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双角の魔王  作者: 幌雨
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6. 魔王の企て

*6. 魔王の企て


 一月前。


 部屋に入るなり、デュオが慌てた様子でサンディに近づいてきた。


「おい、昨日、ナヨナヨした男がこの部屋に入ってきたぞ。前に記録魔法で見せてもらった、従弟のタリオとか言うやつだと思う」


「本当?おかしいわね、ここには、鍵と呪文がないと、いくら王族のタリオでも入ってこれないはずだけど…鍵はずっと私が持ってるし」


「そんなもん、お前だってずっと起きてるわけじゃないんだろうし、寝てる間に拝借してちょっとここを覗きに来るぐらいはできるんじゃないか?」


「なるほどね、確かにそうかも。でもどうしてタリオが」

「そんなこと知るかよ。おっかなびっくり部屋の中をうろうろして、帰って行ったぞ」

「お父様が怪しみ始めているのかしら」


 もしこれからもこんなことが続くのであれば、対策を考える必要がある。


「何か思い当たる節は?」


 デュオの問いに、考えてみるが特に何も思い浮かばない。

「強いて言えば、お前最近なんか楽しそうだね、って話しかけられる回数が増えたわ。そうね、ちょうど前にタリオが来たころからかしらね」


「タリオってのはどういうやつなんだ?」

「えーと、お父様の弟君であるアランさまとヴィーダおば様の長男で…ああ、そういえば昔おじい様が生きてらしたころはヴィーダおば様もよくこの城にも来ていただいていたのに、最近はほとんどいらっしゃらないわ」


 その話を聞いていたデュオに、ある仮説がひらめいた。


「なんか、お前が傍から見てもわかる程度に浮かれているせいだという気がしてきたぞ」

「なんでよ」

 サンディにはまったく理解できない。


「いいか、タリオは、石像は録に調べずに、というよりもほとんど気にせずに、部屋の中を調べて回っていたんだ。あれは、少なくとも魔王の復活を疑って部屋に入ってきた奴の動きじゃない」

「ふむ」


「ここからは完全に俺の想像だが、ヴィーダって人とおまえの爺さん、デキてたんじゃないか?で、この部屋でそういうことをいろいろとしていた」


「まさかそんな、と言い切れないところが辛いわね。で?」


「つまり、ヴィーダって人が、いや、別にその人じゃなくてもいいが、タリオにこの部屋のことを伝える。で、タリオが浮ついたお前を見て、ああいうことに地下室を使ってるんじゃないか、と疑う」

「なるほど」


「で、王様にそれとなく聞いてみても王様はこの部屋のことを何も知らないから要領を得ない。王様も一応気になってサンディにそれとなく聞いてみようとするけれど、いまいち踏み切れないの」

「なんで王様がそんなクネクネしたイメージなのかわからないけど、たしかにそんなことをしそうではある」


「で、タリオは夜中にこっそり鍵を抜き取って、この部屋を調べに来ましたよ、と、そんな感じではないだろうか」


 筋は通っている気がする。そもそも、動機はどうだっていいのだ。この説ではヴィーダおば様が旦那の父親と浮気するとんだアバズレになってしまうが、それもどうだっていい。

 問題はそんなことじゃない。



「しかし、チェックが入るとなると、いつボロが出るかわからんな。このときのために作っておいた石像ではあったけど、まさか役に立つとは思ってなかったし」


 タリオに見つからなかったのは、階段を下りてくる足音でサンディではないといち早く気づいたデュオが、うまく物陰に隠れたからに他ならない。もしぐっすり眠っているときであれば、あえなく発見されていたに違いない。


「どうだろうか、そろそろ俺を外に出してくれてもいいんじゃないでしょうか?」


「それは、だめ」

 即答だった。


「なんでだよ!俺がお前を騙して外に出たいだけだってまだ思ってるのか?」


 あまりにも冷たい返事だったので、ついサンディに食って掛かる。しかし、サンディはそんなつもりで断ったのではない。

「そうじゃない。そうじゃないの」

「だったら――」


「私は、この城から外にはほとんど出られないのよ?」

「それが、なんなんだよ」


 サンディの伝えたかったことが、デュオには伝わらない。


 今のでわかって欲しかったが、それをこの人に期待しても仕方ないことも今までの付き合いで把握している。


「だから、私があなたに会えなくなったら困る、って言ってるの!」


 この男は、頭はいいくせに人の心を理解するのがうまくない。

 直接言ってやらないと、伝わらないことのほうが多い。


 黙っているサンディの頭に、そっと手が置かれる。暖かい手だった。

「…わかった。そうだな、よし、じゃあ、何か手を考えよう」

「そうね…」


 やることは単純だ。

「要は、王様とタリオを騙して、特に問題ありませんって信じさせればいいんだよな」

「言い方は悪いけどそのとおりね」


 少し考えて、デュオが作戦を語る。


「こういうのはどうだろう。まず、王様をここに連れてくる。気になるなら直接確かめてみれば?とか言えばいい。石像はとりあえずわきのところに隠しておく。こうすれば、すぐに気づくはずだ」


「石像がない、って?」


「そう。で、そこで俺が暗がりから飛び出して、お前を襲う。人質にして外に出るためだ。演技だからな。後ろから急に抱きつかれたからってこの前みたいに急所に蹴り入れてくるのは勘弁してくれよな」


「あ、あの時はあなたが急に―」


「それは今はどうでもいいだろ。で、外に出ようとするんだけど、お前はひらりと身をかわして石化の魔法を使う。俺様石になる、千年安心、めでたしめでたし。後でこっそり石化の魔法を解いてもらえば―」


「ダメね」

「ダメか」

 いい案だと思ったのだが。


「ええ。私、石化の魔法とか使えないもの。練習はしてるけど、草一本石化させるのがやっとよ。正直、あなたを千年間も石にしちゃったなんて、伝説の勇者様ってのはどんだけ化け物だったんだろう、って感じよ。しかも、もしそれができたとしても、解き方なんて知らないわ。最初の時は、たぶん本当に偶然だから」

「なるほど、それじゃダメだな」


 また、作戦を考える。


「じゃあ、こうしよう。石化の魔法じゃなくて、幻覚の魔法を使うんだ。あれで俺を石化したように見せかければ」

「いい案だけど、厳しいと思うわ。騙せるかもしれないけど、リスクが大きすぎる。石像を石像に見せかけるのとは、魔法の効きがぜんぜん違う。触られたらバレちゃうかも」


 だが、悪くは無い。少し考えて、サンディが続けた。


「でも、そうね。触られる前になんとかすればいいんだわ。まず、あなたに幻覚の魔法をかけて石像に見えるようにする。その状態で、私がなんかもっともらしい理由を付けてここまで運ぶ。頃合を見てあらかじめ用意してある石像と入れ替えれば、後には普通の石像だけが残る」


 しかしデュオにはその作戦には穴があるように思えた。


「でも、どうやって俺をここまで運ぶんだ?誰かに触られると、バレるかも知れないんだろう?お前が一人で石像を担いで運ぶのか?俺一人を運ぶんならまだわからなくも無いけど、石像担いで運ぶ女とかちょっと引くわぁ」


 もうちょっと言い方ってものがあるでしょう、とサンディは思ったが、ここは飲み込んでおく。


「平気よ。あなたは知らないかもしれないけど、重い荷物を運ぶための魔法があるの。なんなら、この石像をあなたに投げつけてあげてもいいわ」


 サンディの目は笑っていたが、笑ってないのは良くわかる。デュオは彼女を刺激しないように、伝家の宝刀ドゲザを久々に披露した。


「よし、じゃあその線でいこう。決行はいつにしようか」

「そうね、もう少し計画を詰めたいし、一月後ぐらいかしら」

「それまでに、親父がみたら卒倒しかねないいろんな証拠も消さないとダメだしな」

「ばか」


 サンディが再び石像に手をかけたので、本日二回目のドゲザを繰り出した。



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