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5・口が回る奴ほどべしゃりんぐ



 グリゾーさんが帰った後、街に入ろうとすると何故か役人が俺を待っていた。


 え、なんだこれ、VIP待遇?。


「ノリオ様、ウズランダルの領主マリスカ・ウズランダル様より、あなた様の使い魔グリフォンについて詳しいお話が聞きたいとの事です。

 もしよろしければ夕食をご用事しております、どうぞこちらへ…」


 役人、と言うか使用人か。

 それより行くのは確定なんだ。ついに朝のフラグ回収に来たのか?。


 て言うか、そんな事より俺の本名を呼ぶのはやめて欲しい。

 これ一番やっちまったわ、もっとカッコいい中二ネームを考えておくべきだった…。


 で、さて。問答無用で俺が連れて行かれた先には、大人しそうな魔獣が引く立派な獣車があった。

 と言っても、この街で車が通る様な道は正門通りの一本道でそんなに長くもない。別に歩いても問題無いくらいだ。でもわざわざ領主がお呼びするのだから、そう言うものなのかも知れない。


 ゆっくり獣車に揺られる間、俺は考えた。

 領主館の屋根の上で朝っぱらから使い魔(一応)が奇声を発していたのだ、どう考えてもマズいよなぁ。

 まったく頼むぜグリやん、ちょっとは空気読めよ…。


 はぁ、もしかして怒られるんだろうか?、それとも訴えられたりするのか?、下手したら捕まったり?。

 ただ、そもそもこの世界の一般常識を知らないから、どう対応するのがベストなのかもさっぱり分からない。


 それに俺、今だにレベル1だからな〜。何があっても抵抗しようが無い。グリさんも今居ないし…。


―正直、どうしたらいいか全然分かりません!。


 結局は現状維持なりゆきまかせか…?。


 そして、車は一本道の突き当たりでついに領主館に到着した。

 狭苦しい通りの最奥にドデンと立ち塞がる巨大な城門。平時は開けっ放しのその門をくぐると、武骨な城郭風の領主館があった。

 その飾りっけ皆無な佇まいから、おそらくは防衛用のガチな設計がふんだんに盛り込まれてるのだろう。

 それらをまるっとスルーして、俺は館内に導かれた。


 その後、ご丁寧な態度の使用人さんによってこちらへどうぞ、あちらへどうぞ、どうぞどうぞと連れ回される。

 そしていい感じに宿へ帰りたくなって来た頃、ようやく俺はこの館の主人とエンカウントしたのであった。


「マリスカ様、ノリオ様をお連れしました」


 目の前にはいかにもって感じの扉が一つ。

 そして神経質そうなメイドさんが開けてくれたその扉の向こう側は、やはり豪華なお部屋だった。


 部屋の真ん中に陣取る巨大なテーブルには、すでに4人の人物が席に着いて談笑していた。

 他にも周りには給仕係の人や、執事服を着たガタイのいい護衛士も数人いたが、席に座っているのはその4人だけだ。


 テーブルの一番奥、上座に座るのが恐らく領主のマリスカさんなんだろう。

 色白のぽっちゃりしたおっさん。結構若いおっさんだった。


「ようこそノリオ殿、わざわざご足労申し訳ない。私がこの街の領主、マリスカ・ウズランダルだ。

 今宵は肩肘張らずに好きなだけ飲み食いしてくれたまえ」


 領主マリスカが立ち上がってそう言うと、使用人が俺の椅子を引いてくれた。思ったより悪くない雰囲気だ。


 俺が席に着くと、マリスカさんが自分の左右に座る三人を紹介した。


 一人は魔法使いの男。

 一人は街直属の戦士団の男。

 そしてもう一人が色白で金髪の美少女、ルキシュエリー・ウズランダル。マリスカの姪らしい。


―金髪美少女キターーーーっ!。


 はっきり言って、もうこの際他の事なんざどうでもいい!。だってこれはかなりの美少女だよ?。俺はルキシュエリーを即鑑定したw。



ルキシュエリー・F・ウズランダル、16才


クラス、美少女剣士


レベル17


スキル、先読み


補足、――(対人には補足があまり効かない)



―え…、この美少女、剣士なの?。


 俺が気になったのはそこだった。

 だってこんな金髪美少女が、わざわざ剣持って闘う必要あるか?。そう、もっと暑苦しい野郎が肉の盾になればええんとちゃうん?。

 あー、でもまあ異世界だもんな、そう言ういざって時もあるか?。

 それにしてもスキル「先読み」ってどんなだろ?、なんか使えそうなスキルだな。


 俺はルキシュエリーをあまりガン見しない様にしながらも、常に視界の片隅に入るよう意識した。そしてルキシュエリーの気配に全神経を集中させた。


―うむ、どうしても彼女が気になって仕方ないw。


 出来ればジロジロとその顔を眺めたかったが、でもそれはマイナス印象以外何も生まないからやっちゃいけない。悩ましい限りである。


「ところで今日俺が呼ばれたのは、やっぱり朝のアレですよね?」


 面倒臭い話は嫌だから、もうここは直球だ。しかもルキシュエリーが気になるから、難しい話は余計に無理。

 するとそんな俺の問い掛けに、マリスカは「あー」と言う感じで頷いた。そして横に立つ普通の執事風のおっさんをチラ見する。


「その前に料理が来たようです、まずは食事に致しましょう」と執事


 そこへちょうど料理が運ばれて来た。

 ちなみに、料理は素材を活かしたシンプルな郷土料理って感じだろうか?(つっても安そうには見えないが)。ただラッキーなのは、この国で飯を食う時は箸を使うと言う事だった。

 まあ俺はそっちの方がいいので助かる。箸文化バンザイ!w。


 さて、とりあえず飯を食おうって事なので、俺は適当に運ばれて来た物から食べ始めた。

 まあ面倒臭いのは嫌いだけど、KYではないのだ。(ウソつけ)


「どうだね、その肉は先月ウチの領内で捕れた………」


 俺がパクつくと、それに合わせて色々マリスカ氏が話し掛けて来た。それはどれも他愛の無い世間話ばかりだ。

 なので俺は常にルキシュエリーの姿を視界の端に捉えながらもそれらしい返事を返す。


 ところでこのマリスカって人は、領主と言うか普通のおじさんだった。いわゆる権力者的なそんな腹黒そうな感じはあまり感じない。それより所々で垣間見られる微妙な気遣いが、そこら辺に良く居る量産型のおっさんに通じるものすらあった。


 そしてさらに脇道を逸れて世間話するところによると、マリスカさんは三代目領主で、お祖父さんがこのウズランダルの街を築いたらしい。

 元々そのお祖父さんは一介の魔法使いで、その人がこの地の開拓に成功し領主になったのだと言う。

 どうやら未開領域を開拓して領主になるのは、この国の一般人のテンプレ的な立身出世物語らしい。つまり、おじーさんは勝ち組って事だね。


 そしてほど良く飲み食いした頃、そろそろタイミングを見計らった俺は、再度本題に話を振り向けてみた。


「あのー、今朝ウチのグリフォンがお宅の屋根に乗って吠えた事は本当に申し訳ありませんでした…」


 正直、俺に管理責任があるとは思わないが、他人は全くそう受け取って貰えないだろう事を鑑みて、とりあえず謝罪から入ってみた。

 と言うのも、なんとなく流れ的にこうした方が上手く行きそうに思えたからだ。

 ま、最悪難癖付けられたらとりあえずこの場は従順な振りして後で逃げようw。


「ああ、でもあれはビックリしたねえ、グリフォンがわが家の屋根に止まるなんてまさか想像もしなかったよw」


 と、何故かここで笑いが起こる。

 あれ?、別に問題ない、のかな?。


「笑い事ではありませんぞ、わが街の防空対策の甘さを露呈した様なものです···」


「いやいや!、見張りの哨戒は察知出来ていたのだ。ただ例のグリフォンと言う事で対応を控えただけの事で…」


 脇の戦士と魔法使いが口を挟み合う。

 ルキちゃんは今の所ずっと無言だ。


「ところでノリオ殿は何処の出身だ?、この国の者ではあるまい?」


 戦士と魔法使いの議論が端で続く中、マリスカ氏がそう俺に問う。


―おっと、そう来ましたか…。


「ええ、恐らくご存じ無いでしょうが日本と言う国です」


「ニホン?、……聞いた事が無いな」


「信じられないかも知れませんが、実は超自然的な力に巻き込まれまして、ランダムに飛ばされた結果この地にやって来た次第なんですよ」


「ふむ…。と言うと、転移災害的なものにでも巻き込まれたのかね?」


「あっ、そう!。まさにそんな感じです」


 マリスカさんGJ、話が早くて助かるわ。

 ただ、いつの間にかこの会話を静かに聞いていた他の皆は、やはりいかにも信じがたいと言った表情だった。


 まあ仕方ないよな。

 でもほぼ事実なんですw。


「いやあ、出来れば適当に誤魔化したい所なんですが、あまりにも現実離れし過ぎてなんて説明したらいいか分からないんですよね〜(笑)」


 もう笑っとけw。

 笑ってごまかしとけwww。


 だいたい、いちいち偽エピソード作ってたらキリがない。それに嘘だと思われても別に俺はどーでもいい、真実はいつも一つだし!。つーか俺、むしろ結構攻めた方だよな?!。

 とは言え、何故か俺の乾いた笑い声だけがやけに響くぜ、誰かフォロー頼む!。


『お前のぶっちゃけ具合には、ワシも呆れ返るわい』(神)


―ってオメーのフォローはいらねーよ!。


「ふむ…、しかしだとすると、祖国に帰る道のりは大変険しそうだな…」


 だが意外にも、マリスカさんが同情に満ちた言葉で応じてくれた。なんかこの人いい奴かも。


「ええ。でも残念ながら俺はもう国に帰る事は出来ません」


「えっ、そうなのか?」


「はい、なので何処か気に入った土地を見つけたいと思ってます」


「おぉ、それはお気の毒に…」


 なんかそう言われると、確かに俺って気の毒な奴なのかも知れないな。

 実際、異世界転移って事でかなり浮かれてた気がするが、もう少し俺も真面目に考えるべきなのかも?。


 と、話が湿気っぽくなり、雰囲気が静かになり掛けた時。


「ところでノリオ殿、貴殿の使い魔グリフォンのこの街での扱いについて話し合いたいと思うのだが」


 と、結構空気読まない感じで、横から魔法使いが割って入って来た。


「うむ、魔獣使いの能力に関わる話にもなるが、出来る限りお聞かせ願いたい」と戦士も。


 てな訳で、突然ここで俺への質問ターンに切り替わった。

 しんみりして話しづらくなる前に、さっさと本題に入ってしまおうと言う訳なのだろう。どうやら今回の招待の目的は、グリさんのやんちゃに対するお叱りではなかった様だ。


 それで、一応グリさんがこの街で活動するに当たっての取り決めみたいな物が決められる事になった。

 ついでに、何気なく俺の素性や能力的な事にも探りが入る。


 言われてみれば、当人オレはあまり気にならないが、赤の他人がグリフォンみたいな大型モンスターを操っていたら危険人物にしか思えない。街の安全保障の観点からも、そいつがどんな考えを持っているか知っておくのは重要なのだろう。

 なので俺はかなり正直に答える事にした。


 と言うのも、一見した所、彼らこの街の人間はそんなに悪そうな人には見えなかったからだ。

 なんとなくだが、彼らからは結構マジメに街を取り仕切ろうと言う雰囲気が感じられた。だから無理に情報を秘匿して不安を抱かせるよりも、ある程度オープンにして相手に受け入れて貰った方が、この場合話が早いと思ったのだ。


 まあ酒の勢いもあったのは確かだが、それにしてもかなり良好な人間関係が構築されたのではなかろうか。

 それに領主のマリスカさんは気さくで結構いい奴だった。いや、正直言ってマリスカさんには威厳の欠片も見当たらなかったが、その分なんだか不思議な気安さがあった。


 こうして俺たちは互いに熱く情報交換に明け暮れたのだが。どう言う訳かその内容に関しては、全く俺の記憶に残る事がなかった。

 つまり俺は、早々に呑んだくれて酔いつぶれてしまったらしい…。


 ちなみにルキシュエリーはとっくに途中で帰ってしまった模様。


 そして翌日、俺は二日酔いで転がる事となった……。






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