3・初めての異世界街もプライスレス
あー、なんかマズい…。
俺とグリフォンさんは今、街のすぐ前に居ます。そして武器を持った男たちに囲まれていた。
で、そのグリさんなんなだけど、スゲー怖い唸り声をドルドル響かせている。まるで超排気量のスーパーカーみたいな感じだ。超腹に響くわこれ…。
一方、男たちは約30人くらい居るが、見た目は普通のパンピー野郎ばかり。
なんか農民くさくて、装備の整った職業戦士っぽい奴は殆んど見当たらない。
なので、みんなかなりビビってへっぴり腰だ。グリさんが一声吠えたら、あっさり全員逃げ出しそう。
ところで俺はと言うと、あまりの疲労で膝ガクガクしてヘタり込んでいた。
一応グリさんの前足にしがみついてグリさんの暴走を抑えてるつもりだが、効果はほぼ無いだろうw。でもとりあえず気分が悪いから、もう少し待って欲しい!。
そんな膠着状態のまましばらくお見合いしていたら、今度は街から戦士の団体が現れた。それはかなりガチっぽい戦士団だった。
その数、約15名。
なんだかかなりヤバい揉め事になりそうな雰囲気があった。
流石に俺もこれ以上は放置する訳にいかないので、必死に立ち上がったよ。
するとやって来た戦士の中から、一人だけ進み出て俺の前に立つ者がいた。
現れた戦士っぽい奴らはみんな装備を揃えていたが、俺の前に立ったのはその中でも一番デカい体をした美髭のおっさんだった。なんか三国志とかに出て来そう。
「俺はこの街ウズランダルの戦士団団長ガルクス・レイヴェルだ。そのグリフォンは貴殿の使い魔か?」
おっさんはズバリそう尋ねて来た。
「あっ、ああ。うん、そんな様な感じだよ」
「このウズランダルに何用だ?」
そのおっさんはピリピリした雰囲気で、こちらの顔色を伺う様に尋ねて来た。
確かに俺もヘバってたからあんまり細かい事は気にしてなかったが、街のすぐ目の前にこんなデカいモンスターを晒すのはちょっとまずかったかも知れない。
何しろ未だに俺自身、このグリフォンには超ビビってるんだからな。
「いや、用って言うかたまたま通りがかっただけなんだけど、出来れば一晩泊めて欲しいなぁとか思ってですね?。
あ、このグリフォンとは偶然近くで知り合って乗せて貰っただけなんで、もしこの街に入れてくれるのなら入るのは俺だけだよ」
俺がそう言うと、思わず周りの男たちから安堵の溜め息が漏れたのだった。
そんな訳で、俺は初めての異世界街の門をくぐった、グリさんと共に…。
えっ?!。
うん、いや、ね…。
どう言う訳か、グリさんは俺の後ろにくっ付いて帰ろうとはしなかったのだよ。
一応鑑定で確認してみたら、補足に「初めての人間の街に興味があるので見てやるw」になっていた。
―なにこの補足ウゼェ!。
てな訳で、やっぱり街の入口で揉めた。
街に入るのは俺だけって言ったのに、グリさんってばまるで立ち去ろうとしないからみんな今だに臨戦状態だ、かなり殺気立ってる。
正門の大扉の前で睨み合うグリフォンと戦士団。
だがこのグリフォンさんはそんな空気も読まずに、とにかく早く街に入りたくてウズウズしているのだ。
―うーん、困った。つーか超困る。
はっきり言って、これは完全にグリさんの我が儘だ。でもグリさんが、どうしても街に中に入りたいって聞かないからどうしようもない。
すると、当たり前だけど「一体どーなってんねん?!」って感じで、街の担当者から説明を求められる俺…。
―ま、そらそーだけどさ。ただ分かって貰えないだろうけど、俺完全に無関係つーか無力なんだよなぁ…。
「悪いんだけどさ、ほんのちょっとだけ入れてやってくんない?。別に暴れたりはしないからさ?(おそらくは…)。
それに、マジでこの人スゲェ怖いから俺も逆らいたく無いんだよね〜」
てな感じで、俺もグリさんの方が怖いからグリさん側に付く事にした。
つまり、街側の交渉役として俺たちの前に立ちはだかる役人風のおっさんらに対し、半分脅して半分ゴネたったのだw。
ところで、どうやら使い魔を街に入れる際は、何らかの制約魔導具を着けたりする規定があるらしい。
しかし大都市ならともかく、この街にはそんなの無い。少なくともこんな大型モンスター用は無いとの事。
なので、街としては制約を付けて入れられない以上は拒否したいようなのだが、魔獣使いの支配力を超える使い魔の自由意思。それを知った担当の役人は、グリフォンの逆恨みを危惧したのだった。
もしも理屈をゴリ押しして受け入れを拒否した場合、使い魔がキレて勝手に暴れる可能性もあるからだ。
そして俺もそう暗に仄めかし…、いや助言して上げたしなw。
ま、どうせ修羅場って言うか、戦場?になっても俺は逃げればいいし、別に俺はどっちでもいい。
だって俺、ここで失う物何も無いしね。それに俺、逃げ足だけは自信あるしなw。
と言う訳で、ぶっちゃけ大人しくグリさんを街に入れようと、拒否してグリさんにキレられようと、俺としてはどうでもいい。と言うか、どうでもいいから早く決めて欲しい、むしろそこだ。
ちなみに街としては、是非とも自主的に立ち去って欲しいみたいなんだけど、それは少し都合が良すぎるだろ。
何しろグリさんの決意は不退転で覆りようがなかった。あきらめて懐に入れるか、それとも敵に回すか、そのどちらかしかなかったのである。
そして散々グダグダと手間取らせた挙げ句、結局街はグリさんの立ち入りを許可する事に決めたのだった、仕方なしに。あー長かったな…。
ところで後で知ったのだが、この世界では大型の飛行モンスターの脅威度ってのはかなり高いらしい。
特に飛行生物は、知能次第であらゆる攻撃を仕掛けて来るので厄介極まりないんだとか。
あー、なんか無理言ったみたいでゴメンね。
とは言うものの、俺とグリさんは初めての異世界町に結構舞い上がっていた。
グリさんにしても、普通ならめったに見れない光景だ。種族こそ違えど、好奇心を大いに刺激されているご様子。
ちなみにこの街はかなり建物が密集していて、大通り以外の道は狭く迷路の様だった。
石と木で出来た古めかしい街並みだが、そこもなんかアンティークっぽくて良かった。それに思ったより意外と清潔だったし。
ただちょっと狭い所が多く、グリさんも横幅ギリギリだったけどねw。
ところで一応言っておくと、見張りと言うか戦士団が、俺たちの前後に張り付いて警戒はしていた。
ただ街の住人もこんな近くでグリフォンを見るのは初めてらしく、みんな興味津々で眺めて来るし。つまり、俺たちほとんどパレード状態なのだ。
一応戦士団が護送しているので、みんなたぶん大丈夫だとでも思っているのだろう。(※何があっても俺は知らんぜ)
ただ戦士たちもしばらくするとほぼ危険は無いと判断した様子で、最初ほどの警戒感はすでに無い。
ま、実際俺もグリさんが何を考えているかさっぱり分からないから何もなくてホッとしている。まさか異世界に来て初めての街で、いきなり魔物を野に解き放つテイマーとか、そんなヘヴィーな汚名は出来れば背負いたくないからな。
ところで今さらだが、やはりこの街の名前はウズランダルと言うらしい。
歩きながら戦士の一人にいろいろ話を聞いてみると、この国ではこれはごく一般的な街並みらしい。
だいたい辺境には危険なモンスターがうろちょろしてるので、どデカい外壁を打ち立ててその内側で安全に生活するのが通常なのだそうだ。だから街と言うよりは巨大な砦みたいな感じだ。
まあグリさんからしたらデカい人間の巣って感じなのかも知れない。
てな感じで、散々あちこち歩き回ってたら、突然グリさんが俺を振り向いて睨んで来た。ギロッて感じで。
一瞬ビビる俺。
がしかし、あろう事か俺もそろそろグリさんの気持ちが分かって来た様だ。
そう、別にグリさんは眼を飛ばしたい訳じゃない、ただ普通に眼力が強すぎるだけなのだw。
そしてグリさんが何を言いたいかは鑑定を見なくても分かる。と言うのも、おそらく俺も同じ事を考えてたからだ。
―そうだよね?、街中歩くのもいい加減飽きて来たよねw。
と言う訳で、即座にコクコク頷いて俺が肯定を示すと、いきなりグリさんは後ろ足で地面を蹴った。そして風を巻いて屋根を抜けたら、一気に翼を広げて飛び去って行ったのだった。
まさに一瞬の出来事だ…。
あっと言う間にグリさんの巨体が、小さな点となって雲間の陰に消えて行く。
置いてきぼりにされた感丸出しのお供の戦士たちが呆然となる。
この様子では、やはりグリさんが暴れても大した抵抗は出来なさそうだったな…。
とゆーか、そもそもグリさんのレベルは51だったか?。
今のところ、この街で見た最高レベル保有者は例の戦士団団長のおっさんでLv32だった。他は良くて20、後は10代が平均値か。
このレベルがどれだけ実態を反映してるかは知らないけど、グリさんとこの街の平均的なステータスにかなりの差があるのは間違いない。
まあ俺Lv1なんだけどな…。
「あ、もう飽きたから帰るってさ」
放っておいたら、延々と空を見上げてそうな戦士たちにそう声を掛けると、みんなハッとした表情でこちらを振り返ったのだった。はい、ご苦労様です。
気がつくと高かった太陽はかなり傾き始め、夕日に近くなりつつあった。
ところでグリフォンってやっぱ鳥目なのかな?。一応、鳥の頭してるからそうだとは思うが、まあ日没までには帰れるでしょう、巣に。
俺はこの後、街の人の案内で宿屋を紹介して貰いそこに泊まったのだった。