6・異世界×ニート×侵食
あー、飲み過ぎた…。
ヤバいわコレ、重症だ何も考えられ〜ん。
てな訳で、ここは領主マリスカ氏邸宅の客室だ。昨日は結局泊まらせてもらったのだった。
で、俺が頭痛を拗らせて転がっていると、コンコンと言うノックと共に使用人がやって来た。
そして何やら不気味な液体の入ったコップを手渡される。どうやらこれが二日酔いに効くらしいが。
―で、コレを飲めっての?。
なんつーか、見ための抵抗感マックスなんですが…。
だってそれ、常温だと言うのにグツグツと煮えたぎる謎の液体…。なにこれ?。
う〜ん、毒殺するならもっと分かりにくくするべきではないでしょうか?。それとも逆に、裏の裏を掻いて殺意を前面に出してみたのだろうか?。
―う、いかんいかん。なんか俺、全世界を敵に回そうとしてるぜ。(←意味分からんのぉ…)
だが使用人さんは無言で「はよ飲めよ」的な空気を醸し出すもんだから、仕方なく意を決して飲んでみたら凄く効いた!。どうやらこれ魔法薬らしい。
―すげぇ、地球の製薬会社完敗じゃん。
とは言え、流石に即完治とはいかない。とりあえず重症が軽症にレベルダウンする感じだ、残念ながら多少のダメージは残る。
だけど起き上がれない程の二日酔いを考えると、日常生活くらいはこれで何とか誤魔化せそうだ。
謎のドーピング効果により、どうにかマシな活動能力を得た俺。
するとそんな俺の元に、何故か今度は例のルキシュエリーちゃんがやって来た。
彼女はたった一人で、しかも今日は質素な私服姿。そんな彼女が開けっ放しの戸の隙間から顔を覗かせ、扉をコンコンとノックした。
―突然の美少女だ、わーいわーい!。(←ちょっとまだおかしい俺)
「えー、はいはい、なんのご用でしょうか?」
いまいちカタカタ震える頭を押さえながら、俺はキリリ!と立ち上がった。(と思う)
「ねえ、少し時間ある?」とルキシュエリー
「あっ…!?」
と、ここで俺は、その「時間」って言葉にある約束を思い出させられる。
そうだ、今もうすでにお昼だが、俺は今日もグリさんと待ち合わせしていたのだ!。
「あっ、ごめん。俺、これから他に用事があるの忘れてて…!」
「あ、そう…。
でも、もし時間があればいつでもいい、私の所に来て欲しい」
そう言うと、ルキシュエリーはサラッと帰って行った。
何だか淡白なお人だなぁ…。
それにしても、彼女が俺に何の用があったのか凄く気になる。
もちろん本音は今すぐ彼女の用事に付き合いたい。しかし美少女も大事だが、グリさんとの約束も重要だ。
今の所グリさんとの繋がりは、一方的にグリさんの訪問オンリーである。電話番号とかメールアドレスなんかあろう筈もない。もしグリさんが来なければ、俺から会いに行く手段は一切無いのだ。
それに考えてもみて欲しい、なんと言ってもグリフォンは単純に強い。そして空を高速で飛べるグリさんは超便利!w。
何故グリさんが俺に付き合ってくれるのかは知らないが(もしかしてこれがテイマー能力なのか?)、せっかくグリさんが付き合ってくれるのだから約束は守りたい。
そしてルキシュエリーの所には用事を済ませてから行けばいいのだ!。
てな訳で、グリさんと会う為に俺は領主館を一時おさらばする事にした。
使用人さんにお礼を告げると、多少ガタつきながらも街の中を全力で駆け抜ける。
そして街の外門をくぐると、街道脇の空き地にグリさんはいた!。
「グリさんごめーん、待ったぁ?!」
「ん、もう!、3時間遅刻よっ!」
とかは無い。ないない。
だが、そこで俺を待っていたのは意外な光景であった。
なんと街の子供たちが、グリさんで遊んでいたのだ?!。
空き地で無防備に横たわるモンスター「グリフォン」。そんな強面モンスターの周囲を走り回る子供たち。果てにはグリさんの上によじ登ったりしてる子までいるし…。
つーか良くもまあグリフォンと遊ぼうなどと言う気になるもんだなこいつら。だいたいこんな物騒なモンスターに、自分から寄って行くと言う発想がそもそも無いわお兄さん的には。
実際、門の衛兵たちはしっかり距離を取って監視しているし、これが普通の感覚って奴だよな。
と、ここで俺の姿に気づいたグリさんが、子供をパラパラと振り払って立ち上がった。
そして走り寄る俺を出迎えると、その前足で俺の頭を鷲掴みにした。
グワシ!。
(3時間待ったわよ!)
「グ、グリさん、爪が皮膚に食い込んでるんですけど…」
それを見て笑う子供たち。いや、そこ全然笑う所じゃねーし!。
ただ俺もまだ軽度の二日酔いがシナジーしてか、あまり痛みは感じない…。
―ん?。
「ところでグリさん、その頭なに?」
そう、鷲掴みされた俺が見上げるグリさんの頭は、なんかボッサボサだった。
「なんか、髪型が変だけど?」
「……………」
うむ、悠然と俺を掴んで構えるグリさんだが、髪型が変なせいでどうも格好がつかない。なので、流石にこれは突っ込まずにはいられなかった。
「おいグリさん、その頭……」
しかし、どうもグリさんの反応は今いち釈然としない。なんだか何も言いたく無い様子?。
仕方なく無言でグリさんの出方を待ってみるものの、あっさり目を逸して無視される始末。
一体何があったと言うのだ?。
えー、では解説しよう。実はこの状況、どうやらグリさんは俺がワイバーンと戦うなんて言ったもんだから、不安でなかなか寝付きが悪くなり、それで変な寝癖が付いてしまったらしいのだ。
(寝たら寝たで嫌な夢も見るし…)グリ
とは言うものの、そんな弱味を他人に晒す訳にもいかず、ただ無言でしょんぼり佇むグリさん。
て言うか、そろそろ俺の頭を掴むのやめて欲しいんですけど?。
ちなみにこのグリさんの内心の暴露と言うのは、あくまでも小説上におけるメタ思考的な話であり、登場人物としての俺には全く知る由もない事柄だ。
なので俺は普通に心配して鑑定で確認したりするものの、当然ステータス上では何の問題ないから何も表示される事もない。
つまり、ただひたすらさっぱり分からんままなのである。
「………………」
そして、やはり無言で知らんぷりを決め込むグリさん。心なしか俺のドタマを掴む手に、いつもの力強さすら感じられない。(初クローだけど)
「てゆうかさ…。もしかしてグリさん、ワイバーンが怖いのか?」
と、ここで何故かあっさり真実にたどり着いちゃう俺。って、結局知っちゃうのかよ俺ェ…。
ビクッ!、と動揺を見せるグリさん。
そして途端にプルプルとキョドり始めるグリさんが、ガチで不自然…。
いや、別にそれほど難しい謎ではなかったよ、元々そんな兆候あったしな。
―ただ、それにしても…。
「ったく、マジかよグリやん、お前それでも勇猛にして誇り高きグリフォンの末裔か?。まさかそんな事でビビっちまうとはよ!」
溜息吐きながら俺がグリさんを見上げると(ドタマ掴まれたまま)、グリさんは屈辱からかブルブルと身体を震わせていた。
まったく、デカい図体して情けねえ奴だぜ。
「でもまあいいや安心しな、ワイバーンを倒すと言ったな?、あれは嘘だ」
(な、なん…、ですと?!)
「それがさぁ、昨日某所でちょっと情報収集を行ったんだけどさ、思ったよりこの世界の魔法は大した事ないと言うのが分かっちゃったんだよね…」
そう、これはまさに昨日の食事会でちょこっと聞いた話だった。
詳しくは後述するが、どうやら現在この国が抱える魔法テクノロジーはあくまで別種族による超魔法文明の残り香、残滓でしかなかったのだ。
よってそれは極めて限定的な使用方法しかなく、しかもその大半は生活魔法が殆んどだと言うのだ。
―つーかなんて迷惑な設定なんだ、今さらそんな事言われても俺困っちゃうよ、せっかく魔法で無双出来るもんだと思ったのに!。
「とは言え、だからってワイバーンの討伐が不可能な訳ではない。
そう、ありとあらゆる小細工を用いれば、あんな空飛ぶ脳筋モンスターごとき狩るのはいとも容易い、そこは分かって頂きたい!」
あー残念だわー、ワイバーンぶっ殺せなくてホント残念だわー、もうちょっと魔法がまともだったら片手間でワイバーンくらいぶっ殺せたのになー。的なニュアンスだけは前面に押し出しておく俺。
まあ実はかなりのこけ脅しなんだが、精神的にヘコんでいる今のグリさんには十分通用した様だ。
(お、おぉ〜。そこはマジなんだ、スゲーじゃん…)
心なしか俺を見るグリさんの眼差しに、尊敬の色さえ感じられたと言う。ちょっろw。
「てな訳で、残念だが今回は奴等を見逃してやろうと思うのだがどうだろう?」
するとなんだかすっかり丸め込まれたグリさんは、ぼんやりボンバーヘッドを揺らして頷いた。
(えっ?、あー、まあそう言う事なら仕方ないよな。普通はそんな簡単に狩れる様なもんじゃないし…)
気のせいか、いつの間にやらそのボンバーヘッドも可愛らしく見えたとか見えなかったとか。(←どっちなんだーい)
―よっし、でもこれでようやくルキシュエリーの所へ行けるな!。(グリさんとのコネクション的な繋ぎも確保OK!)←ゲスい…
「では引き続き俺は情報収集に行って来るから、今日はこれで解散な!。
それから明日もちゃんとまた来てね?、それじゃあバイビ~!」
今だに少し困惑するグリさんを残し、そそくさと立ち去る俺。
そして残されたグリフォンに再び群がる勇者な子供たちの姿が、去り際の俺の視界に写り込んだと言う。子供ってすごいな〜。
その後グリさんは、とりあえず昨晩の寝不足分を昼寝で補ってから塒へ帰ったと言う。
(俺、一体何しに来たん…?)
一方俺は、来た道をまた全力で走り抜け、領主館に再び舞い戻って来た。
そしていつの間にか顔パスになった館の門を通り、適当に使用人を捕まえるとルキシュエリーちゃんの所へと案内して貰う。
すると彼女は何らかの事務仕事の途中だったが、俺の姿を見ると嬉しそうな表情を見せた(ようにお前の目には映ったのじゃな?)。
そして俺の顔を見るなり、彼女は机から立ち上がって言った。
「実は見て貰いたいものがあるの、ついて来て」
「は?、はぁ…」
一方的にそう言う彼女に、俺は無条件で後に付いて行く。
―いったい何なんだろう?。
ただ残念な事に、エロい雰囲気は全くなかった。
そして言われるがまま、その後ろ姿を眺めつつ辿り着いた場所、そこは屋敷の最上階にある小部屋だった。
そこには様々な植木が置かれ、人工的な緑溢れる自然の中の様な一室だった。
んで、その部屋の木の枝には、ヘンな生き物が一匹ぶら下がっていた…。
「ヌルネコのウーハーよ」
そのヘンな生き物を指し示して彼女は言った。
なんか、太い枝に絡み付いてぶら下がる蛇みたいなヘンな猫…。
―猫か、これ?。
つーか普通の猫をグニョ〜ンと引き伸ばした軟体動物的な感じの、実にヘンな生き物がそこにいた。
―なんじゃこら…。
ルキシュエリーの説明によると、これは「ヌルネコ」と言う珍しい生き物で、たまたまこのウズランダルの領内で保護されたと言う。
ただし別に絶滅危惧種として取り引き禁止されてる訳でもなく、単に破産した商人の差し押さえ品の一つとして扱われていた様だ。
そして、それが回り回ってルキシュエリーにプレゼントされたらしい。
デッサンが狂ってダリってる以外は、良く見れば普通の猫にも見えなくもないし。それに毛並みも綺麗でかわいいと言えなくも、ないかな。
―まあ一応三毛猫だわな…。
するとルキシュエリーがポケットから餌を取り出し、そのヌルネコ?に近付く。そしてその手を差し出すと、一瞬にしてその餌が掠め取られた。
「うお!」
正直ビックリした…。
と言うのも、ルキシュエリーの手とその変猫との間には結構な距離があったからだ。それをその変猫は、ムチの様に体をしならせて餌だけ掻っ攫ったのである。
す、凄い。
う〜ん、なんか凄いんだけど…。でもなんかお行儀悪くない?。
「どう言う訳かこの子、人に懐かないの。どうしたら懐くか分からないかしら?」
そう言って、ルキシュエリーは真剣な眼差しで俺を見つめた。
なるほどね。この俺のスキルがモンスターテイマーだと知り、それでこの変猫と仲良くする方法を教えて欲しいと言うんだね。
―あー、超かわいいなぁこの娘は。
ここぞとばかりに俺はルキシュエリーの美貌をまじまじと見つめた。
はぁ、心が癒されるわ〜。
つまらないお願いだけど、こんな美少女に頼まれたら快く引き受けられるのは何故だろう?。
で、しばらくそうやってジーっと眺めてたら、いい加減彼女もどうしたの?って不審な顔をし始めたのでそろそろ本題に戻る事にする。はいはい猫(?)でしたね。
「えー、じゃあちょっと診てみますねー?」
俺はそのヌルネコを鑑定した。
ヌルネコ、「ウーハー」5才
クラス、ニート
レベル3
HP10
MP34
スキル、変体術
補足、異世界のナマケモノ。
うん、この鑑定、時々見なきゃ良かったと思う事が結構ちょくちょくある。ちなみに今がその時だ。
えー、さて。それではおかしな所を上から順に突っ込んで行こう。
まず最初に、何故こいつのクラスはペットでなくニートなのか?。
えー、それからスキル。なんだよ変体術って、気持ち悪い。
で、最後に。こいつナマケモノなのかよ、働けよ!。
と、まあ適当に思った事をぶち撒けてみましたが、出来ればもう少し真面目なファンタジーイベントが良かったな。もしかして異世界に来てまでニート問題に関わるとか俺イヤだぞ?。
ただ問題はだ、鑑定した結果この変猫は、どうやらクズ猫に違いないと言う事だった。
う〜ん、ただこれは、ちょっと依頼人には伝えにくいよな…。
でも一応本人、つーか本猫に直接聞いて確認してみよう。もしかしてもしかすると、話してみたら意外とこの子まともな猫でなんか勘違いしてたって事もあり得るからな。
ま、可能性はゼロじゃないし、勝手に決め付けるのも良くないしな。
「てな訳でさあ、お前ってなんでニートなん?」
意を決して聞いてみた。すると…。
(馴れ馴れしく話し掛けるな、失せろカス!)とクソ猫
えー、さて。
だんだん分かって来た事だが、俺のテイム能力は完全にリアルな会話形式で成り立っていた。
そして、どうやら俺のテイム能力は、支配力と言うより単なる交渉力に近いと思われる。
んで、一応俺は普通に人語で語りかける訳なのだが、言葉は通じなくてもその真意はダイレクトに伝わっている様だ。
そしてその逆もまた同じ。モンスターの感情が直接俺に伝わって来る。
ちなみに俺がわざわざ言葉で語り掛けるのは、それがまとまった反応を引き出す「きっかけ」になるからだ。
まったくこのスキルのどこら辺がEXなのか、暫し神に問い質したい。と言うか、そもそもモンスターテイマーがどんなモノなのか俺もいまいち良く知らないが、絶対にこれは違う気がするぜ…。
ま、それはともかくとして話を元に戻そう。
つまりだ、知能の低い生物なんかは俺の発する複雑な感情は理解してくれないし、単純な感情しか発信出来なかったりするのだが、知能の高い生物とはかなり明確で分かりやすい感情のやり取りが出来る。
そしてこの変猫は、なかなか知能が高かった。
すなわち、それは。
―お前(クソ猫)の気持ちは鋭くダイレクツに伝わったぜ、俺に対するドス黒い明確な敵意がな!。
俺はルキに聞こえないように、小声でそっと囁いた。
「このクソ猫が、あんまチョーシに乗ってるとマジでぶっ殺すぞ…」え、聞こえてますけど?、とルキ。
だがこのクソ猫は、俺の殺意をサラッと受け流してみせた。
(ふんっ、人間なんか見たくもない、消え失せろ!)
そしてそう言うと、変猫はスルリと樹木の陰に隠れてしまったのだった。
―はあ、やっぱ鑑定通りの結果だったな。
残念ながら、あんたさんちの猫根性腐ってますわ。そう言いたい気持ちをグッと堪えてルキシュエリーを振り返ると「ど、どうしたの?」って感じで見つめられる。
―う…、そんなに真剣に見られるとツラいなぁ。
だけどね。
「あのさ、この猫ダメだわ。
懐く懐かないとかじゃなくてさ、もしかしたら根本的に人間嫌いなのかも…?。
いや、つーかぶっちゃけると、コイツ性格の悪い引きこもりだわ、なんか完全に他者との関わりを拒否してるっぽいね」
正直最後は面倒くさくなってぶっちゃけたった。だって、だいたいこんな茶番に気を使う方が一番アホらしいだろ。
だがルキシュエリーは、今いち俺の言った意味が分からなかった様だ。「えっ!、え?」と困惑して目蓋をしばたかせる。
え?、そんなに想定外な答えだったか?。
つーか、だいたいずっと飼ってて分かんないもんかな?。ニッブい美少女だなぁ。
ま、それはそれで悪くないんだけど…。