでもない化物オバケだな。しかもレベル31って何気に大台行ってるじゃねーか。

 と言うか、それよりこいつ本当に人間か?、雌のオーガとかじゃないよな?。だとしても俺テイムしないよ?。


 ホントにこいつ人間枠なの?、って言うのが俺の第一印象だった。

 ちなみに絶対にハーレム要員でもないからな絶対に!。


「やいテメー、あんまり失礼な目つきでジロジロしやがったらヒネり潰すぞゴラ!」


 じーーーっと鑑定してたら超キレられた。

 即目を逸らしましたよ。さーせんっ!。


 後で知ったが、どうやらこのデカい筋肉女はルキシュエリーの専属護衛らしかった。そしてさらに彼女の剣の師匠でもあると言う。

 つまり、ルキに集る目ざわりなお邪魔虫を排除するのもこの筋肉女の仕事なのだ。


―え、俺、虫?。しかも邪魔だったの?。


 こうして攫われた俺は、別室の椅子に座らされると照明を目の前に突きつけられた。


「で、何が知りたいって?」


 な、なんの取り調べですか…?。


 いや、俺としては、むしろどうすればここから解放されるのか、それが一番知りたい事柄だ。

 ただ、このメスゴリラにそんな舐めた口きいたら命が幾つあっても足りなさそうだ。面白くも何ともないが仕方ない、命の惜しい俺はごく普通に答える事にした。


「えー、魔導協会ってなに?」


「そこからかよ?!」


 いや、お前こそそこからか!?。



 その後、色々取り調べした結果分かった事。それは、まず魔法を使うには適性を持ってる必要があると言う事。

 そして次に「導入の儀式」を受けなければならないと言う事。

 そして儀式を受けなければ、たとえ適性があったとしても絶対に魔法は使えないと言う事だ。


 で、それらの適性判断と儀式、及び呪文のスペル販売全てを取り仕切っているのが魔導協会だと言う事だ。


 この世界の魔法は、国家やこの協会によってほぼ管理されていた。

 実際に、殆んどの人はこの協会に高い金を払い、適性検査や儀式をやって貰うと言う。


「えー?、なんか超メンド臭いんですけどぉ…」


「しょうがねぇだろ、そう言うもんなんだからよ」


 適性検査に約10万TH。

 導入の儀式に約50万。

 そしてそこから更に魔法の呪文スペルが記された巻物スクロールを個々に買うのだが、そのスクロールがまたバカ高い。

 平均的なスクロールの値段はだいたい50万くらいと言われていて、安くても約10万。高い物は数百万すると言う。


 まず金ありきかよ?!。


「あーもー、やる気無くしたわ…」


 俺はそのハードルの高さにうんざりした。


「はっ、魔法なんてあんなの役に立たねえよ。強くなりたいなら剣を振りな、それが一番手っ取り早い」


 はぁ、この脳筋が…。

 こんなゴリラは間違いなく筋肉バカだろうから、インテリジェンスな魔法を普通より下に見ていてもおかしくはない。つーかこのゴリラなら、魔法なんか無理矢理筋肉でねじ伏せてしまいそうだしな。


―あ…、てゆーか俺、魔法が使われてる所を見たこと一度も無いや…。


 ここで俺は、とんでもなく初歩的な手抜かりがあった事に気付かされる。

 と言うか、なんたる盲点。良く考えたら一度魔法って奴をしっかり見ておく必要あるよな、今さらだけど。


「よし、おっさん、魔法使いのヴィクトさん呼んで来て?」


 ヴィクトとはこの前呼ばれた夕食会にいた魔法使いの隊長さんだ。

 帰り際に、何か聞きたい事があればいつでも遊びに来いと言ってくれたのだ。だが、しかし―


「テッメェ、誰がおっさんだぁ?。あたしは女だ、マジでその首ねじ切るぞッ?!」


 ドガアアアァンッ!!!。


 室内に轟音が鳴り響き、痛そうな破片がいっぱい飛び散る。

 なんとラオーナの右腕一閃で、一瞬にしてテーブルが粉砕されてしまったのだ…。


 またもポケットの中で、バッタのイッちゃんがマナーモードで震える。着信来た…?。

 んで、ウーハーもビビって俺の首を締め付ける、ちょっとやめれぇ…。


「ジョ、ジョークだよジョーク…。

 て言うか、そ、それがスキル『憤撃』って奴?、す、凄いね…」


 ヤ、ヤベェぜ、コイツに人間のジョークなんか通用する訳ねえじゃん?!。

 え、えっと…、じゃあこう言う時はどうすればいいんだっけ?。あー死んだフリだっけか?、いや鈴を鳴らす?、いやいやそれはもう遅いだろ!。


 俺が混乱する。


「ほーう、お前、あたしのスキルを良く知ってやがるな?。

 だがテメェらみたいなバカのせいで、あたしのスキルは大活躍なんだよ!」


 するとこのメスゴリラは、意外と冷静に俺の目を覗き込んだ来た。


 あ、しもた…。つーか鑑定で勝手に覗いた事をバラしたらダメじゃん。と思ったが、どうやらこの女のスキルは一般的に良く知られているらしい。あっさりスルーされた、良かった〜。


 だが俺としたことが、実際かなりビビって取り乱したせいで、言う必要の無い事を口走ってしまった様だ。

 ちなみにこのゴリラのスキル『憤撃』とは、怒りにより攻撃力が増すと言う訳の分からない能力だった。


「ちょっと…、今の音、大丈夫?」


 と、その時、いつの間にか扉の隙間から、ルキシュエリーがこっそりこちらを伺いながら声を掛けて来た。

 いや、心配するならもっと正々堂々と心配して欲しい。と言うか、結構な物音と言うよりも爆音?がした筈なのだが、あまり騒ぎになってないのか?。もしかしてこのゴリラが暴れるのは、大して珍しくないのだろうか?。


「あん?、別にどおってこたぁないよ…」


 バラバラに砕け散ったテーブルを前に、仁王立ちする覇王系世紀末女。

 結構な大事おおごとをたった一言で一蹴してみせるとは…。こいつの筋肉は万能か?。


「ところで何か用か?」


 その筋肉さんは、まるで何もなかったかの様にルキを振り返ってそう言った。しかも事もなげ風なジェスチャー付きで…。


「うん、ウーハーの様子を聞こうかなって…」


 ルキシュエリーは、そう言って俺の首に巻かれたウーハーを指差した。

 あー、そういや俺そんなの巻いてたな。でもルキさん、あんたも少しはウーハー以外の事にも気を配ろうな。結構大騒ぎになりそうな事が他にあっただろうが…。


 すると―。


「ね?、私もウーハーを首に掛けたい…」


 とか全然空気読まない事言うので、ぜひルキシュエリーの首にぶっかけて差し上げようとしたら(←コラ)、何故かウーハーがいきなりキレて暴れた。


「え、なんで!?」とルキ


「さ、さあ…」俺…


「あんた嫌われてるんじゃないの?」女ゴリ!


「えっ?!」ルキ


 う、うっわ〜、この女ゴリラ、思った事そのまま口に出しちゃったよ…。

 確かに俺もそうなんじゃないかとは思ったよ、でもそこは思うだけで口にはしないだろ普通はさ…。


 当然ながら、その衝撃発言にルキシュエリーもかなりのショックを受けた模様。

 だがここで、突然ルキシュエリーは「嘘でしょ?」と俺を振り返った。しかもあろう事か、俺はその気まずさからつい反射的に目を逸らすと言うミスを犯してしまう。


―しっ、しまったあ〜!。


 だってこの反応「うん、その通り」って言ってるようなもんじゃん?。

 案の定、俺の素振りから真実を悟ってしまったルキシュエリーがショックで固まる。そして嫌〜な沈黙が俺たちを包み込んだ。

 そもそもの元凶であるウーハーの、ルキを威嚇するKYな唸り声だけが微かに漂うのみだ。


 そして、ようやくここで例の筋肉ゴリラも、流石に自分の発言のマズさを察した様だが、全力で知らんふりしやがるし!。


 お前なぁ、ルキの専属護衛のくせに主人のメンタルを切り刻んどうするんだよ…?。





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