2・グリフォンの乗り心地はプライスレス
「なんだろう、モンスターか?」と言う俺の問いは、もちろん「まさかそんな訳ないよね!?」と言う願望の裏返しであったのだが…。
ソレはだんだんこっちに向かって来る様な…。とか思ってたら、あっと言う間にソレははっきりとした姿を見せたのだった。
―つーかこれ、さっきのグリフォンじゃん!?。え〜、またかよ?、また来たのかよ!。
「さ、さっきの奴だよな?!」
俺はビクッと起きてそう突っ込んだ。
するとそのグリフォンは俺の頭上を一瞬で通り過ぎたと思ったら、すぐにスタッと着地した。
―げっ…。
そしたらそいつ、ゆ〜っくりとこちらに歩いて来た。
なんかヤバ〜いモンスター特有の、生々しい雰囲気と共に…。
それにしてもそのグリフォンはどデカい図体だった。体高は3メートルくらいあるだろうか?。
「なっ、なんすか?、何の用すか?!」
俺は近付くグリフォンに対し慌ててそう問い掛けたのだが、そんな俺の目の前で立ち止まったグリフォンは、なんとその口を血で真っ赤に染めていた!。
そのグリフォンの口から垂れた血は、首筋を伝って胸から下を血塗れにし、そして地面にポタポタと血溜まりを作り上げていたと言う。
―うおぉぉい、ソレ人前に出していい姿じゃねーでしょ!。
ただしその様子だとどうやら獲物にはありつけたみたいだね、良かった助かったよ!。(主に俺が!)
でも、そう言う事ならそれこそ俺には何の用も無いはず…。
「な、何のご用でしょうか?」
「…………」
すると俺のすぐ手前で立ち止まったグリフォンは、そのままかなりの目力でこちらを睨んで来た。
うん、ただなんか俺を睨んでるっぽいのだが、肝心のその意図が全くもって何も伝わって来ない!。
しばらくの間、ただひたすら不毛な恐怖がそこにあったと言う。
ところが、グリフォンは突然その無言の静寂を引き裂くかの様に動いた。
不意にそのグリフォンは俺の反対を向くと、ドサッと腰を下ろしてお座りしたのだった。そう、今完全に俺に尻を向けた状態だ。
そして肩越しにジッと俺を見つめると、奴はそのまま動きを止めた…。
―んんっ?!。こ、これはもしかすると…。
「も、もしかして、乗れって言ってる?」
正直嫌だけど、恐る恐るそう問いかけてみた所。なんとグリフォンはそれを肯定する様な気配を見せた、ように思う…。
―ああっ、て事は俺、このまま皿割れるのかな?。
あ、いやいや。もしかしたらこのグリフォン、俺に救いの手を差し伸べているのではなかろうか、どうなんだろ…?。
う〜ん、でもやっぱ違うのかな?、やっぱ俺お持ち帰りされちゃうのかな?。そして巣で腹を空かせた子供たちのエサとして俺ばら撒かれちゃうのかな?。
そうやって俺が豊かな想像力を発揮していると、グリフォンの機嫌がどんどん目に見えて悪くなって来た。
ーあーヤバいヤバい、はいはいすいませんすいません遊んでないで乗りますよぉ!。
どうもこのグリフォン、何故だか分からないが俺に「乗れ」と言っている様だ。
もしかしてこのグリフォンは、俺の行き倒れみたいな現状を理解していると言うのだろうか?。まあ、こんな何も無い場所で転がってたら、そう考えてもおかしくないしそれ当たってるしw。
ま、どっちにしろ、他にそれ以外の選択肢が無かったので、俺は兎にも角にもグリフォンの体に近付くと急いで靴を脱いでよじ登った。
と言うのも、グリフォンの体は意外と綺麗な羽毛で、どうやら土足禁止らしいのだ。何しろ靴を履いたまま乗ろうとしたら睨まれたのだ。こわかったよぅ…。
そしてさらにそのグリフォンが、「早くしろよテメー」みたいな、「もっとしっかり捕まれよバカヤロウ!」みたいな細かい気遣いをして下さるので俺も必死にしがみ付いた。
すると突然突風が巻き起こり、気が付けば俺とグリフォンは遥か上空に浮いていたのだった!。
―うっわああああああ……!!!。
景色が突然大空に早変わりした。
そしたらグリフォンが滞空しながら俺を振り向く。(もちろんまだ口の周りは血だらけだった…)
―あー、ハイハイ分かります。つまり行き先ですよね?!。
早くも俺は、グリフォンの気持ちを察するに敏となっていた。
要するに「何処に行きたいのか早よ言えよ」って訳だ。
ただこれは俺がテイマーだからなのか、それともグリフォンの威圧力がハンパないせいなのか、ちょっと判断が難しい所ではある。
ま、それはどっちでもいいか…。
なんにせよ、このグリフォンの問い掛けには素早い返答が要求される、それは間違いなかった。
と言う訳で色々かなりテンパってる俺は、とりあえず適当な方向をビシッと指差した。
ま、ぶっちゃけそっちの方向に何があるのか全く知らないが、俺としてはまずその物騒なモンスター顔をすぐにでも他所に向けて欲しかったからだ。
それに空を飛ぶこのグリフォンであれば、いずれそのうち何処か(人の居る所)に行き着くだろうし、そしたらひとまずそこに降ろして貰えればいい。
するとグリフォンは、俺の指差す方向へと一気に羽ばたいた。そして急加速が俺を包み込んだ。
その後、俺は訳も分からず必死にグリフォンの体にしがみ付いた。
冷たい風が吹きつけ、まるで俺の体を引き剥がそうとするかの様に通り過ぎる。結構キツいぜこれ…。
だがしばらくすると、この状況にもだんだん慣れてくる。
と言うのも、このグリフォンはあまり羽ばたかないし、それにスピードのわりには大した向かい風じゃないのだ。
どうやら、思ったよりは過酷じゃ無い事に気付かされる。
あ、いや。キツいかキツくないかで言ったら普通にキツいよ。ただ、あくまでも思ったよりはの話だ。
なので少し余裕が出来た俺は、ここでこのグリフォンを鑑定してみる。
フラッドグリフォン、10才
クラス、ライダー
レベル51
HP523
MP145
スキル、風使い
補足、ヒマだったのでオマエに付き合ってやる。
ほうほう、相変わらずクソ雑なステータスだが、他人の情報を確認出来るのは悪くないな。
『でしょでしょ?』←神
そしてスキル「風使い」。やはりこのグリフォンは翼による力だけでなく、スキルも使って空を飛んでいる様だ。
―だいたい、こんなデカい図体が軽々と宙に舞うなんて、普通の物理法則的にあり得ないからな。
て言うか、それよりこの補足って何だよ?。ヒマつぶしに付き合わされる俺の身にもなってみろ、かなりキツいんだぞ…。
ただ、それにしても流石はクラス「ライダー」と言うだけあってこのグリフォンのスピードは凄かった。たぶん風の乗り手なんだろうな。何しろあらゆる風景が、あっと言う間に過ぎ去って行くのだから。
―そして何が一番凄ぇって、やっぱりもの凄ぇ寒いw。
そう、いくらスキルを使って飛んでようが、寒さだけは普通の人間にはどうしようもないのだ!。
なので、残念ながらここで俺の体力に限界が訪れたようです。
―ちょいとグリフォンさん、ここらで少し一旦休憩しませんか?。
と、出来ればそうストレートにお声掛けしたいのだが、もしも気分良く飛んでらっしゃるグリフォンさんの機嫌を損なわせてしまう可能性を考えると、どうも言い出せない。
特に何らかの目的地に到達した訳でもなく、単なる体力の限界ですとか言ったら「グリフォン舐めてんのか?!」って普通にキレられそうだし。
―あぁ〜ん、やだなぁ。なんか言いにくいなぁ…。
なんてウダウダ考えてたら。ふとその時、高速で流れる視界の端で突然俺を反応させる何かが写り込んだ。そう、それは大自然とは異質な人工物の影だった。
「グリさん、ストーップ!。
あそこだ、あそこに降りてくれ!」
反射的に動いた俺の口からは、意外と簡単にストレートなセリフが吐き出されていた。
こうして俺とグリさんは、初めての異世界街に降り立ったのであった。