第九十八話:山と海と修学旅行Ⅲ(二日目、夏期球技大会・後半戦ーー午後)
昼休みが終われば、午後からの試合である。
「よし、調子が戻ってきたぁっ!」
午前中の感傷的になっていたのが嘘だったかのように、普段通りの調子が戻ってきたらしい。
「ちょっ……だからって、速球サーブするんじゃないわよ!」
そんな私たちのクラスの対戦相手は和花たちのクラスなのだが、私の放ったサーブに和花が叫び、噛みついてきている。
「でもさ、和花相手に手加減しても、意味ないでしょ?」
「馬鹿っ! それは異能同士の場合であって、スポーツ関係はあんたの方に分があるでしょうが!」
分かっててやるんじゃない! と叫ぶ和花に、彼女のクラスメイトたちは苦笑いしている。
三人ぐらい顔に見覚えがあることから、去年同じクラスだった子たちだろう。
「桜庭さーん」
「私たちも居るから、手加減してー」
「分かったー」
「扱いの違い!」
元クラスメイトたちの要望に応えれば、和花はそう叫びつつもボールを拾う。
「にゃろう……。午前中のままだったら、やりやすかったのに……誰だ。あいつを復活させたのは!」
明確には言えないが、多分、復活のきっかけになったのは御剣先輩です。
ただ、その先輩が今頃くしゃみしていたら笑えるけど。
「ま、誰でも何でも良いじゃん」
「桜庭さん!」
仁科さんから来たボールを、私自身に経由させて、前衛に居た面々に回す。
「よし、入った!」
これで一点差だ。
これでも、最初は四点差もあって、それが意外だと思ったのかは分からないけど、和花サイドが何とも言えない表情をしていた。
私、落ち込んでいても平常通り並みの実力が出せる程、感情のコントロールが完璧でなければ、そんな化物でもないんだけど。
「和花ぁ」
「……何」
「ボール、あげる」
しかめっ面の和花に、私にパスされたボールをアタックで放つーー
「ちょぉおっ!?」
ーーのだが、焦ったような声を出しながらも、レシーブで上に上げられた。
「……甘いわ、鍵奈。今まで、あんたの無茶ぶりに、どれだけ付き合わされたと思ってるの?」
にんまりとした笑みを浮かべ、そう言う和花に、どうやら私の中にある負けず嫌いへと火が付いたらしい。
「さあね。毎度が必死すぎて、すぐには思い出せないんだわ」
「ああ、そう」
あ、負けず嫌いに付いた火が、即座に鎮火したらしい。
和花さんのブリザード、怖い。
「ねぇ、鍵奈」
「何かな?」
「負けてね?」
静かにーーそれはもう静かに、和花さんは穏やかそうな笑みを浮かべていました。
何でこう、私の周りには朝日といい、和花といい、静かに怒り、ブリザードを放つ人が居るんだろうか。
ーーで、どうなったのか。
和花による割と本気のアタックを放たれ、我がクラスは負けましたよ。
気付いたらボールはライン内の床を経由して壁付近にあり、見に来ていた人たちも、思わず黙り込むほどだった。
つか、誰が取れるんだよ、あんなの。
「……」
「無理無理無理! 私でも無理だって!」
すぐに行動できなかったのが、その証拠だというのに、何でみんな(見ていた人たち含む)揃って私を見てくるかなぁ。
私とて、何でも出来るわけ無いのに。
「ご苦労様」
壁際で休憩していれば、お久しぶりの幼馴染、朝日さんがいらっしゃいました。それも珍しいポニーテールという出で立ちで。
「んー。まあ、負けちゃったけどね」
「いやいや、最後のは誰だって無理だよ。異能を使えば、どうにか出来そうな気もしなくはないけど」
「でも、次は和花ちゃんたちとかー」と朝日が伸びをしながら言う。
そう、次は朝日たちのクラスと和花たちのクラスによる対戦。私たちが勝ってれば、朝日たちは私たちと対戦することになったんだろうけど、負けちゃったからねー。
「頑張れ」
「んー、まあ頑張るけどさ。あのボールが来ないことを祈るしかないよ」
ただ、朝日相手だから、来なさそうとは言わない。確証無いし。
「……ごめんね。きーちゃん」
朝日が呟くように、そう告げる。
「うん?」
「京くんたちの出場球技、隠す必要は無かったけど、ちょっと読みが甘かったかなって」
「どういうこと?」
「京くん経由で聞いたけど、御剣先輩と会ったとき、虚ろな目してたんだって?」
……聞いているのは、こちらのはずなんだが。
「否定はしないけどさ。虚ろかどうかは……まあ、御剣先輩にそう見えたなら、そうなんじゃないの?」
「言うと思った。でね。京くんたちの対戦相手が御剣先輩たちのクラスだったみたいで、その時に聞いたみたい」
「あ、そういうことですか」
「で、私にまで話が伝わってきたってわけ。京くんは「桜庭がらしくないから、お前ら、少し様子見てこい」とも言われたみたいだけどねー」
朝日は何が面白いのか、笑みを浮かべている。
「あと、京くんも風峰くんも、バスケだから」
「あ、そうなんだ」
試合してるのを見掛けたから、知ってるんだけどね。
「一部の出場球技を教えなかったりしたのも、応援に来させず、休憩に回してもらおうかと思っただけで、他意は無いし」
まあ、逆効果だったけどねー、と朝日は苦笑い。
うん、でもね。
「……あーでも、駄目だなぁ。幼馴染なのに、予測できなかった」
「きーちゃん?」
「中学の時も似たような感じで、気を使われたっていうのにさぁ」
何で忘れていたんだろうか。
「誰かを頼らないで、一人で何とかしようとするのは、きーちゃんの悪い癖だよ」
「本当……」
悪い癖だ。
「修学旅行でも無理しちゃ駄目だよ? 今ぶっ倒れたら、困る人はたくさん居るんだから」
「そうだねぇ」
夏休みが近いために、いろんなイベント事が入り込んでくる、このタイミングで倒れるわけにはいかない。
「でもその前に、朝日は和花たちと戦わないと」
「うん。その反応こそ、まさにきーちゃんだよね。それじゃあ、そろそろ言ってくるよ」
そう言うと、朝日は立ち上がり、ポニーテールを揺らしながら、バレーボールラインへと向かっていく。
「頑張って、二人とも」
私(たち)は負けてしまったが、どちらにも頑張ってほしいものだ。
そんな準決勝第二試合である朝日たちと和花たちの試合は、和花たちの勝利となったが、決勝では負けたために準優勝(朝日たちも三位決定戦では負けたので四位)。男子勢も良いところまでは行ったらしく、珍しく悔しがっていた。
さぁて、球技大会も終わったことだし、明日からは修学旅行である。
何もないことを願うばかりだ。




